表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
paradox (パラドックス)  作者: ナカヤ ダイト
道化の楽園(サーカス)編 〜マグニチュード〜
49/55

エルの夢 1

「偵察用ドローンの映像を映します」

 夢図書館本部のメインモニタールームで、机に座る学子はパソコンのキーボードを叩いた。

「この反応は、ランクSが2体だと!?」

 ディスプレイに映し出されたエルとオールの映像を見て岸田が目を丸くする。

「あいつはエル!!」

 太郎は赤髪のエルを見て歯をくいしばる。

「あのデカイのもランクSか………」

 晋二は目を細める。

「……」

 ディスプレイを見たままユウキは呆然としている。


「!?」

「どうした!?」

 突然、ディスプレイに白黒の砂嵐が映し出された。

「妨害電波です。ジュリビア帝国の時と同じです」

 学子は懸命にパソコンを操作し現状を岸田に伝えた。

「くっ……また、これか」

(一体、道化の楽園(サーカス)の狙いはなんだ?)

 岸田は眉間にシワを寄せる。

「マオ……」

 ユウキは砂嵐の映されたディスプレイをまじまじと見ていた。



 富士山5合目、岩肌のゴツゴツした地面に緩やかな斜面の上に3人の人影がある。


「待てオール。瑠垣 マオは俺の獲物だ」

 袖の無いグレーのパーカーは前のファスナーが空けられ、鍛え上げられた腹筋が露わとなり、ダメージジーンズのポケットに両腕を入れたエルがオールの右隣に出た。

「ああ?」

 巨漢のオールは不機嫌そうにエルを見下ろす。

「レイと約束をした。次は俺が瑠垣 マオと戦うと」

 エルは物々しくオールを見上げた。


(レイ? 誰だ?)

 マオはエルとオールの話を聞いていた。


「そうかぁ!! そうだったなぁ。次はお前だよなぁ。じゃあ、お先にどうぞ」

 オールはわざとらしく大声を上げ、エルに道を譲るように体を避けた。

「…………」

 エルは無言のままオールの前に出た。

「バカが」

 オールは右手を高らかに突き上げ、拳にエネルギーを貯めた。


「エル!! 危ない!!」

 マオは、背後からエルを狙うオールを見て声を上げた。

「!?なっ」

 エルは後ろを向き、オールの振り下ろした拳を避けようとするが間に合わない。

「ぐっあああああああ」

 オールのエネルギーをまとった拳を受けたエルは、紙くずのように吹き飛ばされた。


「アハハハ!!! バカだなぁ、あいつは。じゃあおっ始めようぜ」

 エルを吹き飛ばしたオールは大笑いをして、マオの目の前に立った。

「お前……」

(仲間を殴り飛ばして笑ってる)

 マオはオールを睨みつける。

「おお、いい顔だなぁ。やる気満々だな」

 オールは拳をゴキゴキと鳴らした。



「まずは、第1段階ですね」

 薄暗い空間の中で、シンは右手中指でメガネを持ち上げる。

「そうだね。でも、オールはちゃんと手加減をしたのかな? 結構飛んだように見えたけど」

 レイは若干笑っていた。

(大丈夫だ。エルは約8kmを飛ばされたが、生きている)

 ゴートはエルとシンの脳内に直接話した。

「そう。それは良かった。エルがいなくなるのは困るからね。今はまだ」

 レイは冷たく笑った。

「そうですね。エルはこの作戦の要ですから」

 シンも冷たく笑う。



「paradoxシステムフェイズ(ワン)夢獣化ピエロか!!」

 マオは瞬時に左腕を創造し、爆発的な加速でオールとの距離を縮めた。

「!?」

 オールは反応する事が出来ない。

「……」

 マオはオールの右頰を思いっきり殴った。

「ぐっふ」

 オールは後方によろついた。


「おお、速えぇなぁ。シンから聞いていたが、思った以上だ」

 オールは殴られて右横を向いていた首を元の位置に戻し、不気味に笑った。

「……」

(今もろに入ったのに、ほとんどダメージが無い? どうなっているんだ?)

 マオは、オールの圧縮率を確認する為に右手の腕時計型端末のACMを確認した。

「93%」

(今の俺よりも低い?)

