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エン 1

道化の楽園(サーカス)? それは、お前たち夢獣ピエロの組織の名前か?」

 マオはエンと向かい合ったまま話す。

「そうだ。とは言っても、ワタシは一時的に力を貸しているだけだ」

 エンは、自身の背丈と同じ長さの刀を両手で持ち霞の構えをする。

「ん? だったら、お前たちの目的はなんだ? エン、お前は誰に力を貸している?」

 マオは、右の拳を握る。

「ふっ、お主にこれ以上話す事はない。早く左腕を創造しろ、今のお主ではワタシの相手にならぬ」

 エンの声に殺気が入り混じる。

「!? さすがに俺の情報は、知っているか。paradoxシステムフェイズ(ワン)夢獣化ピエロか

 マオの左肩付近に周囲が黄緑色に光る黒いリングparadoxが出現し、指先から左腕が創造される。

「それが、あのエルを本気にさせた力か……」

 エンは、創造されたマオの左腕をしっかりと見る。


「……」

(武装したランクS。いけるところまで押してみるか)

 マオは両膝を軽く曲げ臨戦態勢に入る。

「……」

 マオはゆっくりと左の拳を握る。

「よい目だ」

 エンは霞の構えのまま若干口角を上げた、だが目からは先ほどとは比べものにならない程の殺気が溢れ出ていた。

 エンの体と刀は、青白いエネルギーに包まれた。

「!!!」

 マオは地面を両足で強く蹴った、その衝撃で粉塵が舞い上がった瞬間、爆発的な加速をして正面からエンに接近する。

「ほぉ、なかなかの速さだ」

 エンは霞の構えから右足を前に出すのと同時に、マオが突き出した左拳を目掛け刀を振り下ろした。

「くっ」

 マオの左ストレートは、エンの刀によって阻まれた。

「ぐぅっっ!!」

 エンの剣圧でマオは両足で地面を削りながら後方へと、引きずられるようにして大きく押し戻される。

「!?」

(振り遅れたか……)

 刀とマオの左拳が接触した直後、エンも後方へ僅かに押し戻されっていた。

「……」

 マオは再び臨戦態勢に入る。


「ワタシが刀を振った瞬間、更に加速してきたか。お主にも武術の心得があるようだ」

 エンは、攻撃を防がれたにもかかわらず楽しそうに話した。

「昔から、強くなるのに必死でね」

 マオは平然と答える。


「……」

(なんだ、この余裕は? レイ殿の言う通り、瑠垣 マオは何かを隠しているのか? もしそうだとしたら、早めに決着を付ける必要があるようだ)

「ゴート。鞘を」

 突然、エンは独り言を発した。

(わかった)

 エンの脳内に直接ゴートの声が聞こえる。

「鞘が」

(この不自然な武器の出現、ランクSの移動手段と似ている。今、エンが言ったゴートという存在が関わっている可能性が高いな)

 マオはエンの目の前に出現した黒い漆塗りの鞘を見た。

「……」

 エンは刀を鞘に収め、居合抜きの構えをした。

(エネルギーの放出が止まった?)

 先ほどまで、青白く光っていたエンの体と刀は発光を止め、代わりに異様なプレッシャーだけが周囲を支配していた。

「!!」

 マオは先ほど同様に真っ直ぐエンに向かって加速した。

(このまま突っ込むのは危険だ)

 マオは微動だにしないエンに恐怖感を覚え左方向へ直角に曲がり、エンの右真横に回り込んだ。

「……」

 エンは、まだ動かない。

(全く反応がない、なんだこの違和感は?)

