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paradox (パラドックス)  作者: ナカヤ ダイト
voice編
21/55

ジュリビア帝国 5

大変長らくお待たせしました。


年末年始は誤字脱字等の添削に時間を使いました。

再発防止策としましては更新ペースを週1回に落とし、何度も添削をしてから更新します。


今後ともよろしくお願い申し上げます。

「司書長?」

 40m前方に立つドヴァーは興味深そうに雹丸の顔を覗き込んだ。

「さあ、かかってこいよ!」

 余裕の笑みを浮かべた雹丸は4mもの巨大な大矛を右肩で担いだ。

「そんな、大きいだけの武器でボクのクロスボウから逃げられないよ」

 ドヴァーはクロスボウからエネルギーをまとった矢を放つ。

ぁ!」

 気合いを入れた雹丸は両手で持った大矛を振り下ろし矢を両断した。

「え!?」

(やっぱり、さっきのは見間違いじゃない、こいつはボクの矢を切った)

 ドヴァーは驚きを隠せない様子で雹丸を見る。

「その武器、結構硬いんだね。だけどいつまでもつかな?」

 ドヴァーは矢を続けざまに3連射する。

「おおお! ぁっ!」

 雹丸は両手で持った大矛を軽々と振り回して飛んでくる3本の矢を全て両断した。

「次は俺の番だぁ!!」

 雹丸はドヴァーに向かって突進する。


「くそ、なんて頑丈な武器だ?!」

(だけどボクとの距離が縮まれば縮まるほど、それだけボクの矢が、あの司書長の武器に与えるダメージは大きくなる)

 ドヴァーは矢を撃ち続ける。

「なかなかいい手応えだ!」

 余裕の表情で雹丸は飛んでくる矢の(ことごと)くを両断していく。

「嘘だろっ!? くっ来るな!!!」

(なんで? なんで武器が壊れない!?)

 ドヴァーの顔に焦りが見えはじめる。

「おおおお!」

 ドヴァーの目の前まで接近した雹丸は右手一本で大矛を振り下ろしクロスボウを破壊する。

「あーーーぁ」

 ドヴァーは粉々に砕け散るクロスボウを見つめて声にならない声を出し、その場に両膝をつき崩れ落ちた。

「なんで? なんで?」

 ドヴァーは呆然と雹丸を見上げた。

手向たむけだ、痛みのないようにけ」

 雹丸は両手で持った大矛を右から左に真横に振り抜きドヴァーを真っ二つにした。

「そんな……」

 ドヴァーは跡形も無く消滅した。


(さすが、世界最強の司書だ)

 ゆっくりと起き上がった晋二は目を輝かせていた。

(具現タイプ歴代最高の94%と結晶タイプに限りなく近い圧縮率を誇る雹丸司書長。武器の性能もすごいが戦闘スキルも段違いだ。もしかしたらマオは既にこの領域に? だとすれば俺は……)

 晋二は自分の無力さに下唇を噛む。



 ―――雹丸 恋 創造スピード3.96秒 圧縮率94%―――



「あなたは誰?」

 トリーはハルバードを両手で構えながら首を傾げる。

「おもろいポーズで質問すんやなぁ、ウチは夢図書館で司書長やっとる崩巌 雫っていうねん」

 崩巌は両手にトンファーを持ち、ボクシングのファイティングポーズのような構えをした。

「あの司書と同じ武器」

 トリーは崩巌のトンファーを興味深そうに見た。

「そこで倒れてる司はウチの弟子なんよ。この子にトンファーの使い方を教えたのウチやからなぁ」

 崩巌は嬉しそうに答える。

「そう」

 トリーはハルバードを持つ両手に力を入れる。

「ええなぁ! 早く戦いたくて待ちきれない様子やなぁランクA。ほな、はじめよか!」

 崩巌は立った状態から急加速し、トリーの顔を狙って右回し蹴りを繰り出す。

「!!」

(速い!)

