鈴木班 2
マオたちは1階の格技場へと移動した。
本部の格技場は学校と同じ造りではあるものの2倍の面積があった。
格技場出入り口、手前のベンチに太郎と司、奥のベンチ前にマオ、岸田、晋二、ユウキ、学子が集まった。
「一応、飛び級で司書になったヤツだ油断するなよ」
司は準備運動をする太郎に耳打ちをした。
「ああ。多分、体術がずば抜けているとか、戦いながら創造ができるとか、そんなレベルだろ。昨日まで学生だったヤツに百戦錬磨の俺は負けねぇよ。最初から全力で叩き潰す!」
太郎は自信満々に答える。
「向こうも準備が出来たみたいだ」
司はマオたちの方を見る。
マオと太郎は格技場中央で向かい合って立った。
「ルールは相手に負けを認めさせる事、武器は相手に骨折以上の負傷を負わせない物に限る」
2人の間に立った司はルールを説明する。
「それじゃぁ、一瞬で終わらせてやるよ」
太郎は4秒ほどで自分の身長よりも50cmも大きい巨大な斧を創造した。
―――鈴木太郎 圧縮率83% 創造スピード4.32秒―――
「おお、アイツ本気だぞ。1番得意な武器を創造しやがった」
岸田が太郎の斧を見て笑う。
「ちょと! 相手は新人君だよ!」
学子は太郎の斧を見て慌てる。
「学子さん、マオなら大丈夫ですよ」
落ち着いた様子の晋二。
「……うん。問題ない」
ユウキも落ち着いて様子で頷く。
「??? ん」
学子は2人の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「お前の武器は?」
司は何も持っていないマオの両手を見る。
「俺はこれで」
マオは袖を七部袖の高さまでたくし上げて冷静に返す。
「いいじゃねぇか! 好きにされば」
太郎は右手に持った斧を右肩に担ぎながら話す。
「わかった。はじめ!!」
司の合図と共に両者は距離を縮める。
「うおおおおりゃあああ」
太郎は怪力で両手に持った巨大な斧を軽々と振り下ろす。
(すごい力、でも見える)
マオは左に方向へ避け、斧が格技場の床を砕く音が響き渡る。
「避けた!」
学子はマオの身のこなしに驚く。
「いい反応だ!」
太郎はすぐに体勢を立て直しマオに切り掛かる。
(これが班長の実力か)
次々と振り下ろされる斧をマオは軽やかな身のこなしで躱していく。
(やっぱりな、瑠垣が武器を創造をしないのは身軽になって俺の攻撃を避けやすくする為、俺の隙を突いて武器を創造し攻撃してくるはずだ、圧縮率が極端に低い瑠垣が司書に飛び級できた理由は戦闘中でも3秒台の創造が可能だからだ!)
太郎は攻撃を避けるマオを冷静に分析した。
太郎が真正面から振り下ろした斧が近付く最中、マオは左に手に日本刀を創造した。
「なっ!?」
(このタイミングで武器を創造した?)
マオの予想外の行動に太郎は驚く。
斧と接触した瞬間マオの振り上げた日本刀は粉々に砕け散る。
(なんだ瑠垣の攻撃? 結構、力が強いじゃねぇか!)
太郎は予想以上の衝撃に驚く。
「あめーよ」
(たく、こんなヤツを飛び級させるなんて学校もレベルが下がったな)
「これで終わりだぁーー!」
武器を失い隙だらけのマオに太郎は両手に持った斧を頭上で1回転させ振り下ろす。
(瞬間創造)
「なーに〜ぃ!?」
太郎は瞬間創造を見て目玉が飛び出そうなほど驚く、マオは右手に創造したロングブレードで斧を弾き飛ばし太郎はバランスを崩す。
「あっ」
(しまった。当たる)
マオは左手に創造したロングブレードを寸止めをしよと勢いを緩めるが間に合わず太郎の後頭部に当たってしまった。
「いでぇーーーーー」
太郎は頭を抑えて悶絶する。
「なんだ? さっきの?」
司は開いた口が塞がらない。
「嘘、勝っちゃった」
学子は両手を口に当てて驚く。
(さすがマオだ!)
