フェイクカード
いつも、ありがとございます。
これからも頑張って更新します!
「マオ!!」
突然倒れたマオにユウキは叫ぶ。
「マオ、しっかりして」
(……さっきの黒い輪が無い?)
頭上の黒いリングが消滅したマオを仰向けに寝かせる。
「よかった。息がある」
ユウキはマオの口元に耳を近付ける。
シンは製薬会社研究施設を離れ街の裏路地を歩いていた。
(あの力は気がかりですね。ただの人間が夢粉で創造された物資を元の夢粉に戻すとは)
青い執事服のシンは両手をポケットにしまっていた。
(彼の力は、おもしろいですが理解不能。創造スピードもそうですが、あの攻撃の威力は人間にして使用率を持っている様子でした……!?もしや)
シンは立ち止まる。
(彼がparadoxの? いや、違いますか……)
シンは右手を顔に当てる。
(いいや、そうでなければ説明がつきません)
シンは不敵な笑みを浮かべる。
(これは、見定める必要がありそうですね)
シンはニヤリと表情を緩める。
(ますます、おもしろいですよ。瑠垣マオ君)
「ふふふふ」
シンは裏路地で不気味に笑う。
「なに? 今の反応」
パソコンの画面を見た学子が青ざめる。
「どうした?」
隣で立っている岸田が話し掛ける。
「瑠垣君たちの前方に一瞬ですが夢獣らしき反応が、でもこんな反応は見た事がないです」
「詳しく説明しろ」
岸田は中腰になり画面を覗き込む。
「画面情報を倉庫27から瑠垣君のいる製薬会社研究施設に切り替えた瞬間、一瞬ですが夢獣らしき反応が出ました。どのランクにも該当しない反応です」
「……まずは、瑠垣と相川の現状を確認しろ」
岸田は少し考え冷静に指示を出す。
「はい」
学子はインカムのマイクを持つ。
(voiceの裏に一体なのがいるんだ? 分からない事が多すぎる)
岸田は眉間にシワを寄せた。
「ユウちゃん、聞こえる?」
インカムから学子の声が聞こえた。
「……聞こえる」
ユウキは出血する右肩を抑えながらマオを膝枕していた。
「状況を教えて」
「……施設内の敵は全滅、でもマオが急に倒れた」
「大丈夫なの?!」
学子は心配そうに話す。
「……寝ているだけだから心配いらないと思う」
「よかった。倉庫27も敵の制圧が完了したから、今そっちに応援を向かわせたよ」
「……うん」
ユウキは安心した様子で応援を待った。
カンザキを除くvoice全メンバーの150人は夢図書館に確保され、武器や夢獣の隠し場所であった製薬会社研究施設からは、創造履歴の無いランクCが200体、同じく創造履歴の無い銃火器を含む武器が500以上押収された。
作戦の翌日 夢図書館本部1階 研究施設
広い施設内はガラスで細かく区分けされ様々な機器が配置されていた。
「邪魔するぞぉ」
岸田がスライドドアを開けて中に入る。
「呼び出してしまい、すみません」
書類が散乱しているオフィス机で学子は暗い表情で口を開く。
「それで、何が分かった?」
岸田は学子の隣に座る。
「voiceメンバー全員が所持していた物です」
学子はスマートフォンほどの大きさの電子端末を机の上に置いた。
「それで、これがどうした?」
岸田が電子端末を凝視する。
「これは私の創造免許証です。静脈認証はしていません」
学子は画面が暗いままの創造免許証を岸田に手渡す。
「見ていて下さい」
学子は先ほどの電子端末を左手に持ち右手を机の上にかざす。
!?!?