 トリーはハルバードの柄で回し蹴りを防ぐ。

「ええ反応やぁ」

 崩巌はニヤリと笑みを浮かべると、回し蹴りの反動を使って左手のトンファーを振り下ろす。

「ぐうう」

 トリーは再びハルバードの柄で防御するが、崩巌の攻撃の威力に負けバランスを崩し3歩後方へ下がる。

「ボケッとしてる暇はあらへんでぇ!」

 崩巌は両足を交互に使って足技を繰り出し、その動きに合わせ両手のトンファーで隙の無い攻撃をしていく。

「くっっっう」

(攻撃のテンポが速すぎて全く反撃ができない)

 次々と繰り出される足技と四方八方から飛んでくるトンファーにトリーは防戦一方になる。

「ぐっ!」

 崩巌の蹴りが腹部に直撃したトリーはよろめきながら後方に距離を取る。


「なんや? もうギブ?」

 仁王立ちの崩巌が退屈そうにトリーを見つめる。

「まだ」

 トリーは脇構えをしてハルバードにエネルギーを溜める。

「ほなぁ、一つ教えたげるわぁ」

 崩巌は両膝を曲げて低い姿勢を取る。

「!?!」

 猛スピードで急接近した崩巌にトリーは全く反応できなかったかった。

「どんなにええ武器持ってても、どんなに強い攻撃が出せても、使うのはおのれやで」

 崩巌はトンファーを持った右手でトリーの顔を殴り飛ばす。

「きゃぁーー」

 攻撃をもろに受けたトリーはハルバードを手放し転げ回る。

「当たらんかったら意味ないわぁ」

 崩巌は仁王立ちでトリーを見下ろしていた。

「いや……」

 トリーは直前に迫る死の恐怖に怯える。

「ほな、さいなら」

 両手のトンファーをトリーの頭部へ叩きつけるとトリーは跡形も無く消滅した。



 ―――崩巌 雫 創造スピード4.1秒 圧縮率79%―――



「がはッ」

 マオは白い大理石の壁に打ち付けられる。

「おいおい、本当にやる気あんのかよ?」

 太刀を右手に持った正輝そっくりな夢獣ピエロのチェトィリエが呆れたような表情で倒れているマオに向かって歩いていく。

「正輝……」

 マオはゆらりと立ち上がり日本刀を両手で持ち構える。

「そんなじゃ殺しちゃうよ」

 チェトィリエは両手で持った太刀を至近距離から振り下ろしマオに斬撃を放つ。

「ぐっ!!」

 マオは日本刀を盾にして斬撃を防ぐ。


 斬撃が起こした土煙の中、マオは再びチェトィリエから距離を取る為に右方向へ走り出す。

「逃すかよ」

 チェトィリエは左方向20m先を走るマオに向かって右手に持った太刀を真横に振り斬撃を飛ばす。

「…………」

 マオは飛んでくる斬撃を左手の日本刀で切り裂いた。

(いくら、圧縮率が上がっても所詮50% 使用率100%の攻撃を3回防ぐのが精一杯か)

 マオはヒビだらけになった日本刀を捨て左手にレイピアを創造する。



(おや、彼の圧縮率が上がったようですね)

 シンはフロアー2階の立ち見席のようになった場所からマオを興味深そうに見ていた。

(武器の性能と共に攻撃力も上がっていますね。彼は使用率を持っているので圧縮率が高くなれば攻撃力もそれに比例する。当然と言えば当然ですが)

 シンは右手人差し指でメガネを持ち上げる。



「そう、お前はいつも逃げてばかりだったな」

 チェトィリエはレイピアを左手に創造したマオの方を向いて話し始める。

「…………」

 マオは無言で左手のレイピアを構える。

「無視かよ。まあいいや、お前って本当にずるいよな、他人の本質は知りたいくせに自分の事は一切話さない。苦手な事は見て見ぬフリをする」

 チェトィリエはゆっくりと歩きながら右手の太刀を斜め右下へ振り斬撃を飛ばす。

「…………」

 マオは無言でレイピアを真横に振り斬撃を切り裂く。

「都合の悪い言葉は聞こえないフリか? ずるいお前らしいよ。お前が他人と話すのが苦手って言ってたのも本当は自分よりも才能の無い人間と関わりたくないって、見下してたんだろ?」

 チェトィリエは太刀を右下から左上に振り上げ斬撃を飛ばす。

「違う!!」

 マオは大きな声を出して斬撃を切り裂く。

「何が違うんだ?!」

 チェトィリエは怒鳴る。

「違う、俺は羨ましかった。教室で楽しそうに話す正輝や遥、猛が羨ましかった。俺もあの中に入れたらって何度思ったか! そんな俺に唯一、話し掛けてくれたのは正輝、お前だったじゃないか! 俺は本当に嬉しかったんだ」