(……当然の結果)
晋二とユウキは少し誇らしげな顔をしていた。
「すみません、大丈夫ですか? 止めしようとしたのですが勢い余ってしまって」
倒れ込む太郎にマオは申し訳なさそうに謝る。
「いてて、お前ぇ、すげ〜な!!」
目を輝かせて太郎が起き上がる。
「今のなんだ? 俺の動きを読んで、あらかじめ2本武器を創造していたのか?」
「そうだ、説明してもらわないと納得がいかない」
テンションが高い太郎と取り調べをする刑事のような仏頂面の司がマオに質問する。
「いやーぁ、その」
マオは2人の剣幕に後ずさりする。
「まあ待て」
岸田が太郎と司を止める。
「岸田さん! アイツは一体なんなんですか?」
太郎が岸田の方に振り向く。
「落ち着け、今のは瑠垣が飛び級した理由の1つ瞬間創造だ」
「ソニック?」
太郎が首をひねる。
「分かりやすく言うと、瑠垣の創造スピードは0.1秒を切っている」
「えっ?」
岸田の言葉に司は開いた口が塞がらない。
「はぁ?」
太郎の目が点になる。
「岸田司書長、事前に頂いたデータと違いますが」
学子が持っていたファイルを確認する。
「そのデータは間違いなく瑠垣のものだが、本来の数値ではない」
岸田が笑みを浮かべる。
「隠していたんですか?」
司は目を細める。
「それだったら教えてくれてもいいじゃないですか!!」
太郎は不機嫌そうに話す。
「なぜ教えなかったか、それはお前の為だ鈴木!」
強い口調で岸田は話す。
「俺の為?」
「そうだ、ここ最近の鈴木班の任務記録を見させてもらった、お前の独断先行が7回、手掛かりが残る敵アジトの全壊が2回、近隣住宅への被害が103回、さすがに目に余る。もし敵のデータがオペレーターの調査結果と違っていたら? 隠している戦力があったらどうする? お前のやり方はいつか仲間を殺すぞ! 今日の瑠垣との対戦で分かったか!」
「すみません……」
岸田が厳しく話すと太郎は下を向いて小さい声で返事をした。
「お前には信頼できる仲間がいる、これからは班長らしくドッシリ構えればいいさ!」
「ありがとうございます!」
岸田が太郎の頭を優しく叩くと太郎は笑顔になった。
「瑠垣と五木、相川の3人は今日のところは解散! ゆっくり休む事」
岸田は両手を組んだ。
「おお、綺麗な部屋!」
構成員の寮は風呂とトイレが別になっている1LDKの広い部屋だった。
「よいしょ」
マオは少ない手荷物を下ろしタンスに衣類をしまって、一息ついていた。
「おおす、マオ!」
隣に部屋の晋二が部屋に入ってきた。
「学生寮みたいにオートロックじゃないから気をつけろよ」
「ありがとう」
「それで明日なんだけど、装備の説明があるから朝7時にメインモニター室へ集合な!」
「了解」
晋二は話し終えるとすぐに自室へ帰っていった。
♬〜♬〜
マオの携帯が鳴った。
(岸田先生?)
マオは通話をタップした。
「もしもし」
「悪いな、言い忘れた事があった。お前が使用率を持っている件だが、伏せておけ。この事は夢図書館の中でも限られたの者しか知らない情報で留めておく事が決まった」
岸田は低いトーンで話した。
「はい、分かりました」
マオは緊張した様子で返す。
「それだけだ、おつかれ!」
「はい、おつかれ様です」
岸田との通話は切れた。
「失礼します」
構成員寮の岸田の部屋に太郎、司、学子が入った。
「待っていたぞ、これを見ろ」
岸田はノートパソコンを3人に見せた。
「……」
「……」
「……」
画面には校内ランクC大量発生事件で大量のランクCを倒すマオの姿が写し出され3人は絶句した。
「これって、本当に学生か?」
司がメガネを掛け直す。
「ああ、俺が勝てない訳だ。こいつ後ろにも目があるのか?」
太郎は冷や汗をかいていた。
「理論上ではとか、そんな次元の話しでは無いですね。理解不能です」
学子は食い入るように画面を見ていた。
「瑠垣の力は未だ未知数だ。強力な力を持っているのは明確だが、行き過ぎた力は危険を伴う。お前らには瑠垣の監視を頼みたい」
岸田が頭を下げた。
「やめて下さいよ!」
太郎が慌てる。
「わかりました」
司が口を開く。
「たしかに、これはきちんと調べる必要がありますね」
学子は真顔になった。
マオは草原に立っていた。
「やっほ〜 瑠垣君、聞こえる?」
右耳のインカムから学子の声が聞こえる。
「はい、しっかり聞こえます」
マオは返事をする。
「じゃあまずはACMの使い方から説明するね!」
「はい」
マオは右手のスマートウォッチを見る。
「ACMはAuto(自動)・Compression ratio(圧縮率)・Measuring instrument(測定器) の略で創造免許証と連動して自分の圧縮率が分かるんだよ! じゃあ武器出してみて!」
「はい」
マオが左手にロングブレードを創造する。
「18%です」
ACMに表示された数値を確認する。
「じゃあ次に創造免許証ね! 創造免許証はACMと連動させる事によって夢図書館のメインモニターに直径300mの周辺データと潜伏する夢獣の居場所がわかるの! 早速前方から夢獣が接近中だよ!」
