右手
互いの気持ちを確認し、舞台中央で抱きしめ合う2人に観客席から祝福の拍手が鳴り響く。
「…………」
(悔しいですわね……ですが、あんなに幸せそうなマオ様の顔を見てしまいますと、何も言えませんわ)
夢姫は抱き合うマオとユウキを遠目で見つめていた。
「……」
「……」
「……」
突然、舞台に乱入し演劇を滅茶苦茶にしたマオを止めようと立ち上がった3人のクラスメイトは、納得した様子で表情を緩ませる。
(マオ……ユウキ……よかった)
王子様役の晋二は立膝をついたまま、2人を見て笑みを浮かべる。
『以上、2年Aクラスの演劇、白雪姫でした』
場内にアナウンスが入り舞台のカーテンがゆっくりと閉められる。
「すみませんでした」
舞台袖でマオはクラス全員に深々と頭を下げた。
「………………」
その場は沈黙した、ほんの数秒ではあったがマオにはその数十倍以上に長い時間に感じられた。
「謝るぐらいなら、やるんじゃねぇよ」
猛の声が沈黙を切り裂く。
「……」
その場にいる全員の視線は猛に集まる。
「ここには、お前を攻めるヤツは1人もいないぞ」
猛は歯を見せて笑う。
「え?」
マオは頭を上げる。
「おめでとう瑠垣君! たしかに、最初はいきなり何? って思ったけど、あんな告白を見せられちゃったらね」
女子生徒が一歩マオに近付く。
「そうそう! 俺たちの白雪姫ってあまりヒネリがなかったから、逆に丁度いいかも! 本当の王子様登場みたいな?」
男子生徒が冗談交じりで話す。
「瑠垣と相川の幸せそうな顔を見ていたら、怒る気も失せたよ」
別の女子生徒は諦めたように、口元を緩ませて話した。
「!?」
温かい言葉にマオの目頭が熱くなる。
「それと、今回の事は俺にも非がある。過去に俺はマオをバカにして、周りを巻き込んで色々と酷い事を言ってしまった。その結果マオはクラスで浮いた存在になり、俺たちとの間に溝が出来てしまった。マオがクラスに溶け込んで、その溝は消えたように見えた。だけど違った……マオは心のどこかで俺たちに気を使い、自分を主張する事が出来ていなかったと思う。俺はマオをそんな状況に追い込んでしまった。だから、マオはギリギリまで、自分の」
「それは違うよ」
深刻な表情の猛が話し終わる前に、マオは静かに口を挟んだ。
「え?」
猛は目を丸くする。
「たしかに、みんなとの溝は感じていたし、猛の言葉で傷付く事もあった。だけど、俺がクラスで浮いていたのは、元々人と話すのが苦手だったから。俺が自己主張を出来なかったのは、自分の弱い心から逃げていたから。その事に気付かせてくれたのは猛なんだ、猛があの時『少しは自分の気持ちも考えろ』って言ってくれたから、俺は自分と向き合えた」
マオはユウキの方を見る。
「猛たちがいて、弱い自分がいなければ絶対に気付く事が出来なかった俺の気持ち」
マオはクラスメイトの方を真っ直ぐ見た。
「ユウキが好きだと、胸を張って言える。だから、俺はみんなに感謝しているんだ。ありがとう」
マオは満面の笑みを浮かべた。
「!!!」
ユウキの顔は火が付いたように赤くなる。
「マオ、お前ってヤツは」
猛は震えた声で話すと下を向いた。
「あ〜もぉ。見せつけてくれちゃって」
「羨ましいなぁ」
そう言ったクラスメイトには、嫌味が無く嬉しそうな様子だった。
「ははっ」
「ふふっ」
マオとユウキは心からの笑顔で答えた。
各クラス出し物が全て終了し昼休みとなった。
「10クラス中6位か……俺のせいだよな」
廊下を歩くマオは学園祭初日の結果を言いながら肩を落とす。
「大丈夫だよ。明日のトーナメント戦で表彰台を2Aで独占すれば逆転優勝できるよ」
マオの右隣を歩くセーラー服姿のユウキは励ますように返す。
「ありがとうユウキ。くよくよしても仕方ない無いよね」
マオは弱々しく笑う。
「うん」
ユウキは優しく微笑んだ。
「でも、みんなには気を使わせちゃったかな?」
マオは難しそうな顔をする。
「うん。でも、マオと一緒にいれて嬉しいよ」
ユウキは、少し恥ずかしそうに話した。
「あっっそうだね。俺もだよ」
マオは顔を赤くして答える。
マオとユウキはクラスメイトたちから、半ば強制的に昼休みを2人きりで過ごすように言われ、強引に教室から出されたばかりだった。
「でも、やっぱり周りの視線が気になるな」
マオは辺りを見回した。
「うん……私も少し気になる」
ユウキは、視線を少し下げる。
午前中の演劇で学校関係者と一般の人間を含む1000人以上の前で、恋人同士になったマオとユウキは注目の的になっていた。
「早くお昼買って静かな場所に移動しよう」
「うん」
マオの提案にユウキは嬉しそうに頷く。
「……」
(手を繋ぎたいな)
ユウキはマオの右手を物欲しそうに見つめた。
「ユウキは何にする?」
校舎周辺の露店が立ち並ぶエリアでマオは問い掛ける。
「あれがいい」
ユウキはそう言って、クレープの屋台を指差す。
「OK! 人が多いから気を付けてね」
(くっそ、なんで俺は手を繋ごうの一言が言えないんだ!!)