 マオは自分よりも2%低いオールに疑問を抱く。

「ぼさっとしてんじゃねぇ!!」

 オールはマオに膝蹴りを繰り出す。

「!? 瞬間創造ソニック

 マオは瞬時に結晶で出来たシールドを創造した。

「俺相手にそんなもん意味ねぇよ!!」

 オールの膝蹴りはシールドを簡単に破壊し、勢いそのままにマオを直撃した。

「な!?」

(圧縮率100%のシールドを簡単に!?)

 マオは咄嗟とっさに左腕を前に出した。

「くっ」

 左腕にオールの膝蹴りが直撃したマオは後方に飛ばされる。


っ」

(やっぱりおかしい、オールよりも圧縮率の高い俺が攻撃しても、奴はノーダメージ。逆に俺がオールの攻撃で)

 マオは左腕を見た。

(ここまで壊されるとは)

 マオの左腕には手首が無く、全体的にヒビが入っていた。

「paradox」

 マオは左肩に黒いリングparadoxを出現させ瞬時に左腕を修復した。


「不満そうな顔だな。前に俺と戦った相川 築って奴も同じような顔をしていた」

 オールはマオに向かってゆっくりと歩いて行く。

「ああ、お前の圧縮率は93%のはず。それなのに、圧縮率95%の俺の左腕を破壊した」

(総館長がグランドキャニオンで戦ったと言ったランクSは、コイツか)

 マオは立ち上がった。

「ふっ。お前ら人間ゴミは、そんな事もしらねぇのか」

 オールはつまらなさそうに笑う。

「?」

 マオはピクリと反応する。

「俺たち夢獣ピエロは、お前ら人間ゴミと同じように個性がある。それは、人間ゴミ夢獣ピエロをどんな目的で創造したかによって決まんだ。例えば、最強の武道家を生み出したいと思って、その手の知識がある奴が創造したら、どんな夢獣ピエロが生まれる?」

 オールはバカにしたような顔でマオに問い掛ける。

「エンのような、武術に秀でた夢獣ピエロか」

 マオは真剣に答えた。

「ピンポーーーン! その通り! ご褒美にこれやんよ!」

 オールはマオの頭を目掛け拳を振り下ろす。

「っ」

 マオは右方向へ飛びオールの攻撃をかわす。

「ちなみに俺は、全種族の中で最強の肉体を持つ生物として創造された、殺戮兵器だ!!」

 オールは右の回し蹴りを繰り出す。

「くっ」

 マオはバク転をして避ける。


「やっぱ速えなぁ。もう一つ教えてやる。俺たちランクSは、殺戮さつりくを目的として創造されている。エンの剣術も人間ゴミどもを殺す為の力だ。それなのに、あのバカは『ワタシの剣は武器を持たぬ戦意なき者には振るわぬ』と抜かしやがった。あの腰抜けは、自分の存在意義を最後まで理解しようとしなかった。バカで哀れな奴だった。それから」

「もうめろ」

(paradoxシステムフェイズ(ツー))

 マオは先ほどとは桁違いのスピードで、笑いながら話すオールとの距離を縮めると、オールの右頬を左腕で殴った。

「ごっふっがあああああ」

 オールは右方向へ飛ばされた。


「いてえぇなぁああ!!」

(なんだ、スピードも力もさっきの比じゃないぞ)

