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paradox (パラドックス)  作者: ナカヤ ダイト
voice編
16/55

狂暴鬼(バーサクオーガ) 2

連続投稿です!


いつもお世話になります。

ナカヤ ダイトです。


いつもながら下手くそな文書ですがよろしくお願い申し上げます。

「お帰りなさい、今日は遅かったのですね」

 茉莉は近くまで歩いてきた梨加へ声を掛ける。


「ごめんなさい、友達と遊んでいました」

 梨加は申し訳なさそうな顔で下を向いた。

「怒ってはないですよ、心配してしまっただけです」

 茉莉は微笑んでだ。

「ありがとうござます」

 梨加は笑って答えた。

「ご飯作りますね」

(初めて笑った顔を見ました!)

 茉莉はご機嫌な様子だった。

「ごめんなさい、ご飯は友達と食べてきました」

「友達と! それは素晴らしいです。お風呂を沸かしてきますね」

 茉莉はそう言って浴室へ向かい、梨加は無言で2階へ上がった。

「……」

 マオは梨加の笑顔に違和感を覚えた。



 マオたちが宿泊するビジネスホテル


「おつかれ」

 マオが晋二の部屋に入る。

「おつかれ」

「……お疲れ様」

 パジャマ姿の晋二とユウキがベットに座って待っていた。

「いきなりメールしてごめんね」

 マオは晋二たちが座るベットの向かいのベットに座る。

「いいよ、それで話って?」

「うん、神谷梨加さんの事で」

 晋二の問い掛けにマオは深刻そうな顔をする。

「彼女の今日の笑顔が事件前に見せた正輝の笑顔と同じに見えたんだ」


「!?!」


 マオの一言で晋二とユウキに衝撃が走る。

「それで?」

 晋二は口を開く。

「正輝はあの笑顔をするようになってから間も無くして、あの事件が起こった。ここ最近の夢獣ピエロがらみの事件もあって、もしかしたら彼女も巻き込まれているんじゃないかと思って」

 マオは深刻そうに思いを伝える。

「……私も気になっていた。たしかに、あの笑顔には違和感がある」

 ユウキもマオの意見に賛同する。

「申し訳ないけど明日は神谷梨加さんの身辺調査をしたいんだ、胸騒ぎがする」

 マオは晋二とユウキに頭を下げた。



 学校から帰ってきて自室に入った梨加は嬉しそうだった。

(あのお兄さん、優しくて暖かくてパパみたいだった)

 勉強机に座りながら梨加は『like truth』での事を思い出す。


「映画で見たお店みたい」

 梨加は綺麗な木造バー風の店内に目を輝かせる。

「ふふふ、ありがとうござます」

 シンはカウンターに入り梨加はシンの前に座った。

「では、何が飲みたいですか?」

 シンはメニューを手渡す。

「う〜ん。ジンジャーエールで」

 梨加はメニューをじっくり見てから答える。

「はい、かしこまりました」

 シンは梨加に背を向ける。


「おまたせしました」

 シンはジンジャーエールを物音一つ立てずにカウンターテーブルへ置く。

「ありがとうござます」

 梨加は一口で半分ぐらいの量を飲んだ。

「喉が渇いていたのですね。最近、暑くなりましたから」

 シンは微笑む。

「お兄さんは、1人なんですか?」

「そうですよ。ここのお店は人気がないのです」

 シンは寂しそうに答える。

「ごめんなさい」

 梨加は客が1人もいない店内を見渡して謝る。

「いえいえ、気にしないで下さい。おっと、そろそろですね」

 シンはフライパンからホットケーキを取り出して梨加の前に置く。

「どうして?」

 梨加の目は泳いでいた。

「どうかされましたか? これは私からのプレゼントです」

 シンは笑顔で話す。

「毎週、木曜日はパパと2人でホットケーキを焼いてたの……」

 梨加は悲しそうに俯く。

「もしかして、あなたのお父様は」

 シンは声のトーンを落とした。

「去年の冬に車に轢かれて。死んじゃった」

「申し訳ございませんでした」

 シンは肩を落とした梨加の前から慌ててホットケーキを下げようとする。


「持っていかないで!」

 梨加は大きな声を出してしまった。

(あれ? こんな大きな声、なんで?)

