余震
ランクAの二を討伐したユウキと晋二は、マオの向かった正門を目指し夢図書館高等専門学校の巨大な敷地内を走っていた。
「ちょっと待って」
不意に晋二は立ち止まる。
「どうしたの」
晋二の前を走っていたユウキも立ち止まり後方へ振り向く。
「俺、岸田司書長の方へ向かうよ」
晋二は体育館の方を指差した。
「岸田司書長の事だから心配いらないと思うんだけど。左腕怪我してるし」
晋二は冷静に話す。
「うん。たしかに、そうだね」
ユウキは納得したように頷く。
「ああ! マオの方は任せた!」
晋二は右手を挙げて、後方の体育館へと走った。
「うん」
ユウキも右手を挙げた。
(マオ……)
ユウキは再び走り出した。
「はぁはぁはぁ」
(見えてきた。さすが岸田司書長だ片手でもランクAを倒すなんて)
晋二の視界に体育館の出入り口が入った。
(ん? あれは……猛?)
晋二の目の前にランクAの姿はなく、岸田と猛が疲労困憊の様子で立っていた。
「岸田司書長ぉ!」
晋二は走りながら叫ぶ。
「五木? 無事だったか」
晋二の姿を見た岸田は安心したように呟く。
「おお〜い」
猛は晋二に向かって大きく左手を振る。
「どうして猛が?」
岸田と猛の目の前に立って晋二は、恐る恐る質問した。
「敵のランクAも銃を持っていてな。手こずっていたところを吉村に助けられた」
岸田は含みのある笑いをした。
「そうなんですか」
晋二は猛の右手に持たれたコルト・ガバメントに視線を向ける。
「まぁ、岸田先生の作戦通りに動いただけだけどな」
猛は笑った。
「初めての実戦がランクAで、作成通りに動けるなんてすごいよ!!」
晋二は猛に尊敬の眼差しを向けた。
「すごいのはお前らもそうだ。相川と倒したんだろ、ランクAを」
岸田は満足したように笑う。
「……ユウキの結晶の操り人形 でランクAを倒しました。俺はなにも」
晋二は自信がなさそうな表情で下を向く。
「いや。それは違うな」
岸田は平然と話す。
「え?」
晋二は岸田の顔を見る。
「結晶の操り人形 の操作と制御は精密かつ困難を極める為、創造者自身が動けないというデメリットがある。しかも、結晶の操り人形 を会得してから間もない相川では、通常の創造よりも時間が掛かる。実戦で使うには誰かが時間を稼ぐ必要がある。よく1人でランクAに立ち向かったな。大したもんだ」
岸田は左手で晋二の頭を荒々しく撫でた。
「……ありがとうございます……」
晋二の目が潤んだ。
「んじゃ。俺らも瑠垣の所へ向かうとすっか」
「はい!」
「はい!」
岸田を先頭に猛と晋二は正門に向かって走り出した。
(この音……まだマオは戦っている)
正門に向かうユウキの耳に、コンクリートが砕けるような爆発音が聞こえた。
「……」
ユウキは、物陰からマオの様子を伺った。
(あのランクS、エルじゃない)
ユウキはエンの姿をまじまじと見る。
(マオが左手に武器を!?)
ユウキはマオの左手に、装備できないはずの日本刀があるのを見て驚愕する。
(マオは創造した左手に武器を持てないと言っていたはずなのに……一体どういう事?」
ユウキは、夢図書館の検査に対し事実を隠していたマオに困惑する。
マオとエンが再び動き出す。
「!?」
(マオ……あれじゃまるで夢獣)
空気中の夢粉エネルギーを使い斬撃を飛ばし、人知を超えた身体能力で武装したエンを圧倒するマオに、ユウキは恐怖を覚えた。
「ありがとう。こんな気持ちになったのは初めてだ。ワタシはお主を倒し成長をする!!」
エンは脇差しを左手で抜いた。
(あれは何?)
