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paradox (パラドックス)  作者: ナカヤ ダイト
転入・進級編
3/55

基礎測定

 昼食を終えたマオたちは体育館3階の測定室へ到着すると既に30人の生徒が到着しており、他の生徒の到着を待っていた。

 しばらくすると42人のクラス全員が到着し13時20分丁度になるとノートパソコンとクリップ付きファイルを持った岸田が退屈そうに、あくびをしながら測定室へは入ってきた。


「お〜 集まったなぁ 時間通りで感心感心……ちっ」

 岸田から明らかな舌打ちが聞こえた。

(今、舌打ちした?!)

 クラス全員の心の声がシンクロした。


 

「お前らも知っての通り、2年生からは各専門分野に分かれての授業が主になる。司書志望のAクラスは実戦的な戦闘訓練や創造をする為に必要なスキルアップを行う、今日は2年生になって最初の腕試しって事で1年生の時もやった、圧縮率と創造スピードの測定をする。朝も言った通り、今日の結果は1学期の成績にも響くから気合い入れろよ」

 岸田が話し終えると生徒たちの表情は一気に引き締まる。



 夢粉ゆめは空気中20%の割合で漂うように世界中の夢図書館支部が管理している。

 夢粉ゆめを使用する際は、クレジットカードと同じ大きさのスマートフォン型端末、創造免許証に登録された持ち主が脈認証を行い、携帯した状態で創造が可能となる仕組みで、何をいつ創造しどのように使用したかを創造免許証が記録し夢図書館にデータをリアルタイムで自動送信され法律違反などがあった場合は即時摘発される。

 教育機関では、創造免許証と同じ機能の生徒手帳を代わりに使用しているが有効範囲は学校敷地内に限られている。


 創造に必要なスキルは、圧縮率と創造スピードの2種類で圧縮率は創造した物資がどのぐらいの夢粉ゆめ密度で構成されているかを表す数値で単位は% 一般的な数値で30%〜50%、夢粉ゆめ創造免許取得に必要な圧縮率は30%以上を必要とし、夢図書館構成員クラスになると70%以上になる。

圧縮率が高ければ高い程、創造した物資の耐久性や性能も比例して高くなる。

 創造スピードは物質を創造するのに掛かる時間の事を指す。

 その物質が何で作られているかを把握していなければならない上、構造を理解していなければ創造ができず、創造に慣れている物質でも一般的には20秒近く掛かってしまう。

 創造免許取得に必要な速度は20秒を切る事で夢図書館構成員クラスになると5秒台、3秒を切る事は脳の構造上、不可能とされている。



 壁も床も天井も室内全体が白色で統一された測定室には、周りが透明なシールドで囲まれた縦横50mの闘技場と何も無い空間が広がっている。

 現在、マオたちが集まっている場所は測定室の何も無い空間である。



 岸田は右手をYシャツ左胸のポケットへ入れると、薄く黒いカード取り出す。

 

「あれが司書専用の創造免許証? 俺たちの生徒手帳とあまり変わらない」

1人の男子生徒が取り出したカードを見て興味深そうに口を開く。

「司書の持っている創造免許証は一般の創造免許証や、お前らの持っている生徒手帳と同じ物だ。まぁ生徒手帳は学校敷地内でしか使用できないように設定されているがな」

 岸田は右手に持った創造免許証に左手をかざすと先ほどまで真っ暗だった創造免許証が黄緑色へと変化した。

「静脈認証、完了と」


 再び創造免許証をYシャツ左胸ポケットへしまう。

「お前ら、1番から出席番号順に1列で並んで静脈認証を済ませろ」

 岸田の指示通り並び終えた生徒たちは生徒手帳(晋二とユウキは司書専用の創造免許証)を取り出し静脈認証を行い起動させた。


 岸田は先頭にいる生徒から前方5mの位置に右手をかざすと、約4秒の間で自身の腰ぐらいの高さがある小さな四角いテーブルを創造し、更にその位置から4m左方向へ移動し再び右手をかざすと今度は1人用のオフィス机と椅子が創造された。

