学生寮
岸田の部屋を後にしたマオたちは廊下を歩いている。
「マオ、1つお願いしてもいいかな?」
晋二は自分の右隣を歩くマオに話し掛ける。
「何かな? 俺にできる事だったらいいけど」
マオは晋二の方を向く。
「ありがとう。本来なら俺とユウキは3日前には寮に到着している予定だったんだけど、任務で今日の朝ギリギリの到着になっちゃって、寮の場所が分からないんだ。案内しくれないかな?」
晋二は照れたように事情を説明する。
「全然、大丈夫だよ!」
マオは快く引き受けた。
「ありがと!!じゃあ寮へ行こう!」
晋二は昇降口へ向かって勢いよく歩きだす。
「……五木……職員室に荷物を置きっ放し」
2人の後ろを歩いているユウキが静かに呟く。
「あぁっ! 本当にギリギリだったから職員室に荷物を置かせてもらったんだっけ! マオ、申し訳ないんだけど荷物を取ってくるから、待っていてくれないかな?」
晋二が申し訳なさそうな顔をする。
「俺もカバンが教室だから、お互い荷物を取ってきて校門前で待ち合わせでも大丈夫?」
マオの提案に晋二は笑いながら右手でOKサインを作る。
「了解! 校門なら場所も分かるし、大丈夫!!」
「……了解」
晋二とユウキの2人は職員室へ向かって行った。
マオは誰もいない教室で自分の席に掛けてあるカバンを左手に持つと、足早に集合場所である校門前へ向かった。
マオが校門前に到着すると晋二とユウキはまだ到着していなかった。
(今日、初めて岸田先生や晋二、相川さんの創造を見たけど、やっぱり学生とはレベルが違う。今後あのレベルと張り合うには低すぎる圧縮率が問題だよな〜……去年から岸田先生にトレーニングしてもらっているけど、1年やって2%しか伸びてないし。晋二と相川さんに迷惑掛けないように頑張らないと。それから……)
マオは考え事をしていた。
「おお〜い、お待たせ〜」
後方から晋二の声が聞こえたので振り向くと晋二とユウキが小走りで近付いてくる。
「急がなくてもいいのに、って!?スゴイ荷物だね」
マオの言う通り晋二とユウキは大きめのキャスター付きバックを引きずり、部活で遠征に行くような大きさのスポーツ用ショルダーバックを肩からぶら下げていた。
「はぁはぁ、待たせてごめん。夢図書館の寮から荷物を持ってきたんだけど、緊急の任務が入っても大丈夫なように、司書の制服やら道具やらで気が付いたら、こんな大荷物になっちゃって」
晋二は息を切らせていた。
「はあ、はあ……五木が急に……走るから。はぁはぁ」
息が上がったユウキは肩を上下させながら珍しく不機嫌そうに文句を言う。
「よし、そろそろ寮に向けて出発しよう。ちなみに寮まで1.2kmあるけど大丈夫?」
2人の息が整うのを待ってマオは口を開く。
「ええっーー。そんなに遠いの?」
晋二はマオの言葉が信じられない様子。
「……夢図書館のトレーニングと同等もしくは、それ以上の厳しさ」
ユウキも表情を暗くする。
夕焼けの中、落ち込む2人を連れマオは寮への道を歩きだした。
「同い年で司書になったって聞いたから、どんな人かと思ったけど、2人ともいい人で良かったよ」
しばらく歩いた所でマオは晋二に話し掛ける。
「ぶっふ、あっははは! 俺たち同じ16歳だよ! なんだと思ってたのさ?」
マオの発言に晋二は大笑をした。
「正直、仲良くなれるとは思わなかった。どうせ、他のクラスメイトと同じように、バカにされて相手にもされなくなると思ったから。俺って、才能ないからさ……。そんな俺の事を友達って言ってくれて、ありがとう」
マオは前を向いたまま照れたように笑う。
「当たり前だろ! おかしいのは才能が無いと決めつけてバカにする方だ!! 俺もマオや遥たちが友達になってくれて嬉しいよ! それと、マオの俺には才能が無いから禁止な! あれだけスゴイ事ができて才能が無いって、イヤミか? このヤロー」
笑顔の晋二が冗談交じりに話す。
「……そう、あれだけの技量があるのに驕らない、瑠垣君はいい人」
2人の後方でユウキがいつもよりも大きな声で話す。
「ありがとう晋二、相川さん」
照れたマオが前を向いたまま感謝の言葉を口にする。
「……五木だけ不公平」
ユウキはなぜか不機嫌そうだった。
「えーっと、何が不公平だい?」
ユウキの発言に目を点にした晋二は聞き返す。
「……名前の呼び方。瑠垣君は友達を名前で呼ぶ、五木と私は、今日初めて瑠垣君に会ったのに……五木だけ名前で読んで私を相川さんと呼ぶのは……不公平」