幻獣化したエンを見たユウキは、恐怖で足が竦む。
「時間がない。いくぞ!!」
そう言ったエンは、電気のようなエネルギーを全身にまとい、先ほどとは比べ物にならないスピードでマオの懐へ入った。
「瞬間創造」
マオは結晶で出来た自分の背丈ほどの四角いシールドを創造し、エンの一撃を防いだ。
「……」
エンの刀は、マオのシールドを粉砕した。
(速すぎて目で追いきれない。これが、マオとランクSの戦い)
ユウキは呆然と立ち尽くす。
(でも、なんで。なんで、あのランクSは楽しそうな顔をしているの?)
ユウキはマオと楽しそうに戦うエンを見て、切なさに胸を痛める。
「我が名は、瑠垣 マオ!! お主に決闘を申し込む!!」
マオは腰に付けた鞘に日本刀を収め叫ぶ。
「!? お主……お主は……」
体のヒビが時間を増すごとに深くなるエンは、潤んだ瞳を見られないように下を向いた。
「……我が名はエン! お主の決闘を謹んでお受けする!!」
エンは脇差しと刀を鞘に収め叫んだ。
「いざ!」
「いざ!」
マオとエンは同時に刀を抜く。
「……」
「……」
マオとエンは無言のまま臨戦態勢に入る。
!!!!!!!!!
瞬きする暇もない刹那、両者の立っていた場所が逆転する。
「……」
「……」
両者は無言のまま動かない。
エンの刀が砕ける高い音が短い沈黙を破る。
「っ」
マオは、バランスを崩しぐらつく。
「ふーーーぅ」
手ぶらになったエンは長く息を吐く。
「どうやらここまでのようだ」
エンは亀裂の入り崩れかかった体を見ながら冷静に話す。
「待て!! 何かお前を救ういい手があるかもしれない」
マオはparadoxを出現される。
「よい……ワタシはもう救われた。今までは何も考えずとも敵を斬る事が出来た。この力が他人によって造られた完成品だとずっと思い込んでいた。だが、お主との戦いの中では違った。ワタシの意思でワタシの心で体を動かし刀を振れた。ワタシは初めて自分の力で戦う事が出来た……楽しかったぞ」
崩壊が進行するエンの体は透け始める。
「くっ。すまない……」
マオは目に涙を浮かべていた。
(マオ……優しすぎるよ。だけど、その優しさに私は……)
ユウキは、何かを決意したような表情をした。
「礼を言うぞ瑠垣 マオ。ワタシは初めてワタシを好きになれた」
エンの笑顔は儚かった。
「paradoxシステムフェイズ3……」
マオは穏やかな口調で話した。
「…………」
(マオが何を考えているのか、なぜ力を隠しているのか、今の私にはわからない。だけど、マオが何者でも、これから何を成そうと。私はマオの味方でい続ける。私が傍にいるんだ)
ユウキは心の中で強く決意した。
「マオ!!!!」
ユウキがマオを目掛けて走り出した。
「ユウキ!」
マオは声の聞こえた後方を向く。
「怪我はない?」
ユウキは心配そうに話す。
「ああ大丈夫だよ。ユウキは?」
マオはユウキの体に傷がないかを見た。
「うん、私も大丈夫」
ユウキは微笑んだ。
「きゃっ!?」
「うわぁ!! ユウキ」
(システムオフ)
突然、起こった強烈な地響きの中でマオは夢獣化を解き、バランスを崩し転びそうになったユウキを抱きかかえる。
「地震? ユウキ大丈夫?」
地震の揺れが収まった直後、マオは胸の中のユウキに問い掛ける。
「うん。ありがとう」
顔を赤くしたユウキはマオの顔を見上げる。
「お〜い! 大丈夫か?」
遠くから猛の声が聞こえた。
「ああ! 」
マオは走って来た、岸田たちに向かい右手を挙げて合図をする。
「また、地震?」
夢図書館本部メインモニター室で学子は避難していた机の下から出てくる。
「松下さん」
白衣に身を包んだ、砂田が無表情のまま学子へ話し掛ける。
「砂田博士!!」
学子は背筋をピンと伸ばし砂田の前で起立する。
