恋敵(ライバル)
「おし!」
マオたちと別れ、自室に戻って来た猛はガッツポーズをする。
「俺の4ヶ月間は間違っていなかった」
(右手しか使ってなかったが、晋二と互角に戦う事ができた。でも両手を使われたら、刀のままでは攻撃を捌ききれない。これは俺の技量の問題だな。そうなると……)
猛は自分の右手を凝視する。
(まっ、まだトーナメントの組合せ抽選もまだなんだ。いきなりマオと当たる可能性もあるし……でも、すげぇ楽しみだ! 学園祭)
猛の拳に力が入る。
「浦和。俺は絶対に司書になるぜ」
猛はタンスの上に飾ってある写真立てに向けて笑顔を向けた。
写真立てには、マオたちとハワイに行った際、ビーチで撮ったマオ、ユウキ、猛、晋二、遥の集合写真が飾ってあった。
9月1日 (火)
「よし! 変じゃないよね?」
マオは、体の成長でサイズの合わなくなり新調した学生服(夏服)を着て鏡の前に立ちYシャツにシワがないかをチェックしていた。
「やる事がないな……」
久しぶりの学校で張り切ってしまい、いつも以上に早起きしてしまったマオは、ユウキたちとの約束の時間まで普段は滅多に見ないテレビを見る事にした。
「ニュースか」
ブラックコーヒーを入れテーブルに座り、テレビをつけるとニュース番組のオープンが丁度始まった。
『史上最年少で単独でのランクA討伐に成功した瑠垣マオ司書に、特例措置がなされました』
女性ニュースキャスターは淡々と原稿を読み上げる。
「ゴホッ!! ゲホ ゲホ!」
ニュースキャスターの口から自分の名前が飛び出し、コーヒーを飲んでいたマオは驚き咽せてしまう。
『瑠垣マオ(16) は、今年5月7日に発生した夢図書館高等専門学校のランクC大量発生事件で学生にして、250体以上のランクCを単独で討伐し司書へ飛び級、記憶に新しいジュリビア帝国の世界平和条約違反、国民の奴隷化事件では単独で500体以上のランクCを討伐、更にこちらも単独で武装したランクAを討伐し、夢図書館が新たに新設した特別筆頭司書長へ瑠垣マオ司書を任命すると発表しました。今回の事を夢図書館の総館長である相川築氏に伺ったところ、「瑠垣司書は、本来なら司書長になるに申し分無い功績を上げている。しかし、彼はまだ16歳。なので司書長見習いと言う事で特別筆頭司書長と言う、新たなポジションを新設し任命しました」と今回の特例措置を説明しています」
ニュースキャスターはやはり、淡々と原稿を読み上げるだけだった。
「……」
マオは呆然とテレビを見たまま止まってしまった。
この後、テレビで専門家たちが口論を繰り広げていたがマオの耳には入ってこなかった。
「おはよう」
マオは周りをキョロキョロと見ながら学生寮の出入り口にやってきた。
「おお! 来たな、有名人!」
猛はマオの右肩を叩いて挨拶する。
「アハハハ、やめてよ。それと昨日は制服の事を曖昧にしてごめん。発表があるまで口外してはいけなかったんだ」
マオは乾いた笑いをした後に、申し訳なさそうな顔で謝る。
「いいよ。気にしちゃいないし」
猛は歯を見せて笑う。
「まさか、今日発表されるなんて」
半袖のセーラー服姿のユウキは少し驚いたように呟いた。
「うん、近いうちに発表があるって聞いてたけど新学期初日とは……そのおかげで周りの視線が痛いよ」
マオは周囲からの注目の的になっていた。
「たしかに、んじゃ行くか」
周りを見た晋二は納得し、学校に向けて歩みを進めた。
「行こ」
ユウキはマオに優しく微笑む。
「うん」
マオは笑って返す。
3人は晋二の後を追った。
マオたちは、他の生徒たちの視線を感じながら登校し学校に到着すると、下駄箱で上履きに履き替えて教室の前までやって来た。
「なんか、緊張するね」
4ヶ月ぶりの教室を前にして、晋二のドアを持つ手が止まる。
「たしかに」
マオは苦笑いだった。
「……」
ユウキは無言で頷く。
「俺が開けるか?」
猛は能天気に話す。
「大丈夫!」
晋二は意を決してた様子でスライドドアを開ける。
「五木君!?」
「相川さんも!?」
「あれ? もう1人誰だ?」
晋二がドアを開けた瞬間、中にいる生徒の視線がマオたちに集まる。
「おおお! 久しぶり!」
「任務どうだった?」
「来たぜーーーー! 2Aクラスの英雄たちが!」
マオたちは30人ほどのクラスメイトに囲まれた。
「久しぶり!」
晋二は爽やかな笑顔で返す。
「やっぱり、五木君カッコいい!」
「爽やか〜」
女子生徒は晋二に魅入る。
「みんな、久しぶり」
ユウキは優しく笑った。
「ごふぁ!? 相川さんが笑った? マジ天使……」
「かわいい…… その言葉以外何も出ない」
男子生徒は目をハートにしてユウキを見る。