名前の呼び方など気にしていないと思っていたユウキの意外な発言に驚きを隠せないマオと晋二。
「ごめんね。じゃあユウキでいい?」
マオはユウキの方へ振り向く。
「……いい、私もマオと呼ぶ」
同じ無表情でも少し笑っているようにも見えるユウキの顔は夕焼けの影響なのか、いつも以上に神秘的な印象をマオと晋二に与えた。
3人が話していると寮の入り口付近へたどり着く。
「ここが学生寮だよ。玄関を入って、右側の階段が男子寮で左側の階段が女子寮へ続いているから。それから1階はフリースペースになっていて、コンビニと男女別の大浴場と食堂、フードコートがあるよ」
マオは2人の方を振り向いて話す。
「かなり、充実してるんだね」
マオの説明に晋二は目を丸くした。
「……お菓子やスイーツ……ある?」
ユウキは興味津々とマオの真正面で背伸びをしながら質問をする。
「ふふ、フードコートに確かアイスクリームとクレープとケーキのお店があったはず」
マオは無邪気なユウキを見てクスリと笑う。
「それは素晴らしい……早速、中に」
ユウキは目の中に星が見えるほど輝かせた。
「そうだね、結構暗くなってきたし立ち話もなんだから中へ入ろう」
マオを先頭に3人は学生寮に入る。
「やっと、帰ってきた。マオくん〜〜〜!」
マオたちが自動ドアから寮の中へ入ると1人の女子生徒が十数m離れた場所からでも、はっきり聞こえるほど大きな声でマオに話し掛けた。
「おお〜い!」
「………… 」
大声でマオを呼んだ遥は1階のロビーに置いてあるソファーに座って缶ジュースを片手に空いている手を元気よく手を振っていて、その隣には無言で正輝が座りマオの帰りを待っていた。
マオたちは遥のすぐ側まで歩いて行く。
「おっそい! もう、ここで2時間も待ってたんだよ。それで? 岸ちゃんに呼び出されたけど大丈夫だったの?」
遥は両手で缶ジュースを持ち少し心配した様子で問い掛ける。
「心配掛けてごめんね。大丈夫だよ。岸田先生に呼び出されたのは、今日の創造スピードがあまりも良かったから、どんなトレーニングしたか聞かれて」
マオは少し嬉しそうな様子で答える。
「なるほどね〜 確かに、今日のマオくんにはビックリしたよ! 頑張っていた成果がやっと出たんだね。知ってたよ〜 マオくんが測定室を何度も借りて努力してたの」
遥は納得したように頷く。
「ありがとう。でもまだまだ課題も多いし、なんとか夢図書館高等専門学校を卒業して、俺は絶対に司書になるよ」
マオは少し照れ頰を掻きながら話す。
「マオさんカッコいい〜!」
爽やかな笑顔で晋二はマオの肩を叩いた。
「それで、そいつらは何で一緒なんだ?」
正輝は不機嫌そうに晋二とユウキを見て目を細めている。
「晋二とユウキは今日、学校に到着したばかりで寮の場所が分からないって言ってたから、昼休みにできなかった学校の案内もして、一緒に帰って来たんだ」
マオは平然と答える。
「ふ〜ん、そう」
正輝は不機嫌そうに立ち上がり右側の階段を上がり男子寮へ行ってしまった。
「正輝、どうしたんだ?」
マオは不安そうに遥へ話し掛ける。
「それが、測定室から出た時から、あんな感じで」
遥も分からないと両手を上げジェスチャーする。
「…………………」
マオと遥は両手を組んで考える。
「……肩……痛い」
大きなスポーツバックを肩からぶら下げているユウキが小さく呟く。
「ああっごめんね!!こんな所で止めちゃって。ユウキちゃん部屋の場所分かる? 部屋まで荷物持ってくの手伝うよ」
遥は慌ててユウキの方を見る。
「……職員室で部屋の鍵データを創造免許証に入れてもらった」
ユウキは自分の創造免許証を起動させると、画面をタップ操作し学生寮のデータ画面を表示させて遥に見せた。
「201号室ね〜了解!!」
遥は元気よく座っていたソファーから立ち上がると、ユウキからスポーツバックを受け取り、女子寮へ向かおうとするが、一旦立ち止まりマオと晋二の方を振り向く。
「そうだ!私と正輝、まだ晩御飯を食べてないから荷物置いたら、またココに集まって晩御飯食べよう!正輝には私から連絡するから」
「了解!じゃまたココで」
遥の提案にマオは左手でOKサインを作る。
「同級生と晩御飯〜!!」
感慨深い表情をする晋二。
「晋二は何号室?俺も荷物持つよ」
遥とユウキを見送るとマオは晋二に話し掛ける。
「201号室だよ!じゃあ、お願いしてもいいかな?実は、もう肩が限界で」
晋二はカバンをマオに渡し創造免許証を起動させた。
(こんな重いものを持っていたのか!?)