マオは思った事を口に出せない自分に苛立つ。
「うん」
マオとユウキは人混みの中に消えた。
「へぇ〜 結構いろんな種類があるんだね」
マオは20種類以上のメニューが載る看板を見て驚く。
「クレープはホイップクリームやフルーツなどを使ったデザートとして有名だけど、サラダやお肉を包んだファストフードとしても知られているの」
ユウキは胸を張って話す。
「やっぱりユウキは、スイーツに詳しいね。どれも美味そうだけど……俺はタコス風にしようかな」
マオはメニューの写真を見ながら商品を決める。
「私は、チョコバナナとイチゴホイップにする」
ユウキは即答だった。
「わかった! すみません。チョコバナナとイチゴホイップとタコス風を1つづつお願いします」
「はいよ!」
マオが屋台の中にいる、捩り鉢巻きの厳つい中年男性に注文すると気前のいい返事が返ってきた。
「はい、お待ちどう。1200円丁度ね」
捩り鉢巻きの男性は見た目とは裏腹に繊細な手つきでクレープ生地を焼きあげ、精密機械のように正確な手さばきでトッピングを包み込み、商品をマオの前に出した。
「ありがとうござます」
マオは、自身の創造免許証を読み取り機にタッチさせてから、商品を受け取った。
「マオ、お金……」
代金を払おうと創造免許を取り出していたユウキは唖然としていた。
「いいよ。今日は特別な日だし、俺にカッコつけさせてよ!」
マオは優しく笑う。
「ありがとう、マオ」
(特別な日……胸が温かい)
ユウキは創造免許証をセーラ服の胸ポケットにしまい、マオから受け取ったクレープを幸せそうに見つめた。
「さすがにここは混んでないか」
マオは扉を開ける。
「屋上?」
学園祭の影響で学校敷地内は人で溢れかえり、2人で落ち着いて昼食を摂れないと判断したマオは、ユウキを普段使われていない屋上へと案内した。
「屋上があるなんて知らなかった」
ユウキは周りを見ながらすぐ傍にあるベンチに座った。
「俺も最近ここを知ったんだ」
マオはベンチに腰を下ろす。
「じゃあ、いただきます」
マオはクレープを一口食べた。
「いただきます」
ユウキもクレープを食べる。
「……」
(こうしてユウキと一緒に、飯食べるのって久しぶりだな。なんか、落ち着く)
マオは隣に座るユウキの存在を感じながら無言で食べ進める。
「……」
(マオと同じ時間を過ごせる。それだけなのに温かい)
ユウキは、隣にマオが座っている、ただそれだけが嬉しかった。
一緒にいるだけで幸福を感じられる2人は、しばらく無言で食事を続けた。
「マオ」
ユウキの優しい声が静寂の中に響いた。
「なに?」
マオはゆっくりとユウキの顔を見る。
「お弁当……上手に出来ないかもしれないけど。明日、マオにお弁当を作ってきてもいい?」
ユウキは自信がなさそうな声で問い掛けた。
「え!?」
マオは固まった。
「ダメかな?」
ユウキの表情は不安の色が強くなる。
「いや! 嬉しいよ!! ユウキが俺の為に弁当を!!! 考えただけで俺、嬉しすぎて……何も言えない」
いつも冷静なマオは、珍しく興奮した様子だった。
「よかった」
ユウキは安堵した。
「うぉーー! すごく楽しみだよ」
マオが目をキラキラさせて頷く。
「それで、どこに行こうか?」
マオは創造免許証を起動させて、学園祭のパンフレットを表示させた。
「?」
ユウキはマオの創造免許証を覗き込む。
「ああっそうか。ユウキは初めてだからね。今日の午後は各部活動が作品の展示や出し物なんかをやるんだ。毎年かなりレベルが高いから、学校外から多くのお客さんも多く来るんだ」
マオが意気揚々と説明をした。
「おもしろそう」
ユウキは食い入るように、部活紹介を読んだ。
『明日のトーナメント戦の組み合わせが発表されます。司書科の生徒は至急、体育館前に集まってください』
校内放送が入った。
