亀裂 2
「……」
放課後、ユウキは無言のまま立ち上がり1人で帰路についた。
「マオ様! 本日も御一緒に下校を!」
夢姫はマオに話し掛けた。
「マオ、少しいいか?」
真剣な表情の猛と晋二がマオの前に立った。
「うん」
マオは猛と晋二の後に続いて教室を出た。
「あら……マオ様?」
夢姫は小首を傾げた。
3人は普段使われていない屋上にやって来た。
「なんで、王子様役を辞退した?」
(ユウキにあんな顔をさせて、お前は何のつもりだ?)
猛の表情には明確な怒りの色が出ていた。
「ああ、俺も疑問に思ってる。理由を教えてくれなか?」
(わからない。いつも他人の事を優先して考えるマオが、何故あんな言動を取ったのか?)
晋二は不服そうに問い掛けた。
「まずは、ごめん晋二。役を押し付けてしまって」
マオは晋二に頭を下げた。
「別に俺は謝ってもらいたんじゃない。なんで、役を俺に譲ったのかを教えてもらいたいんだ」
晋二は真顔になる。
「台本」
マオは徐に口を開いた。
「台本?」
猛はズボンのポケットに入れていた台本を取り出す。
「最後のページ。王子様が白雪姫をお姫様抱っこするシーンがあるでしょう」
マオは暗いトーンで話した。
「確かにあるな」
猛は台本の最後のページを見て頷いた。
「俺、できないんだ」
マオは腕が通ってない左袖を右手で握り締めた。
「!?」
(そうか!! だからマオは)
晋二はマオが言おうとしている事の意味を理解した様子。
「そんなの、演技の構成を変更してもらえばいいだろう! お前は、俺たちの事をそんなに頼りないと思っていたのかよ!!」
猛は怒鳴った。
「……」
マオは無言のまま下を向いた。
「なにか言えよ!」
マオを睨んだ猛は一歩前に出る。
「違う、猛! マオはそんな事、思っていないよ……」
晋二は悲しそうな表情で猛を止めた。
「止めるな……晋二!?」
猛の声は晋二の表情を見て尻すぼみになる。
「マオ、猛なら話してもいいんじゃないか? 左腕の事」
晋二は辛そうな表情でマオに提案した。
「……そうだね。猛には本当の事を知っててもらいたい」
マオは何かを覚悟したような表情をした。
「猛、今から話す事は、俺が左腕を失った時の詳細だ……」
マオはランクSの事、エルが自分を狙って来た時の事、そしてエルに左腕を奪われるきっかけを生み出してしまったユウキは、自分を攻め続けている事を話した。
「……」
(そんな事が……)
マオの話を聞いた猛は絶句した。
「もし俺が王子様役になれば必ずお姫抱っこのシーンは障害になる、もし仮に途中で演技の構成を変更する事になれば、ユウキはきっと『私のせいで、みんなに迷惑をかけてしまった』と考え傷ついてしまう。俺の選択でユウキが傷付く可能が僅かでもあるなら絶対に避けたかったんだ」
マオは猛の目をしっかりと見て話した。
(マオは、ユウキの事をそこまで考えて……本当にあの時の俺は!!)
エルに立ち向かえず、傷つくマオを見ている事しか出来なかった時の記憶が鮮明に蘇り、晋二は下唇を噛んだ。
「すまなかった。俺は自分の事しか考えず、マオを傷つけちまった……本当に……すまない」
猛は深々と頭を下げた。
「うん。俺こそ話すのが遅くなってごめん」
マオも猛に頭を下げる。
「俺、もう行くよ」
マオは屋上を後にした。
「晋二」
マオがいなくなった後、猛は口を開いた。
「どうした?」
晋二は冷静に答えた。
「マオって俺たちが思っている以上に、ユウキの事が好きだったな」
猛は真顔になる。
「そうだね」
晋二は感慨深い表情で答えた。
「マオ……」
自室に戻ったユウキの表情は暗かった。
(どうして、マオは王子様役を辞退したのだろう?)