マオは晋二から想像以上に重いスポーツバックを受け取る。
「よし! 行こう!」
2人は階段を上り男子寮へ入って行く。
夢図書館高等専門学校の学生寮は全4階建で1階は男女共有のスペースになっており2階以降が男子寮と女子寮になる。
それぞれ2階、100号室から200号室が1年生の寮で2〜3人の集団生活で、3階の201号室〜300号室が2年生の寮で、2年生から1人に1部屋が与えられ4階の301号室〜400号室が3年の寮及び、各学年の予備の寮となっている。
4年生と5年生は、夢図書館本部への研修期間となり本部の寮を使用する為、学生寮は用意されていない。
部屋に戻った正輝は部屋を暗くしたまま座っていた。
右足を曲げベットにもたれ掛かかり顔は俯いて、右腕は曲げた右膝の上に乗せている。
(あの転入生は何だ? マオを助けてくれて少しいいヤツだと思ったら、遥にも馴れ馴れしくしやがって。マオもマオだ、今まで散々人にバカにされてきたのに何故あそこまで簡単に初対面のヤツが信じられるんだ? 俺と同じ扱いなんだ? 俺とお前の1年間は、あんな1日にも満たない時間と同等なのか? それと今日の基礎測定もそうだ、あんな事ができるのに友達の俺と遥にぐらい言ってくれてもよかったんじゃないか。マオはずっと才能の無い演技で俺を騙していたのか? 遥も五木が少しイケメンだからって尻尾振りやがって、あいつらは俺たちと同じ年で司書だ、絶対に俺たちの事を特にマオの事をバカにしているはずだ)
〜♬〜♬
正輝の携帯電話がメールを受信し、暗い部屋の中で明るく点滅をした。
「なんだ?」
正輝は立ち上がりベットの上で充電中の携帯電話を手に取ると充電コードをはずしてメールを確認する。
送り主は遥だった。
文面には。
も〜、さっきは何で帰っちゃうのさ?
何かあったの? 悩んでる事があったら相談しなよ〜幼馴染なんだからさ!!
あと、今日は吉村君と色々あった時に強く言っちゃって、ごめんね。
正輝が怪我したらマオくんも私も悲しいと思ったら、ついね。
正輝の優しさは、昔からよく見てるよ!
それで、今からマオくんと晋二君とユウキちゃんで晩御飯食べるんだ〜
さっきの1階ソファー前に18時に集合だから正輝も来てね!!
遥のメールを見た正輝は立ったまま悲しそうに、ため息をつくとメールの返信を入力する。
ごめん、食欲ないから行けない。
正輝が返信をすると、すぐに遥の返信が届く。
本当に大丈夫?
無理しないでね!
