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未知の夢獣(アンノーン)

「瑠垣が……単独で武装したランクAを……」

 崩巌が何気なく発した一言で太郎は今まで受けた事がない程の衝撃を感じた。

「それじゃマオは司書長と……」

 晋二も驚愕し思わず口を開いたが、最後まで言い終わる前に口を閉じる。

「それは考えにくいです」

 司は右手人差し指でメガネを持ち上げた。

「瑠垣はこのジュリビア帝国に来てから、たった数日で圧縮率を大幅に上げています。同じ武器でランクCを400体以上は切っていたと思いますが、武器は壊れていませんでした」

 司は額に汗を浮かべながら話した。

「なんだと?」

 岸田は眉間にシワを寄せる。

「たしかに瑠垣の圧縮率は上がっていると思うんですけど、ランクCとの戦闘後の武器の損傷状態から見ても、圧縮率は高くて50%ぐらいだと思います」

 太郎は動揺しつつも岸田の方を見て話す。

「この日本刀はマオのではないです。マオが創造する日本刀はこれよりも刀身が少し細く長さも3cmほど長いです」

 晋二は落ちていた様子で太刀を凝視しする。

「おい! お前ら、よく考えてみろ! 司書になってたった1ヶ月でランクAを単独で? あの五島麗花さんだって」

「いい加減にしろ!!」

 太郎と晋二に声を荒げて反論する司に雹丸は一喝する。

「今は瑠垣が単独でランクAを討伐したかどうかなんてどうでもいい、この血が見えないのか? 瑠垣は負傷しているんだぞ! 早く見つけ出して手当をする事と妨害電波を出しているアンテナを捜索する事が最優先事項だ! 瑠垣の事は本部に帰ってからじっくり話し合えばいい!」

 雹丸は強く厳しい口調で話した。

「……」

「……」

 太郎と晋二は下を向く。

「すみませんでした……」

 司は落ち着きを取り戻した様子で、その場にいる全員に頭を下げた。

「まぁ勉強やで」

 崩巌は司の右肩をポンッと叩き優しい口調で話す。

「すみません」

 司は申し訳なさそうに俯く。


「見たところ1階はこのだだっ広いフロアーだけか。城の2階に上がったら俺と鈴木で瑠垣を探す。雹丸たちはアンテナを探してくれ」

 岸田は若干早口になりつつも全員に指示を出す。

「わかった」

 雹丸は力強く頷く。

「OKやで〜」

 崩巌は右手でOKサインを作る。

「いくぞ」

(2日で圧縮率を? 瑠垣あいつは何者なんだ……)

 岸田を先頭に全員は城内の更に奥へと走り出す。



「はぁ〜 ここもスッキリしましたねぇ〜」

 ジュリビア城の地下室、薄暗く巨大な空間に所狭しと並べられていた夢獣ピエロを保存する為の檻と研究に使う機器類は全て地下室から消失しており、何も無い殺風景な室内でDr.ジークは椅子に座りながら両手を大きく伸ばしていた。