 オールは怒りを露わに起き上がる。

「バカにするな」

 マオは立ち上がったオールを睨む。

「あの、最後まで自分の在り方を貫いた誇り高い剣士を、これ以上バカにするな!!」

 怒りに満ち溢れた表情のマオの左腕は肩から指先まで真っ黒に変色し、周りは黄緑色に発光ししている。

 マオは、 圧縮率100%の道化の腕(マジックアーム)でオールを殴り飛ばしていた。

「それが、エンを倒した力か」

 オールは口角を上げる。

「ゴート!! ハンマーよこせ!!」

 オールは右手を頭上にかざした。

「なっ?」

 巨漢のオールが小さく見えるほど巨大な、岩を丸太とロープで固定したような原始的なハンマーがどことなく現れ、右手に握られた。

「消えろやぁ!!」

 オールはハンマーを右手一本で軽々と持ち、マオ目掛けて振り下ろした。

瞬間創造ソニック!!」

 マオは右手に日本刀を創造し、左手に持ちかえるとオールのハンマーに向かって振り上げる。

 互いにエネルギーをまとった武器同士が衝突し、爆風が吹き荒れる。



「岸田司書長!」

 夢図書館本部のメインモニタールームでパソコンを操作していた学子が叫ぶ。

「どうした!!」

 岸田は学子の背後に回る。

「瑠垣君が着陸した付近を震源とした震度1の地震が発生しました」

「なんだと!?」

 学子の言葉に岸田は声を荒げる。


「武装したエルはたしかに、強大な力を持っていたが地震を起こす程の力があるようには見えなかった」

 司の頰から一筋の汗が滑り落ちる。

「だとしたら、あのデカイ方か?」

 太郎は両手を頭の後ろに回した。

「2体同時とも考えられます」

 晋二は難しそうな表情をした。

「……」

(マオ、マオなら大丈夫だよね)

 ユウキは両手を胸の前で握った。



「くっ」

(なんて重さだ)

 オートとマオの立っている場所は、小さなクレーターのように凹み、日本刀を持つマオは右膝を突いてオールのハンマーに耐えていた。

「おおお! 耐えやがったか」

 オールは涼しい顔でマオを見下ろす。

「この力、お前が日本各地で地震を起こしていたのか」

 マオは顔を上げた。

「なんだ。そこまで知ってのか? おお、その通りだ。俺が地震を発生させ地殻変動を起こしていた。日本諸共、お前らを殺す為になぁ」

 オールはハンマーを両手で持ち体重を掛けるように力を入れる。

「だああああ!!」

 マオは、無理矢理立ち上がった。

「おお?」

 オールは少し驚いたように表情をする。

「あああああああ!!!」

 マオは日本刀を振り抜いた。

「おっとっと」

 ハンマーを跳ね返されたオールは、バランスを僅かに崩す。

「はぁはぁはぁ」

 日本刀は粉々に砕け、マオは息を切らせていた。


瞬間創造ソニック

(力ではオールに勝てない。だったら)

 マオは再び日本刀を創造し、オールのハンマーを凝視した。


「……」

 マオはオールの腹部を狙い、日本刀で切り掛かる。

「お前は、たしかに速いが。それだけだ」

 オールは狙いを定めず、ハンマーを乱暴に振る。

「!?」

 オールを中心にエネルギーの波動が無差別に発生し、マオを襲った。

「……」

 マオは波動を切り裂き、オールに接近する。

「こいつ!!」

「はあ!!」

 身構えるオールを尻目に、マオはハンマーに攻撃を加える。

「ああ?」

 攻撃をされなかったオールは不思議そうな顔をした。



「アイツ……」

 富士山から8km離れた樹海の中、エルはなぎ倒された木々の隙間でゆっくりと身を起こした。

「くっ!? 体が」

 エルの右腕と右胸部にはオールから受けたダメージによって、無数のヒビが入っていた。

「はぁーーーー」

 エルは深呼吸をした。

 瞬間、体のヒビが塞がってゆく。

「?」

 不意にエルが足元に目をやると、そこには赤いボクシンググローブが落ちていた。

「ゴート。これは、どういう事だ?」

「…………」

 エルが問い掛けても、返事はなく不気味なほどの沈黙が樹海に広がる。

「…………俺は、俺のねがいを叶える」

 エルはおもむろにボクシンググローブを手に取り、両手に装着した。

「……」

 エルの体は青白い光に包まれた。

「ふっ。哀れだな」

 エルは富士山に向かって走り出した。



「うおおおお!」

 オールは巨大なハンマーを真横に振った。

「…………」

 マオの目の前に、一瞬壁が出来たかかと思われるほど巨大なエネルギーの塊が迫るようにして接近する。

「…………」

 マオは真上に跳躍し、エネルギーの壁を乗り越える。

「はああ!!」

 マオは渾身の力を込め左手の日本刀で、オールのハンマーに攻撃を加える。

「なめんじゃねぇ!!」

(なんだコイツ、さっきから。俺の武器ばかりに攻撃をしやがって)

 オールは左ストレートをマオに繰り出す。

「ぐっ」

 マオは日本刀を横手に持ち、オールの一撃から身を守った。


瞬間創造ソニック

 マオはロングブレードを創造し左手に持ち替えた。

「……」

(あと少し)