 マオは今まで言えなかった思いを必死に口にする。

「だったら、なぜ見捨てた!! 転入生がそんなに良かったか? だってそうだよな俺たちみたいな学生カスに比べれば司書と仲良くした方が、お前の人生にとって特だからな!!」

 チェトィリエは乱暴に言い放ってマオに向かい突進する。

「違う、違う! 初めての学校でもしかしたら友達ができないかもって、晋二とユウキは不安だったんだ! 今度は俺が正輝のしてくれたようにしたいってそう思っただけだ!!」

「うるせぇ! この偽善者がぁ!!」

 チェトィリエはマオに向かって太刀を振り下ろす。

「あがぁっ」

 日本刀と接触したレイピアは粉々に砕け散り攻撃の余波でマオは後方の大理石で出来た太い柱に叩きつけれる。



(ふふふふ、素晴らしいです。素晴らしいですよ)

 シンはニヤケ顔を隠す為に右手で顔を覆い隠した。

(チェトィリエは、私が工藤正輝と接した時間で集めた彼の仕草や言動、性格、脳波の情報を元にDr.ジークが創造した最高傑作です。()()()()()()()に動いているとはいえ、まさかここまで完璧な工藤正輝になってくれるとは期待以上です。それにあの瑠垣マオ君の表情、美しいですね。人間の心が微細に現れています)

「ふふふふ」

 シンは笑いを堪えきれなかった。



「くぅっ」

 マオは苦痛に顔を歪めながら立ち上がる。

(瞬間創造ソニック)

 マオは左手にカトラスを創造した。

「お前なんていなければよかった」

 チェトィリエは低い声で言い放った。

「!!!」

(あれは正輝にそっくりな夢獣ピエロだって分かっている。だけど、その姿で……その声で……その言葉だけは言わないでくれ)

 ショックを受けたマオの足元はおぼつかなかった。

「お前になんて声を掛けなければよかった」

 冷たい表情でチェトィリエは更に続けた。

「………………」

(やめてくれ……正輝)

 マオの目にはチェトィリエが本物の正輝にしか見えなくなってしまった。

「消えろ!!」

 チェトィリエは太刀を真横に振り斬撃を飛ばす。

「…………」

 マオは無抵抗のまま斬撃を受けて後方へ吹き飛ばされる。

(痛い……これは罰なのか? 俺なんかが友達を欲しいと願ってしまった事への罰なのだろうか?)

 構えていたカトラスに当たり威力が大幅に落ちた斬撃はマオの胸を切り裂き、マオは真っ赤な血を流しながら力無く倒れる。


「お前さえ、お前さえいなければ、俺と遥は……幸せになれた。俺たちは両想いだったのに!!」

 鬼の形相でチェトィリエは訴える。

「違う……」

 マオがゆっくりと立ち上がる。

「お前は、違う」

「はぁ、何言ってだ? 頭打ちすぎて、おかしくなったのか?」

 マオの一言をチェトィリエは馬鹿にしたように笑う。

「俺は、例え夢獣ピエロだとしても、もしかしたら正輝の心が、お前の何処どこかにあるんじゃないかと思っていた。だけど違った。お前の心は偽物だ」

 マオは迷いの無い目でチェトィリエを見つめる。

「はい? 意味が分からない」

 チェトィリエは目を細める。

「偽物のお前には分からないさ。声が正輝の声でも! 顔や体つきが正輝と寸分違わず同じでも! 仕草や話し方が正輝と全く同じでも! 本物の正輝は絶対に遥の事を侮辱しなかった!!」

 マオは左手の日本刀を創造しチェトィリエに向け構えた。

「侮辱? 俺がいつ遥の事を侮辱した」

 チェトィリエは血走った目でマオを睨む。

「正輝はいつも遥の事を大切に想っていた。決して遥の気持ちを決め付けたりしない。正輝は遥と両想いだって最後まで知らなかったんだ、その正輝が知りもしない遥の気持ちを自分の感情だけで決め付けるような侮辱は絶対にしない!!」