「これは?!」
岸田は目を丸くした。
学子は9秒ほどの時間でボールペンを創造した。
「これが、夢獣や武器、建物の創造履歴が無かった理由です」
学子は創造したボールペンを見ながら話す。
「……まさか、こんな事が」
岸田は言葉を失う。
「本当に信じられない事です。創造免許証とは違う信号ですが、夢粉への干渉を可能にしています。押収した武器や夢獣の圧縮型の特定ができなかったのも、この特殊な信号が原因です」
「それで、圧縮型の特定はできそうか?」
岸田は努めて冷静に話す。
「はい、少し時間は掛かりますが、特定のできなかった原因が分かりましたので、この電子端末の信号を創造免許証の信号に置き換えて再計算すれば圧縮型の特定は可能です」
学子がキーボードを叩く。
「わかった。なるべく早く頼む」
「了解です!」
学子は画面を向いたまま答える。
夢図書館本部2階 医務室
夢図書館の医務室は大学病院と同等の医療設備を持ち200のベット室は全てが個室になっている。
「マオ……」
晋二は医務室のベットで眠るマオを見ていた。
voiceアジト殲滅作戦の終了から22時間、未だマオは寝たままだった。
「よ!」
「失礼する」
太郎と司が医務室へ入る。
「太郎さん、司さん」
晋二は扉の方向へ振り向く。
「まだ起きないか?」
太郎がマオの寝ているベットの隣に立つ。
「はい」
晋二が心配そうに答える。
「お前も少しは休め、またいつ任務が入るか分からない」
司はメガネを右手で持ち上げる。
「そうだ、あれだけの武器と夢獣が出てきたんだ。多分だが、voiceの後ろには更に大きな組織がある。休める時に休んでおけ、瑠垣は俺たちが見ておくから」
太郎が両手を組む。
「分かりました。ありがとうございます」
晋二は医務室を後にした。
メインモニター室の個室、4人掛けの机に岸田とユウキが向かい合って座っていた。
「すみません、遅くなりました」
学子が個室に入る。
「忙しい中、悪いな」
岸田が自分の左隣の席を引く。
「失礼します」
学子は椅子に座った。
「相川、例の研究施設で何があった?」
岸田は正面に座るユウキに話し掛ける。
「……夢獣が人間の命令に従いました」
「えっ」
ユウキの言葉に学子は驚く。
「どういう事だ?」
「……マオと私は40体のランクCに囲まれました……敵のリーダーと思われるカンザキの命令でランクCは、一斉に襲い掛かってきました」
岸田の質問にユウキは無表情で答える。
「う〜ん。夢獣が人間の命令を? 自我が存在しないランクC・Bは本能のままに人間を襲うから、そのカンザキって人も襲われるはずなんだけど。」
学子は困惑していた。
「俺も似たような現象に心当たりがある。夢図書館高等専門学校で起こったランクCの大量発生事件で、ランクCの大群は目の前にいた工藤正輝を襲わずに、少し離れた場所にいた浦和遥を最初に攻撃している。通常の夢獣の特性からすると、ありえない事だ」
岸田は頭に右手を当てた。
「それは私も映像を見て気になっていました。それでユウちゃん、その40体のランクCはどうしたの?」
「……自然に消滅した」
マオの変化の事は気になっていたがユウキは見たままを伝えた。
「自然に? でも、たしかに瑠垣君とユウちゃんのACMの履歴を見る限りでは、一瞬で全てのランクCが消滅しているんだよね」
学子は眉間にシワを寄せ顳顬に右手人差し指を当てる。
「………」
(この一連の事件、何かが違う)
岸田は黙っていた。
「最後にいいかな?」
「………」
学子の質問にユウキは無言のまま頷く。
「その場にいた夢獣はランクCだけだった?」
「……確認できたのはランクCだけ。でも何かいた。カンザキはその何かに殺された」
ユウキは深刻な表情で答えた。
「うん、ありがとう! 私の聞きたかった事は以上だよ。岸田司書長は他には?」
「特にない」
岸田は両手を組んで考えていた。
「……失礼します」
ユウキは個室を後にした。
「どう思う」
椅子に座ったまま岸田が口を開く。
「あの電子端末、フェイクカードの事ですが集合圧縮が創造免許証に比べて若干ではありますが不安定です。なのでちょっとした誤差で創造した物資が崩壊する可能性は少なからずあります。私はユウちゃんが嘘を言っているようには見えません」