「すげー」

「これが司書長の実力」

「速っ!! 今の5秒切ってなかったか?」

岸田の創造を見た生徒たちから口々に発せられる褒め言葉に岸田は機嫌が良くなったのか少し得意そうな顔になる。

「この程度で驚いていたら、とても司書にはなれないな。そんで、先に圧縮率の測定をする。出席番号1番って、いきなり相川か!?」

 岸田が珍しく驚いた口調で話す。

「おおおお〜」

生徒たちも驚きの声を上げユウキを注目する。

「……はい」

 無表情のまま返事をしたユウキが前方のテーブル前へ移動する。

 岸田は椅子に座りクラス名簿が挟んであるクリップ付きファイルとノートパソコンをオフィス机上に置いた。



 圧縮率の測定は自分の好きな物や創造しやすい物を創造し測定する。



「お前は()()()()()だから、ある程度の形状が分かれば細かい整形は必要無いぞ」

「……わかりました」

 無表情で頷いたユウキは右手をテーブルにかざす。

「んじゃ測定するぞ」

 そう言って岸田はキーボード叩き始める。

「……お願いします」

 ユウキは創造を始める。

約6秒の間で透明度の高いダイヤモンドのような物で出来た直径20cmのゴツゴツした球体を机の上に創造した。


「圧縮率は96% さすがは結晶タイプだな」

岸田はパソコンの画面を見て測定結果を告げる。

「すげぇーー」

「おお」

「結晶タイプって世界で20人ぐらいしかいないんだよね?」

 多くの生徒はユウキの創造に興奮を抑えられず驚きの声を発する。


「マオ、俺って結晶タイプ初め見たが……本当にいるんだな」

なぜかマオの隣にいる正輝も驚きを隠せない様子だった。

「ああ、俺も初めて見た」

 いつもは冷静なマオだったが出席番号順で並んでいるにもかかわらず、隣にいる正輝の事を気する余裕も無いほどの衝撃を受け棒読みで返す事しかできなかった。



 夢粉ゆめでの創造は、具現ぐげんタイプと結晶タイプの2種類に分類される。

 まず、具現ぐげんタイプはイメージした物質を創造する事で、正確なイメージが無ければ夢粉ゆめを集合圧縮させる事ができない為、圧縮率が結晶タイプに比べて低くなり、個人差が激しいが様々な物を作り出せるので利便性は高く、世界中の90%以上が具現ぐげんタイプに分類される。

 結晶タイプは具現ぐげんタイプ同様に夢粉ゆめを集合圧縮させるが、夢粉ゆめそのものを結晶化させている為、細かい整形が難しく簡単な形の創造しか出来ないが具現ぐげんタイプに比べ圧縮率は高く平均で90%を超える。