「そんなに固くならなくていいよ。それより、ここ1年以内で起こった地震のデータを全て調べて下さい」
砂田は棒読みだった。
「はい」
学子は椅子に座りなおしキーボードを叩き始める。
「出ました。これが、直近1年間の震度1以上の地震データです」
学子は画面に地震の起こった日付、震度、マグニチュード、震源地の座標などのデータ一覧を出力した。
「…………」
砂田は学子からマウスを取り、データを食い入るように見た。
「………なるほど、やはりそうか……」
無表情だった砂田は、深刻な表情に変わった。
「一体、どうしたのですか?」
学子は滅多に変わらない砂田の表情の変化に不安そうに話す。
「至急だ。至急、研究者を集めましょう。もしかすると、この地震は大変な事に直結している可能性があります」
砂田は強張った声を出した。
ランクSのエンとランクA2体の襲撃を受けた夢図書館高等専門学校は、校舎の復旧工事を含め2週間の休校を余儀なくされた。
トーナメント戦で猛に不正攻撃をした生徒会長の茂武 謙太は退学処分となった。
「失礼します」
休校2日目、猛は岸田の住んでいるアパートに呼び出された。
「おお。来たか」
黒いジャージに身を包んだ岸田がマグカップを左手に持ち、黒革の1掛けソファーに座っていた。
「よ!」
テーブルを囲むようにして特別執行司書長の制服姿のマオと、司書の制服姿のユウキ、晋二が座っており、晋二が右手を振った。
「まぁ。座れ」
岸田がテーブルの空いている一角を指差す。
「はい」
猛はマオと晋二の両隣に座った。
「時間がないから、単刀直入に言うぞ。吉村 猛。司書になる覚悟が出来ているか?」
岸田は真面目な表情で話す。
「え?」
猛は面を食らった様子で固まる。
「……俺の聞き方が悪かったな。今、司書になりたいか。まだ学生でいたいか選べ」
岸田はソファーから立ち上がった。
「それは!?」
猛は目を見開く。
「ああ、飛び級の話だ。銃の単独創造、武装したランクAに動じない心の強さ、ポテンシャルは十分だ。総合力はまだ即戦力とは言えないが、同じ銃を使う司書として、俺はお前に将来性を感じた。厳しい道だが、俺の下で能力の研鑽をする気はあるか?」
猛の将来性を高く評価した岸田は、猛の覚悟を問うた。
「はい! 俺の覚悟は、正門でマオを見送ったあの日からできています!!」
猛は即答した。
「いい返事だ。吉村 猛。本日付で5年生へと飛び級、鈴木班研修生として司書登録をする」
岸田は透明なビニール袋に入った、司書の制服を猛に手渡す。
「!!」
司書の制服を受け取った猛の目から涙が溢れ出る。
「うっっぅ。うわぁああ」
(浦和。俺やったぞ。これでようやく、スタートラインに立てた)
猛はその場で蹲り声を上げた泣いた。
マオとユウキと晋二は、泣き崩れる猛を優しい表情で見ていた。
「どう?」
猛は恥ずかしそうにはにかむ。
「似合ってる」
「うん」
「似合ってるよ」
マオ、晋二、ユウキは司書の制服を着た猛を見て頷く。
「おお、似合ってんじゃねぇか」
岸田はコーヒーを一口飲んだ。
「どうもっす」
猛は照れ臭そうに頭を掻いた。
「じゃあこれ付けろ。研修生の印だ」
そう言って岸田はオレンジ色の腕章を猛に手渡した。
「はい」
猛は『研修生』と大きく書かれた腕章を右腕に付けた。
「じゃあ、もう1つの本題に入るぞ」
岸田は声のトーンを下げた。
「!!」
岸田の低い声にその場の空気が緊張感を帯びる。
「本部への帰還命令が出た」
岸田は冷静に伝えた。
「え? また急ですね」
晋二は目を丸くする。
「ああ。詳しい事はまだ知らされていないが、ランクS絡みで新たな事が分かったららしい。漏洩防止の為、本部にて直接説明だとさ」
岸田は深刻そうに話す。
!?
