ジュリビア帝国 4
いつもお世話になります!
今日も投稿です!
いいペースです(笑)
「ちぃーーぃ。小賢しい」
マルスは垂れ幕スクリーンに写し出された偵察用ドローンの映像を見て下唇を噛んだ。
映像は壁の正面の門をくぐり城内に侵入した瑠垣マオの姿があった。
「だがシン殿の読み通り。奴の向かった先には四夢将の1人チェトィリエがいる。これで詰みだ。グフフ」
マルスは額に脂汗をダラダラと流しながら不気味に笑う。
「私は城内の様子を見てきます」
シンはマルスの後方から話し掛ける。
「なぜだ? こちらは四夢将を出したんだ、何を恐れる必要がある?」
マルスはスクリーンから後方へ振り向くとシンに疑うような視線を向けた。
「念のためです。他の侵入者がいるやもしれません」
シンは右手でメガネを持ち上げながら冷たい声で話した。
「ふん、好きにしろ」
マルスはシンをひと睨みするとスクリーンの方へ向き直した。
「はい……」
シンは一礼して皇室を後にする。
「うおぉぉりゃぁ」
太郎は大剣を振りかざし攻撃体制に入ったアージンへ両手で持った巨大な斧を振り下ろす。
「くぅう」
攻撃を放つ前のアージンは太郎の全体重を掛けた攻撃でバランスを崩し3mほど後方へ押し飛ばされる。
「まだまだ!」
(休んでいる暇はない。ランクAに反撃の隙を与えない!)
太郎はすかさず、次の攻撃をする為に斧を右肩で担ぎアージンに向かって走り出す。
「くっ」
間髪入れずに降り下ろされた斧をアージンは地面に尻餅をついたまま大剣を盾にして防ぐ。
「おら、おら、おら!!」
(武器だ、武器さえ破壊すればランクAは丸腰の人間と同じだ)
斧で猛撃する太郎の表情に少し焦りの色が見えていた。
「無駄だ」
アージンは太郎が斧を持ち上げる一瞬の隙をついて体制を立て直す。
「砕け散れ」
アージンはしゃがんだまま両手で大剣を振り上げる。
(くそがっ)
斧を振り下ろした太郎にはアージンの動きがスローモーションの様に見えていた。
「ぐわぁぁ」
斧と大剣が接触した瞬間、太郎は10mほど後方へ吹き飛ばされた。
「俺の斧が」
全身の鈍い痛みに耐えて起き上がった太郎が手元を見ると斧には無数のヒビが入り砕ける寸前だった。
「……」
アージンは大剣を右手一本で持ち、ゆっくりと太郎に向かって歩いてくる。
(もう、こうなったら勝機はない。あのランクAは新たに武器を創造する時間なんてくれはしない)
「よし!!」
太郎はボロボロになった斧を見つめると覚悟を決めたようにアージンへ突っ込む。
「うぉぉぉぉ!」
太郎は高くジャンプをして体全ての力を両手で持っている斧に乗せて渾身の一撃を放つ。
「無策か、だが潔し」
無策のまま真っ正面から特攻を仕掛ける太郎にアージンは右手の大剣を下から上へ振り上げる。
太郎の斧とアージンの大剣は、凄まじい金属音を立てて衝突する。
「だぁぁぁがぁ」
斧は粉々に大破し攻撃の衝撃を受けた太郎は30mほど後方へ吹き飛ばされる。
(くっそ。体に力が入らない……)
ランクBとの戦闘からまだ日が経っていない太郎の体は限界を迎えていた。
「おわりだ」
虚ろな目のアージンは太郎の背中を大剣で突き刺そうと右手で持ち上げる。
「!?! なんだ?」
アージンは突然聞こえた銃声と目の前を通過した銃弾に驚き太郎から2mほど後方へ距離を取った。
「なんとか、間に合ったか」
アージンが銃弾の発射された方向を見ると、退屈そうに左手で頭を掻きながら右手に6発リボルバー式のコンバットマグナムを持った男が立っていた。
「がぁ」
晋二はドヴァーが放つエネルギーをまとった矢を避ける事で精一杯だった。
(隠れる場所が無い水路内では防戦一方だ、ランクAに近付く事もできない)
「また、きた」
晋二は早いテンポで放たれる矢を避け続ける。
「はぁ……はぁはぁ」
全力のダッシュストップを繰り返す晋二の体力と集中力は限界に近付きつつあった。
(こんな時、マオならどうする。何を創造する? ……そうだ!)