 梨加は予想以上に大きくなってしまった声に驚いていた。

「はい」

 シンは再びホットケーキを机の上に置くとナイフとフォークでサイコロステーキのような一口サイズに切っていく。


(パパ!?)

 梨加は目を丸くする。

(その切り方はパパが私に食べやすいようにって考えてくれた。変な切り方)

 梨加は食い入るようにシンの手を見ていた。

「どうかされましたか?」

「その切り方、どこで?」

 梨加は驚いた様子で質問する。

「梨加さんのお口は小さいですからね。このままでは食べにくいと思いまして」

(パパと同じ理由)

 梨加は言葉を失った。


「はい、どうぞ」

 シンは梨加の目の前にホットケーキを出す。

「いただきます」

 梨加は不恰好に切られたホットケーキに親しみを感じながら口に運ぶ。

「!?」



「梨加は母さんに似て口が小さいからな。こうやって切ると食べやすいんだ」

「え〜 せっかく綺麗に焼けてるのに」

 ホットケーキを細かく切る父親と、それを見て目を細める梨加。


 梨加の頭の中で父親とホットケーキを焼いていた時の記憶がフラッシュバックした。



「おいひいです」

 梨加はボタボタと涙を流していた。

「それは何よりです」

 シンは梨加の頭を撫でる。

(この手、パパに似ている)

 梨加の目から更に涙が溢れ出した。


「今日はありがとうございました」

 店の前で梨加はシンに一礼をする。

「いえ、また寂しくなったら来てください。ご馳走しますよ」

 シンは笑顔で見送った。



 孤児院 3日目


「う〜ん」

 梨加は自室で目を覚ました。

(昨日はよく寝れた)

 父親の事故以来、悪夢にうなされていた梨加だったが昨日は夢を見ずに熟睡できた様子。

(これも、お兄さんのおかげかな)

 梨加は明るい表情で学校へ向かう準備をする。


「おはよう!」

 梨加は笑顔を作って挨拶する。

「おはよう梨加ちゃん!」

「梨加ちゃん今日も元気だね〜」

 友達の2人は笑顔で梨加を迎える。



「今のところ異常無しだね」

「……うん」

 マオとユウキは偵察用の小型ドローンの映像を創造免許証で見ていた。

「でも、さすが夢図書館だね。学校がすぐに部屋を使わせてくれるなんて」

 応接室を見渡してマオが呟く。

「……これは重要案件。もしかすると一連の事件に関わっているかもしれない」

 ユウキは真剣に映像を見ていた。


 その後もドローンによる監視を続けたが、学校内では特に異常がなかった。



「ごめんね。今日も一緒に帰れないの」

 梨加は両手を合わせて謝る。

「え〜ぇ、今日も」

「用事なんだもん仕方ないよ」

 2人の友達が残念そうに話す。

「ごめんね」

 梨加を尻目に2人は下校していく。

(今日も、お兄さんいるかな?)