その場の空気が凍り付く。
(ランクS)
マオは複雑な表情をした。
「ランクS? 何ですかそれ?」
猛は首を傾げた。
「そうか、猛は知らないよね」
マオは納得したように話す。
「そうだな。まだ、公開されていない情報だからな……」
岸田は猛にランクSについて説明した。
「……そんな化け物みたいな夢獣が……しかも、そいつらが浦和と工藤を…………」
説明を受けた猛は怒りで両手を握り締めた。
「ごめん。言えなかったんだ」
マオは申し訳なさそうな顔をする。
「大丈夫だよ。守秘義務があったんだろう。仕方ないって」
猛は無理して笑った。
「出発は明日、午前8時に正門前だ」
岸田は残ったコーヒーを飲み干した。
「はい」
3人は返事をした。
夢図書館No.1オペレーターである戸田が副総館長室の扉をノックする。
「入れ」
副総館長の竹宮がインターフォン越しに返事をする。
「失礼します」
長い髪を後ろで縛った中肉中背の戸田が室内に入る。
「これが、瑠垣 マオの調査結果です」
戸田は分厚い資料とUSBメモリーを竹宮の机の上に置いた。
「ご苦労だ」
竹宮は資料をパラパラと捲る。
「これは、本当か」
資料の終盤に差し掛かったところで竹宮の手が止まる。
「はい。証拠の映像もあります」
戸田は机上のノートパソコンにUSBメモリーを差し込む。
「ほおぉ」
画面にはエンとの戦いで、paradoxシステムフェイズ2 道化の腕を使い武装したマオが映し出された。
「僕もびっくりしました。瑠垣は創造した左腕では武器を持てないと発言し、それを我々の目の前で実演した。しかし、実際には武装する事が可能だったのです」
戸田はニヤリと笑った。
「……」
竹宮はニヤついたまま固まる。
「瑠垣 マオの処分はいかがしますか?」
戸田は口を開く。
「いいや、まだだ。現状、ランクSと戦う力を持っている人間は瑠垣 マオただ1人だ。奴が全てのランクSを倒した後、瑠垣 マオを拘束し取り調べでの虚偽発言で然るべき措置をとる。そうなれば奴を特別筆頭司書長に任命した相川 築には任命責任が生じる。確実に相川 築を総館長の椅子から引きずり下ろす為の、決定打となる情報がまだ必要だ。それまでは瑠垣 マオという武器をいいように使ってやるさ」
竹宮はニヤリと笑う。
「分かりました。引き続き瑠垣 マオの調査をします」
戸田は一礼した。
「長年、多くの人間を見てきたから分かる。瑠垣 マオはまだ何かを隠している。なんとしても暴くんだ」
竹宮は不気味な笑みのまま話す。
「了解です」
戸田は副総館長室を後にした。
「でけぇ」
ヒョー越し砂漠の中を走る黒いSUVに乗った猛は、目の前にそびえ立つ黒い建物を見上げた。
「俺も、はじめて来た時はびっくりしたよ」
マオも車の窓越しに夢図書館本部を見上げた。
「ああ。ニュースでよく見るけど、実物はやっぱ違うな」
猛はシートに座り直した。
「んん? なんか開いたぞ?」
夢図書館本部の内部へと続くゲートが開き、猛が興味深そうに覗き込む。
「ここから中に入るんだよ」
晋二はゲートを指差した。
SUVはゲートから内部の格納庫に入った。
「ここが夢図書館本部! なんか映画とかに出てきそうな秘密基地みたいだ」
猛は車から降りると伸びをした。
「たしかにね」
ユウキはクスリと笑った。
「待っていましたよ。皆さん。お疲れ様です」
黒のレディーススーツ姿で白いファイルを持った女性構成員が車から降りたマオたちに話し掛けた。
「出迎えご苦労だ、松下」
岸田は学子に左手を挙げた。
「学子さん! ただいま!」
「お帰り、晋二君」
顔を赤くした晋二が挨拶すると学子は優しい笑顔で返す。
「ユウちゃんも、お帰り」
「ただいま」