ユウキはカバンも置かずに、ドアの前で立ち尽くした。
(いつも自分の事は二の次に考えているマオが、自分の意見を押し通すなんて。それだけ王子様役をやりたくないって事だよね……)
ユウキは考えを巡らせる。
(私が白雪姫役になったから……?)
ユウキの脳内に最も考えたくない答えが過ぎる。
(マオ……マオの気持ちが知りたいよ……)
ユウキは今にも泣き出しそうな表情になる。
♬〜♬〜
ユウキの創造免許証が着信を知らせる。
「はい、相川です」
ユウキは無理矢理、明るい声を出した。
「あ〜 ユウキ、今って大丈夫?」
電話の相手は晋二だった。
「うん」
ユウキは落ち着いた声で答える。
「急な話だけど、今日の18時に猛の部屋に来れそうかな?」
晋二は申し訳なさそうに話す。
「うん、大丈夫だよ」
(なんだろ?)
ユウキはスケジュールの書いてある手帳を確認して答えた。
「よかった! 通行許可証はこっちで通しておくから! それじゃ、またね」
晋二は電話を切った。
「うん、またね」
ユウキは創造免許証をスカートのポケットにしまった。
「こんばんは」
学校指定ジャージ姿のユウキは、約束の18時丁度に猛の部屋の扉をノックした。
「おす!」
黒のスウェット姿の猛が出迎えユウキを室内に入れる。
室内は意外と片付いており、サンドバッグとベンチプレスと鉄アレーなどの筋トレ器具が置いてあった。
「急に呼び出してごめんね」
半袖半ズボンの青いスポーツウエア姿の晋二は、小さな四角いテーブルの横に胡座をかいて座っていた。
「うん、大丈夫だよ。それで要件は?」
ユウキは小首を傾げた。
「まぁとりあえず、座って」
「うん」
猛はユウキを座らせ、自分も座った。
3人はテーブルを囲むように座った。
「単刀直入に聞くぞ。ユウキ、マオの事好きだな?」
猛は真剣な表情で話した。
「え!? 私……そんな……」
ユウキは慌てふためいた。
「正直に答えて」
晋二はユウキの顔を見る。
「…………はい」
(私って、そんなに分かりやすいのかな?)
2人の表情に圧倒されたユウキは赤面し小さく頷いた。
「話してくれてありがとう。俺たちは、ユウキに協力したいから今日この場に呼び出したんだ」
猛は優しい口調で話す。
「協力?」
ユウキは疑問を持った様子。
「そう、ここ最近のユウキを見ていて思った事がある。仁科院 夢姫に遠慮しているよな」
「!? うん……」
猛の的確な指摘にユウキは僅かに肩を震わせた後、力なく頷く。
「だけど、今のままじゃ仁科院にマオを取られてしまうよ」
晋二は、ユウキを脅すようにゆっくりと話した。
「それは嫌!!」
ユウキは強く否定した。
「だったら、仁科院とマオの間に割って入らない事には現状は変わらないよ」
晋二は穏やかな口調で話した。
「……だけど、楽しそうに話している2人を見ていたら、邪魔するのが申し訳なくて……それに、いざ話をしてもマオの顔を見ると、緊張して上手く話せないの……」
八方塞がりのユウキは感情を吐露した。
「だから、俺たちがいるじゃないか」
猛はそう言ってブルーレイの束を机の上に置いた。
「これは?」
机の上に置かれた大量のブルーレイを見て、ユウキの頭にハテナマークが浮かび上がる。
「このブルーレイには、内気で気弱な女の子が自分の勇気を奮い立たせ、幸せになるまでの物語が記録されているよ」
晋二は感慨深そうに話した。
「ああ、500年以上前の作品だが、今もなお色褪せない不朽の名作だ!」
猛はノートパソコンを起動させブルーレイをセットした。
「俺と猛がユウキの為に選んだ。これを見て参考にしてほしい」
晋二は力強く頷く。
「?」
(私の為に、猛と五木が……ありがとう)
ユウキは現状を完全に理解できなかったが、目の前の2人が自分の事を真剣に考えてくれている気持ちが伝わり、写し出される映像をしっかりと見る事にした。
「やっぱり、何度見てもいい……」
「そうだな……」
夜通しブルーレイを見ていた猛と晋二は、潤んだ瞳にティッシュを当てがっていた。
「……」
(……あんぱん)
真剣な表情のユウキは体育座りのままノートパソコンの画面を見ていた。
9月7日 (月)
「おはよう」
マオは学生寮出入り口前で待っていた、ユウキ、猛、晋二に挨拶をした。
「おはよう」
いち早く反応したユウキはマオに微笑んだ。
「おす」
猛が右手を挙げる。
「おはよ」
晋二は爽やかな笑顔で返す。
(そろそろ来るぞ)
(頑張って!)