正輝はメールを見ると返信はせず携帯電話に充電コードをつなぎ、ベットの上へと戻した。
「……もう、俺がいなくてもいいのかよ。何も知らないクセに」
正輝は自室のシャワー室へ向かった。
階段を上った遥とユウキは女子寮201号室の前に着いた。
ユウキは創造免許書をドアノブへ近付けると、カチャッと音を立ててドアロックが解除された。
遥とユウキは部屋に入る。
「……ここが私の部屋」
15畳の洋風な部屋には何も入っていない本棚、白いカーテン、テーブル、ベット、7畳の別室にはユニットバスがあり、これから入居者を迎える部屋は最低限の設備が整っただけになっていた。
「まずは、荷物置こ〜」
遥は疲れた様子で呟く。
「ん〜重かった」
荷物を下ろして伸びをする遥。
「……学校から寮……遠い」
ユウキが思わず本音を呟く。
「あはは。だよね!だよね!私も始めて登校した時に、そう思ったよ!いつまでこの道が続くの?って感じで」
遥は笑顔で共感する。
「……設計ミス」
ユウキは無表情で学校の設備にツッコミを入れる。
「あっははは! ユウキちゃん面白い〜」
お腹を抱えて遥は大笑いをした。
「……五木もだけど私が話すと時々笑われる。私は、おかしな事を言っているの?」
遥の表情と言葉の意味が理解できていない様子のユウキは小さく首を右方向へ傾げる。
「全然、変じゃないよ。ユウキちゃんの、そういう真面目な所も、すっごく真っ直ぐな所も、可愛くて好きだな〜」
真顔で質問するユウキに遥は微笑み掛けて優しい口調で話す。
「……ありがとう…………遥」
正直に自分の本心を話す遥にユウキは照れた様子で赤らめた顔を下に向けた。
「もぉ〜本当に可愛いんだから!!」
その無表情の照れ隠しをする姿が可愛くてたまらない遥はユウキに抱きついた。
「………………」
ユウキは少し苦しそうにしていたが遥を引き離そうとはしなかった。
(……遥、暖かい)
ユウキから離れた遥は携帯電話を操作し始める。
「……何をしているの?」
珍しそうにユウキは遥に話し掛ける。
「正輝に晩御飯の集合時間と場所を送るんだ〜」
遥は操作を中断しユウキの方を見る。
「……そう」
ユウキがそう答えると遥は再び携帯電話を操作しメールを送信した。
♬〜♬〜
2分ほど経つと遥の携帯電話がメールの受信を知らせた。
「正輝、大丈夫かな」
遥は正輝からの返信を見ると心配そうに話す。
「……私たちがいるから?」
ユウキは無表情のまま呟く。
「違うよ。昨日の夜からずっと漫画読んでて寝不足で辛いって、正輝がお昼休みに言ってたからユウキちゃんや晋二くんのせいじゃないよ!」
遥は慌てて話す。
「……うん」
ユウキは、まだ疑問が残った様子だった。
「ユウキちゃんは、明日って暇かな?」
遥は再度、正輝へメールを打ち送信をするといつも通りの元気な口調にもどる。
「……特に予定は無い」
ユウキは無表情で答える。
「じゃあ明日、荷解きやろ!手伝うよ〜」
遥は右腕に力こぶを作る。
「……ありがと、遥」
ユウキは少し微笑む。
「じゃあ今からは、ご飯だ〜お腹空いた」
遥はユウキを連れ1階の集合場所へ向かう。
一方、マオと晋二は男子寮201号室に入る。
「マオ、運んでくれてありがとう。ひとまず荷物を置こうか」
晋二は窓とベットの間にある隙間を指さすと2人はそこへ荷物を下ろした。
「一体何が入っているんだ?すごい重さだけど」
マオは伸びをする。
「これだよ!!」
晋二はマオの持っていたスポーツバックを開けると自慢げに話す、そこには所狭しと80冊以上の漫画がびっしりと詰まっていた。
「すごい量!!本棚足りる?」
マオは目を丸くしていた。
「持って来たのは一部で、夢図書館の寮にはもっとあるよ。この本棚ならギリギリ足りるんじゃないかな?」
晋二はドヤ顔で話す。
「漫画で図書館が開けそうだね」
「ちょっと多過ぎかもね。給料の大半が漫画になっちゃってるんだよね。電子書籍もあるけどやっぱ本が好きだな」
マオが冗談交じりに話すと、晋二は苦笑いをした。
「俺もそう。本の方が集めたぞ〜って感じになるよね」
マオは笑顔で晋二に同感する。
「だよね!!あっそろそろ時間だから、さっきの集合場所へ行かなきゃだね。丁度、明日が休みだから荷解きは明日にしよう」
晋二が創造免許証の時計を見ながら話す。
「明日は、俺もやる事無いし荷解き手伝うよ。2人でやった方が早く終わるしね」
「ありがとう!助かるよ」
マオの申し出に、晋二は爽やかに笑う。