学子は必死になっていた。
「俺も相川を疑っていない、俺が気になっているのはカンザキを殺した存在だ。何か胸騒ぎがする」
岸田は腕を組んだまま話す。
「そうですね。カンザキの衣類の切れ端の近くにナイフが落ちていたので可能性があるとすれば」
学子が頭に右手を当てる。
「ランクA、もしくは夢粉エネルギーを使った新技術」
岸田が低い声で話す。
「フェイクカードの事もそうですが、調べる事が多そうですね」
学子は椅子に座ったまま伸びをする。
晋二は自室に帰ってきた。
「はぁー」
深いため息をつくと木製の椅子に座る。
「大丈夫かなぁ」
晋二は遥と正輝を失ったショックから必要以上に神経質になる。
「落ち着かない」
晋二は自室から外に出る。
「ユウキ」
「……お疲れ様」
廊下で偶然ユウキと出会す。
「遅いね、今まで掛かったの?」
「……うん」
晋二はユウキが岸田と学子に呼び出された事を知っていた。
「怒られた?」
「……怒られてない、ただ私とマオが別行動をした時に何が起こったかを聞かれた」
ユウキは無表情で答える。
「そっか」
晋二はため息まじりに返す。
「……マオが心配?」
ユウキが少し困ったような表情をしていた。
「そりゃ友達だから、ユウキは心配じゃないの」
晋二が真面目な表情で返す。
「……心配だよ。マオは大切な友達だから」
ユウキの表情は少し不機嫌そうだった。
「そうだよね、ごめん」
晋二が目線を下に向ける。
「……さっきマオの様子を見てきたけど、寝ているだけ……今、私たちにできる事は、しっかり休んでマオがいつ目を覚ましてもいいように準備する事」
ユウキは晋二の顔をしっかりと見る。
「そうだね」
(ユウキ変わったな、自分の意見をしっかり言って表情も変わるようになって)
真面目な表情のユウキに晋二は少し驚く。
「……私も、同じだから…おやすみ」
ユウキはそう言い残して自室に向かって歩き出した。
「ありがとう、おやすみ」
(ユウキの肩、震えていた。あの事件で傷ついているのは俺だけじゃない、ユウキだって辛いんだ)
晋二は両手で顔を叩く。
「よし!」
晋二は迷いが吹っ切れたような表情をして自室に戻った。
作戦の翌々日 午前6時00分
♬〜♬〜
岸田の創造免許証が着信を知らせる。
「どうした?」
自室で朝食のサンドウィッチを食べていた岸田が電話に出る。
「岸田司書長、押収品の圧縮型の解析が終わりました」
電話の相手は学子で疲労困憊の様子だった。
「早かったな」
「頑張りました。早く終わったのは他の研究者も手伝ってくれたからです」
「ご苦労、すぐに向かう」
「了解です」
岸田は急いでサンドウィッチを食べると、司書長の制服に着替え本部1階の研究施設に向かった。
「待たせたな」
学子のいる研究室に入った岸田は机で突っ伏している学子に話し掛ける。
「すみません、寝てしまって」
学子が目をこする。
「心配するな、ここ3日間まともに寝てないだろう」
岸田が微笑む。
「えへへ」
学子は照れた笑いをする。
「これが、解析結果です」
学子は後方に立つ岸田にノートパソコンを見せる。
「………」
岸田は食い入るように画面を覗き込む。
!?
「これは……」
岸田は絶句する。
「押収品の98%がジュリビア帝国国籍の人間が創造した物資でした」
学子の声のトーンが下がる。
「警察の取り調べで分かったが、全逮捕者150人はジュリビア帝国国籍だった」
岸田が右手で顎を触る。
「そんな!?」
学子は目を丸くして岸田の顔を見る。
「voiceの裏にジュリビア帝国がある可能性が高い。オペレーターの戸田にジュリビア帝国への潜伏調査命令書を作れ。司書長権限を使う」
「了解しました」
岸田の指示通り学子がノートパソコンで文書を作る。
「それと」
学子は徐に口を開く。
「なんだ?」
岸田は印刷された文章を胸ポケットにしまった。
「押収品から死亡した人間の圧縮型が検出されました」
学子はノートパソコンを操作して岸田に画面を見せる。
「なん……だと……」
(なぜ、こいつが?!)
