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敗北と決断 1

いつもありがとうございます!


 夢図書館高等専門学校、芝生の生えた中庭の校舎から死角になっている木陰で女子生徒が男子生徒に膝枕をしていた。


「剛くん、そろそろ昼休み終わるよ。起きて〜 起きろ〜」

 学生服を着たくせっ毛の黒髪短髪の男子生徒に、セイラー服姿の女子生徒が優しい声で呼び掛ける。

「うん? もぉ終わったのか?」

 剛と呼ばれた男子生徒は両目を擦りながら起き上がる。

「あっヨダレ」

 綺麗な艶の黒髪ロングの整った顔立ちの女子生徒は、優しく微笑みながら寝ぼけている剛の口元を淡いピンク色のハンカチでそっと拭いた。

「すまん。ありがとな麗花」

 麗花の行動で一気に目が覚めた様子の剛は照れたように笑う。

「いえいえ。それじゃ教室に戻ろう」

 麗花は2人分の弁当箱を小さなカバンに入れ、剛と麗花は寄り添うようして歩き出す。


「お! ラブラブカップルが戻ってきた」

 剛と麗花が教室に戻ると、金髪の筋肉質で大柄な男子生徒がニヤけた顔で2人の前まで歩いてくる。

れん、やめなよ。麗花と剛は付き合いだして、まだ1週間だよ。ラブラブなのは仕方ないないよ」

 茶色がかった長い髪を左右で三つ編みにし、大きな丸いメガネをかけた長身の女子生徒がれんに控えめな口調で話し掛ける。

「なんだよ、崩巌。せっかく俺とお前の親友同士が付き合ったんだ、盛り上げてやらねぇと!」

 れんは右腕に力こぶを作り笑顔で答える。

「もぉ〜」

 崩巌は両方の頰を不機嫌そうに膨らませた。

「雹丸、そういうのを余計なお世話だって言うんだ。麗花お前からも何か」

 剛は呆れ顔でれんを見た後に麗花の方を見る。


「ラブラブだって。どうしよう〜」

 麗花は顔を赤らめて嬉しそうにモジモジとしており、周りの話を全く聞いていない様子だった。

「ダメだコイツ」

 剛は麗花のニヤけた笑顔を見て諦めたように呟いた。

「麗花、戻って来〜い!」

 崩巌は麗花の顔の前で右手を左右に小さく振る。

「あ! 雫、ただいま」

 麗花は満面の笑みで崩巌に右手を振り返す。

「麗花からも何か言った方がいいよ。れんが調子に乗っちゃう」

 雫はれんを右手で指差した。

「私は、嫌じゃないよ。だって、れんも雫も私の大切な友達だもん」

 麗花は微笑んだ。

「だってよ! やっぱり麗花は俺の気持ちを分かってる!! 俺は岸田と麗花の仲を応援してるんだ! 俺の名前は恋愛のれんだ! 恋のキューピットだぜぇ!」

 れんは弓矢を引くような仕草をした。

「もぉ〜 言ったそばから調子に乗って」

 雫は再び頰を膨らませる。

「ぶっふ、あはははははは」

 突然、剛が吹き出して大笑いを始めた。

「ちょっと、何がおかしいのかな?」

 雫が不機嫌そうに剛の前に立つ。

「悪い悪い。俺たち本当に仲が良くなったなって。去年までは、まともに話した事もなかったからさ」

 剛は呼吸を落ち着かせてから話した。

「そういえばそうだな。時間が経つのは早い」

 れんは両腕を組んで頷いた。

「うん。そう考えると、ここに登校するのも後2週間だね」

 雫は教室の窓から外を眺めた。

「4月からは本部で2年間の研修生活、それが終われば遂に司書になれるね」

 麗花は両手を胸の前で軽く握った。



 学校から学生寮までの帰り道、剛と麗花は肩と肩が触れそうな距離を保って歩いていた。

「また、飛び級を断ったのか?」

 剛が右隣を歩いている麗花に何気なく話し掛ける。

「!? やっぱり剛くんには隠し事ができないね」

 少しビックリした様子の麗花はバツに悪そうな顔をした。

「お前が進路指導室に呼び出される時は、間違いなく飛び級関係の話だからな」

 剛は前を向いたまま冷静に話した。

「うん。私は剛くん、雫、れんの3人と一緒に司書になりたいの。私を特別扱いせず、私の事をしっかりと見ていてくれた3人が大切で大好きだから!」

 麗花は必死に思いを告げる。

「わかってるよ。麗花は天然で抜けまくってて、こうと決めたら梃子てこでも動かない頑固なところがあるけど。それは全て自分よりも他人を優先してしまう程の優しさがあるからだ。俺はそんな麗花に惹かれたんだ」