猛と晋二は無言のままユウキの目を見る。
「……」
ユウキは無言で頷いた。
「マオ様!」
猛たちがアイコンタクトをした直後、夢姫は当たり前のようにマオとユウキの間に割って入った。
「おはよう、夢姫」
左隣に立った夢姫にマオは平然と返事をした。
夢姫は毎朝、マオたちの集合時間に合わせて学生寮前に来ていた。
「本日から演劇の練習が始まりますわね! マオ様の照明に映えるよう頑張りますわ!」
演劇の照明係になったマオに、夢姫は胸の前で両手を握り元気よく話した。
「ああ、俺も照明器具の使い方を早く覚えて、迷惑を掛けないようにしないと」
前途多難のマオは苦笑いで答えた。
「マオ!」
赤面したユウキはマオの右側に回り込んだ。
「ユウキ!?」
当然、大きな声を出したユウキにマオは驚く。
「……あんぱん」
ユウキは小声でつぶやいた。
「?」
(今、なんて言った? あんぱん?)
マオはユウキの意味不明な発言に困惑した。
「学校……行こ」
(やっと、マオに言えた!)
ユウキは潤んだ瞳でマオを見上げた。
「ああ、そうだね」
いつもと違う様子のユウキに対し呆気に取られたマオは頷いた。
「むっ〜〜!」
(先週までの相川さんとは違いますわ)
夢姫は不機嫌そうに頬を膨らます。
「!」
「!」
猛と晋二は互いにグーサインを突き出した。
(ははぁ。なるほどですわ)
そんな猛と晋二を見た夢姫は意地悪そうに笑った。
「マオ様! 本日の予習はおすみですか?」
教室に入り荷物を置いた夢姫は隣の席に座るマオに話し掛ける。
「ああ、バッチリだよ」
マオはノートを取り出してパラパラと捲って見せる。
「まあ! さすがマオ様ですわ」
夢姫は、うっとりした目つきでマオを見る。
「……」
ユウキは無言のままマオと夢姫の前に立った。
「ユウキ?」
マオは、下を向いたまま目の前で立つユウキに疑問を抱く。
「……あんぱん」
ユウキは耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声で呟いた。
(やっぱり、あんぱんって言ってるよな。何の意味が?)
マオは再び困惑する。
「マオ、台本で読めない漢字があるの。教えてほしい……」
ユウキは恥ずかしいそうに話した。
「ああ! いいよ」
マオは快く了承した。
「ここ……」
ユウキは台本を開き活字に指を差した。
「これは、蝸牛って読むんだよ」
マオは優しく教えた。
「ありがとう。マオは物知りだね」
ユウキは微笑んだ。
「たまたま俺の知ってる漢字だっただけだよ。ありがとう!」
マオは照れくさそうに笑う。
「マオ様! あたくし、先週の授業で分からない問いがございまして、教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
(相川さんに、マオ様は渡しませんわ!)
夢姫はマオとユウキを遮るように話題を変えた。
「俺に解る問題ならいいけど」
マオは自信無さ気に返す。
「ここですわ」
(この問いはマオ様が授業中にスラスラと解いていた問題ですわ! あたくしも解けますが)
夢姫はマオの得意な問題をわざと指定した。
「これなら解るかな! 創造におけるイメージの構築は……」
マオは丁寧に解説していく。
「……」
(やっぱり、マオは優しい)
ユウキは何事にも一生懸命なマオを見て優しく笑った。
1時限目が終わり休み時間。
「マオ様! 次は移動教室ですわ。御一緒に向かいましょう!」
(こうなったら、少し強引にでも)
夢姫はマオの右腕に抱き着いた。
「ちょ! 夢姫!」
マオは驚き赤面した。
「さあ、早く向かいましょう」
(相川さんが来る前に早く教室を出ませんと!)