 一瞬にしてエンの目の前から、死角である真横に移動したマオは左アッパーを繰り出す。

「!!!」

 マオが攻撃を放った刹那、エンは体の正面をマオに向け音速を優に超える速度で抜刀をし、マオを後方へ吹き飛ばした。

「がはぁ!!」

(目で追いきれない)

 マオは一瞬よりも短い出来事に反応しきれず、地面を転がるようにして吹き飛ばされる。


「……」

 マオはゆっくりと立ち上がる。

「腑に落ちない顔だな」

 エンは再び居合抜きの構えをした。

「ああ。今のお前の攻撃に夢粉ゆめエネルギーが乗っていなかった。なのにスピードと威力は、さっきの夢粉ゆめエネルギーを帯びていた攻撃とは比べ物にならないほど跳ね上がっている」

 マオは、無数のヒビが入った左拳を見ながら話す。

夢獣ワタシたちの戦闘手段は何も武器や体を媒介とし、空気中の夢粉ゆめへ干渉させエネルギーとして放出するだけではない。空気中の夢粉ゆめを体内に取り込み、自身のエネルギーとして消化させ、身体能力を増幅させる事ができる。それは、視力であり筋力であり知力であり感覚だ。なに、お主の夢獣化ピエロかと同じような原理だ」

 エンは冷静に答える。

「!? なるほど……」

(夢獣化ピエロかについて、既にそこまで迫っていたのか。道化の楽園(サーカス)には、よほど頭のキレる者がいるようだ)

 マオは左拳のヒビを修復し、深刻そうな表情で左腕を見つめた。


「ふぅーー」

(武装したランクSには歯が立たないか……エルとの戦いで薄々わかっていたが、ここがフェイズ(ワン)の限界か)

 マオは深呼吸をして顔を上げた。

「どうした? もう、おしまいか?」

 エンは目を細める。

「いいや。まだだよ。ただ、大切な人を守る為に欲した力は、その使い方を誤れば、自分自身も守りたい人でさえ破壊しかねない危険なものだった。その力を使う覚悟を改めてしていた」

 マオの左肩にparadoxが出現する。

「なんの真似だ?」

 エンは声のトーンを下げる。

「……」

 paradoxはマオの左肩からゆっくりと、指先に向かって降りていく。

(腕の色が変わっていく?)

 エンはマオの左腕を見て目を丸くする。

 paradoxが通過した部分から、マオの左腕はparadoxと同じ周囲が黄緑色に発光する黒い物質へと変化した。

「paradoxシステムフェイズ(ツー) 道化の腕(マジックアーム)