 マオは日本刀を構えたままチェトィリエに向かって走り出す。

「うるせぇ! 何も知らないくせに!!」

 チェトィリエも太刀を振りかざしてマオに迫る。


 一瞬の攻防、チェトィリエが太刀を振り下ろすよりも速くマオは左手の日本刀を真横に振り抜いた。

「がぁはぁ、なんでだマオ?……お前はまた俺を……」

 マオの武器は砕け散り膝をついて倒れたチェトィリエはゆっくりと消滅していく。

「その顔で、その声で、もう正輝の真似をするのはやめろ……」

 マオはチェトィリエに背を向け怒りで声を震わせながら話す。

(俺の大切な友達を……絶対に……絶対に許さない)

 マオは正輝と遥を冒涜するような創造を行った敵への怒りから下唇が出血するほど強く噛む。

(こんな所で立ち止まっている場合じゃない、早くアンテナを見つけないと。鈴木班長やみんなが)

 マオは消えゆくチェトィリエを尻目に妨害電波を出すアンテナを探しに城内の奥へと走った。



 マオとチェトィリエの戦闘を見届けたシンは皇室に向かい廊下を歩いていた。

(元々、体力面で瑠垣マオ君に劣る工藤正輝をベースにしたランクAでは相手になりませんか。しかし、それを考慮しても彼の実力はもはや司書長クラスですね。もしかすると我々の出番も近いのかもしれません。楽しくなってきました)

 シンは抑えきれないニヤケ顔を右手で覆い隠しながら歩みを進める。



「そんな……バカな……四夢将よんむしょうが、我々の最高戦力が……」

 垂れ幕スクリーンで司書長たちによって倒れたランクAを見てマルスは力無く項垂れる。

「失礼します」

 シンが皇室の扉をゆっくり開け中に入る。

「貴様ぁーーーー! どのツラ下げて来たぁ!!」

 シンの顔を見るや否やマルスは唾を飛ばし激昂した。

「どのツラと言われましても」

 シンはマルスに向かって歩きながら冷たい声で話す。

「なんだとぉ? 貴様が言ったのではないか! 武装したランクAが3匹もいれば夢図書館を相手に戦争しても、お釣りがくると」

 マルスは脂汗で汚れた顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

「ええ、あれは嘘です」

 マルスの目の前に立ったシンは薄っすらと笑みを浮かべた。

「嘘ぉーーー」

 マルスは更に顔を赤くし顔中の血管が浮き出していた。

「武装したランクA4人ごときで本当に夢図書館に勝てると思っていたのですか? もしそうだとすれば随分とおめでたい頭をしていますね」

 シンは冷たい視線をマルスに向けた。

「貴様、こんな事をしてタダで済むとは思うなよ」

 マルスは腰のホルダーからハンドガンを取り出しシン向けた。

鬱陶うっとおしいですね。あなたは既に用済みです」

 シンは右手を自分の顔の付近まで挙げる。

「うっっっうっっぐふぅ」

 マルスは口から血を吐きながら視線を下に落とすと、そこにはシンの右手がマルスの胸の中心を貫き大量に出血している様子が見えた。

「また汚れてしまいました」

 シンはマルスから右手を抜き、残念そうに返り血で汚れた執事服を見た。



「岸田司書長、こっちっす」

 太郎は岸田を引き連れ南門を抜け城内の庭園を走る。


 城内の庭園は広く管理が行き届いた芝生が生い茂り、葡萄の木と薔薇が栽培され、庭園の中心には巨大な噴水が建っていた。


「みんな!! って司書長!?」

 太郎と岸田がジュリビア城入り口に到着すると、そこには晋二と司以外に雹丸と崩巌の姿があった。

「死んでなくてホッとしたよ」

 雹丸はニヤリと笑って岸田に話し掛ける。

「あの程度の敵で死ぬかよ」

 岸田は両腕を組んで笑いながら返す。

「ほんま心配したんやでぇ、つよしが泣いてへんかぁって」

 崩巌は小悪魔的な笑顔で岸田の左肩に自分の右手腕を乗せる。

「わかった、くっつくな」

 面倒くさそうに岸田が崩巌の腕を振り解く。


「おい司書長が3人も、なんで? お前ら呼んだのか?」

 太郎が司書長たちに聞こえないように、ヒソヒソと司と晋二に話し掛ける。

「俺じゃないよ、第一に通信機器が使えないのにどうやって呼ぶんだ」

 司は両手を首を左右に小さく振る。

「俺も、何が何だか」

 晋二は両手を挙げ分からないとジェスチャーをする。


「立花、五木、お前らもランクAと遭遇したんだな」

 岸田が両腕を組んだまま質問する。

「はい、危ないところを崩巌師匠に助けて頂きました」

 司が背筋を伸ばして答える。

「俺もです。危なかったところを雹丸司書長に」

 晋二は首を縦に振り緊張した様子で答える。

「そうか、ところで瑠垣は?」

「瑠垣でしたら、ランクAと遭遇した時に俺が囮になって先に城内へ向かわせました。自衛軍が味方である以上、城内の驚異は無いですし瑠垣の実力なら問題ないと判断しました」