岸田は画面を見て青ざめる。
「私が夢図書館に配属された時には既に亡くなっていましたが、岸田司書長なら面識はあると思いまして」
学子は椅子に座ったまま岸田を見上げる。
「ああ、知っている。町田幸光、14年前のランクA討伐作戦でランクAの研究の為に司書に同行し失踪、死亡扱いになった夢図書館の研究者の1人だ」
岸田は冷や汗をかいている。
「たしか、原因不明の事故で司書と研究者の合計18人が全滅したと聞いています」
学子は事件データを画面に表示させる。
「ああ、結局ランクAと17人の構成員は行方不明になった。唯一、死体で発見されたのは……」
岸田は言葉に詰まる。
「五島麗花さん」
パソコンで事件を調べた学子が静かに口を開く。
「そうだ……」
岸田は俯く。
「もし、失踪したはずの町田幸光がvoiceに協力していればフェイクカードの事も説明がつきます」
学子が両手に力を入れる。
「確かにな……」
「岸田司書長?」
学子が岸田の顔を心配そうに覗き込んだ。
「すまない。少し外す……解析、本当にご苦労だった」
岸田は何かから逃げるように部屋から出る。
「岸田司書長……?」
学子は首を傾げる。
本部研究施設を後にした岸田は屋上で煙草を吸っていた。
「ふぅーーー」
岸田は白い煙をはく。
(あいつが見ていたら怒るだろうな。せっかくタバコ辞めてたのに)
岸田はフェンスに寄り掛かかる。
(麗花……これで、お前に何があったのか、分かるのか?)
岸田は空を見上げる。
(俺は、あれから一瞬たりともお前の事を忘れた事は無い)
岸田は創造免許証を取り出し耳に当てた。
「岸田か、珍しいじゃないか」
相手は3コールで電話に出た。
「忙しいか雹丸」
「いいや、大丈夫だ」
岸田の真剣な声に雹丸の声も低くなる。
「一昨日、大掛かりな作戦が無事に成功した」
「たしかvoiceだったな。俺たちも情報だけは聞いたが、これは裏に相当ヤバイ事が関わっている」
雹丸は深刻そうに話す。
「押収した証拠品から、麗花の事件で死亡扱いになっていたはずの町田幸光の圧縮型が検出された」
「なんだと!?」
雹丸は声を荒げる。
「俺は、ここ最近多発しているん夢獣がらみの事件と14年前の事件が繋がっているように見えて仕方がない」
岸田は煙草の灰を落とす。
「フェイクカードの存在が明らかになって、voiceが世界中の犯罪組織に武器や夢獣を密輸密売していたのは間違いないだろう。だけど焦るな。麗花を失って1番辛いのはお前で間違いないが、麗花は俺や崩巌にとっても大切な友達なんだ。もちろん岸田お前もだ。絶対に無理するな、困ったら俺たちを頼れ」
雹丸は冷静に諭した。
「ああ、分かっている」
岸田は少し笑っていた。
「崩巌には、もう少し秘密にしておこう」
「ああ、そうだな。あいつは麗花と姉妹みたいに仲がよかったからな。不確定な情報でも絶対に無茶をする」
雹丸の提案に岸田は賛成する。
「俺にもできる事があれば言ってくれ。すぐに助けに行く」
「お前は自分の立場を考えろ」
岸田が笑いながら話す。
「お前もな」
雹丸が冗談っぽく返す。
「はははは、じゃぁな」
「はははは、電話ありがとよ」
2人は笑いながら通話を切った。
(なんだ? 頭が痛い)
マオの頭に刺すような痛みが走る。
「マオ!!」
(ユウキの声?)
「よかった、俺、先生連れてくる」
(晋二?)
マオが目を覚ますとユウキの顔が目の前にあった。
「ユウキ、俺は?」
「……」
ユウキは無言のまま、ベットの上で上半身を起こしたマオに抱きつく。
「痛っユウキ、苦しい」
ユウキはマオを力いっぱい抱きしめる。
「……よかった」
ユウキの声は震えていた。
「ありがと」
マオは優しく答えた。
「……もう、起きないかと思った……遥や麗花みたいに、もう二度とマオに会えないと思ったら……怖かった」
ユウキはマオに抱きついたまま話す。
「ごめん……心配かけちゃったね」
マオはユウキの頭に左手を置いた。
「……うん」
ユウキは小さく頷く。
「心配してくれて、本当にありがとう」
マオが笑顔になる。
「うん」
優しい声で答えるユウキも笑顔だった。