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結果 2

(……生きている?)

 目を開けたユウキは何者かに抱きかかえられていた。

「よかった、間に合った。ユウキ、怪我はない?」

「まお?」

 ユウキの目の前に30cmほど伸びた髪を後ろで束ね、大人びた顔立ちになったマオの顔があった。

「立てる?」

 マオは少し低くなった声で優しく話した。

「うん」

 ユウキは頷いて立ち上がる。

「ただいま」

 マオは微笑んだ。

「おかえり」

 ユウキは頰を少し赤らめて返した。


「おい、あれ」

 頭を抑えながら起き上がった太郎はマオを見て驚く。

「ああ、どうやら出てこれたようだな」

 岸田は骨折し垂れ下がる左手を庇いながら起き上がる。

「マオ!!」

 マオの姿を見た晋二の目は潤む。

「あれが瑠垣か? デカくなってる」

 司はメガネを右手人差し指で持ち上げる。


「何があった? 瑠垣マオ。たった2週間で治る怪我ではなかったはずだ。それとその姿は?」

(今、何があった? どうやってあの結晶タイプを助けた?)

 エルは被っていたフードを脱ぎ、目の前に立つ隻腕で身長が5cm伸び、コートの左袖は肩から破れボロボロになった司書の制服姿のマオに問い掛ける。

「まぁ、色々と」

 マオはエルの方を向き、余裕を持った様子で答える。

「まあいい。俺は、お前に用があってここへ来た……」

(これで、あの時の感情がなんなのかが分かる)

 エルはボクシングのファイティングポーズを取る。

「こいよ」

 マオの目に力が入る。

「……」

 エルは膝を軽く曲げた刹那、マオを目掛けて猛スピードで動き出した。

瞬間創造ソニック

 マオは小さな声で呟いた。

「!?」

 マオは結晶で出来た背丈ほどの四角いシールドを創造し、エルの攻撃を防いだ。


「具現タイプの瑠垣が結晶タイプの創造やと!?」

 崩巌は目の前で起こった事に驚愕した。

「あぁ……あ」

 司は目を丸くする。

「瑠垣君の圧縮率が100%です!!」

 全員のインカムに学子からの通信が入る。

「!? なに、圧縮率が100%だと?」

 岸田は驚き声を荒げた。

「儂と同じ100%……」

(彼は一体、何者なんだ?)

 築は脇腹を抑えながら立ち上がった。


「少し見直した……」

 エルはマオの左横へ移動し右フックを放つ。

「……」

 マオはエルの動きを読んでいたかのように右斜め前へ移動して右フックを避ける。


「あいつ今、エルの攻撃をかわした!? 」

 雹丸は足を引きずって歩いていた。


(体を武器として創造され使用率をもつランクSが攻撃をする瞬間、空気中の夢粉ゆめの流れが変わる。その流れを読めばエルの動きを予測する事ができる)

 夢粉ゆめを可視できるようになったマオは、エルの人知を超えたスピードで繰り出されるパンチを紙一重でかわしていく。

「こいつ……」

(この反応。まさか、俺の動きを先読みしているのか?)

 エルは右ストレートを放つ。

(瞬間創造ソニック)

 マオはエルの放ったエネルギー弾を避け、右手にオートマチック式の装弾数7発、デザートイーグルを創造しエルに向けて全弾を撃ち込む。

「……」

 エルは右フックにエネルギーを乗せ7発の銃弾を全て消し飛ばす。

瞬間創造ソニック自動装填オートリロード

 マオはエルの右横へ回り込み4発を撃ち込む。

「!?」

 意表を突かれたエルは左腕にエネルギーをまとわせ銃弾をガードする。


瑠垣あいつ、単独で銃の創造を……しかもあれは、俺の自動装填オートリロード!? 一体何がどうなってるんだ?」

 岸田は目を丸くしてマオとエルの戦闘を見る。

「瑠垣君の具現タイプでの圧縮率が95%です」

 全員のインカムに学子から通信が入る。

「具現タイプで95%!? そんなバカな事が!!」

 司は学子に聞き返した。

「司くん、間違いないよ。瑠垣君のACMは正常に動いている」

 学子は冷静に返す。

「!?」

(わからない。目の前で起こっている事が理解できない)