 また、結晶タイプは極めて珍しく確認されているだけでも世界中で18人しか存在しない。

現在、日本で結晶タイプを扱えるのは相川ユウキと父親の相川築の2人だけである。

 結晶タイプの人間は全て夢図書館に所属しており、わずか4歳にして結晶タイプでの創造をした相川ユウキは世界的に有名となった天才少女。



「次、2番って五木かぁ、続くな転入生」

 ユウキは測定が終わると最後尾に並び直し岸田は驚いた様子で晋二を呼ぶ。

「出席番号、あいうえお順ですからね。測定お願いします」

 そう言って晋二はテーブルに右手をかざすと約3秒の間で刃渡り30cmの短剣を創造した。

「任務で、よく見るのだな68% まだまだ修行が足りねぇな」

「これが一番慣れていますから。ですね、もう少し伸びていると思いましたが」

数値が思ったより悪かったのか晋二は乾いた笑いをする。


 さっきまでざわついていた室内が静かになる。

「68%でダメなのか!?これが司書クラスの会話かぁ〜」

「今の創造スピード尋常じゃなくなかったか? なのに修行不足って」

 進級早々に司書とのレベルの違いを見せつけられた生徒の多くは表情を暗くした。


「3番、浦和」

そして、次の生徒が呼ばれる。

「はい!」

呼ばれた遥は元気よく返事をして小走りでテーブルへ向かい右手をかざすと約12秒の間で虫眼鏡を創造する。

「おお!圧縮率55% なかなかじゃねーか。春休みもしっかりトレーニングしてたんだな」

岸田が嬉しそうに結果を告げる。

「どーだぁ! 岸ちゃん!! 頑張ったよ!!」

遥は弾けるような笑顔を浮かべドヤ顔でピースサインをする。

「お前なぁ、たった55% じゃ司書どころかオペレーターもなれないぞ。あと去年からも言っているが岸田先生と呼べ」

調子に乗っている遥を見て岸田は呆れ顔になった。

「ひどい岸ちゃん。私は褒めて伸びるタイプなのに」

 怒られているのに遥は全く気にせず笑顔のまま、右手で涙を拭う仕草をした。

「はいはい、分かった分かった。はい、次ぃ」

岸田はため息をつく。



 そのあとも生徒が圧縮率の測定を行なっていき、次に岸田に呼ばれたのは。

「18番、工藤」

「はい」

 正輝は歯切れの良い返事をして、テーブルへ右手をかざすと約12秒で鉛筆を創造する。

「鉛筆か懐かしいな。46% まぁまぁ平均点だな」

「ふーぅ。ありがとうございます」

無難な結果に安心した正輝は表情を和ませた。


 再び次々と生徒が測定を済ませマオの順番になった。

「次32番、瑠垣」

 マオが呼ばれると後方からクスクスと微かな笑い声が聞こえてきた。

「はい」

 マオが平然と返事をするとテーブルに左手をかざし刃渡り5cmのナイフを創造した。

「17%かぁ、去年よりも若干上がっているが危機感を持てよ」

岸田が目を細め低い声で結果を告げる。

「はい。頑張ります」

マオは少し暗い顔をすると苦笑いをした。

「さすが瑠垣先生〜17%を狙うなんて、普通出来ないッスわ〜」

マオの力の無い返事に後方からバカにしたような口調で猛が発言すると生徒の多くは堪え笑をしていた。

「そうだよね、17%なんてね」

マオは苦笑いをしたまま最後尾へ向かう。


 その後も測定が続き結果は40%中盤が大半で、高くても50%前半が数人、司書の2人がトップを独走していた。


「次42番、吉村」

 そして、最後の1人が呼ばれる。

「お願いしまーす」

 呼ばれた猛は軽く返事をすると右手の指関節を鳴らしながらテーブルに近付き右手をかざし約9秒の間で刃渡り70cmの日本刀を創造した。

「62% 昨年の学年主席なら当然だな。この調子で頑張れよ」

岸田は真顔のまま結果を告げる。

「ふふふ、まぁこんなもんですよ。ですが、まだまだ五木には勝てそうに無いです。今はですが」

 そう言った、猛はドヤ顔で列の最後尾へ向かう、その間にすれ違ったマオを睨むよう見ると。

「ちっ」

 舌打ちを残し過ぎ去っていった。


 全員の圧縮率測定が終わると岸田は先ほど使用したテーブルの更に2m後方に同じテーブルをもう一つ創造すると、ノートパソコンをそのテーブルへ置いた。

「よーし次は、創造スピードの測定だ。また1番からだ」

「……」

ユウキが無言で前に出る。

「相川、創造免許証を出せ」

「……はい」

 ユウキはスカートのポケットから創造免許証を出し岸田に手渡し、岸田はノートパソコンへ創造免許証を差し込み処理を終えると創造免許証をユウキに戻した。



 創造スピード測定は、生徒手帳や創造免許証の端末に記録された過去に創造したデータからランダムに3つの物質が画面に順番で写し出され、3つを創造にかかった平均タイムを測定する。