「そうか、組み合わせ発表は昼休みだったね。行こうか」
「うん」
マオとユウキは寄り添うように歩き出した。
「すごい人だね」
体育館前に到着したマオとユウキの目の前には、司書科の生徒と別の科の生徒の他に各メディアの人間で溢れかえっていた。
「大きい」
ユウキはサッカースタジアムのオーロラビジョンほどの大きさの巨大モニターを見上げた。
「おす」
「よ!」
猛と晋二がマオとユウキの後方から声を掛ける。
「猛、晋二!」
マオは笑顔で2人を迎える。
「てか、いよいよか。緊張してきたな」
猛は真剣な表情になる。
「もし当たっても、手は抜かないよ」
晋二は楽しそうに笑う。
「ああ! 頼むぜ」
猛の表情はほんの少し和らいだ。
「きゃーーーー! 茂武会長よ!!」
「本当! 茂武サマ!!!!」
巨大モニターの前にある舞台に立った茂武の姿を見た、女子生徒が声援を送る。
「みんな、おまたせ! 学園祭楽しんでますか?」
(なんで、この俺がこんな事をしなくちゃいけねぇんだよ)
マイクを右手に持った茂武はアイドル歌手のように問い掛ける。
「「はーーーーい!」」
多くの女子生徒は茂武の問い掛けに元気よく答えた。
「それは良かった! 明日はいよいよ学園祭のメインイベント、2・3年生司書科混合のトーナメント戦があります。僕は今年がラストイヤーになるので優勝目指して精一杯頑張ります! 応援よろしく!」
(たく、うっせなぁ。こいつらは豚みたいにブーブー鳴く事しかできねぇのかよ)
「きゃーーーーー!」
「茂武サマぁーーーーーー!」
茂武がウィンクをすると女子生徒たちは割れんばかりの歓声を上げた。
「じゃあ、会場の空気が温まったところで発表します!」
(あ〜かったりーなぁ)
茂武が後方の巨大モニターを指差すと、暗かった画面にトーナメント表が写し出された。
(1回戦の相手は3年生の手塚さんか。晋二は同じクラスの宮本で猛は……)
マオは対戦カードを確認していく。
「マオ、あれ!」
右隣にいるユウキは慌てていた。
「これ……」
トーナメント表を見ているマオの視線は一点に集中した。
「…………」
猛の表情に再び緊張が走る。
猛の1回戦の相手は生徒会長の茂武 謙太だった。
「猛?」
晋二は心配した様子で猛の顔を見る。
「……」
「……」
マオとユウキも心配した表情で猛の顔を見る。
「ふぅーーー」
猛は深呼吸をすると、先ほどまでとは対照的に落ち着いた雰囲気を醸し出した。
「大丈夫! 明日が楽しみで少しワクワクしてるだけだ」
猛はいつも通りの明るい表情で答えた。
「ああ! 俺も楽しみだよ! この組み合わせでお互い勝ち進むと、準決勝で猛と戦う事になるね」
晋二もいつも通りの爽やかな笑顔で返した。
「私とマオも準決勝で当たる」
ユウキは冷静に話した。
「あっ! たしかに」
マオはトーナメント表を見直した。
「じゃあ、決勝戦はマオかユウキって事か」
猛は嬉しそうだった。
「その前に俺がいるから!」
晋二がツッコミを入れる。
「ふふふ」
「あはははは」
「ぐっふ。あははは」
「ははははは」
4人は互いの顔を見合って笑った。
トーナメント戦の組み合わせ発表からしばらく経つと、体育館前にいた人は疎らになった。
「よし、俺たちそろそろ行くわ! マオとユウキは2人で学園祭を楽しんでくれ」
猛は晋二とアイコンタクトを取りその場を離れようとした。
「ちょっとごめんね」
「茂武会長?」
マオたちの目の前に茂武が現れた。
「明日は、準決勝で五木君。決勝で瑠垣君と当たるから、先に挨拶に来たんだ。お手柔らかによろしくね」
(俺がわざわざ来てやったんだ。ありがたいと思いやがれ)
茂武は右手を差し出した。
「え? あっはい。お互いそこまで勝ち進めればですが、よろしくお願いします」
(初戦の相手が目の前にいるのに、なんで俺たちに?)