「そうと決まったら、まずは晩御飯。早くしないと遥が、また怒っちゃうから」
マオと晋二は部屋を出る。
マオと晋二の2人は集合場所へ到着すると、ほぼ同時に遥とユウキが到着した。
「正輝は、大丈夫そうだった?」
マオが小声で遥に問いかける。
「食欲が無いって」
遥は小声で心配そうに話す。
「後で正輝の部屋に行って、様子見てくるよ」
「うん。お願い」
「さぁ〜 どこで食べよっか?」
マオとの会話が終わると遥はいつもの元気な調子で話し始める。
「フードコート……さっきマオからスイーツのお店もあるって聞いた」
ユウキは即答した。
「いいんじゃないかな!みんな好きなものが選べるし」
目を輝かせながら発言したユウキに晋二は少し驚きながらも。
「俺も構わないよ」
マオもユウキの意見に賛成する。
「じゃあ、決まりね!!」
遥は両手をパンっと叩く。
遥を先頭にマオたちはフードコートに向かい、4人掛けのテーブルを取ると各自お店へ注文をしに行った。
しばらくしてマオは醤油ラーメン、遥はカレーライス、晋二はざる天ぷらうどん、ユウキはハニーワッフル、チョコバナナクレープと極め付けは3段に積み上げられたアイスクリームを両手で器用に持って来た。
「すごい量だね。それ全部ユウキちゃんが食べるの?」
ユウキの正面に座った遥は苦笑いを浮かべた。
「……夢粉の創造には、脳を使うから糖分の補給は重要」
そう言ってユウキは3段アイスクリームを食べ始めた。
「最初っから、アイスかよ!」
「?」
晋二のツッコミに全く動じないユウキはアイスを食べ進める。
「普段から、こんな食生活なのか?」
少し引き気味にマオは晋二に質問する。
「いや、俺たち司書は本部にいれば給食だし任務中は携帯食だから、基本的にはみんな同じもん食ってるよ。好きな物が食べれるのは休暇ぐらいだな。俺もユウキが甘党だと聞いた事があったが、まさか、ここまでとは思わなかった」
晋二が笑って答える。
「晋二くんって、最初の頃よりも印象変わったよね!最初のイメージは、もっと固そうだったのに」
遥は晋二の顔をじっと見た。
「実は、すごく緊張してたんだ。昼休みも言ったけど俺、学校初めてで同年代の人と接する機会が無かったから、本当に仲良くなれるか不安で」
遥の質問に晋二ははにかみながら答える。
「へ〜そうだったんだね!でも、こっちの晋二くんの方が話しやすいから、こっちの方がいいよ!」
遥はニッコリと笑う。
「ありがとう!」
晋二も安心したような表情になる。
「昼休みに話してた、次の休日に漫太郎に行くって言ってたのどうするんだ?」
遥と晋二の話を聞いていたマオはふと思い出す。
「ああ!そうだったね。でも明日は、ユウキちゃんの荷解き手伝う約束してるからなぁ〜」
マオの一言で、遥は昼休みの約束を思い出した。
「俺も明日は晋二の荷解き手伝うよ」
困った様子の遥にマオは冷静に話す。
「だったら、お互い明日は早起きして荷解きが終わってから遊びに行くのはどう?」
晋二は少し考えてから話した。
「それがいいね!じゃあ午後からの予定で!!」
晋二の一言で、遥の問題は簡単に解決した。
「うん。賛成!」
マオも頷いた。
「……チョコバナナクレープ」
ユウキがチョコバナナクレープを手に持ち、小さく呟く。
「今、食ってるだろ!!」
晋二がツッコミを入れるとマオと遥は大笑いした。
「また正輝には、私から連絡しておくから」
食事を終えて各自で食器を片付けると、遥はマオに小声で話し掛ける。
「了解。今から正輝の部屋に行って来るよ」
マオは他の3人に「また明日」と告げると、1階のコンビニで栄養ドリンクとスポーツ飲料そして鮭おにぎりを購入して正輝の部屋へ向かった。
218号室、正輝の部屋の前に来たマオがノックをすると扉が開いた。
「……」
パジャマで使用している緑色のジャージ姿の正輝がマオを出迎える。
「体調、大丈夫か?」
そう言ってマオは先ほどコンビニで購入した物が入ったレジ袋を正輝へ渡す。
「悪いな。明日は、俺も行くよ。さっき遥からメールがあった」
正輝は少し笑みを浮かべてレジ袋を受け取った。
「本当か!?でも体調が悪かったら無理しなくていいよ」
マオは笑顔になった。
「明日には、良くなると思うから」
(俺が行かなくても、いいって事かよ)
正輝は少し真顔になった。
「じゃあ今日は、早く寝ないとね!もう行くよ、おやすみ!」
マオは安心した様子。
「……おやすみ」
正輝はそう言って部屋のドアを閉めた。