(絶対に俺は麗花に追いついてみせる。誰にも麗花の隣は譲らない)

 剛は優しい笑顔で麗花の方を向いた。

「剛くん……」

 顔を真っ赤にさせた麗花は、恥ずかしそうに下を向く。


 五島麗花 日本で2番目に確認された、結晶タイプの創造ができる天才少女であり、司書として飛び抜けた才能を持ち夢図書館高等専門学校を歴代最高の成績で卒業した。



 剛たちが夢図書館高等専門学校を卒業して2年後。


「五島麗花、貴女を夢図書館司書長に任命する。より一層の活躍を期待する」

 夢図書館の構成員1000人が集まった巨大なホールの壇上で、麗花はダークスーツを着た男から辞令書を受け取る。

 若干24歳にして武装したランクAの討伐をした麗花は史上最年少で司書長に任命された。



 麗花の司書長任命から更に2年後。


「あ〜 くそっ!! やっぱりできねぇ!! どうしてもシリンダーに部品が残っちまう!」

 夢図書館の格技場でコンバットマグナムを右手に持った剛は地団駄を踏んだ。

「やっぱりここにいた! ただいま、剛くん!」

 泥まみれになった司書長の制服姿の麗花が格技場に入る。

「麗花、おかえり。任務はどうだった?」

 剛は後方に振り向き麗花の顔を見て微笑む。

「怪我人も出ずに終わったよ」

 麗花は満面の笑みを浮かべる。

「そうか。今度はいつまでいるんだ?」

 剛はコンバットマグナムのシリンダーから銃弾の残骸を取り出した。

「6日後には出発かな。次の作戦はかなり大掛かりな作戦だからね」

 麗花は少し残念そうに答えた。

「たしか、武装したランクAの目撃情報があったスイスのエッシネン湖か」

 剛はコンバットマグナムを眺めながら話す。

「うん、今度の作戦はランクAの研究サンプル確保の為、討伐じゃなくて生け捕りだからね。研究者と司書の17人のチームが編成される事になったんだ…………ねえ、剛くん」

 麗花は剛の質問に答えてから少し間を置いて、口をゆっくりと開いた。

「なんだ?」

 剛は麗花の方に首を向けて聞き返す。


「結婚しよう……」

 顔を真っ赤にさせた麗花が意を決したように話した。


「がっ!?」

 突然のプロポーズに剛の動きが止まった。

「私、学生の時から剛くんしかいないって思ってたから」

 麗花は上目遣いで剛を見つめる。

「……待って……待ってくれ」

 動揺した剛は顔を真っ赤にさせた。

「ダメなの……」

 麗花の瞳が潤みだす。

「違う!! 俺は麗花が好きだ。世界で1番大好きで愛してる。だけど、俺は麗花よりも弱い! 今の実力では、胸を張ってお前の隣に立てない! だから、少し待ってくれ。俺の考えた自動装填オートリロードって技術が完成すれば武装したランクAにも絶対に負けない! 俺がお前と同じ場所に立てる男になったら、その時は俺からお前にプロポーズする!!」

 剛は目に涙を浮かべながら心の内を話した。

「うん、待ってる。私はいつまでも待ってるよ」

 麗花は縦に頷き一筋の涙を流した。


 6日後、麗花は17人のチームを率いてスイスに飛び立った。


 麗花がスイスに到着してから3日後、夢図書館に最悪なニュースが入った。

 任務の失敗と作戦チーム17人の行方不明、唯一発見された五島麗花は、胸と両方の肘と膝を銃弾のような物で撃ち抜かれ死亡した。


「麗花ぁ!!! 待ってるって……待ってるって言ったじゃないかぁーーーー!」

 剛は麗花の亡骸が横たわるベットに顔を押し付けて泣き崩れる。

「いや……なんで麗花が……」

 雫は麗花の変わり果てた姿を見て膝から崩れ落ちる。

「おぉぉぉ!! 麗花ぁ!!」

 れんは扉の前で泣き崩れた。



「うぅ……?」

 夢図書館医務室のベットの上で岸田は意識を取り戻した。

「夢か……ッッッ」

 目を開けた岸田の胸に激痛が走った。

(そうだ、俺はあの夢獣ピエロに……)