 梨加は『like truth』を目指し歩を進めた。



「登下校は1人なんだね」

「……うん、方向は友達の2人と同じみたい」

 マオとユウキは梨加を尾行していた。


「あれ? 右に曲がった?」

「……孤児院はこの交差点を真っ直ぐのはず」

「走るよ!」

「……うん」

 マオとユウキは突然右折した梨加を慌てて追いかける。

「いない!?」

「……見失った」

 商店街に入った梨加を完璧に見失ってしまったマオとユウキ。

「手分けして探そう」

「………」

 マオの提案にユウキは無言で頷き2人は走り出す。



「おや、こんにちは」

「こんにちは、お兄さん」

『like truth』に梨加は笑顔で入るとシンも笑顔で迎えた。

「よいしょ」

 梨加は床にランドセルを置いてカウンター席に座る。

「ジンジャーエールとホットケーキでいいですか?」

「はい!」

 梨加は元気よく答える。


「はーぁ」

 ホットケーキを食べ終えた梨加はため息をつく。

「やはり、お父様を思い出しますか?」

 シンは真面目な表情で口を開いた。

「はい、お兄さんのホットケーキの切り方がパパにそっくりで、頭の撫で方も」

「そうだったんですね」

 遠い目をする梨加にシンは優しい目をした。

「お兄さんはパパみたいで、それで今日はここに来たくなっちゃって」

 梨加は、はにかんだ笑顔を見せる。


「お父様に会いたいですか?」

 少し考えてからシンは話す。

「え!?」

 梨加の表情が明るくなる。

「会いたいけど……パパもう」

 梨加は現実を考えて落ち込む。

「もし、会える可能性があるなら、どうしますか?」

 シンは微笑んだ。

「会いたい、パパに会いたい!」

 梨加は(すが)るようにシンを見上げた。

「それでは、明日の学校が終わってから三ツ角公園へ来てください」

 シンは冷たい声で話す。

「パパと遊んだことがある公園。そこに行けばパパに?」

「はい、後は梨加さんの想いが必要です。一緒に梨加さんのパパに会いましょう」

 シンは満面の笑みを浮かべた。



「ごめん、見失った」

 孤児院に帰ってきたマオは申し訳なさそうに口を開く。

「……この時間まで探して見つからなかったから。帰っていると思って」

 汗まみれのユウキが口を開く。

「そっか、まだ梨加ちゃんは帰ってきてないよ」

「それって、大丈夫なの?」

「……もう一度、探しに」

 晋二の話を聞いて外に出ようとするマオとユウキ。

「大丈夫だよ。今日は電話が掛かってきた。友達の家で遊んでくるから遅くなるって、晩御飯もいらないらしい」


「よかった」

(あの2人と別れたのは別の友達と遊ぶ為か)