晋二は茂武の手を取らなかった。
「俺も、晋二と同じです。もし、お互い決勝まで勝ち上がれれば、よろしくお願いします」
(この人、目の前の猛を無視して……)
マオも茂武の手を取らなかった。
「……」
(このガキ、調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!?)
眉毛をピクリと動かせた茂武はすぐに笑顔に戻った。
「いや、俺もそうだけど。君たち2人の実力なら当たり前の予測だと思うけどね。にしても君たちは謙虚だね。それと、僕は生徒会の仕事があるから失礼するよ」
(ふざけんじゃねぇ!! 俺をコケにしやがって。上等だこの野郎!!)
茂武はくるりとマオたちに背を向けると歩き出した。
「俺の事は眼中にないってか。警戒されるよりはその方がよっぽどいいか。じゃあ晋二、行くぞ」
茂武が去ったあと、猛はボソリと呟いた。
「……ああ、わかった。マオ、ユウキまたね」
不機嫌そうな顔をしていた晋二は笑顔を作り猛の後に続いた。
「せっかくの学園祭デートなんだ、そんな顔してないで笑って楽しめよ」
猛はマオとユウキに手を振って離れて行った。
「おお、ありがとう!」
「……うん」
仏頂面になっていたマオとユウキは顔を赤らめて右手を挙げた。
「またね」
ユウキも右手を挙げる。
「ユウキ、ここなんてどうだろ?」
マオは創造免許証に表示させた学園祭のパンフレットを指差した。
「?」
ユウキはマオの創造免許証を覗き込む。
「オカルト部の『超絶怖いおばけ屋敷(心臓が止まっても当方では責任は取りません)』?」
ユウキは題名を棒読みで読み上げた。
「もしかして、おばけ屋敷苦手?」
マオはユウキの顔を見る。
「うんん、大丈夫だよ」
ユウキは小さく頷く。
「本当に!! よし!」
(オカルト部が毎年学園祭に出すおばけ屋敷は怖くて有名なんだ。ユウキが怖がったところで俺が手を差し伸べて、ユウキと手を握る、完璧な計画だ!!)
マオは小さくガッツポーズをした。
「?」
ユウキはマオのガッツポーズを見て首を傾げる。
「結構雰囲気あるね」
マオとユウキは廃病院のように装飾された教室の前で立ち止まる。
「ようこそ、オカルト部へ」
黒いマントを羽織ったメガネを掛けた男子生徒がマオたちに話し掛ける。
「ここは、超絶怖いおばけ屋敷です。恐怖のあまりショック死をしても当方では責任は負いかねます。まずは、この制約書にサインをお願いします」
マントを羽織った男子生徒は、黒い用紙に血のような赤い液体で注意事項の書かれた制約書を手渡した。
「ここの、おばけ達は特殊メイクを施し、限りなく本物に近いリアリティがあります。また、セットも実際に病院で使っていた物を使用している為、雰囲気も他のおばけ屋敷とは一線を画した完成度です。猛烈な恐怖に伴う、心臓に掛かる多大な負担でショック死をしても、オカルト部に一切の請求行為をしません。これに同意頂ければ下記の欄にサインをお願いしますか。だって、ユウキ」
マオはユウキを脅すように文書を読み上げた。
「ってもうサインしたんだ……」
(あれ? あまり怖がってない?)