 指先まで降りたparadoxは再び透明化し、マオは左拳を軽く握った。



「へえ〜」

 薄暗い空間の中、白いトレンチコートを羽織っているレイはエンの目とリンクし、その目に見えた映像を写し出しているタブレット端末を眺めていた。

「レイ様、これは?」

 青い執事服姿のシンは、宙に浮かんでいるタブレット端末を見て焦りの声をもらす。

「さぁ? 瑠垣 マオがparadoxを使い取り出した左腕に変化を起こした事は見て取れるけど、この変化が意味する事までは分からないな」

 シンは両手を軽く持ち上げ分からないとジェスチャーをする。


「フル! 貴方の計算に今、エンの目の前で起こっている事は入っていましたか?」

 シンは左側で丸椅子に座るフルに鋭い視線で問い掛ける。

「…………」

 黒いニット帽を被り、サイズの合ってないブカブカな白衣を着ている非常に小柄なフルは下を向いたまま反応をしなかった。

「フル!! 聞いているんですか?」

 シンは強く冷たい声を発した。

「……ない」

 フルはかすれるように小さい声で話す。

「フル」

 シンは低い殺意に満ちた声を出す。

「……入ってない……」

 一瞬肩をビクリと震わせたフルは、下を向いたまま答える。

「!!!」

 無言のままシンはフルに向かって右足を一歩前に出す。


「シン、待って」

 レイはタブレット端末を見たままの状態でシンを止めた。

「なぜですか!? これで、フルが計算を間違えたのは2回目です。しかるべき措置を」

 シンは歩みを止めた。

「まあ、待って。まだ、エンが負けたわけでもないし。少し様子を見よう」

 レイは冷静にタブレット端末を凝視する。

「はい」

 シンは一礼して下がる。


「これは一体どういう事だ!!」

 レイたちの後方から、若い男性の怒鳴り声が聞こえる。

「やあ、エル久しぶりだね」

 レイは袖の無いグレーのパーカーとダメージジーンズ姿のエルの方を向いて右手を上げて挨拶をする。

「レイ! 約束したはずだ、俺と瑠垣 マオとの決着を付けさせると。なのに何故、今エンが瑠垣 マオと戦っている? 何故、俺に作戦の事を話さなかった!!」

 普段は感情を押し出さないエルが、殺意に満ちた表情でレイを睨む。

「今更、出てきて何を言い出すと思えば。本当に呆れた方だ」

 シンはため息混じりに話す。

「お前には聞いていない。レイなんとか言ったらどうだ?」

 エルはシンを一蹴した。

「そうだね。約束を破ってしまってゴメンね。この埋め合わせは絶対にするから」

 レイは悪気がないのか、笑ったまま返事をした。

「次の作戦だ。次の作戦は何がなんでも俺と瑠垣 マオを戦わせろ」

 エルは眉間にシワを寄せながら話す。

「もしかしたら、今日エンに殺されてしまうかもしれないよ」

 レイはタブレット端末に視線を戻す。

「それは、絶対にありえない。エンは負けて、この作戦は失敗する。ヤツと真正面から戦った俺ならわかる」

 エルは断言した。

「それは、面白いね」

 レイは、頷いた。

「だから、約束しろ。次は俺だ」

「わかった。約束するよ」

 レイが了承すると、エルは後方へ下がった。


「フル。君が計算を間違えたくて間違えたのではない事は分かってるよ。だから、もう1度チャンスをあげるからね」

 レイは優しい声で話す。

「レイ!!」

 フルは、先ほどまで下げていた顔を上げ、明るい表情を見せた。

「……そう…………もう1度だけね」

 レイは、誰にも聞こえないほど、小さな声で呟いた。



「フェイズ(ツー)?」

(ただ腕の色が変わっただけの変化だが、paradoxが変化をもたらした事から、何が起こっても不思議ではない)

 エンは刀を握る右手により強く力を込める。

「口で説明するよりも、実際に見た方が分かりやすそうだな)

 マオは両足を肩幅の位置まで開き、エンを凝視した。

「来い!!」

(相手の力が未知数なら、こちらが全力になればいいだけの話)

 エンは先ほどまでとは明らかに違う、刺し違える事を覚悟した強い目になる。

「!!!!」

 マオは、地面を思い切り蹴る。

「?」

(動きが少し速くなっただけ? この程度なら)

 エンは正直に正面から迫るマオに向かって、日本刀を振り下ろした。

「……」

 マオは、左ストレートを放った。

「!? がっぐぐぐぐぅ」

 マオの左拳から放たれた、強力な夢粉ゆめエネルギーはエンの刀を押し返しエンを10mほど押し戻した。


「はぁはぁはぁ」

(今のは、ランクS(ワタシたち)と同じ攻撃!? フルの計算では瑠垣 マオは口から取り込んだ夢粉ゆめしかエネルギーとして使えないはず。だが今、瑠垣 マオは間違いなく空気中の夢粉ゆめをエネルギーとして使った)

 エンは、目の前で起こった事を頭の中で処理しきれていなかった。

「!!!」

 マオは、間髪入れずにエンとの距離を縮める。

「く!?」

(原理は分からないが、瑠垣 マオが空気中の夢粉ゆめエネルギーを使えるようになっただけの事。ただそれだけだ)

 エンは、マオのエネルギーをまとった左拳に向かって刀を振り下ろす。

「これを防ぐか」

 エンの刀はマオの左ストレートに阻まれた。

「はああ!」

 エンはマオの動きが、まるでスローモーションに見えるような圧倒的な速度で刀を乱れ振る。

(まだ、速くなるのか。捉えきれない)

 まるで5本の刀が同時に襲いかかるような錯覚を起こすほど鋭い刀を、マオは左腕を盾にして、なんとか防ぎきる。


(あれだけの攻撃を受けてもヒビ1つ入ってない。あの左腕、強度も増しているのか)