 岸田は鈍い痛みに耐えて体を起こす。

「よお」

 ベットの左隣で頭に包帯を巻いた雹丸が丸椅子に座っていた。

「俺はどのくらい寝ていた?」

 岸田は雹丸の顔を見ながら問い掛けた。

「3日だ。怪我は大したことないないが、今は安静にした方がいい」

 雹丸は優しい声で答える。

「お前らは大丈夫なのか?」

 岸田は心配そうに話す。

「ああ。俺と崩巌は昨日、目が覚めてピンピンしてるぞ!」

 雹丸は右腕に力こぶを作った。

「よかった……そうだ!! あの夢獣ピエロは!? 鈴木や瑠垣たちは無事か」

 岸田は慌てた様子で表情を変える。

「総館長が駆けつけてくれて、あの夢獣ピエロを追い払った。全員生きているよ」

 雹丸は少し声のトーンを落す。

「そうか、築さんが」

 岸田は納得したように頷く。

「岸田、落ち着いて聞いてくれ」

「剛、よかったわぁ。目が覚めたんやなぁ!」

 雹丸が話し始めるのと同時に、医務室に入った崩巌は岸田の顔を見るなり白い歯を見せて笑った。

「本当にピンピンしてるな」

 岸田は安心した様子で右隣の丸椅子に座る崩巌を見た。

「すまん。雹丸、それで?」

 岸田は雹丸の方へと向き直す。

「落ち着いて聞いてくれ。全員生きていると言ったが、瑠垣マオが瀕死の重症だ」

 

 !?!!