晋二は何かを閃いたように左方向へ走った。
「あの司書、動きが変わった。何かしてくる」
壁の上でしゃがんだままクロスボウを構えるドヴァーは晋二の動きに何か意味がある事を感じ取った。
「思い通りにはさせない」
ドヴァーは矢を晋二の足元に向かって放つ。
(俺の戦闘中の創造スピードは5秒だ、残り3秒)
晋二は足元に向かって飛んでくる矢を右方向へ転がり込んで避ける。
「はぁはぁはぁ」
晋二は息を切れせながら立ち上がって再び走り出す。
(もう少し、もう少しだ)
「何を考えている。やはり闇雲に逃げているだけか?」
あてもなく必死に逃げ回る晋二に対しドヴァーは目を細める。
「何を考えているか、いないのかは、どうでもいい。そろそろ殺そう」
ドヴァーは疲労から動きが鈍くなっている晋二の頭を狙いクロスボウで矢を放つ。
(できた!)
逃げ回る晋二の表情が少し明るくなる。
(あと少しだけ、動け俺の体!)
右横から晋二の頭部を目掛けて飛んでくる矢が視界に入る。
「くっ間に合えぇ!!」
晋二は渾身の力を振り絞りヘッドスライディングをする。
「!?!!」
(そんな、何が起こった)
ドヴァーは自分の目を疑った。
放ったクロスボウの矢は晋二に躱され水路の底の石ブロックを破壊した。
「消えた?」
矢を避ける為、ヘッドスライディングをした晋二は一瞬にしてドヴァーの視界から消えた。
「攻撃で空いた穴に隠れた?」
ドヴァーは壁の上からジャンプして空になっている水路へと下りた。
「はぁ……はぁ」
(息を抑えろ、見つかってしまう)
晋二は座ったまま口元に両手を押し当てて荒れた呼吸の音を押し殺していた。
(狙い通りランクAが下りてきた。水路は全体が石のブロックで出来たどこを見ても同じ風景の場所。だったら鏡を創造すればそこに隠れられる)
晋二は後方から前方の様子が見える移動式のマジックミラーを創造し、その背後に隠れていた。
(もっと近付いてこい)
晋二は近付いてきたドヴァーに奇襲をかける為、短剣を構える。
「たしか、消えたのはこっちだったはず」
ドヴァーは晋二が姿を消した位置の近くまで歩いて移動した。
「ここか」
ドヴァーはクロスボウで矢を放つ。
「違ったか……」
ドヴァーは晋二が姿を消した付近に空いた穴を撃ち抜き、辺りは爆風を起こし破壊されたが手応えから晋二はそこにいない事を確認する。
「どこに消えた?」
ドヴァーは辺りを見回しながら歩く。
(あぶねぇ)
さっきドヴァーの放った矢は晋二の20m右横で爆破を起こした。
(でも、ラッキーだ)
ドヴァーは晋二を探す為、行動範囲を広げ水路を探し回っている。
(あと4m!)
晋二はドヴァーとの距離が縮まっている事を確認する。
「はあ、めんどくさい」
ドヴァーはため息をついてクロスボウを構える。
「一気に終わらせる」
ドヴァーのクロスボウが光を発してエネルギーを溜め込んでいる。
「!?」
ドヴァーは背後からの物音に反応して振り返る。
「うぉぉぉぉ!!」
突然現れた晋二は両手の短剣を左右にクロスさせ突進してくる。
(ランクAの武器はクロスボウだけ、この近距離なら反応しても攻撃はできない!)
反応したドヴァーはクロスボウを構える事ができず、ボディーは無防備に空いている。
(いける!!)
晋二はクロスさせた両手をそれぞれ真横に振る。
「ばーか」
ドヴァーは何も持っていない右手を軍服のベルトに近づけ、小さなナイフを取り出し晋二の短剣を目掛けて振り出す。
「!?!!」
(そんな、ナイフだと?!)
ナイフと短剣が接触した瞬間、短剣は粉々に砕け晋二は力なく飛ばされた。
「ぐっ」
全身を地面に叩きつけられた晋二は痛みで呼吸のリズムが狂ってしまう。
「鏡か」
ドヴァーは晋二が飛び出してきた鏡を叩き割った。
「これで、もう隠れられない」
ドヴァーは再びクロスボウを構える。
「死ね」
矢は無抵抗に横たわる晋二を目掛け一直線に放たれた。
(俺は、死ぬのか?)