 ノートパソコンは球と三角柱と円錐の順に写し出して、ユウキは順番通りに創造する。

「5.57秒か結晶タイプ平均の6秒にすれば早いな」

岸田は秒数が表情された自身の創造免許証を見て結果を告げる。

「……はい」

好成績ではあるがユウキは無表情のままだった。

「次、五木」

 ユウキが最後尾へ向かうと出席番号2番、晋二の順番となる。

「はい」

 自信に満ちた顔で返事をすると後方の生徒たちはガヤガヤと騒ついた。



 五木晋二は昨年の夢図書館高等専門学校の推薦入学試験で創造スピード世界最速の記録を出し飛び級で司書になった。

 彼の創造スピードの速さからついた技名が高速創造クイック



 パソコンの画面はバスケットボールと短剣、白い靴下を写し出すと晋二は異次元の速さで創造をしていく。

「さすが世界最速だな3.12秒だ」

岸田は感心したように結果を告げる。

「すげー」

「世界記録と0.05秒差!!」

高速創造クイックが生で見れるなんて」

記録を聞いた生徒たちは口々に驚きを言葉にする。


 その後も生徒達は測定を行なっていき、遥は13.2秒、正輝は11.7秒でクラス平均でも12秒前後の成績。



「次、瑠垣」

 岸田はマオを呼ぶと意味深に笑みを浮かべた。

「はい」

 マオは平然と返事をすると。

「無駄だけど頑張れよ〜」

 猛がマオに聞こえるように発言しバカにしたように笑っている。

「お願いします」

 マオは学生服の袖を七部袖の高さまでたくし上げる。

ノートパソコンにはスプーンと学生服のボタンとカッターナイフが写し出された。

「今のって、早かったじゃなか?」

 別の男子生徒も驚きながら。

「やっぱり? 見間違いじゃないよね?」

マオが創造をすると測定室の空気が変わり男子生徒が口を開いた。

「3.59秒、こりゃ五木もウカウカしてらんねーな」

岸田は口元を少し緩め結果を告げる。


「!!」


 マオの創造スピードが司書でも晋二以外に10人しか存在しない3秒台の好タイムを記録した。

「あいつ何があった」

「瑠垣って去年まで15秒ぐらいじゃなかったけ?……」

「いっいくらタイムが良くても………圧縮率は散々だったし……」

唖然とした様子の生徒たち。


(これが岸田司書長がマオを面白いと言っていた理由なのかな?)

晋二は真剣な表情になる。

(五木の他に3秒台の人がいるなて)

珍しくユウキは目を丸くして驚きを露わにする。

「………………」

 正輝と遥は驚愕のあまり声を出す事ができず固まっていた。

「なっ…………」

 先ほどまでマオをバカにしていた猛は表情が凍っている。

 最後に計測した猛の結果は8.66秒、基礎測定の全科目が終了した。


「ここでホームルームやるぞ。ひとまず、これで終了、寮に帰ってよし。今日は金曜日で明日から休みに入るが月曜日に早速、実戦形式の授業があるからしっかり休んでおけよ。それから瑠垣は後で俺ん所に来い。んじゃ解散」

 岸田が頭を掻きながら話し終えると生徒たちはバラバラに測定室を後にした。


「マオくん、どうしたんだろう?」

遥は正輝に話しかける。

「さーな」

心配そうに話す遥に正輝は何か考えている様子で適当に返事をする。

「決まってんじゃん退学勧告だよ。あいつの今日の成績見ただろ〜 あんなんでよく進級できたもんだ。さすがは瑠垣先生だよ」

後ろから猛が話しに割って入る。

「吉村、お前さっきからいい加減にしろよ!!」

正輝は猛の胸ぐらを掴むと睨みつた。

「怖いね〜てかさぁ〜 お前って、瑠垣を庇うフリして周りの好感度を荒稼ぎしてるつもりなの? やめとけって、昼にも言ったけど工藤、お前の評価も実は下がってるんだぜ」

猛は正輝の顔を見て笑う。

「てめぇー」

 正輝は猛を殴ろうとする。

「吉村君、やめなよ。今日のマオ君の創造スピードを見たでしょ!! 正輝も少し熱くなり過ぎだよ」

いつも笑顔を絶やさない遥が怒りの表情を見せた。

「ごめん」

 正輝は反省したように握った拳を下ろす。

「あっそ」

 遥の気迫に圧倒された猛は顔を背け歩いていった。



 学校本館地下にある岸田剛専用のトレーニングルーム、2部屋あるうちの1部屋目は、ベンチプレスやボートマシーン、トレッドミルをはじめ各種筋トレ器具が揃っている。

 2部屋目は、圧縮率と創造スピードの測定を行うスペース、機械類が置いてあり、ちょっとした研究室となっている。(これらの設備は岸田の私物)



「失礼します。岸田先生」

 言われた通りに、やってきたマオが部屋に入る。

「おー来たか!!学校の設備だと記録に残っちまうからな。俺ので測定し直すか!」

ご機嫌な岸田はコーヒーを飲みながらソファーに座ったまま迎える。

「先生、気になる事が有るんですが?」

マオの視線が岸田の隣に向いたまま止まっている。

「なんだ瑠垣?」

 マオの質問に岸田はコーヒーカップをテーブルに置きながら答える。

「そこの2人」

 マオは岸田の隣を見たまま答えると、そこには五木晋二と相川ユウキが同じくソファーに座っていて晋二はお茶と煎餅、ユウキは紅茶とクッキーを頬張っていた。

「お邪魔してまーす」

 爽やかな笑みの晋二。

「……お気になさらず」

 クッキーを手に持ち無表情なユウキ。


「どうせ、この2人には言うつもりだったんだ。言っても信じねぇなーと思ったから、直接見せようと思ってな。んじゃん瑠垣測るぞ。創造スピードと同時測定じゃあまり正確ではないが一応、圧縮率も測る」