夢姫はマオの右腕に胸を押し付け強引に歩き出した。
「ダメ!」
ユウキはマオと夢姫の前に立ち塞がった。
「なにがダメなのですか?」
夢姫は不機嫌そうに問い掛ける。
「……マオが歩きにくそう」
ユウキは、困った様子のマオを見て話した。
隻腕のマオは、右手で教科書とノートと筆入れを持ち、夢姫に抱き着かれ動きにくそうにしていた。
「歩きにくいでしょうか?」
(ここは上目遣いですわ!)
夢姫は上目遣いでマオに問い掛ける。
「少し、歩きにくいかな」
(ユウキ、また俺の左腕の事を気にして……)
マオは控えめに返した。
「申し訳ございません」
夢姫はしょんぼりした様子でマオの腕を離した。
「じゃあ、行こ!」
マオはユウキと夢姫に話し掛けた。
「はいですわ!」
夢姫は元気を取り戻し、マオの左隣に並んだ。
「うん」
ユウキはマオの右隣へ移動した。
次の休み時間。
「……」
(予測が正しければ、あたくしが1人になったタイミングで行動を起こすはずですわ)
無言で席を立った夢姫は女子トイレへ向かった。
「おい、仁科院が1人になったぞ」
猛が晋二に耳打ちする。
「ああ! 作戦開始だ。ユウキ、準備はいいか?」
晋二は猛に耳打ちで返すと、ユウキに話し掛けた。
「うん」
ユウキは緊張した様子で頷く。
「ごめんね、仁科院さん」
女子トイレから出て15mほど歩いた夢姫に、晋二は申し訳なさそうに話し掛ける。
「仁科院、少しいいか?」
猛は平然と話す。
「なんですの?」
(やはり、動きましたわね)
夢姫は首を傾げた。
「……」
ユウキは猛たちから5m後方の物陰に隠れて様子を伺っていた。
時間は遡り9月5日 (土)
「理由?」
猛の部屋で晋二は首を傾げる。
「ああ。仁科院が何故、マオを好きになったのかその理由を聞く」
猛は両手を組む。
「理由を聞く意味が分からない。そもそも教えてくれるのか?」
晋二は困惑していた。
「うんうん」
晋二の話を聞いたユウキは首を縦に振った。
「今年4月に入学した仁科院は、2学期までマオとの接点は皆無だったはずだ。それなのに何故、マオにあそこまで惚れているのか? 疑問に思わないか?」
猛は両腕を組んだまま話した。
「たしかに、まさか!?」
晋二は右手を顎に当てる。
「仁科院がマオを好きになった理由は一目惚れもしくは、大した理由が無い可能性が高い。そこで俺は1つの作戦を考えた。仁科院が1人になったタイミングで俺と晋二が話し掛け、マオのどこが好きかを問う。そこで仁科院が答えに詰まったり、答えを誤魔化したりしたら仁科院の死角に隠れているユウキに出て来てもらう」
猛はユウキを見る。
「私?」
ユウキは目を丸くする。
「答えに困っている仁科院に、ユウキはマオの好きなところを語ってもらう」
猛は真顔になった。
「ええ!?」
ユウキは赤面した。
「そうか! 大した理由の無い仁科院に対し、明確な理由を持つユウキ。気持ちの差を見せて、仁科院の戦意を削ぐ作戦か!」
晋二は納得したように頷く。
「その通り! 成功すれば仁科院にマオを諦めさせる事ができる。やるか、やないかはユウキに任せる」
猛はユウキに覚悟を問う。
「…………うん。私やってみる」
ユウキは考えてから覚悟を決めたように話した。
「あぁ〜 仁科院ってマオと仲が良いよな」
猛は夢姫に問い掛けた。
「ええ、マオ様はお優しいですから」
夢姫は微笑んだ。
「飛び級初日からマオと話していたけど、元々面識はあったの?」
晋二も質問した。
「元々の面識はありませんわ。それと、回りくどい事は、おやめいただけますか? 本題に入りましょう」
夢姫は見透かしたように2人に問い掛ける。
「そうか……仁科院、マオが好きなのか?」
(こちらの考えが読まれている? そんなまさか)
猛は間を置いてから話した。
「はい! 心よりお慕いしております」
夢姫は胸を張って答えた。
「マオとの面識がない仁科院さんが、どうしてマオを好きになったのかな?」
晋二は控えめに問い掛けた。
「あたくしは、マオ様に命を救って頂きました。校内ランクC大量発生事件。右手首を負傷し出血の止まらなかった、あたくしは処置があと少し遅ければ死亡していました。そんな中、マオ様は学生離れした実力でランクCの大群を瞬殺し、あたくしを含め多くの命を救いましたわ。今思い返せば一目惚れですわ……これで満足ですか? 相川さん」
夢姫は前方の物陰に隠れているユウキの名前を呼んだ。
「「!?」」
(バレてる!?)