 司は何も言えなくなった。


「おもしろい……」

 エルは口角を上げた。

「こっちは、攻撃をかわすので精一杯だよ」

 マオの息は少し上がっていた。

「少し本気でいくぞ……」

 エルはボクシングのファイティングポーズから少し膝を屈め動き出した。

「っく!」

(更に速くなった。夢粉ゆめの流れを読みきる前に攻撃がくる)

 マオは更に加速するエルのスピードに反応できず、懐に入られる。

「!!」

(瞬間創造ソニック)

 マオは結晶のシールドを創造しエルの左ジャブを防ぐ。

「まだだ……」

 エルはマオの左側に回り込み右ストレートを放つ。

「!? 瞬間創造ソニック

(くっ、間に合わない)

 マオの反射速度を超えたスピードで動くエルに創造途中のシールドは破られマオは5m 右方向へ地面を削るようにして飛ばされる。


「マオ!!」

 ユウキが叫ぶ。

「ユウキ、マオを信じよう」

(彼は狭間に入る時、ランクSから我々を守る存在になると言った。彼が狭間から出て来たとという事は、目標を達成したという事だ。儂たちは今のマオを信じるしかない)

 ユウキの横に立つ築は食い入るようにマオを見る。


「いてて。下が砂で助かった」

 マオは右手でコートを叩きながら起き上がった。

「これが、人間の限界なのかもしれない」

 マオは立ち尽くし冷静に呟いた。

「構えろ。俺と戦え!」

 エルはマオに向かって歩いてくる。

「……」

 マオは無言のままデザートイーグルを足元に捨てた。

「何のつもりだ?」

 エルは眉間にシワを寄せる。

瞬間創造ソニック夢粉ゆめを可視する目、圧縮率90%を超える具現タイプと100%の結晶タイプの創造、単独での銃の創造と自動装填オートリロード。これを以ってしてもランクSには遠く及ばない。だから俺は、一つの選択をした」

 マオの失った左肩を通すように、周りが黄緑色に光るparadoxパラドックスが出現する。

「!!」

(これだ!! この感覚だ。俺が前に感じた感情だ)

 額から一筋の汗を流しエルの動きが止まる。


「あの光は?」

 晋二はマオの左肩周辺に集まる黄緑色の光に目を丸くする。

「……マオの左腕が」

(あの黒いリング……見覚えがある)

 ユウキは指先から創造されていくマオの左腕を見て思わず言葉を発する。

 その場にいる全員の注目はマオの左腕に集まる。


「…………」

 左腕の創造を終えたマオの左肩からparadoxパラドックスが消えたように見えなくなる。

「腕を創造したところで丸腰のお前に何ができる?」

 エルはボクシングのファイティングポーズを取る。

「いくぞ」

 マオは左手を後方に引き低く構える。

「!? ぐッ?? ガァあああ!」

 マオが膝を曲げた刹那、砂煙と共に爆発的な加速をしてエルの懐に入り、左ストレートをエルの顔面に打ち込んだ。

(俺は今、何をされた? もしかして、殴られたのか?)

 地面を削るように30mを飛ばされたエルは顔を抑えながら起き上がった。

「!? ぐぅぅぅ」

(反応ができない)

 顎に右アッパーを受けたエルは更に後方へ吹き飛ばされる。

「はぁ、はぁ……」

 息を切らせながらエルは、無表情のまま上半身を起こした。

「これが、選択し導き出した結果。paradoxパラドックスシステム・フェイズ(ワン) 夢獣化ピエロかだ」

 マオはエルに左腕を見せつけるようにして、立ちはだかった。


「ランクSと同じ動き!?」

 太郎は呆然と呟く。

「いや、スピードだけならエルを上回ってる。もう訳がわからない。頭がおかしくなりそうだ」

 岸田は両手の銃を地面に落とす。


「くっ……」

(人間が、夢獣おれたちと同じ力を?)