マオの目が点になる。
「うん」
ユウキは既に制約書を提出していた。
「では、勇気ある少年と少女を恐怖の世界へ案内します」
マントを羽織った男子生徒は入り口のカーテンを捲りマオとユウキを中に入れた。
「おい」
マントを羽織った男子生徒は無線機を取り出した。
「部長どうしたの?」
無線機から男子部員の返事が聞こえる。
「今、リア充が中に入った。2Aの相川ユウキと瑠垣マオだ」
「!! なに? 演劇の最中にラブラブしていた、あの2人か?」
男子部員は驚きを隠せない様子。
「そうだ、俺たちオカルト部がリア充に対し何をするかは分かるな?」
マントを羽織った男子生徒はニヤリと笑う。
「もちろん! リア充は俺たちの敵だ! 2人を恐怖のどん底まで落とす!!」
男子部員は恨めしそうに答えた。
「頼んだぞ!」
マントを羽織った男子生徒はニヤニヤとしていた。
「ユウキ、足元見える?」
薄暗く足元が見にくい室内を歩くマオはユウキを気遣う。
「うん。大丈夫」
(マオの手が近くに……)
ユウキはマオの右手を見つめながら冷静に答える。
「ぐぁあああああああああ!!」
突然、顔の左半分がえぐれ脳と眼球が露出しているゾンビが2人の目の前に現れた。
「……」
(怖いっていうよりは、気持ち悪い?)
ユウキはノーリアクションだった。
「え!?」
(このクオリティーで平然としてる)
マオはゾンビよりも、ユウキの無反応の方に驚いた。
その後、血まみれのベットから片目だけ露出したミーラが出てきても、手術台から腹部を切り裂かれ内臓が露出している女性が、呻き声を上げながらゆっくりと近付いても、霊安室から全長2mほどの巨大な赤子が出てきても、ユウキはノーリアクションだった。
「……」
(まさか、ユウキがここまで驚かないなんて。誤算だった)
マオは予想外と言わんばりの表情でおばけ屋敷から出た。
「……」
(結局、マオと手を繋げなかった)
マオの右隣を歩いているユウキは、少しがっかりしたようでおばけ屋敷から出て来た。
「部長!! あの2人は最後まで悲鳴はおろか、表情1つ変えませんでした!!」
部員の慌てた声がマントを羽織った男子生徒が持つ無線機から聞こえる。
「なんだと!! 我がオカルト部の英知とコネを利用して完成したおばけ屋敷が……完敗だ……」
マントを羽織った男子生徒は膝から崩れ落ちた。
「あっ! 園芸部の世界の珍しい草花館だって。学校の外に出て南側の温室が会場か。この学校に温室ってあったんだね。次はこれいい?」
廊下を歩いているマオは1枚のポスターを見つけると、右隣を歩くユウキに問い掛ける。
「……」
ユウキはマオの右手を見たまま上の空だった。
「ユウキ?」
(やっぱり、さっきから俺の右手ばかり見てる? もしかてユウキも……)
心配したマオはユウキの顔を覗き込む。
「きゃっ!? マオ?」
急にマオの顔が急接近した事に驚いたユウキの顔は真っ赤になる。
「ごっごめん。驚かせちゃって。次はここでいいかな?」
マオはポスターを指差した。
「うん、マオと一緒ならどこでもいいよ」
ユウキは微笑んだ。
「はい」
(もし、本当にユウキが俺と同じ気持ちならきっと……)
マオはユウキの前に恥ずかしそうに右手を差し伸べた。
「これって?」
ユウキはマオの右手を不思議そうに見る。
「ユウキ、もしよかったら……違う……俺、ユウキと手を繋ぎたい」
マオは自分の気持ちを素直に話した。
「!!!! 私も……マオと手を繋ぎたい」
(マオも私と同じ気持ちだったんだ!)
ユウキの表情は花が咲いたように明るくなった。
「ユウキも! 嬉しいよ」
「私も、マオと同じで嬉しい」
マオとユウキはお互いに優しさに満ちた笑顔を向ける。
「行こ!」
「うん!」
2人は手を繋ぎ歩き出した。
いつもありがとうございます!
次回更新は3月11日です!