 岸田はあらかじめ用意してあった自前のノートパソコンを起動させる。

「は、はい」

 岸田はマオの生徒手帳をノートパソコンへ差し込み処理を終え、マオに生徒手帳を返すとマオはテーブルに左手をかざした。


「!!」


 ナイフ、日本刀、レイピアが画面に映像が映し出されマオが創造した瞬間に晋二とユウキは自分の目を疑う、理由はマオの創造スピードは明らかに異常だった為だ。


「圧縮率が7% 創造スピードは0.002秒」

岸田は特に驚いた様子もなくマオの測定結果を告げる。

「一体どうなってるんですか!? 夢粉ゆめは通常圧縮率が10%以上なければ集合しても物質化はできないです。それから、どんなに創造し慣れている物資でも人間の脳の構造上3秒を切る事は不可能だと夢図書館の研究者が証明して論文もあります。なのに、このスピードは?」

結果を聞いた晋二は持っている湯のみを乱暴にテーブルへ置きソファーから立ち上がる。


「落ち着け五木これは現実だ、俺も初めて見たときは正直、自分の目を信じる事が出来なかった。だが、瑠垣の測定を繰り返す事で、それが真実である事が分かった。お前が高速創造クイックなら瑠垣のは瞬間創造ソニックだな。あと圧縮率がここまで低いのに、なぜ創造が出来ているのかは、全く分からん」

 興奮して我を忘れている晋二に岸田は諭すように冷静に答えた。

「夢図書館には報告したんですか?これだけの創造スピードがあれば即司書になれると思いますが」

興奮さめやらぬ晋二は更に質問をする。

「まだ、報告していない」

岸田はコーヒーを1口飲んでから答える。

「規則違反です。この学校において優秀な人材の発見報告は最優先事項のはずですよ」

晋二は不満そうな顔をして言い返す。

「バーカ!そんな事は分かってる。だが、今の瑠垣を実戦投入してみろ、夢粉ゆめの創造がいくら早いからって夢獣ピエロ1体に対して、いくつ武器が必要か分かったもんじゃない。武装した人間が相手なら、その武器を破壊する為に、いったい何回創造するのか見当もつかねー。もし瑠垣の集中力が切れて創造出来なくなったらどうする?お前は、瑠垣を見殺しにするのか?」

岸田はめんどくさそうに話す。


「すみません。取り乱しました。それと、この事は僕ら以外に知っている人はいますか?」

岸田の話を聞き我に返った晋二はソファーに座り直すと、落ち着きを取り戻した様子で話す。

「知っているのは、俺と、お前ら、そして砂田だ」

晋二が質問すると岸田は真顔になる。

「たしか、研究者の砂田博士ですよね?」

「そうだ、俺の同期で夢図書館内でも3本の指に入る研究者で、今は夢図書館高等専門学校(ここ)夢粉ゆめ学科を担当している教師だ」

「前にも、砂田博士は最も信頼できる研究者だと言ってましたよね」

晋二は納得したように頷く。

「そうだ砂田なら瑠垣の事を知っても言いふらしたりオモチャにする心配もないしな」

岸田は真剣な表情になる。


「マオっていつから、その瞬間創造ソニックが出来るの?」

晋二は岸田から視線をマオに移すと質問をする。

「分からないんだ。けど、昨年の1学期期末試験の前に岸田先生に、この場所へ呼び出されて、このままじゃ2年生へ進級出来ないからって実技の練習を個人的にしてくれたんだ。その時に瞬間創造ソニックが出来ることが分かって」

困ったようにマオが答える。

「っえ、いきなり?」

晋二は拍子抜けした様子。

「うん、いきなり」

 マオが平然と返す。


「あまりにもセンスが無かったから、せめて創造スピードだけでもって思って、1回試しに圧縮率を気にせずに創造してみろって言ったら急にな。あの時はビックリし過ぎて頭がおかしくなりそうだった。まぁ圧縮率の事もあるが、試験で瞬間創造ソニックを見せたら夢図書館の上は黙っちゃいない……だから昨年、瑠垣に創造スピードが15秒を超えないように指示した。それからは、俺とマンツーマンでトレーニングして圧縮率17%を維持したまま3秒台の創造スピードが可能になった」

 岸田はコーヒーを飲みながら呟いた。


「……どうすれば司書にしてくれますか? ……瑠垣君が任務でいてくれれば戦力になります」

 前のめりになったユウキは岸田に質問をする。

「珍しいな、相川が固執するとは、やっぱり圧縮率だな最低でも40%は欲しい。そこで、お前らにミッションを与えよう。俺も協力するが、お前らの力で瑠垣の圧縮率を40%にしてみろ!お前らの転入に力を貸したのは、この為でもあるんだからな」

岸田は両手を組んだ。

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