猛と晋二の表情が固まる。
「!!」
ユウキは夢姫の前に姿を見せる。
「やはり、隠れていましたわね。正直、残念ですわ。相川さんが御自分の恋を左右する大切な選択を他人任せにしてしまうなんて」
夢姫はユウキを蔑むような目で見た。
「相川さんの朝の様子を見て察しがつきましたわ。吉村さんと五木さんが相川さんに協力をしている事。あなた方は、あたくしにマオ様のどこが好きかを問い、答えに詰まった所で相川さんに、マオ様のどこが好きかを語らせ、愛の差を見せつけて、あたくしの恋心を冷まさせる事が、大方の狙いだったのでしょう」
夢姫は退屈そうに話す。
「!!」
(完全にバレてる。仁科院の方が1枚上手だった)
猛は下唇を噛む。
「では、今度はあたくしから質問しますわ。人を好きになる事に理由が必要でしょうか? あたくしは心から惹かれるものをマオ様から感じましたわ。気が付けばマオ様の事を愛おしく思ってしまいますわ。その心に理由は必要なのですか?」
夢姫は真剣な表情で問い掛ける。
「……」
ユウキ、猛、晋二は俯いた。
「好きという感情に理由を求めるのは愚の骨頂ですわ。そして相川さん、貴女は友人を使いあたくしを足止めして、御自分はコソコソと安全な場所に隠れ、攻撃のチャンスを伺うような卑怯な方だとは思いませんでしたわ」
夢姫は呆れた様子だった。
「……」
ユウキは夢姫の顔が見れなかった。
「本当にマオ様が好きならば、他人の手を借りる前に行動に出ていたはずですわ! 貴女の好きは中途半端ですわ! そんな、卑怯で中途半端な気持ちで接しているから、マオ様に愛想をつかされ王子様役を辞退させる事になったのですわ!」
夢姫は怒りを抑え震える声で話した。
「……」
(その通りだ……私は卑怯で中途半端だ……そんな私がお姫様役になったからマオは……)
ユウキは肩を落とした。
「待て! 仁科院、マオが王子様役を……」
マオが王子様役を辞退した理由を知っている猛は弁明しようとした。
「待て猛!」
晋二は慌てて猛を止める。
「晋二!?」
猛は晋二を睨む。
「ここで、本当の事を話せばマオの気持ちを踏み躙る事になる」
マオが自身の左腕の事でこれ以上、ユウキを悲しませないようしたと思う気持ちを、尊重する為に晋二は猛を諭した。
「く!!」
(俺が迂闊だった。これじゃ逆効果じゃないか!)
猛は苛立ち舌打ちをした。
「あたくし、そろそろ行きますわ」
夢姫は3人に背を向け教室へ戻った。
「ユウキ……その……すまん」
猛は頭を下げた。
「うんん。私のせいで猛や五木に、嫌な思いをさせちゃったね」
ユウキは無理して笑った。
「ユウキ、ごめん」
晋二はユウキと目を合わせる事が出来なかった。
「大丈夫……だよ! 早く教室に戻らないと、そろそろ予鈴なる時間だから」
ユウキは廊下を歩き始めた。
最後まで、ありがとうございます。
次回投稿は2月24日の予定です。