「おや、既に引越しは終わっていましたか。仕事が早いですね」

「シンさん〜 あれ? 何故そんなに汚れているんですかぁ?」

 後方から薄っすらと笑みを浮かべ歩いてくる返り血まみれのシンを、Dr.ジークは椅子を回転させて興味深そうに見上げる。

「不要な物を廃棄処分してきました」

 シンは血で汚れていない左手でメガネを持ち上げる。

「あぁ〜 怖い怖い。利用価値が無くなれば廃棄ですか、シンさんらしいですね」

 Dr.ジークは意味深に笑う。

「ええ、ですがこの国はよく働いてくれました。お陰でこんなにも()()()が集まりました」

 シンは冷たい表情で右方向に視線を移す。

「ぱっと見200人以上はいますねぇ」

 Dr.ジークはシンと同じ方向へ首を向ける。


 シンとDr.ジークの視線の先にはジュリビア帝国自衛軍の男女合計250人が綺麗に10列横隊で並んでいた。


「では、そろそろ戻りましょう」

 シンはDr.ジークに背を向けながら話す。

「あれぇ? エルさんはどうしたんですかぁ? 一緒にいましたよねぇ?」

 Dr.ジークはゆっくりと首を傾げる。

「エルも瑠垣マオ君に興味を持ったようです。彼の好きにさせましょう。それとジャミングシステムを停止させて下さい」

 シンは左手人差し指でメガネを持ち上げる。

「たしかに彼は興味深いですからねぇ、まさかチェトィリエが倒されるとは…… えっ?! ジャミングシステムをなんですってぇ!?」

 Dr.ジークは驚きのあまり座っていた椅子から飛び上がり地面へと転げ落ちた。

「ええ、今回の一件で夢図書館は良い働きをしてくれました。私からのご褒美です」

 シンは優しく微笑む。

「優しいのが逆に怖いですねぇ〜 わかりましたぁ」

 椅子に座りなおしたDr.ジークはクレジットカードと同じ大きさの端末をスウェットのズボンから取り出して操作した。

「では、戻りましょう我々の楽園へ」

 シンの一言で、その場にいるDr.ジークを含む人間とシンは地下室から一瞬にして消えた。



「階段を上ったら、さっき言った通り二手に分かれるぞ」

 岸田を先頭にジュリビア城1階を走り進める6人は2階へと続く階段の目の前まで辿り着いた。

「瑠垣だ!!」

 太郎の視界に目の前の階段から歩いてくるマオの姿が映った。

「え? 司書長!?」

 マオは前方から走ってくる岸田たち司書長を見て驚き歩みを止める。

「マオ!!」

 晋二は走りながらマオに右手を振る。

「みんな無事でよかった」

 晋二たちの顔を見て安心したマオは小声で話すと階段を走って下りた。

「瑠垣、その傷は?」

 司はマオの右胸に斜めに入った20cmほどの痛々しい傷を見る。

「城内にいたランクAと交戦になりまして、この傷はその時に…ですがランクAは何とか倒す事ができました」

 司の質問にマオは苦笑いを浮かべて答える。

「単独でか?」

 雹丸は目を丸くしてマオに話し掛ける。

「はい」

 マオは平然と答えた。

「そうか……」

(俺たちでも8年かかったランクAの単独討伐を……)

 雹丸は引きつった笑顔で返す。

「!?」

 マオの一言で太郎、司の表情が凍りつく。

「…………」

(やっぱり、マオは既に司書長たちと同じ領域に立っているのか)

 晋二はマオの顔を誇らしげに見ていた。


「なぁ剛」

 崩巌は周りに聞こえないように岸田に耳打ちをする。

「なんだ?」

 岸田は少し後方に距離を取って小声で返す。

「16才でランクA倒すって聞いた事あらへんで。ほんまに学校で落ちこぼれだったんか?」

 崩巌は興味津々な様子で岸田に耳打ちをする。

「ああ、お世辞にも瑠垣の成績は良いとは言えなかった。俺が去年の8月に退学勧告をした程にな」

「はぁ? 退学!?」

 岸田の話で崩巌は拍子抜けした様子。

「俺も正直驚いている。潜在能力は高いと思っていたが、この成長速度は異常だ」

 岸田は深刻そうな顔で話す。


「聞こえますか!?」

 突然インカムから本部にいるはずの学子の声が聞こえ、その場にいる全員はインカムを手で押さえる。


「学子?!」

 太郎が学子の声にいち早く反応する。

「太郎くん?! よかった無事だったんだね。みんなは?」

 太郎の声を聞いた学子は慌てた様子で問い掛ける。

「みんな無事だぞ!」

「よかった、よかったよぉ〜」

 太郎から鈴木班の無事を聞いた学子は泣き出しそうな声で安堵する。

「松下か?」

 岸田は右耳のインカムを右手で抑える。

「岸田司書長、アンテナを破壊できたんですね! 妨害電波の発生が止まりましたよ」

 学子はいつも通りの口調に戻った。

「いや、俺たちはまだアンテナを発見できていない。瑠垣、お前がアンテナを破壊したのか?」

 岸田は先に城内に入ったマオを見て質問する。

「いえ、俺もまだ見つけていません」

 マオは目を丸くして答える。

「なんだと……」

(あの匿名のメールといい。この国で何が起こっていた)