晋二は呆然と迫りくる矢を眺めた。
「諦めるには早いよ、五木君!」
突如、晋二の目の前の現れた巨大な人影が矢を一刀両断する。
「大丈夫かい?」
晋二の目に前に現れた大柄な男は白いタンクトップ姿に黄色ベリーショート、ボディービルダーのような体をしていた。
「雹丸司書長!!」
横たわる晋二は目を輝かせて雹丸を見上げた。
「よく、ここまで頑張った! もう大丈夫だ! 後は俺に任せろ!」
雹丸は笑顔で4mの長さ超巨大な大矛をドヴァーに向けた。
「死んで」
トリーは冷たく言い放ち、右手に持った矛を司に突き立てようと持ち上げる。
「まだ、死ねない!」
司は水路の底に生えていた藻を右手で掴みトリーの顔に投げつけた。
「うぅぅ」
目に藻が入ったトリーは左手の甲で顔を吹きながら3歩ほど後ずさりをする。
「おおお」
立ち上がった司はトリーを押し倒し馬乗りになると両腕の関節を締める。
「動けないだろ! 完璧に関節をキメた」
司はトリーの持っていた矛を手から引き剥がすと前方へ投げ捨てた。
「うっ」
トリーは苦痛に顔を歪めたまま地面に顔を付ける。
(よし、武器のないランクAなんて恐れる必要はない)
司は勝利を確信して笑みを浮かべた。
「あなた、バカね」
トリーが冷たく言い放った。
「うがぁぁぁ」
司は背中に何かで刺されたような痛みと強烈な衝撃を受け前方に吹き飛ばされた。
「うぐっっっぐ」
司は背中と腹部の痛みで悶絶している。
「血!?」
司の下腹部に銃弾で打たれたような穴が空いており、そこから出血していた。
「よいしょ」
トリーは司の目の前に落ちている矛を両手で拾い上げた。
「仕込み靴」
(しまった、俺が早くランクAを)
司はかすれた声でトリーの履いているブーツを見るとブーツの踵に2cmほどの刃が付いていた。
「そう、あなた早く私にトドメを刺せばよかったのに」
表情の無い虚ろな目でトリーが司を見下ろす。
「じゃあ、死んで」
トリーは両手で矛を振り上げる。
「ん?」
トリーの矛は振り上げたものの、矛は何かに固定されたかのように動かなくなっていた。
「ほんま、あかんわぁ。油断はあかんで」
トリーの背後で矛の柄を右手で握った女性が関西弁で話す。
「だれ?」
トリーは背後にいる人間から右方向へ4m距離を取って矛を構える。
「司あかんよ。本部に帰るまでが任務であり戦闘やでぇ」
頭を1cmほどに刈りそろえた坊主頭に黒のチューブトップ、黒いズボンを履いた女性が仁王立ちしていた。
「すみません。崩巌師匠」
司は申し訳なさそうに俯く。
「ええねん。可愛い弟子が生きているんやから」
崩巌は微笑んだ。
「ランクAやな、可愛い可愛い弟子が世話になったみたやなぁ。しっかり、お礼させてぇな」
崩巌は話している間に創造したトンファーを両手に持って構えた。
「正輝……」
(あれは夢獣なのか?)
城内に入ったマオは目の前の現れた正輝と瓜二つの夢獣に動揺していた。
「どうしたのマオ? 変な顔して」
正輝は人懐っこい笑顔を浮かべる。
(正輝の笑顔だ……)
「なあ、正輝だよな? 俺ずっとお前に謝りたくて」
マオは正輝が死んでいる事を理解していた、しかし目の前に立っている男の仕草や声がマオの知る正輝そのものでマオは気が動転し、まともな判断ができなくなっていた。
「そうだよマオ。でも、マオが謝る必要はない」
正輝は声のトーンを落とした。
「え?」
マオは悲しそうな顔をする。
「だって俺はお前に捨てられたから。俺はいらない友達だから」
正輝は太刀を振り下ろし斬撃をマオに向かって飛ばした。
「くっ!?」
飛んできた斬撃を切り裂くとマオの日本刀は粉々に砕け散った。
(瞬間創造)
マオは再び日本刀を左手に創造する。
「そんな事はない! 正輝は俺の大切な友達だ!!」
マオは悲痛に叫ぶ。
「じゃあなんで、お前はその力の事を隠していた!!!」
正輝は怒りを露わに怒鳴り散らした。
「それは、正輝たちと一緒に卒業する為に!」
マオは右足を一歩前に出して反論する。
「うるせぇ!! お前は才能の無いフリをして俺と遥を見下して笑っていたんだ!!」
正輝は乱暴に太刀を振って斬撃を飛ばす。
「違う!! 俺は正輝と遥と一緒にいる時間を大切にしていたんだ!!」
マオは3つの斬撃を躱しながら心の内を叫ぶ。
(おやおや、既に始まっていましたか)
シンはマオたちがいる巨大なフロアー2階の立ち見席のようになった場所からマオの様子を見ている。
(動揺していますね)
シンは不敵な笑みを浮かべた。
(その夢獣の名はチェトィリエ、瑠垣マオ君あなたの為に特別に用意したランクAなんです。楽しんで頂けている様子で何よりです)
「ふふふ、くくくく。あははは」
(さあ、ご友人との再会を楽しんで下さい! 瑠垣マオ君!!)