 エンの刀は粉々に砕け散る。

「paradoxシステムがフェイズ|2になった今。俺の具現タイプの圧縮率は結晶タイプ同様100%になる」

 マオは左腕を前に出した。


 エンは、元々腰に刺していた太刀を抜いた。

「この太刀の圧縮率は95%だ」

 エンは太刀を中段の位置に構えた。

「……」

 マオは、エンの武器が具現タイプで圧縮率が95%と考え難い数字を言ったにも関わらず、冷静だった。

「もっと驚くと思ったが」

 エンは少し笑っていた。

「いや、夢粉ゆめの集合圧縮について研究していた町田幸光さんが、そちら側に付いている事を考えれば、納得する数字だよ。じゃないと、ただの子供が圧縮率70%以上のランクAを創造するなんて無理だからね」

 マオは見透かしたように答えた。

「ふっ。お主も食えんヤツだ」

 エンは吹き出して笑った。

「!!」

 マオは、一瞬にしてエンの懐に入る。

「甘い」

(やはり人間はこの程度か)

 エンはマオの左拳に集まったエネルギーの塊を切り、マオを後方へと飛ばした。

「!?」

(武器の圧縮率が上がった分、エンの攻撃力が跳ね上がってる)

 マオは、両足を上手く使い着地の衝撃を和らげた。

「今のに反応するなんて。完全に意表を突いたと思ったが」

 マオは顔を上げる。

「ワタシは人殺しの武器として創造された夢獣ピエロだ……夢粉ゆめの流れを感じ取る事が出来る。刀の届く()()()の中で起こる事は手に取るようにわかる」

 エンは悔しそうな表情で話した。

「ランクSには、そんな事も出来るのか」

 マオは小刻みに首を縦に振る。


「所詮、誰かに作られた力に過ぎぬ。しかし大口を叩いた割には、そのフェイズ(ツー)とやらになっても大して強くなっていないな」

 エンは、興味が無さそうに話す。

「腕の強度と身体能力が僅かに増し、空気中の夢粉ゆめエネルギーを使えるようになっただけ。それでは、いつまで経ってもお主は、ワタシの間合いを抜けて攻撃を当てる事は出来ぬよ」

 エンは刀を右手で持ち、仁王立ちした。

「これ以上戦っても時間の無駄だ」

 エンは、太刀を上段の位置で構える。


「たしかに、このままだと時間の無駄だね」

 マオは平然と答える。

「?」

 エンの動きが止まる。

「すまない。フェイズ(ツー)になった事によって起こる、感覚のズレを修正していたんだ」

 マオは右手を前に出した。

瞬間創造ソニック

 マオは日本刀を創造した。

「……?」

 エンはマオの創造した日本刀を興味深そうに見る。

「そう、圧縮率が100%になる事も、空気中の夢粉ゆめをエネルギーとして使えるようになる事も、ただの副産物に過ぎなかった。フェイズ(ツー)道化の腕(マジックアーム)によってもたらされる本当の変化は」

 マオは右手に持った日本刀を左手に持ち替えた。

「まさま!?」

 マオが日本刀を振りかざした瞬間、エンは全身を電気が走ったようなショクを受けた。

「!!!」

 マオが日本刀を振り下ろすと、雷のように強力なエネルギーの塊がエン目掛けて放たれた。

「くっ!!!! あぁぁぁぁあ!!」

 エンは刀身を横にして防御に徹するが、マオの攻撃の威力に負け後方に吹き飛ばされる。


 エンは空中で受け身を取り、バランスを崩しながらも着地に成功した。

(っ!! どこだ? どこへ消えた?)

 エンの前方にいたマオの姿はなく、エンは辺りを見回す。

「!!!」

 エンは間合いに入ったマオに反応し、左方向に向かって刀を構える。

「くっっっ!!」

(速い!?)

 エンの刀は振り切られる前に、マオが真横に振り抜いた日本刀と刀が接触しエンは地面を削るようにして飛ばされる。



「これは!?」

 薄暗い空間の中、マオとエンの戦闘が映るタブレット端末を見てシンは取り乱す。

「へぇ、すごいね」

(考えたね。paradoxから、自分が人間ではなく夢獣ピエロである可能性を取り出すなんて。だが、これは瑠垣 マオ1人で導き出せる結果か?)

