妹神
「お兄さん。私、神になったよ」
突如、意味不明なことを俺の妹が言い出した。俺の名前は佐藤翔太。都内の高校に通う高校二年で、一つ下の妹の佐藤由加里と暮らしている。
「か、神? 何言ってるんだ?」
由加里のやつ、高校生になって、急に茶髪に染め始めて、おしゃれに目覚めたのかと思いきや、今度は中二病にでもなったのか。
「今日、夢で天使と名乗る人が出て来てね。私を新しい神にするんだって」
こいつ、朝っぱらから寝ぼけてやがる。
「いや、夢の話だろ。それ」
すると、由加里は腕をクロスさせ、中二病丸出しのポーズを決めた。
「来たれ我が力......目覚めよ神のパワー。今こそ時は極まれり!!!」
すると、バサッと白い翼が生え、頭の上には天使の輪っかが出て来た。
とてもコスプレのような衣装には思えない。
「う、嘘だろ......」
驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「覚醒したようですね。神様」
なんとどこから入って来たのか、俺の後ろには緑色の髪、髪の色とお揃いの服を来た中性的な顔立ちの人が立っていた。
「な、なんだお前?」
「私ですか? 私の名前はサキエル。天使を勤めております。以後、お見知り置きを」
ぺこりと行儀よくサキエルと名乗る人がお辞儀した。
「て、天使? それじゃ、お前が由加里を神に?」
サキエルは顔を上げると唐突に真面目そうな顔をした。
「ええ。実は最近、前の神が死にましてね。新しい神様になれそうな人を探してたんですよ。そこで由加里様を見つけました。由加里様には是非とも神として、悪魔族と戦って欲しいのです」
由加里はサキエルの話を聞くと目を爛々に輝かせた。
「悪魔族と戦うなんて、なんか凄そう!」
話が急すぎてついてけねぇ......
「なんで、由加里が新しい神様に選ばれたんだ? こういっちゃ何だが普通の妹だと思うぞ」
「兄上殿は何も分かっていませんね」
「誰が兄上殿だ」
突如、兄上呼ばわりしてきた天使に俺はツッコミを入れた。
「では、何とお呼びしましょうか?」
俺にツッコミを入れられたサキエルは訝しんだ表情で俺を見た。
「翔太でいいよ」
「では、翔太殿。由加里様は常人よりも遥かに凄まじい力を秘めています。由加里様以外に適切な人はおりません」
力説するサキエルに俺は複雑な気持ちを抱いた。
「だが、危ないんだろ? 由加里を危険な目に合わせる訳には......」
「近くに悪魔がいます! 由加里様、付いて来て貰えますか?」
話の途中でサキエルが悪魔を感知した。
「分かった。私も行く!」
由加里はサキエルに付いていった。
「お、おい! 待てよお前ら!」
俺も二人に着いていった。
歩いている途中、天使の翼と輪っかが生えている由加里を見て、通行人は物珍しそうな目をしていた。幸いにも通行人は皆コスプレだと思い込んでいるようだがこっちまで恥ずかしくなった。
「この近くに悪魔がいるはずです」
キョロキョロとサキエルがあたりを見渡した。
「キャー!」
突如、女性の悲鳴が聞こえて来た。
悲鳴の方を見ると、なんと女性が下着姿になっていた。下着姿になっている女性はなかなかの美人である。
何という眼福......いや、そうじゃない!