シンは声に出して笑う。
「誰だ?」
アージンはコンバットマグナムを右手に持った男に問い掛ける。
「岸田司書長」
太郎は力の無い声で話す。
「これが司書長?」
アージンは岸田を睨む。
「俺の部下が世話になった。退屈だったろう? ここからは俺が相手だ」
岸田は左太もものホルダーから6発リボルバー式のコルト アナコンダを取り出して左手に装備する。
「二丁拳銃か」
アージンは大剣を両手で持ち構える。
「いくぞ」
岸田は左方向へ走り出す。
「速いな」
アージンは岸田の動きの速さに驚きつつも岸田を追って右方向へ走る。
「……ふぅ」
岸田は息をはいて集中すると走りながら右手のコンバットマグナムで1発撃つ。
「はぁ!」
アージンは大剣を右方向へ真横に振り斬撃を飛ばして銃弾を消滅させる。
(走りながらここまで正確な射撃を。たしかに、さっきまでの司書とは格が違うようだな)
アージンは大剣を連続で振り抜き4つの斬撃を飛ばす。
(狙いが単調だ)
岸田は右方向へ鋭いターンをすると、ジグザグに飛んでくる4つの斬撃を躱しながら左手のコルト アナコンダで2発撃つ。
(あれを避けるか)
アージンは追撃の為、すぐさま大剣を振りかざす。
「!?!」
大剣に1発目の銃弾が当たる。
「くっ!?」
アージンがバランスを崩した瞬間、2発目の銃弾が左膝をかすめる。
「このぉ」
(まさかこいつ、私がバランスを崩す方向まで予測して?)
アージンから余裕が無くなる。
「…………」
アージンの正面に立った岸田は間髪入れずにコルト アナコンダで3発撃つ。
「なめるな!」
アージンは斬撃を飛ばして正面から飛んでくる銃弾3発を全て消滅させる。
「おっと」
岸田は威力の上がった斬撃に驚きつつも難なく避ける。
(残り5発、あの司書長が撃てる銃弾は右手の4発と左手の1発、リボルバー式の銃はリロードに時間がかかる。残弾が無くなった時が決着の時だ)
アージンは岸田に向かって走りだす。
「血迷ったか?」
小声で話した岸田は後方へジャンプしてコルト アナコンダで1発、左方向に走りながらコンバットマグナムで3発を連射した。
「はあああ!」
アージンは正面からくる銃弾を大剣で弾き飛ばし、左方向から流れるようにして飛んでくる3発の銃弾を斬撃で同時に消滅させる。
(これで残り1発!)
「!?!!」
後方に回り込んだ岸田はアージンの左膝を撃ち抜いた。
「痛っ」
(だが、これで残弾がゼロだ)
アージンはゆっくりと岸田のいる後方へ振り向く。
「これで、お前に私を攻撃する手段がなくなった」
アージンはゆっくりと大剣を振りかざす。
「おお、やっぱランクAはすごいな」
岸田は退屈そうに大剣に集まるエネルギーを見ている。
「今から逃げても無駄だ周囲全てを破壊すれば、お前もそこで寝ている司書も同じだ」
「ああ、そうかい」
岸田はコンバットマグナムをアージンに向ける。
「ハッタリはよせ、既にその銃に弾が無い事は知っている」
アージンは虚ろな目で話す。
「!!!!」
岸田の放った2発の銃弾がアージンの左右の手に直撃し大剣は地面に落ちた。
「あっっあああ」
アージンの顔は青ざめ、大剣を拾おうと両手を伸ばすが、全ての指が無くなった手では大剣を持ち上げる事ができなかった。
「なぜだぁ!!! なぜ弾がある」
アージンは転がる大剣を見て叫ぶ。
「自動装填、俺は発射の衝撃でシリンダー内部に残る銃弾の部品が跡形も無く消滅するよう部品ごとに圧縮率を変え、空いたシリンダーに直接銃弾を創造している。そして俺の創造スピードは平常時と戦闘時に関係なく3.97秒だ4秒以内に12発全て撃たない限り俺の残弾数がゼロになる事はない」
岸田はゆっくりとコンバットマグナムをアージンの頭部を狙って構える。
「聞いてない聞いてないぞ、司書長がこんな実力だなんて私は聞いていない」
アージンは岸田を睨みつける。
「あと一つ最後に教えてやる。夢図書館の司書長になる為の条件の一つは」
岸田は銃弾を放つ。
「単独で武装したランクAを討伐する事だ」
銃弾は頭を打ち抜きアージンは跡形も無く消滅した。