 レイはタブレット端末を見たまま思考を巡らせる。

「フル!! また、計算を謝りましたね。瑠垣 マオはあの左腕で武器を使えないと言ったはずです」

 シンは声を荒げる。

「こんなの、事前の情報が少なすぎて計算しきれないよ」

 フルは潤んだ瞳で反論した。

「私に口答えするつもりですか?」

 シンはメガネを外そうと右手を顔の付近に持っていく。

「っ!!」

 フルの表情は恐怖に支配される。


(待て)

 突然、中年男性独特の低く重みのある声がシンの脳内に直接聞こえる。

「ゴート、止めないでください」

 シンは左側後方にいるゴートに背を向けたまま話す。

(まだ作戦は失敗していない。エンには奥の手がある)

 ゴートは簡潔に話す。

「……たしかにそうですが、エンがあれを使うという事は」

 シンは右手を下ろした。

(……)

 ゴートの返答はなかった。


「わかったぞ!!」

(そうか、瑠垣 マオはあの男に会ったのか。それなら全ての辻褄が合う)

 レイは大声を出して。

「レイ様?」

 シンは慌ててレイの傍に駆け寄る。

「そうか、そうか。これで瑠垣 マオが()()にたどり着く事は出来ない事がわかった。ふっふあはははははは」

 レイは顔を右手で抑え高らかに笑い声を上げた。



「これが痛みか」

 エンは初めて味わった痛みを噛みしめるように、ゆっくりと起き上がった。

「お主、戦う前に我々の目的を聞いたな」

 エンは刀を持つ右手を下ろした。

「ああ」

 マオも日本刀を持つ右手を下ろした。

「我々にはそれぞれのねがいがある。それを叶えるのに必要な存在がparadoxだ。我々の目的はお主からparadoxを奪取する事」

「paradoxを……それで、お前たちのねがいとはなんだ?」

 エンの回答にマオは目を見開く。

「他の者のねがいは知らぬが、ワタシのねがいは人間として生まれなおす事だ」

 エンは真剣に表情で答える。

「エン、お前は人間になりたいのか?」

「そうだ。ワタシは夢獣ピエロである前に剣士だ。剣の道を極める事を常に念頭においている。だが、それは今のワタシでは叶わない」

 エンの表情が暗くなる。

「?」

 マオはエンの言っている事の意味がわかっていない様子。

「さっきも言ったが、ワタシは創造された物だ。この体も、自分のものだと思っていた剣術も、この実力ですら人間の身勝手な創造が生み出した贋作がんさくに過ぎない……ワタシという存在は創造をされた時点で既に完成されているのだ。自分自信の力で極めたものなど何1つとして有りはしない!! ワタシは人間として生まれなおし、自分の剣を1から築き上げたい。それがワタシのねがいだ」

「……エン」

 エンの目から涙こそ流れていなかったが、マオにはエンが泣いているように見えた。


「だが」

 エンは穏やかな表情になった。

「今のお主の剣はワタシよりも上だ。剣士として持てる力を全て注ぎ込みお主という壁を乗り越えたい」

 エンは目線を少し下げて笑った。

「受けて立つ!」

(そうかエンもエルと同じ。自分の理解者が欲しかったのか)

 マオは何かを決心した様子で日本刀を中断の位置で構える。

「ありがとう。こんな気持ちになったのは初めてだ。ワタシはお主を倒し成長をする!!」

(この異様に体が重く感じる感覚。ワタシは今、緊張をしているのだな)

 エンは脇差しを左手で抜いた。


 !?!!!!


 エンが脇差しを抜き二刀流になった瞬間、エンの体が薄い緑色のエネルギーに包まれた。

「!?」

 マオは眩しい光から目を守る為に、右腕を目の高さまで上げた。

「なっ!!!」

 エンの髪は自身の放つエネルギーと同じ薄い緑色に変色し、頭部から狐のものとよく似た耳と9本の尻尾が生えていた。

「これがワタシの奥の手、幻獣化だ」

 エンの顔はどこかスッキリとしていた。

「……」

 マオは日本刀をしっかり握る。

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