「お兄さん! 目を閉じて!」
「あ、ああ」
俺は由加里のいう通り目を閉じた。
それ以降もたくさん悲鳴が聞こえて来た。ああ、目を開けてぇな。
「きっと、これも悪魔の仕業に違いありません!」
サキエルの声がした。サキエルのいう通りだとしたらそいつはとんだ変態悪魔である。
「あのビルの屋上から悪魔の気配がする!」
由加里の声が聞こえた。
「本当か? どれどれ......」
目を開け、悪魔の姿を確認しようとした。いや、本当に。
「目を閉じろ!」
「はい!」
再び目を閉じる俺だった。
すると、誰かに腕を掴まれた。
「二人とも悪魔のところまでワープします!」
サキエルの声だった。しばらくすると、先ほどまで悲鳴でうるさかった騒音が無くなり静かになった。
「お兄さん、目を開けていいよ」
俺は目を開けた。すると色黒で背の低めのくちゃくちゃとガムをかじっている目つきの悪い黒いタンクトップを着ている、なかなかのイケメンの男がフェンスに寄っかかっていた。
「お前ら。天使か?」
男が訊いた。
「その通り。私は天使、サキエル。そして、このお方は新しい神の由加里様だ! さぁ、観念するがいい! この悪魔め!」
キャラが変わったかのように威勢良く吠えるサキエルに対し、男は興味なさそうに耳をかっぽじっていた。
「ふーん、新しい神ねぇ......それじゃ、この偉大なる大悪魔、シャイタン様が遊んでやるか!」
すると、いつの間にかシャイタンは由香里の前に移動した。
「な......」
速すぎて動きが全く見えなかった。由加里が唖然としている。
「メルト」
由香里の体が黒い光で包まれた。すると、由香里の服が消え、下着姿になった。
「きゃぁぁぁ!」
由加里は恥ずかしそうな声をあげた。顔を赤くし、涙目になっている。
「ふははははは! いいぞ、その表情! 羞恥に悶え苦しむ姿を見ることこそ、いきが......ぐふ!」
俺は怒りに任せて思いっっきりシャイタンをぶん殴った。
「き、貴様! 何をする!」
シャイタンは痛そうに頬を撫でていた。
「お前はやってはいけないことをした。可愛い妹の下着姿を見ていいのは俺だけだー!」
俺はシャイタンを鬼の形相で睨みつけた。
「いや、お兄さん。その理屈はおかしいよ」
「き、貴様! 貴様は下着姿どころか全裸にしてくれるわ! 喰らえ『メルト』!」
俺の身体が黒い光で包まれた。しかし何も起こらなかった。
「ば、バカな......なぜ何も起こらない」
すると、サキエルがガクガクと震え、怯えたような目で俺を見た。
「悪魔の攻撃が効かないのは魔王の素質を抱くもののみ。つまり、翔太様は魔王になる素質を持つもの......」
すごいな、俺そんな素質があったのか。小説家になろうの主人公にでもなれそうだ。
「ふはははは! 我こそは魔王の素質を抱くもの。シャイタン、貴様に裁きの鉄槌を落としてやろう。全てをくらいつくす我が闇。これが......これこそが、最強の攻撃! 『ウルトラファイナルエレクトリニックサンダルバーーーースト』!」
適当に詠唱して技名を叫んで見た。が、何も起こらない。
「ははは! ただのはったりか......あれ?」
なんと、シャイタンは全裸になっていた。俺が適当に詠唱した攻撃魔法は全裸にする効果があったらしい。
だが、俺が驚いたのはシャイタンにはチンがなかった。ちなみに胸はぺったんこだった。
こいつ、女だったのか。これは一本取られた。
シャイタンはプルプルと体を震わせて、泣きそうな目で俺を見た。
「ゆ、ユニバーーーーーース!!!」
シャイタンは叫ぶと、どっかに瞬間移動した。
俺は上を向き、とても清く青白い綺麗な空を眺めた。
「今日は......最高の日だったぜ......」
人生を悟ったように俺は呟いた。
「この変態兄貴がー!!!」
「あべし!」
由加里に真空飛び膝蹴りを決められ、俺は目の前が真っ暗になった。
それから三日後。
「お願いします! 由加里様! 神様になってください!」
「ねー! 翔太、うちらの魔王になってよ。今、悪魔界に魔王いないんだってば!」
由加里はサキエルに正式に神になるようにスカウトされている。
一方で俺はシャイタンに魔王になるようにスカウトされている。
「いやぁ、もう。悪魔と戦うのはこりごりっていうか」
うんざりだという表情で答える由加里だった。
「俺もお断りだ。そんなめんどくさそうなことやってられるか」
サキエルとシャイタンはムスッとしたような表情になった。ものすごく機嫌悪そうである。
「それより、みんなでこれでもやらないか?」
俺は大人気で新作のゲーム、『大爆走、スキップシスターズ』を取り出した。
すると、シャイタンはものすごい勢いで迫って来た。
「おお! これ! やりたかったんだ! やろうぜ!」
サキエルは眉をしかめた。
「翔太殿、これ面白いのですか?」
「やればおもしろいよ。さぁプレイしようぜ」
「よーし! 私がみんなを倒しちゃうもんねー!」
由加里もやる気まんまんだった。
奇妙な出来事から出会った悪魔と天使。
この出会いは奇跡と呼んでいいものだろうか。
しかし、これからなんだか面白そうなことが起こりそうな気がする。