 マオはほっとする。

「……」

 ユウキは何かを考えている様子。

「とりあえず明日まで調査を続けて異常がなければ、これ以上の調査は必要が無いと岸田司書長から連絡が入った」

「ありがとう晋二」

  マオは左手を上げって晋二にお礼を言う。


「ただいま」

 マオが晋二にお礼を言った瞬間に扉が開く。

「おかえりなさい」

 茉莉が梨加を迎える。

「お腹は空いていませんか?」

「友達の家でたくさん食べたから、もうお腹いっぱいで」

 茉莉の質問に満面の笑みで梨加は答える。

「それは何よりです」

 茉莉も満面の笑みを浮かべる。

「お風呂沸いているので、いつでも入って下さい」

「ありがとうございます」

 梨加は2階に上がって行った。


「最近、良い事があったのでしょうか? あんなに笑顔で私は嬉しいです」

 茉莉は両手を胸に当てて呟いた。

「学校での梨加さんは、とても明るくて友達も多いですよ」

「そうなのですね。明日はすき焼きにしましょう!」

 マオから梨加の学校での様子を聞いて上機嫌になった茉莉は嬉しそうに階段を見つめていた。


「ユウキ?」

 2階へ向かおうとするユウキを晋二は止める。

「……神谷梨加に話がある。2人にさせて」

「おお、う」

 珍しく強い声を出したユウキに晋二は圧倒された様子。


 階段を上がったユウキはピンク色の文字で梨加と書かれた木製の扉の前までやってきた。


「シスター?」

 ユウキがノックをすると扉が開き梨加が顔を出す。

「あなたは?」

 梨加は首を傾げる。

「……私は相川ユウキ、夢図書館の司書」

 無表情のユウキが答える。

「なんの用ですか?」

 梨加は冷たい目をする。

「……特に用は無い、あなたの表情が気になって」

「意味が分からないんですけど」

「……あなたは無理して笑っていない? 今のあたなは、とてもとても辛そう」

 ユウキは梨加を見透かすように告げた。

「なんなんですか! あなたに何が分かるんですか!」

 確信を突かれた梨加は激怒した。

「……分かる」

 ユウキの言葉で更に梨加の怒りに火がつく。

「あなたの事はテレビで見た事があります。幸せな家庭、何をしても成功する才能。そんな幸せ者に私の気持ちは分からない!!」

 梨加はそう言って扉を乱暴に閉めた。


「ユウキ!?」

 晋二が慌てて階段を駆け上がる。

「すごい怒鳴り声だったけど、何かあったの?」

 マオが心配した様子でユウキに話し掛ける。

「……なんでもない」

 ユウキは階段を下りた。

「ちょっとユウキ」

 晋二とマオは追い掛ける。


 その後もユウキに事情を聞いたがユウキは口を開かなかった。



 孤児院 4日目


 本日もマオとユウキは梨加の身辺調査を行なっていた。


「やっぱり、異常なしだね」

 マオが授業を終え帰り仕度をする梨加の映像を見ながら呟く。

「……まだ。気掛かりな点がある」

「ん?」

 マオは回収したドローンの片付けをしながら耳を傾ける。


「ユウちゃん、瑠垣くん聞こえる?」

 インカムから学子の声が聞こえた。

「……聞こえる」

「はい」

 マオとユウキが返事をする。

「昨日、ユウちゃんに頼まれた事件発生2週間前の工藤正輝くんが放課後どう過ごしていたかを監視カメラの映像から調べたよ」

「え!?」

 学子の言葉にマオは動揺する。


「……ありがとう」

 ユウキは平然と話す。

「調べたんだけど、放課後はすぐに学校敷地内から出て行ってるみたいで正確な行動データは取れないんだ。ごめんね。でも寮のコンビニや食堂に行っていない事から、夕食は学校敷地外で摂っていると思うけど」

 学子は不思議そうに話す。

「……ありがとう、それが分かれば十分」

 ユウキは何かを確信したような表情をした。

「たしかに、事件前の正輝は放課後になるとすぐに教室から出て行ったけど、なんで調べてもらったの?」

 マオがユウキに問い掛ける。

「……2人の共通点を見つけたから」

「共通点?」

 ユウキの一言でマオが顎に左手を当てる。

「……それは夕食をどこで摂ったか分からない事」

「でも、梨加さんは友達の家って」

 マオは腑に落ちない様子。

「……それを証明する事はできない」

 ユウキは言い切った。

「たしかに正輝も行き先は教えてくれなかったけど……まさか!?」

 マオの顔が青ざめる。

「……工藤君を罠にはめた人間が関わっている可能性がある」

「まずい!! 今、神谷梨加さんはどこ?」

 ユウキの仮説にマオは応接室から飛び出し梨加の教室へ向かった。



 一面芝生の三ツ角公園の中心で梨加は1人で立っていた。

「こんにちは」

「お兄さん! その格好は?」

 梨加の背後から声を掛けたシンは青い執事服を着ていた。

「今日は梨加さんの、お父様に会う日です。失礼の無いようにと」

 シンは2人しかいない広い公園を見渡して話した。

「本当にパパに会えますか?」

 梨加は心配そうに話す。

「ええ、あなたの想いが、お父様に届けば会えますよ」

 シンは微笑む。



「もう、帰りましたよ。すごく急いでいました」

 梨加と同じクラスの女子生徒が既に梨加は校内にいない事を話す。

「遅かった」

 マオは悔しさを滲み出す。

「……大丈夫」

 ユウキは創造免許証を取り出す。

「それは?」

 ユウキの創造免許証には地図が写し出されていて地図上で赤いドットが点滅していた。

「……昨日の見失い方は不自然だった。だから神谷梨加の靴に発信機を取り付けた」

 ユウキは無表情ながら誇らしげに話す。

「いつの間に、それで場所は?」

(ユウキって実は敵に回すと怖い?)

 無表情で話すユウキにマオは関心しつつも恐怖を覚えた。

「……三ツ角公園。ここの近く」

「よし」

 マオとユウキは三ツ角公園へ向かう。



「ではこれから、お父様を呼びましょう」

「これは?」

 シンはフェイクカードを梨加に手渡す。

「これはお父様を呼ぶ為に必要な機械です」

 シンは優しくも冷たい声で話す。

「これをどうすれば?」

 梨加は首を傾げる。

「その機械は人の想いに応えてくれます。想い浮かべて下さい。お父様の事を、そして願って下さい、もう一度、会いたいと」

 シンは両手を開いて大袈裟なジェスチャーをした。


(パパ……)

 梨加は目を閉じ想い浮かべるのは父親との楽しい思い出、幸せだった時間、そして父親を失う原因になった事故の事。

(パパ、なんで梨加を1人にしたの? パパがいなければ梨加は本当に独りぼっち……嫌だ!!)