 エルは奥歯を噛み締めながら立ち上がりマオの顔を目掛けて右ストレートを繰り出す。

「遅い」

 マオは夢粉ゆめの流れを読み、エルを上回るスピードで左ストレートを放ちエルの右拳を弾いた。

「……」

(!? こいつ、やはり俺の動きを読んで……)

 マオの攻撃を受けたエルの右腕には無数のヒビが入っていた。


「エルの腕にヒビが」

 司はエルの傷ついた右腕を見て喜びの声を出す。

「あれの腕はもう使えへん」

 崩巌は嬉しそうに頷く。


「ふぅーーー」

(まさか、ここまでとは。おもしろいぞ、瑠垣マオ……)

 エルは深呼吸をする。

「やっぱり、空気中の夢粉ゆめを取り込めるのか」

 マオはヒビが修復されていくエルの右腕を冷静に見る。


「あいつ、自分の傷を治せるのか?!」

 太郎は驚愕した。


「……」

 エルは無言のまま拳を構える。

「武装しろよ、エル」

 マオは見透かしたように話した。

「?!」

 エルの肩がピクリと反応する。

「今のお前じゃ俺には勝てない。それに、お前は本気で戦いたいんだろ?」

 マオはエルの目を見て話す。

「礼を言うぞ、瑠垣マオ。俺はやっと本気になれる…………武器を」

 エルは無表情だったがマオには少し笑っているよに見えた。

(わかった)

 エルの脳内にゴートの声が聞こえた。


「ボクシンググローブ?」

 築はエルの手元に不自然に出現した赤いボクシンググローブを見る。


「……」

 エルが両手にボクシンググローブをはめた瞬間、エルの体は青白い稲妻のようなエネルギーに包まれた。

「構えろ……」

 強烈なプレッシャーを放つエルは、ボクシングのファイティグポーズのまま言った。

「……」

 マオもファイティグポーズを取る。

 

 !!!!


 エルは今までとは比べ物にならないスピードでマオのボディー目掛け左ジャブを放つ。

「!!」

(スピードも威力もさっきまでの比じゃない)

 マオは右腕でブロックする。

「ぼけっとするな……」

 エルはすかさず左と右のコンビネーションパンチを繰り出す。

「速ッ!」

 マオはギリギリのところでかわし、エルのパンチに乗っていたエネルギーは後方の砂山を吹き飛ばす。



「まさか、こんな形でparadoxパラドックスを覚醒させるとは……完全に想定外だね」

 暗い空間の中でレイはタブレットでエルとマオの戦闘を見ていた。

「ゴート、密談チャットの準備を。今すぐ、エルを止める必要があるね」

 レイは右隣で立っているゴートに話し掛ける。

(わかった)

 ゴートはレイの脳内に直接返事をして、スプーンをチェスターコートのポケットから取り出した。


(エル、すぐに戻ってきて)

 エルの脳内にレイの声が聞こえる。

「うるさい」

 エルはレイを一蹴し、攻撃を続けた。



「武装したランクS……」

(動きが目で追えない)

 雹丸は愕然と肩を落とした。

「こんなレベルの差が……」

 崩巌はその場にヘナヘナと座り込んだ。


「……?」

(笑っている?)