「ほんとほんと! 相川さん、少し雰囲気変わった?」
「うん、自然に笑ってるよね!」
女子生徒はユウキの変化に気付き、にこやかになる。
「あのぉ、君は?」
女子生徒はマオの顔を除き込む。
「そうそう、ん? 相川さん、五木君と一緒に来たって事は……もしかして!?」
男子生徒はマオを見て、少し考えると合点がいった様子。
「うん。瑠垣マオだよ」
マオは照れたように答えた。
「えええええええ!?」
その場にいるクラスメイトの驚きに満ちた声がシンクロする。
「るッ瑠垣!? てか顔! 身長!! この短期間で変わり過ぎだろ!」
男子生徒は目を丸くした。
「そうそう、でもカッコよくなってる!」
女子生徒はマオの頭からつま先までを見回した。
「だよな! マオのやつ成長し過ぎだよな」
猛はマオの右肩をポンと叩く。
「アハハハ、成長期かな?」
マオは乾いた笑いをする。
「そうだ! 今日のニュース見たぞ! すごいな、特別筆頭司書長!」
男子生徒はマオに憧れの眼差しを向ける。
「私も見た! 瑠垣君は、やっぱり違うね!」
女子生徒はマオを見て鼻息を荒くする。
「あっありがとう」
マオははにかんだように笑う。
クラスメイトたちは、マオの薄く潰れた左袖を思わず見てしまうが、誰一人その事を話題にしなかった。
「……」
(マオ、楽しそう……)
ユウキは女子生徒と話すマオを見て、心の中で呟いた。
「すみません」
弱々しい男性の声がした。
「相川さん?」
ユウキの表情が暗くなり、心配した女子生徒が話し掛ける。
「は! ごめんなさい」
ユウキはマオから女子生徒に視線を戻した。
「うんん! 大丈夫!」
女子生徒は話を続けた。
「あの〜すみません。そろそろホームルームを〜」
弱々しい男性の声が教室中に聞こえる。
「あっ先生だ!」
女子生徒は教卓の後ろに立つ、綺麗にアイロンのかけられたYシャツに、黒のスラックスを履いた、黒髪七三分けの気弱そうな教師を見つける。
「本当だ! おい席つけよ!」
クラス委員の猛の一声で全員は席に着いた。
(あれ? 俺の隣がいない? 休みなのか?)
真ん中最後列に座るマオの右隣は空席になっていた。
「おはようございます。2学期も皆さんの顔が見れて先生は嬉しいですよ。既に気付いていると思いますが、本日から相川さん、五木君、瑠垣君が2Aクラスに戻ってきました。ですから改めて自己紹介をします。岸田司書長の後任で本部からやって来ました。私の名前は、山井 秀と言います。よろしくお願いします」
山井は自分の名前を背後の黒板に板書し、深々と頭を下げた。
―――山井 秀 身長168cm 体重 55kg 夢図書館の司書にして教員免許を持つ男。
性格は気弱で頼りないが決断力はある―――
「では、ホームルームを始めます。まずは、悲しいニュースです。道下小雪さんが転校されました。理由は伏せますが、伝言を預かっています。『挨拶ができずごめんなさい。ここで学んだ事やみんなとの思い出は絶対に忘れません』と言っていました」
生徒の方へ向き直した山井は、教卓の上の手帳を広げる。
「……」
数人の女子生徒が下を向いた。
「もう一つ皆さんにニュースがあります。1年からの飛び級生が本日より、2Aにやってきます」
山井は手帳のページを1枚めくる。
「……おおお!」
「先生、女子ですか?」
男子生徒が凄まじい食いつきを見せる。
「男子かな?」
「カッコいいといいね!」
女子生徒がヒソヒソ話を始める。
「それは、見てからのお楽しみで。入って下さい」
山井は自分から見て右側のスライドドアに向かって話した。
「はい」
凛とした少女の声が扉越しに聞こえた。
「失礼致します」
スライドドアを開け教室に入った女子生徒を見て、教室が静まり返る。
「はじめまして。皆さま、お目にかかれてうれしいですわ。あたくし、仁科院 夢姫と申しますわ、よろしくお願い申し上げます」
夢姫は一礼をした。
艶やかな栗色のウェーブのかかったロングヘア、整った輪郭と決めの細い肌、女性らしい体つきの夢姫に教室にいた生徒の殆どは見惚れていた。
―――仁科院 夢姫 身長155cm 体重 43kg 大財閥である仁科院家の1人娘―――
「飛び級生って、仁科院のお嬢様!?」
1人の男子生徒が思わず立ち上がった。
「仁科院って『夢粉のエンジン』製造の世界シェアNo.1ブランドの!? この学校に入学したって聞いてたけど、初めて見た」
女子生徒が驚く。
「あら、お恥ずかしいですわ。皆さまよくご存知で」
夢姫は上品な仕草で口元に右手を当てる。
「仁科院さんは、真ん中の最後列の空いている席に座って下さい」
山井はそう言って、教室の奥に向かって手を伸ばす。
「はい……!!」
(あの、お方は!!)