 岸田は呆然と立ち尽くす。



 その後、夢図書館から到着したオペレーター80人と合流した戸田が、城内を捜索しジュリビア帝国皇帝のマルス・ジュリビア4世とその側近、メイドと執事を含む51人の無残に切り裂かれた死体が発見され、ジュリビア城に駐在していた自衛軍250人とDr.ジークは原因不明の行方不明、地下の研究室は空になっていた。



 マオたちは皇都の自衛軍拠点へと戻ってきた。


「みんな!!」

 マオたちが拠点内の作戦会議室に入ると、ユウキが涙声で走ってくる。

「ユウキ、怪我は大丈夫なの?」

 マオは心配した様子で目の前の潤んだ瞳のユウキを見る。

「……私はもう大丈夫、それよりもマオひどい怪我」

 ユウキはマオの傷ついた胸を見て青ざめる。

「よかった。俺も大丈夫! 手当してもらってくるよ」

 マオは拠点内にいる医師に連れられ医務室へ向かう。


「すみません、遅くなりました」

「来たな、座れ」

 手当を終え上半身に包帯を巻きコートを羽織ったマオが作戦会議室へ戻ると、前方のホワイトボード前に立っていた岸田が目の前の

スクール型に並んだ机を指差す。

「失礼します」

 マオは既に岸田以外の5人が1列に座っている机の右端、晋二の隣に座る。

「大体の事は戸田と相川から聞いている。今回の作戦は俺の想定が甘かった事が原因で、お前らを危険な目に合わせた。本当に申し訳ない」

 岸田は深々と頭を下げる。

「イヤイヤイヤ、やめて下さいよ!」

 太郎は慌てて右手を左右に振る。

「いえそんな……」

 司は岸田の行動に呆気に取られる。

「そうですよ、頭を上げて下さい」

 晋二は慌てて立ち上がる。

「……」

「……」

 マオとユウキは驚愕のあまり何も言えなかった。


「そうか、ならいいや! お前ら死んでないからな!!」

 ニヤケ顔の岸田はケロっとした様子で頭を上げる。

「……」

 鈴木班の5人は目を点にした。


「ふふ」

(変わらないな岸田あいつは、鈴木班の無事を知る前までは自分の事をあんなに責めていたのにな)

 左端に座る雹丸は岸田を見て微笑んだ。

「にひひぃ」

(自分の非を認め部下であっても平気で頭下げる。せやから剛は信頼されんねやなぁ)

 雹丸の右隣に座る崩巌は悪戯いたずらな笑みを浮かべた。

「何か言いたい事がありそうだな」

 岸田は雹丸と崩巌を見て低い声を出す。

「なんでもないよ」

「気にせんといてやぁ」

 雹丸と崩巌はニヤケ顔で返す。

「ふっそうか」

 岸田は下を向いて笑う。


「んじゃ、これからの予定を話すぞ。まず俺たち司書は本部に帰還し、オペレーターが現在行っているジュリビア帝国全域の捜査結果を待つ。これは俺の憶測ではあるがジュリビア帝国は何者かにめられた、そいつをなんとしてでも見つけ出す」

 岸田は真剣な表情で話す。

「その何者かに心当たりがあります」

 マオはおもむろに口を開く。

「!?」

 その場にいる全員の視線がマオに集まった。

「城の中でシンと思われる男と遭遇しました」

 マオは冷静にはっきりと発言する。


「…………」

 マオの発言で会議室内は沈黙する。


狂暴鬼バーサクオーガの一件で神谷梨加に接触しフェイクカードを渡した男か。たしかにジュリビア帝国との関係が深いと見ているが……」

 5秒間の沈黙の後、岸田は右手を顎に当てながら口を開いた。

「シンって岸田が話していた男か?」

「たしか、ここに来る途中の飛行機ん中で話してたなぁ」

 雹丸と崩巌は上下に小さく首を振った。

「瑠垣の見間違いじゃないのか?」

 冷や汗を浮かべた太郎がマオに質問する。

「長身の金髪でメガネ、身体的な特徴が一致しています。ですがそれ以上に、その男が持っている雰囲気に違和感を感じました。今まで見てきたどんな存在よりも異質で不気味で。しかも、その男がマルス・ジュリビア4世を殺害し、一瞬で目の前から消えました」