 マオはエルの次々と繰り出される攻撃を避けながらエルの表情の変化に気がついた。

「……」

 無表情を貫いていたエルだったが、口角がはっきりと上がり瞳は輝きを増していた。

(瞬間創造ソニック)

 マオはエルの動きに反応し正面に結晶のシールドを創造する。

「こんなもの……」

 エルの右腕ストレートは圧縮率100%のシールドを簡単に破った。

「がはぁッ」

 エルの右腕ストレートが腹部に入りマオは膝をつく。

「立て……まだ、終わっていない」

 エルは純粋に戦いを楽しんでいた。

「…………」

(さすがに、武装するとフェイズ1では厳しいか)

 マオはゆらりと立ち上がった。


「そこまでです」

 エルとマオの間に強力なエネルギーをまとったナイフが投擲とうてきされ爆風を起こす。

「ぐっ!!」

 マオは左腕で砂が入らないように目を隠し爆風に耐えた。

「邪魔をするなシン!」

 エルは不機嫌そうにシンを睨む。

「今の貴方が、我々の邪魔をしているのですよ」

 シンは怒りの滲んだ表情でエルを睨み返す。

「……ッ」

 エルは不満そうに拳を下ろす。

「会うのは2回目ですね。瑠垣マオ君。私の名前はシン、工藤正輝君を使って、校内に大量の夢獣ピエロを放った犯人と言えば分かりますか? それかジュリビア帝国に4体の武装したランクAがいると匿名のメールを送った者、ではどうでしょう?」

 シンは清々しい笑顔で話した。


「あれがシン」

「あいつが、あのメールの送り主。あいつが……浦和と工藤を殺したのか……」

 岸田と雹丸はシンを睨みつける。

「…遥……」

 ユウキは泣き出しそうな声で呟いた。


「お前ぇ……」

 マオは怒りを剥き出しにして声を荒げる。

「そんな怖い顔をしないで下さい。今は、戦闘の意思はありませんので」

 シンはマオに一礼をしエルと共に姿を消す。

「待て!」

 マオは左手を伸ばすが空を切る。



「二度目だぞ……レイ、何のつもりだ?」

 暗い空間に戻ってきたエルの表情は怒りが滲んでいた。

「口を慎みなさい」

 シンはエルを一括した。

「何故、止めた?」

 エルはシンを無視してレイに問い掛ける。

「君は、戦いを止められた理由が分からないのかい?」

 レイはエルの目の前まで歩いてきた。

「?」

 エルは腑に落ちない様子。

「君との戦いの中で常に瑠垣マオには余裕があった。その証拠に、彼は自分の力を確かめるようにして戦っていた」

「なんだと?」

 レイが真剣な表情になるとエルは目を細める。

「武装をした君の力を含め、全てが想定の範囲内だったんだろうね。あの様子だと瑠垣マオは、まだ力を隠しているよ。そんな相手に無策のまま戦い続けるのは危険すぎる」

 レイは声を低くする。

「俺が負けるとでも?」

 エルは不満そうに問い掛ける。

「そこまでは言っていないよ。計画を練り直す必要があるだけ。まさか、paradoxパラドックスを媒介として左腕を武器として創造し、全身にその影響を与えるなんてね。彼が選択し導き出した結果は私の予想を遥かに超えていた」

 言葉とは裏腹にレイは楽しそうだった。

「わかった、ここは大人しくしておく。その代わり、瑠垣マオとは決着を付けさせろ……」

 エルはレイに背を向け歩き出す。

「勿論だよ…………フル」

 エルの背中を見送ったレイは、右側後方で大きな箱のような物に座っているフルに話し掛ける。

「なになにぃ〜?」

 フルはぴょこんと立ち上がった。

「瑠垣マオの力を割り出してくれないかな?」

 レイはフルに首を向けた。

「別にいいけど。時間が掛かるよ? いいの?」

 フルは不思議そうに首を傾げる。

「構わないよ。瑠垣マオの選択は我々と戦う力を得る事には成功したけど、答えからは遠ざかる結果になったからね」

 レイは意味深に笑う。

「あっ!! たしかに! 」

 納得し八重歯を見せながら笑ったフルは、万年筆と羊皮紙を取り出した。

「じゃあ、計算を始めるね」

 右手に万年筆を持ったフルの黒目は緑色に光った。

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