夢姫は返事をした後、何かを探すように教室を見て、その何かを見つけたのか表情が一気に明るくなる。
「失礼致します。ふつつか者ですが、よろしくお願い申し上げます。瑠垣マオ様」
空席になっていたマオの右隣に夢姫が座り、マオに微笑んだ。
「よろしく」
マオも笑って返す。
「!!」
(いっいけませんわ。マオ様のお顔がこんな近くに)
マオの笑顔を見た夢姫は、赤面した顔を見せないように反対方向を向いた。
「ん?」
(俺、何か変な事したかな?)
マオは夢姫の行動に首を傾げる。
「では、ホームルームを続けます。皆さん知っての通り、2学期には学園祭があります。1日目はクラスごとの出し物。2日目は2・3年生の司書科の生徒混合でのトーナメント戦があります。このトーナメント戦は成績に反映されませんが、夢図書館本部から5名の視察者が毎年来賓として招かれます。その方の目に止まれば司書への飛び級の可能性も十分にある行事です。実際に、このトーナメント戦から司書になった生徒もいますので是非挑戦してみて下さい。朝の連絡事項は以上です」
山井は一礼して教室を後にした。
「マオ」
マオの席から右に2列挟んで隣に座るユウキは席を立った。
「マオ様! お会いしたかですわ」
夢姫は席を立ったマオの右腕に抱きついた。
「……ぇ?」
マオの下に向かっていたユウキが固まる。
「えっ!? 仁科院さん?!」
マオは突然の事で理解が追いつかず目を白黒させる。
「が?」
「マジで?」
マオに抱きつく夢姫を見た猛と晋二は、目を見開いたまま固まる。
「おお!なんだいきなり」
「わぁ〜大胆!」
「羨ましい」
マオと夢姫はクラス中の注目の的になっていた。
「まさか、飛び級して初日でマオ様にお会いする事ができるなんて、これは運命ですわ! あたくしの事は仁科院さんではなく、夢姫とお呼び下さいませ」
夢姫は胸を押し付けるように、マオの右腕に抱きつく力を強めた。
「ちょ! ちょっと待って!」
マオは強引に右腕を動かす。
「マオ様は、あたくしの事がお嫌いですか?」
夢姫は潤んだ瞳でマオを見上げる。
「いやいや。今会ったばかりだよね。それで好きも嫌いも……」
マオは困ったような顔をする。
「なら、いいですわ!」
夢姫はマオの右腕を抱いたまま笑う。
「……」
(休み時間になったら話せるよね)
ユウキは表情を暗くしたまま、自分の席に戻った。
授業が終わり休み時間。
「マオ」
ユウキは授業終了と同時にマオの下に向かった。
「マオ様! 次の移動教室、場所が分からないのです。一緒に行っていただいてもよろしいでしょうか?」
(マオ様はボディータッチはお嫌いだと、先ほど感じました。でしたら上目遣いで)
夢姫は計算された上目遣いでマオを見る。
「うん、いいよ。猛、晋二、ユウって、ごわッ!?」
マオは晋二たちに声を掛けようとしたが、夢姫が右手を引っ張って早歩きをした。
(させませんわ。あたくしはマオ様と2人きりがいいのですわ)
夢姫はご機嫌な様子でマオの右手を引っ張る。
「……」
ユウキは呆然と立ち尽くす。
「おい、あれ」
夢姫に引っ張られ教室を連れ出されたマオを見て晋二が呟く。
「こりゃ、ちょっとまずいかもな」
猛は厳しい表情をする。
「だけど、ユウキ大丈夫かな?」
表情が凍り右手を伸ばしたまま固まっている、ユウキを晋二は心配そうに見る。
「ユウキ、昼飯どうする? マオも誘って4人で食おうぜ!」
猛はユウキに話し掛ける。
「うん、そうだね!」
(次の休み時間なら)
ユウキは嬉しそうに答えた。
結局ユウキは午前中の休み時間にマオと話す事はでず、昼休みになってしまった。
「マオ〜昼飯いっか」
晋二とユウキを引き連れた猛はマオに話し掛ける。
「いいよ!」
マオは席を立って、ユウキたちと合流する。
「!!」
(これで、マオと話せる)
ユウキは自然と笑顔になった。
「マオ様! あたくしもご一緒してよろしいでしょうか?」
夢姫がマオのYシャツを引っ張る。
「え?」
マオはきょとんとした表情になる。
「ダメでしょうか?」
(マオ様は、潤んだ瞳に弱いと見ましたわ!)