 マオはオールのハンマーをちらりと見たあと、オールに向かって走った。


「次は逃がさねぇ!!」

 オールは正面からマオを迎え入れた。

「……」

 マオはオールをロングブレードで突き刺そうと言わんばかりに突進した。

「ようやくやる気になったか!!」

 オールはハンマーを両手で持ち、真下に振り下ろす。


 マオのロングブレードと、オールのハンマーが接触した瞬間、ガラスが割れるような破壊音が響いた。


「っっっっ!!! お前えぇぇぇぇぇ!!!! よくもぉぉぉぉ!!!」

 オールは激怒した、理由は手に持っていたハンマーを跡形も無くマオに破壊されたからだ。

(コイツは、最初からこれを狙って)

 オールは怒りから地団駄を踏んだ。

「その武器は最初からヒビが入っていた。大方、地震を起こす為に乱暴な使い方をしてたのだろう」

 マオはうっすらと笑った。

「ぐっっ!! ちくしょう! ちくしょう!! 俺の武器を」

 オールはマオを睨んだ。


「ぼけっとするなよ」

 マオは瞬時に加速しオールの右肩を切った。

「ぐがぁぁぁぁぁ!!」

 オールは左方向へ吹き飛ばされる。

「オール、お前は俺からparadoxを奪い何をするつもりだ? お前のねがいはなんだ?」

 マオはロングブレードを片手にオールへ向かってゆっくりと歩き出す。

「俺のねがいかぁ? んなもん決まってんじゃねぇか!! 人間ゴミを殺す事だ!! 殺して殺して殺しまくって、根絶やしにする事が俺のねがいだ!!!」

 オールは笑っていた。

「エンは敵であったが敬意を払うべき、誇り高い剣士だった。だが、オールお前は違う、自分の力に自惚れ誇示するだけの悪だ!!」

 マオは斬撃をオールに向かって飛ばす。

「うわぁぁあぁぁ!!」

 オールはボールのように地べたを転がった。

「テメェ!!!!」

 オールは頭に血管を浮かび上がらせて激昂する。


 武器を失った事で、オールの力とスピードはマオよりも遥かに劣る物となっていた。


「終わらせてやる」

 マオはロングブレードにエネルギーをため始める。

「はあああああああ!」

 マオは強力なエネルギーをまとったロングブレードでオールを切り捨てた。


「コイツ………コロス……殺してやる」

 マオの一撃を受けたオールの右肩には亀裂が入り、右腕は力なく垂れ下がっていた。

「はぁーーーー」

 オールは深呼吸をして、亀裂を塞いだ。

「!! そのキズでも修復できるのか」

(フェイズ(ツー)でも、ランクSの体は破壊できないか。仕方ない)

 空気中の夢粉ゆめを口から取り込み、亀裂を修復したオールを見て左腕を前に突き出し、ロングブレードを手放した。

「paradoxシステムフェイズ3」

「おおおおお!」

 マオが口を開いた瞬間、突如目の前に現れたエルがオールを殴り飛ばした。


「エル!?」

 マオは左腕を下げた。

「待っていろ、瑠垣 マオ。俺がコイツを片付ける」

 両手にボクシンググローブを装備したエルがボクシングのファイティングポーズを取る。

「痛えなぁ」

 オールはのろりと体を起こした。

「来い」

 エルは無表情だったが、声は怒りの色が感じ取れた。

「ふっ。まあいいよ。俺は武器を壊されちまったし。ここは、テメェに譲るよ。この作戦は失敗だ」

 オールはつまらなさそうに話すと、消えるようにしてその場からいなくなった。

「…………」

 エルは両手を下げた。


「瑠垣 マオ。俺と戦え」

 エルは後方にいる、マオの方に向き直した。

「エル」

(もしかして、お前のねがいは)

 マオは真剣な表示になる。



「戻ったぞ」

 薄暗い空間の中、オールは右肩をさすりながら歩いてくる。

「お帰り」

 レイは笑顔でオールを迎える。

「全部、お前の言う通りになったぞ」

 オールは笑った。

「レイ様の計画は完璧ですから」

 シンは頷いた。

「順調だからこそ、慎重にいかないとね。ゴート準備はいいかい?」

 レイは上機嫌だった。

(ああ、今すぐにでも大丈夫だ)

 ゴートはその場にいる全員の脳内に直接話し掛けた。

「ありがとう。でも、もう少し待って。エルも最後の時だけは、楽しませてあげないとね」

 レイは冷たい声で笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