「くッ!!!」

 岸田はベットから飛び出した。

「岸田、どこへ行くつもりだ?」

 雹丸は強い口調で話した。

「決まってるだろ! 瑠垣の所だ!」

 怒鳴り口調の岸田は早歩きで医務室を出た。

「たく、あいつは自分も怪我人なのに」

 雹丸は呆れた様子で丸椅子から立ち上がる。

「意外と元気やったなぁ」

 崩巌も立ち上がり、雹丸と2人で岸田の後を追いかける。


「瑠垣……」

 岸田はガラス張りのICU(集中治療室)のベットで横たわり、身体中を管で繋がれたマオを見て立ち尽くす。

「出血が多かったせいで、このまま目を覚まさない可能性がある。もし、目を覚ましても脳に後遺症が残るかもしれない」

 岸田の左隣に立った雹丸が悔しそうに話した。

「そうか……」

 岸田はマオを見たまま答える。

「仮に目を覚まし奇跡的に後遺症がなかったとしても、司書として今以上の活躍は期待できない。瑠垣は利き腕である左腕を失った」

 雹丸は目線を左下に外した。

「俺たちが付いていながら……」

 岸田は下唇を力一杯に噛む。


「アホかぁ!!」

 岸田と雹丸の背後に立った崩巌は、2人の頭を思いっきり叩いた。

「痛っ!?」

「いっつ!?」

 岸田と雹丸は頭を抑えながら振り向く。

「お前ら、アホちゃうか? 相川ちゃんが見えへんのかぁ?」

 崩巌は目線を右奥へ移動させた。

「相川……」

 岸田が崩巌の目線を追うと、ICUの壁に両手を当て床に座り込んで項垂れるユウキの姿があった。

「すまない」

 雹丸は申し訳なさそうに頭を掻く。

「相川」

「…………」

 岸田はユウキに話し掛けるが全く反応が無かった。

「一昨日からあんなやて。話し掛けても反応あらへんし、ご飯も食べへん」

 崩巌は心配そうにユウキを見る。

「相川、瑠垣に何があった?」

「!? …………」

 ユウキは岸田の言葉に肩を少し動かした。


「……私のせいなんです。私がマオに怪我をさせて……」

 ユウキは涙声で口を開いた。

「辛いと思うが話してくれるか?」

 岸田はユウキの目の前にしゃがみ込み努めて冷静に話した。

「……はい」

 ユウキはゆっくりと首を縦に振る。



「そんな事が……」

 岸田はマオとエルの戦闘の事、ユウキがマオに重傷を負わせるきっかけを作ってしまった事を聞き、次に掛ける言葉を見つけられず目線を下に落としてしまう。


 ♬〜♬〜


 突然、雹丸の創造免許証が着信を知らせる。

「はい、了解しました。今すぐ向かいます」

 雹丸は通話を終え創造免許証をズボンのポケットにしまった。

「総館長からだ。俺と岸田、崩巌の3人は総館長室に来いとさ」

 雹丸は岸田と崩巌の方を見て話した。

「相川、今は休め。瑠垣が目を覚ました時に側にいてやる為にも、今はしっかり食べて休んでおけ」

 岸田はユウキの右肩にそっと手を置いた。

「……はい」

 ユウキは力無く立ち上がりトボトボと歩いて行く。

「さすが、先生やなぁ」

 崩巌は感心したように話た。

「元先生な。それと相川の事は、昔から見てきたからな」

 岸田は立ち上がった。

 

 3人の司書長は総館長室に向かって歩き出した。




 鈴木班作戦会議室は長い沈黙をしていた。


「……」

 太郎は椅子に座り両手を見つめたまま動こうとしない。

「……」

 司はソファーに座り右手で頭を抑えていた。

「……」

 晋二は司と向かい合うようにソファーに座り両手を膝の上に置いて止まっていた。

「……」

 学子はソファーの近くにあるオフィス机に座り下を向いていた。


「俺、班長失格だな」

 太郎がおもむろに口を開く。

「…………」

 太郎が話しても周りの反応は無かった。

「俺、動けなかった。瑠垣を助けなきゃって思ったけど、体が震えて動かなかった。相川が瑠垣を助けに行った時も……俺は怖くて動けなかった……本当に最低だな」

 太郎は下を向いたまま話した。

「俺、学校の事件で友達を2人も失っているんです。もう二度、友達を失いたくない。次は俺が守るって自分に誓ったのに……俺は目の前で苦しんでいるマオを助けに行く事すらできなかった。最低野郎だ!」

 晋二は涙声で叫んだ。

「私、何もサポートする事ができなかった……何が研究者よ……肝心な時に何も分からなくて。泣いている事しかできなかった……」

 学子は自分を卑下するように静かに話した。

「お前ら、仕方ないだろ!!! あんな化け物とどうやって戦えって言うんだ!? 相川の結晶を素手で壊すような奴だぞ! 総館長が来なかったら俺たちは全員殺されていたんだ!」

 司は声を荒げた。

「…………」

 再び室内は沈黙する。

「!?ッッ」

 司は部屋の扉を乱暴に締めて外へと出た。



「失礼します」

 岸田は扉を開けて総館長室へと入った。

「よし、来たな」

 縦30m 横80m 天井の高さが15mある広い室内の壁には所狭しと本が並べてあり、部屋の中心に置かれた机に座った総館長の相川 築が右手を挙げて岸田たちを迎え入れる。

 築の机の前に岸田、雹丸、崩巌の順番で横並びに立った。


「悪いな剛、目が覚めたばかりなのに」

 築は岸田を心配そうに見る。

「これぐらいなら大丈夫ですよ。でっ、そこでうずくまっている副総館長は?」

 岸田は築の机の前で蹲り震えている竹宮を退屈そうに見た。

「終わりだ。もう、おしまいだ。我々は夢獣ピエロに滅ぼされるんだ」

 竹宮はガタガタと震えながら話した。

「竹宮、テメェいつまでそうしているつもりだ?」

 築は椅子に座ったまま低い声を出す。

「はッ、はい!」

 竹宮は勢いよく立ち上がった。

「副総館長なら、もっとドッシリ構えろ」

 築は竹宮を一括する。

「申し訳ありません」

 竹宮は頭を下げる。


「君たちを急に呼び出した理由は、今回の未知の夢獣(アンノーン)について儂が掴んだ情報をつなげる為だ」

 築は真剣な表情で話した。

未知の夢獣(アンノーン)についての情報!?」

 雹丸は驚きから右足を半歩前に出した。

「そうだ、儂も偶然に得た情報だった。だが、その情報を掴んだからこそ、鈴木班の松下が全司書長に向けて出した応援要請を見てジュリビア帝国へ向かう事を判断できた」

「4体の武装したランクAに対し3人の司書長が動けば事態は簡単に解決するのに何故、総館長がジュリビア帝国に来たのか疑問に思っていました」

 築の話を雹丸は納得したように頷いた。


「ああ、司書長の中でもトップクラスの実力を誇る君たち3人が動いた時点で、誰もジュリビア帝国へ向かおうとは考えない。だが今回は状況が違った。まず、儂がどうやってその情報を掴んだかを話さないといけないな。儂が3月14日から任務に行っていたのは知ってるだろ?」