 マオは怯えたように話した。

「消えた?」

 雹丸が眉間にシワを寄せてマオに問い掛ける。

「はい、目を離したわけではなかったのですが突然消えたんです。本当に何がなんだか」

 マオは深刻な表情で答える。


「なるほどな……」

(城内で見つかった51人の死体はシンに? そうなると行方不明になった250人の自衛軍はどこへ? そもそもシンという男はなんなんだ? くそっ! 情報が無さ過ぎる……)

 努めて冷静にしている岸田は悔しそうに下唇を噛む。

「岸田、ここで時間を使って考えるよりも本部に戻ってオペレーターの捜査結果を待った方が得策だ」

 雹丸は焦る岸田を諭すように話し掛けた。

「そうだな、研究者を交えて情報交換をする必要がある」

 岸田は少し落ち着いた様子で目線を下げる。



 マオたちは夢図書館本部へ帰還する為に、司書長の3人が乗ってきたステルス機に向かうべく、皇都から10km 離れた平原を8人乗りの軍用ジープで移動していた。


「…………」

 得体の知れない敵の存在に車内は沈黙を保っている。

「なんだあれ?」

 軍用ジープを運転する司は前方を見て目を細める。

「……人?」

 助手席に座るユウキは目を凝らして300mほど前にある小さな人影を発見する。


「この反応は!!」

 本部メインモニター室にいる学子はパソコンの画面を見て青ざめる。


「みんな気をつけて!!!」

 車内全員のインカムに学子の叫び声が聞こえた。

「うるさっ! どうした学子」

 3列シート2列目の真ん中に座る太郎は急に大声を出した学子を怒ろうと思ったが、学子の尋常ではない様子に声が尻すぼみになっていく。

「前方に夢獣ピエロと思われる反応が」

 学子は怯えたように話す。

「なに!? あれはランクAか?」

 太郎は前方の人影を見ながら話す。

「車を止めろ!」

 太郎の後方に座る岸田は軍用ジープを止めさせる。


 軍用ジープが急停車すると中にいたマオたちは一斉に外へ出た。


「岸田、あのメールには4体の武装したランクAって書いてあったんだろ?」

 雹丸は4mの大矛を創造し右肩で担いだ。

「ああ、間違いなく4体と書いてあった」

 岸田は右手にコンバットマグナム、左手にコルト・アナコンダを創造しながら答える。

「別にええやろ、見たところ敵は1体やからなぁ」

 両手にトンファーを創造した崩巌はファイティングポーズを取る。


 マオたちの100m 前方から、ベリーショートの燃えるような赤い髪に異常なほど白い肌、色褪いろあせたダメージジーンズに、正面のジップが半分ほど開いた袖の無いグレーのパーカーを着た長身の男がゆっくりと歩いてくる。


「気をつけて下さい! 前方から近付いてくる夢獣ピエロはどのランクにも該当しない未知の夢獣(アンノーン)です」

(voiceが在庫室と呼んでいた製薬会社研究施設で見た反応に似ている)

 学子は恐怖から震えた声で話す。

「だってよ、どうする岸田」

 雹丸は大矛を両手で構えながら岸田に話し掛ける。

「見た目はランクA、武装はしていないな」

 岸田は緊張した面持ちでコンバットマグナムを自身の顔の近くまで持ち上げる。

「せやったら3人で一気にるしかあらへんなぁ」

 崩巌はトンファーを握る両手に力を入れた。

「お前らはここにいろ、あの夢獣ピエロは司書長の3人で対処する」

 岸田を先頭に3人の司書長は未知の夢獣(アンノーン)に向かって歩き出す。


「瑠垣マオ……」

 司書長との距離が20mほどに縮まったタイミングで、未知の夢獣(アンノーン)はゆっくりと口を開く。

「俺?」

(この夢獣ピエロ、皇室で見た男と雰囲気が似ている)

 マオは未知の夢獣(アンノーン)が自分の名前を知っている事に困惑する。

「俺はエル。瑠垣マオ……俺と戦え」

 エルは目の前に立つ3人の司書長を完全に無視してマオを無表情のまま凝視する。



 ―――エル 身長180cm 体重68kg 見た目が10代後半の少年型の夢獣ピエロ―――



「瑠垣、相手にするな!」

(俺たちが見えていないのか? なめた真似を!)