 岸田の質問に太郎は平然と答える。

「なんだと!?」

 岸田は組んでいた両腕を解き顔が青ざめる。

「俺たちがタイミングよくジュリビア帝国へ来れた理由は匿名のメールだ」

「メール?」

 岸田の話しを聞いた太郎、司、晋二の3人は首を傾げる。

「メールの内容にはジュリビア帝国に武装したランクAがいるという情報が書いてあった。だが、そには数も書いてあった。武装したランクAは4体いる。つまり、もう1体がこの城の内部に潜んでいる可能性が高い」

「そっそんな……」

 岸田が深刻な表情で話すと太郎の顔から笑顔が消える。

「それはまずい」

 司は目を見開く。

「マオ……」

 晋二の顔も青ざめる。

「雹丸、崩巌!!」

 岸田が後方を振り向き叫ぶ。

「ああ、わかった」

「ほな、早よせんと」

 その場にいた6人は岸田を先頭にジュリビア城内へ走った。



「はぁっはぁ」

(なんだこの城、妙に静かだし、どこの部屋にも人がいない)

 マオは息を切らせながら、人が1人もいない探し静まり返った城内を走り回る。

(ここって、皇帝の部屋? 重要な物を隠すなら意外と盲点かもしれない)

 マオは皇室前で立ち止まる。

(中に人はいなさそうだ)

 マオは金で装飾された扉に耳を当て誰もいない事を確認してから扉を開く。

「!?!」

 扉を開けたマオの目の前には胸から背中まで穴が貫通し血を流し倒れるジュリビア帝国皇帝のマルスと返り血で汚れた青い執事服の青年が立っていた。

「金髪、長身、メガネ?」

 マオは青年の特徴に聞き覚えがあった。

「ふふふ」

 青年は不敵な笑みを浮かべ血の付いていない左手人差し指でメガネを持ち上げる。

「まさか、お前は!? 」

 マオは目の前に立つ青年の情報を思い出した。

「あれ、いない!?」

 マオは青年から目を離していなかった、しっかり見ていたにもかかわらず青年は一瞬にしてマオの視界から消えてしまった。

(今の男がシン……)

 マオは呆然と立ち尽くす。



 ジュリビア城内部へ入った岸田たち6人は大理石で出来たフロアーを走っていた。


「くそ、最悪だ」

 城内に入った岸田は戦闘で所々傷ついた大理石のフロアーを見て怒りを露わにする。

「瑠垣ーーーぃ」

(俺のせいだ、俺のせいだ。俺の判断ミスだ)

 太郎はショックで寒気を感じながらマオの名前を呼ぶ。


「ここで激しい戦闘があったみたいなだな」

 一同が更に奥へ進むと激しく傷ついた大理石の床や柱が見え、雹丸が口を開く。

「血の跡が……」

 晋二は床にこびりついた血を見て絶望に駆られたように声を出す。

「くっそーーーーぉ」

 太郎が両手で柱を叩いて怒りを爆発させる。

「これ、武器?」

 司が落ちていた太刀を拾い上げる。

「圧縮率を調べろ!」

 岸田が司に命令する。

「はい」

 司は右手にトンファーを創造し太刀を軽く叩く。

「圧縮率72%です」

「って事は、瑠垣の武器ではないな」

 司から太刀の圧縮率を聞いた岸田は少しホッとした表情になる。

「それだと、ランクAが装備していた武器って事か」

 漂馬は太刀を凝視して口を開く。

「武器だけぇ? そんなら瑠垣は単独でランクA倒したって事になるなぁ」

 崩巌は眼を丸くして太刀を凝視する。


 !?!!


 その場にいた人間は崩巌の何気なく発した一言に衝撃を受ける。

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