夢姫は今にも泣き出しそうな声で話す。
「えっ!? あ……」
(ごめん、助けて)
マオは晋二と猛とユウキに目で助けを求める。
「……いっしょに、食べましょ」
ユウキは少し考えてから、アリスに優しく微笑んだ。
「ユウキ!?」
「!?」
晋二と猛はユウキの言動に驚く。
「仁科院さんは、飛び級したばかりだから。知らない人が多くて不安だと思うの。私、仁科院さんの友達になりたいから」
(遥が私にしてくれた事をするんだ)
ユウキは笑顔のまま右手を夢姫に差し伸べす。
「あっありがとうございます」
ユウキの優しさに、夢姫はバツの悪そうな顔をして握手する。
マオたちは校舎本館1階の学食へ向かった。
「マオ様は何になさいますか?」
後方にいるユウキお構いなしの夢姫は、マオの右腕に抱きつき食券機の前に立った。
「ごめん。離してくれないかな? 食券が買えないんだ」
マオは申し訳なさそうに返す。
「はっ。申し訳ございません」
マオの長袖Yシャツの薄い左袖を見た夢姫は、急いで抱きついていた右腕を話す。
「俺はオムハヤシかな」
マオは創造免許証を食券機にタッチさせ食券を購入する。
「では、あたくしも!」
夢姫もマオと同じオムハヤシを購入する。
「それ、結構量が多いよ……」
マオは冷静に話す。
「ふ〜んふふ〜♪」
夢姫はご機嫌に鼻歌を歌っていた。
「ユウキ、本当にいいの?」
晋二は小声でユウキに話し掛ける。
「うん……遥が私と五木にしてくれた事と同じ事をしたいの」
ユウキも小声で返す。
「……そうか」
(違う、そうじゃないよ! このままだとマオを取られてしまうかもしれないんだぞ!)
晋二は、言い出しそうになった言葉をぐっと飲み込みんだ。
「……」
(もう少し様子を見るか。どうしてもダメな場合は……)
猛は無言のまま考えていた。
「いただきます」
それぞれに料理を注文したマオたちは、5人掛けのテーブルに座り昼食を摂り始める。
「結構量が多いのですわね……」
オムハヤシの想像以上の量に夢姫は真顔になる。
「大丈夫?」
マオは自分のオムハヤシを食べ始める。
「仁科院家の人間は、これしきの事で屈したりしませんわ!」
夢姫は意を決したようにオムハヤシをかきこむ。
「……」
(会話に入りたい)
マオと夢姫を頻りに見ているユウキは無言のまま、カルボナーラを食べる。
「どうしたのユウキ?」
ユウキの視線に気付いたマオは話し掛ける。
「!? なっなんでもないよ」
(話が思いつかない……)
顔を赤くしたユウキは俯いてしまった。
「マオ様、このオムハヤシ美味しいですわよ!」
(先ほどお昼に誘って頂いた事は感謝しております。ですが、貴女にチャンスは与えませんわ)
すかさず夢姫がマオに話し掛ける。
「ああっ。俺、学食のメニューでこれが1番好きなんだ」
マオはユウキの事が気になりながらも、夢姫の方を見る。
「おい、ユウキを見てられないよ」
晋二は猛に耳打ちをする。
「ああ。だけど他人の恋路にどうこう言うのも。ユウキは自覚アリのようだけど、マオは自覚していない様子だ。あいつ意外と鈍感だな」
猛も耳打ちで返す。
「だけど、このままだとマズよね」
晋二は心配そうに話す。
「ああ。だが、俺たちが焦っても意味がない。俺たちにできる事を考えるんだ」
猛は策士の顔つきになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は2月18日の投稿予定です。