 岸田は左方向へ走り出すと、コンバットマグナムをエルに向ける。


 !?!!


「…………」

 エルが両膝を軽く曲げた刹那、人知を超えたスピードで一瞬にして岸田の懐に入った。

「なっっ?」

 岸田は瞬きをする暇も無い一瞬の出来事に全く反応ができなかった。

「お前に用は無い……」

 エルはボクシングのファイティングポーズを取る。

「ごふッ」

 岸田は腹部にエルの強烈な左ジャブを受け、走り出した方向の逆方向へ15mほど吹き飛ばされ動かなくなる。

「岸田司書長!!」

 マオは動かなくなった岸田を見て叫ぶ。

「…………?」

 ユウキ、太郎、司、晋二は目の前で起こった事が理解できていない様子。


「岸田ーーーぁ!!」

(なんだこの夢獣ピエロは!?)

 雹丸は額に脂汗を浮かべ吹き飛ばされた岸田を見る。

「よくもやりよったなぁーーーぁ!」

 激昂した崩巌はエルに向かって走り出す。

「待て崩巌!!」

 雹丸は崩巌を止めようと叫ぶが崩巌は止まらなかった。

「はぁぁぁぁ!」

 崩巌はエルの顔を狙い全力で右の回し蹴りを放つ。

「遅い……」

 エルは退屈そうに崩巌の回し蹴りを避ける。

「このぉぉぉ!」

 崩巌は両足で次々と足技を繰り出し、その動きに合わせて両手のトンファーを攻撃へ織り交ぜる。

「遅すぎる……」

 エルは更に退屈した様子で崩巌の攻撃を簡単に避けていく。

「はぁ!?」

 崩巌の動きに隙は無かった、しかしエルはまるで瞬間移動したかのようなスピードで懐に入ると、崩巌の表情は恐怖に染まる。

「邪魔だ……」

「きゃーーぁ」

 崩巌は腹部にエルの左ジャブを受け20m 右方向へ吹き飛ばされ動かなくなった。


「お前ぇぇ!!」

 雹丸は両手で持ち上げた大矛をエルの頭部を目掛けて振り下ろす。

「少し硬いな……」

 エルは雹丸の大矛に左ジャブを打ち込む。

「がぁあ」

 エルの左ジャブに大矛は耐えたが、雹丸は強烈な衝撃でバランスを崩し蹌踉よろめく。

「だぁぁあ、ぁ!!」

 バランスを立て直した雹丸は渾身の力で大矛を振り下ろす。

「……」

 エルは無言のまま大矛に右フックを繰り出す。

「なっ!?」

(なんて力だ!? こんな夢獣ピエロは聞いた事すらない)

 エルの右フックが雹丸の大矛に当たった瞬間、圧縮率94%を誇る大矛は砂の城のように崩れ去った。

「ああ」

 武器を失った雹丸は声にならない声を出し立ち尽くす。

「消えろ……」

「うごぉっ」

 雹丸は左ジャブを胸に打ち込まれ、地面をバウンドしながら15mの距離を飛んで動かなくなった。


「あっっ司書長が……そんな」

 エルの別次元の強さに、晋二は目の前の現実を信じる事ができず項垂れる。

「嘘……だろ。3人の司書長が一瞬で」

 絶望に満ちた表情の司は晋二の右隣で両手のトンファーを落とした。

「武器を、武器を構えろ……」

(どうやってこんな化け物と戦うんだ?)

 太郎は斧を両手で構えて力の無い声を出す。

「あぁ、すまん」

(俺たちに何ができるんだ)

 司は棒読みで返事をすると落としたトンファーを拾い構える。

「はっはい」

(司書長が一瞬で……もう無理だ)

 顔面蒼白の晋二は両手の短剣を構える。

「…………」

 ユウキは無言のまま結晶で出来た槍を構える。


「あの夢獣ピエロは俺を狙っています。俺が前に出て注意を引きつけます」

 マオはエルに向かって走り出す。

(瑠垣!?)

 太郎は走りゆくマオの背中を見ている事しかできなかった。

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