 築は3cmほどのA4サイズの書類の束を机に置いた。

「ええ」

 崩巌が頷く。

「任務内容は、集団行動を取るランクCの群れがアメリカのアリゾナ州で目撃され、その実情を調べる事だった。自我を持たないランクCやランクB、狂暴鬼バーサクオーガは他の夢獣ピエロとの協力を一切せず本能のままに人間を襲う。集団行動などもってのほかだと考えられたいた。その為、まず作戦チームは2つの仮説を立てた。1つ目の仮説は、動物の脳の構造を完璧に解き明かした人間が現れ創造を行った事。2つ目の仮説は、夢獣ピエロを統率する事のできる夢獣ピエロが現れた事」

 築は書類の束を右手で持ちながら話した。

夢獣ピエロを統率する夢獣ピエロ……まさか!?」

 岸田は顎に右手を当てた。

「そうだ。君たちの戦ったエル、つまり未知の夢獣(アンノーン)はA、B、Cランクの夢獣ピエロを統率する事が出る。儂はこれをランクSの夢獣ピエロと位置付けた。更に、厄介やっかいな事に圧縮率90%を超えるランクSは、殺戮さつりくと破壊を目的として創造され、全身が武器である可能性が高い。その証拠にランクSの人知を超えた身体能力と夢粉ゆめエネルギーを使っての攻撃は、奴らの体そのものに100%の使用率が存在して事を証明している」

 築は厳しい表情で話した。

「ランクS」

 雹丸の表情が暗くなる。

「しかも、ランクSは1体だけじゃない」

 築は奥歯を噛み締めた。

「儂は、夢図書館アメリカ支部と協力して集団行動を取るランクCを捜索をした。そして、グランドキャニオンで50体のランクCの群れと1体のランクSに遭遇した。そのランクSは身長2mを優に超える大男で、ランクCの群れに命令を出して意のままに操り、儂の多重結界シェルターをたった2発のパンチで破壊した」

 築は努めて冷静に気を落ち着かせて話した。


「…………」

 その場は沈黙し空気が一気に重くなる。


「ですがエルは、築さんの多重結界シェルターを破壊できなかったって聞きましたが」

 4秒ほどの沈黙の後、岸田が口を開く。

「ランクSは個体によって持っている能力が違う可能性がある。グランドキャニオンで遭遇したランクSは、エルよりも動きがかなり遅かったが、拳に集まるエネルギーの量はエルの比ではなかった。情報はそれだけじゃない、奴らは独自の移動方法と意思疎通を行う手段があるようだ。エルと儂の見たランクSは共通して何か会話をするような独り言を発した後、一瞬にして目の前から消えている」

「それって、瑠垣が言ってたのと」

 築の話を聞いた崩巌は何かを思い出したかのように口を開く。

「ああ、瑠垣はジュリビア城にいたシンと思われる男が一瞬にして消えたと話していた」

(今まで不可解だった事が繋がってきたぞ)

 岸田が崩巌の方を見て話す。

「ここ最近の任務報告書を見せてもらったよ。そこに出てきているシンという男もランクSと関わりがあると見て間違いない。それから、校内に突如大量発生したランクC、voiceの武器と夢獣ピエロの運搬方法の痕跡の存在しない事、消えた250人のジュリビア帝国自衛軍員と地下の研究施設、それを管理していたDr.ジーク。そして、目の前の人間を無視して他の人間を襲うランクC。これらの謎は全てランクSが関わっているはずだ」

 築は持っていた書類を机に叩きつけてた。


「最後に瑠垣マオの事だ」

 築は立ち上がった。

「報告書を見て驚いたよ。彼には類い稀な才能があるようだな」

 築は力強い目で岸田を見た。

「はい」

(まさか、瑠垣を実験のモルモットに?!)

 岸田は複雑な表情で返事をした。

「なるほど、お前がそんな顔をするんだから瑠垣マオの才能は本物か……」

 築は下を向いて考え込む。

「瑠垣は現在、生と死の境目にいます。もし目を覚ませても、あの大怪我では少なくとも1年半は動けないと思います」

 岸田は必死になって訴える。

「決めた。瑠垣マオの治療とリハビリに()()を使う」

 築は顔を上げ覚悟を決めたように口を開いた

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