笑顔の学子にユウキも笑顔で答える。
「ただいま戻りました」
マオも笑顔で話す。
「お帰りなさい。聞いたわよ。ユウちゃんを幸せにしてあげてね」
学子はマオの耳元で話す。
「はい」
マオは照れ臭そうに頷いた。
「……」
(なんだ、このすっごい綺麗な人は)
猛は、非現実的にまで整った顔立ちと、線が細いながら女性らしい体つきの学子に見惚れていた。
「この子が、吉村くん?」
学子は白いファイルを開きながら話す。
「ああ」
岸田は退屈そうに答える。
「俺っ。自分は吉村 猛です」
猛はカミカミだった。
「ふふふ。よろしくね。吉村君」
学子は優しく笑った。
「時間がない。早速版の会議室へ行くぞ」
岸田の一言で学子を先頭に一同は格納庫を後にした。
「もうすぐ、会議室です」
学子は上品な立ち振る舞いで内部を歩き進める。
「なんだとぉーーーーーぉ! もういっぺん言ってみろぉーーー」
「だ・か・ら!! お前がそんな馬鹿デカイ斧しか使わないから作戦が制限されるんだ!!!!」
廊下にいてもはっきり聞こえるほど大きな声での口喧嘩が、目の前の扉から聞こえて来た。
「おお、やってるな」
岸田がニヤリと笑う。
「まったく、仕方がないんだから」
右手を頭に当てて呆れた様子の学子。
「いつもの事」
呆れ顔のユウキが扉を開ける。
「うるせーーーーぇ! お前だってトンファーしかし使わないだろ!!」
小学生ぐらいの身長ツンツン頭の男、鈴木 太郎が叫ぶ。
「俺は武器の種類ではなく大きさの事を言ってんだ! このバカ!」
メガネをかけた長身の男、立花 司も叫んでいる。
「新人くんを連れて帰ってきたよ!」
笑顔の学子が2人に話しかける。
「デカイ斧は男のロマンだぜ! それよりも、今バカって言ったか?」
太郎は司を睨みつける。
「何が男のロマンだ! それでこの先どうやって戦っていくんだ、このバカ!」
司も睨み返す。
「ふぅーーー」
右手の関節を鳴らしながら学子は深呼吸をすると喧嘩をしていた2人は怯えた様子で学子の方を見た。
「よ〜 さとこ、かえったのか。岸田司書長お疲れ様です」
カタコトになった太郎。
「おっおかえりなさい」
同じくカタコトになった司。
「うん、ただいま! 太郎くんも司くんも新人君がいるんだから、あまり見っともない姿は、ミセナイヨウニネ」
学子は柔らかい笑みを浮かべていたが、目は全く笑っていなかった。
(さっきの威圧感、すごかった)
猛は学子の穏やかな威嚇に恐怖を抱いた。
((なんかデジャブ))
マオとユウキは見覚えのある光景に表情が緩む。
「おお! お前が吉村か! 話は岸田司書長から聴いてるぞ、銃の単独創造ができるんだってな。俺は班長の鈴木 太郎だ」
太郎は猛の目の前で両腕を組んで仁王立ちした。
「よろしくお願いします」
(キャラが濃いのに名前はすごく普通なんだ)
猛は40cm以上も身長が低い太郎を見下ろすような姿勢で返事をする。
「気に食わねぇ」
太郎は不機嫌そうに吐き捨てた。
「え?」
猛は首を傾げる。
「なんで、最近の新入りはこんな背が大きいんだ? 唯一普通だった瑠垣も狭間から出て来たらデカくなってるし。なんだイジメなのか!? 嫌がらせなのか!?」
太郎はその場で寝そべり荒ぶった。
「……」
猛は、地面で悶える太郎を冷静に見ていた。
「俺は立花 司。あのバカはほっといていいから」
司は申し訳なさそうに猛に右手を差し出す。
「あっはい」
猛は司と握手をする。
「吉村 猛。ようこそ鈴木班へ、歓迎するぜ!」
いつのまにか奇行から立ち直った太郎は自慢気に胸を張った。
「!?」
(これが、俺の班)
猛は目の前に並んだ鈴木班の6人を見て、自分が司書になった事を改めて実感した。