 フェイクカードを持つ手に力が入る。

(お願い、帰って来てパパ!!!)

 

 梨加が目を開けると男が目の前に立っていた。

「パパ!!」

 目に涙を浮かべた梨加は男に抱きつく。

「パパ! 本当にパパなの? 梨加はパパがいなくて本当に寂しくて」

 梨加は男に抱きつきて泣きじゃくる。

「ゔぅぅぅぅ」

「パパ? なんで何も言わないの? 私だよ! 梨加だよ!」

 低いうなり声をあげる男に梨加は笑顔を見せる。


「ゔぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」

「きゃあーーーー」

 男は叫び出し梨加を乱暴に突き飛ばした。


狂暴鬼バーサクオーガ、失敗作ですね」

 シンは冷たい表情を浮かべ梨加が落としたフェイクカードを回収するとその場から姿を消した。


「痛い。パパなんで? なんでこんな酷い事するの?」

「あがぅぅぅぅぅ」

 突き飛ばされた梨加はうなり声をあげ近付いてくる男に話し掛ける。

「パパ、ぐぅ」

 梨加は男に首を両手で鷲掴みにされ締め上げられた。

(なんで? パパ……どうして)

 梨加は意識を失う。


「はぁはぁはぁ」

 走って移動したマオとユウキは三ツ角公園に到着する。

「あれは?!」

 マオは梨加の首を鷲掴みにする男を発見する。

「なにをしているんだ!!」

 マオは左手にロングブレードを創造し、男を威嚇いかくする為にゆっくりと振り下ろす。

「うがぁ」

 男は梨加の首から手を離しマオのロングブレードを避けるが剣先がかする。

「圧縮率が75%!? まさかランクA」

 マオが右手のACMを見る。


「……梨加」

 ユウキは急いで梨加の近くまで走る。

「……よかった、息がある。待っててね」

 ユウキは寝ている梨加を結晶のドームで覆った。

「ユウキ、ランクAだ」

 ロングブレードを構えたマオが話す。

「……あれは、見たところランクAの中でも知性の無く無差別に暴れる狂暴鬼バーサクオーガ


「岸田司書長!」

 メインモニター室で机に座る学子がパソコンの画面を見て叫ぶ。

「どうした」

 岸田はただ事ではない様子の学子の後方まで走る。

「瑠垣君のACMにランクAの反応が」

「なんだと!? インカムを貸せ!」

 岸田は学子からインカム受け取る。


「聞こえるか?」

 マオとユウキのインカムから岸田の声が聞こえる。

  「はい」

 マオが返事をする。

「敵はランクAか!? 状況を教えろ」

「……敵はランクA狂暴鬼バーサクオーガ、武装はしていません」

 ユウキが状況を伝える。

「そうか、武装していない狂暴鬼バーサクオーガなら、お前らでも対処できる。念の為、鈴木と立花をそちらに向かわせた。あと40分で到着するが、もし敵が武装した場合は守りに徹し時間を稼げ、公園内から一歩も外に出すな。孤児院に敵が来る可能性が高い、五木は警戒して待機だ」

 岸田は的確な指示を出す。

「了解です」

 マオはロングブレードを振り上げ狂暴鬼バーサクオーガに切り掛かる。



(おや、早いですね)

 シンはマオたちから死角になっている木の枝の上に立っていた。

(狂暴鬼バーサクオーガなら、今の瑠垣マオ君の実力を見るには丁度いいですね)

 シンは不敵な笑みを浮かべる。

「どうせ聞いていますよね」

(当然だ、お前の行動は常に見ている)

 シンが呟くと低い男の声がシンの脳内に直接話し掛ける。

「でしたら話は早いです。あの狂暴鬼バーサクオーガに武器を与えて下さい」

(どんな武器だ?)

「ここは瑠垣マオ君の得意な剣でお願いします」

 シンは少し考えてから答えた。

(わかった)

 低い男の声は聞こえなくなった。



「がぁぁぁぁ」

(意外と動きが速い?!)

 狂暴鬼バーサクオーガは、マオが左から右に振り抜いたロングブレードを(かわ)す。

「ぐぅう」

 動揺して隙のできたマオは狂暴鬼バーサクオーガの蹴りが腹部に当たりその場に倒れ込む。

「なんだあれは? 一体、どこから?」

 突然、狂暴鬼バーサクオーガの目の前に地面に刺さった日本刀が出現しマオは自身の目を疑う。

「……うそ」

 ユウキの顔から血の気が引く。

 

「持ちなさい」

 公園全体から聞こえた男の声で狂暴鬼バーサクオーガは右手に日本刀を持った。


「マオ逃げて!!」

 ユウキが叫んだ瞬間に地面をえぐるように斬撃が飛んでくる。

「うわぁ」

 マオは左方向へ飛び込み間一髪で斬撃を避ける。

「あぶない、これがランクAの使用率か」

 マオはえぐれた地面を見た。

「よし」

 マオは狂暴鬼バーサクオーガに正面から突っ込む。

「あがぁぁぁ」

 狂暴鬼バーサクオーガは右手に持った日本刀を乱暴に振り下ろす。

(動きが大きい)

 マオは右方向への鋭いターンで斬撃を避け、攻撃を仕掛けるが狂暴鬼バーサクオーガは日本刀でガードした。

「な!?」

 武器と武装が接触した瞬間、ロングブレードは砕け散りマオは30m後方へ吹き飛ばされた。


「マオ、大丈夫?」

 心配したユウキがマオに近付く。

「大丈夫、本当に斬撃が出るんだな」

 マオは狂暴鬼バーサクオーガを睨む。

「……武器を破壊しないとダメ。ランクAの一撃は本当に重いから」

 ユウキは狂暴鬼バーサクオーガの持っている日本刀を凝視する。

「でも、動き自体は少し運動のできる人間並みだね、それなら活路はあるよ」

 マオはコートの袖を七部袖の高さまでたくし上げてから立ち上がる。

「……私も手伝う」

 ユウキは膝を曲げて構える。


「ユウキ、任せたよ!」

 マオは再び正面から狂暴鬼バーサクオーガに突っ込む。

(やっぱり、こいつは動く人間を優先して攻撃する)

 マオは正面から飛んでくる斬撃を切り裂く。

(重いけど何とか切れる!)

 武器が壊れ手ぶらになったマオは再びロングブレードを創造し、次々と飛んでくる斬撃を切り裂きながら狂暴鬼バーサクオーガとの距離を少しずつ詰める。

(ランクAの斬撃を切り裂いた?!)

 ユウキはマオの戦闘に見入っていた。

「ふぅーーー」

(ダメ、集中しなくちゃ)

 ユウキは深呼吸をして集中する。

 

 次々と飛んでくる斬撃を瞬間創造ソニックを使って切り裂くマオ、次第に狂暴鬼バーサクオーガとの距離は3mほどまで近付いた。


「……準備できた」

「OK!」

 ユウキの合図でマオが狂暴鬼バーサクオーガから離れる。

「あがぁ?」

 狂暴鬼バーサクオーガの頭上に直径8mの巨大な結晶で出来た球体が落ちてくる。

「がぁぁぁぁぁあ」

 持っていた日本刀で落ちてくる球体に斬撃を飛ばすが球体の勢いは落ちない。

「あがががが」

 バギィッと音を立てて球体と狂暴鬼バーサクオーガが振り上げた日本刀が接触する。

「あがぁぁぁああああああああああ」

 狂暴鬼バーサクオーガは叫び声をあげ日本刀で球体を砕く。


(瞬間創造ソニック)


 マオは隙だらけの狂暴鬼バーサクオーガに正面から切り掛かる。

「おがぁぁ」

 反応した狂暴鬼バーサクオーガは日本刀を振り下ろし、両者の武器が接触して同時に砕け散る。

(ユウキの結晶を切った後のボロボロの刀なら壊せる)

 マオは手ぶらでになった狂暴鬼バーサクオーガに何も持たない左手を真横に振る。


(瞬間創造ソニック)

 

 創造したレイピアで狂暴鬼バーサクオーガを斬ると狂暴鬼バーサクオーガは跡形も無く消滅した。

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