草が揺れる音と共に飛びかかってきたジャッカル型の夢獣をマオはロングブレードで切り裂きロングブレードは粉々になる。
「ACMを確認して!」
学子が指示をする。
「68%です」
マオは表示された数字を読み上げる。
「ACMは接触した夢獣や相手の武器の圧縮率も測定できるの!」
「便利ですね」
マオはACMを見ながら感心したように頷く。
「以上で装備の研修はおしまい! じゃあ電源落とすよ」
「はい」
学子がそう告げるとマオの視界が真っ黒になる。
「じゃあ、ヘッドギアを外して」
暗闇の中で学子の声が聞こえる。
「はい」
マオが白いフルフェイスのヘッドギアを外すと目の前には10m四方の巨大なディスプレイがあった。
「おつかれ様、初めてのバーチャル研修はどうだった?」
晋二は機械仕掛けの椅子に座るマオに声を掛ける。
「すごかった。本物と大差なかったよ」
マオは驚いた様子で椅子から立ち上がった。
「……攻撃を受けると痛みがあるから不思議」
無表情のユウキは口を開いた。
「さすが瑠垣君だね! あの数の夢獣を倒しただけあって反応速度が段違いだよ」
巨大ディスプレイの前にハの字型に並べられた20の机、その机一つ一つにはデスクトップパソコンが設置してあり右から5番目の席に座っていた学子が椅子を回転させてマオの方を向いた。
「ありがとうございます」
マオは会釈をする。
「岸田司書長と太郎くん、司くんの3人は会議中だから、ここで昨日、瑠垣君にできなかった鈴木班について詳しく説明するね!」
学子が席から立ちマオの近くにやってきた。
「まずは班の事からね、岸田司書長から少し聞いたと思うけど班は研究者、オペレーター、司書で構成されたチームの事。オペレーターが調べた事件や情報を研究者が解析してオペレーター単独での解決が可能な案件はオペレーターが直接解決して、解決に3人以上の人員を必要とする案件は司書に委託し解決するシステムになってるの!」
学子が右手人差し指を立てて説明する。
「それでは松下さんが調べてきた情報を元に任務がくるって事ですね」
マオが返事をする。
「ちっちっち〜 鈴木班はちょっと違うんだよ! 私たちは夢図書館の班に属さないオペレーターからの情報で任務を行なっているの」
学子は右手人差し指を左右に振る。
「とっ言いますと?」
マオは首をひねる。
「それはね、私が非戦闘要員だから」
「非戦闘要員?」
マオが首を傾げる。
「オペレーターには2種類あって調査戦闘要員と非戦闘要員、読んで字の如くだけど。事件の情報収集と簡易事件の解決をするのが調査戦闘要員で、メインモニター室で任務中の司書やオペレーターに事件の追加情報や異変などを伝えるのが非戦闘要員だよ! 非戦闘要員は滅多に班には属さないんだけど、私は研究者も兼ねているから緊急の問題でも、わざわざ研究者に聞きに行かなくても即答できるからね!」
学子はウィンクをして説明する。
「では、どうやって任務を?」
マオが再度質問する。
「それはね、夢図書館には班に属さない本部付きのオペレーターがいるの、隠密行動が必要とされる重要案件を専門としたエリートオペレーターなんだけど、その人たちが調べた情報を本部勅令の任務として鈴木班に委託するの」
学子は自慢げに話す。
「では、鈴木班はかなり重要な役って事ですか?」
マオが三度質問する。
「そうだよ〜! 司くんも言っていたけど、鈴木班は実戦成績がトップの少数精鋭、だから放って置いても勝手に夢図書館本部から依頼が入ってくるから調査戦闘要員のオペレーターは不要って事!」
学子はにっこりと笑う。
「お〜い」
後方から太郎の声が聞こえる。
「あっ太郎くん! おかえりなさい」
学子はミーティングから帰ってきた太郎たちに手を振る。
「そっちは終わったか?」
司がメガネを右手で持ち上げる。
「バッチリだよ」
学子が答える。
「瑠垣、早速だが初任務だ」
岸田がマオに話し掛ける。
「はい」
マオに緊張が走る。
マオたちはメインモニター室の会議机に座った。
「今回の任務内容はvoiceアジトの殲滅だ」
岸田は机に座っている6人の鈴木班の前に立った。
「voiceですか? 本当に存在していたなんて」
岸田の告げた任務内容に晋二は驚きを隠せない。
「…………」
ユウキも珍しく目を丸くしていた。
「voice?」
マオが聞き返す。
「そうだな、改めて説明するか」
岸田が両手を組む。
「まず、夢図書館がどうやって違法な創造を発見調査しているか説明しよう。知っての通り夢粉で創造をする為には創造免許証が必要となる。それは知ってるな」
「はい」
マオは頷く。
「どうして創造免許証が必要なのか、それは研究者である松下に説明してもらおう」
「はい」
学子が立ち上がり一礼をする。
「まず、夢粉は人間のイメージや想いに干渉する特性がある事は知っていると思います。実は創造免許証が無くても夢粉に想いやイメージを干渉させる事は可能なんですが創造はできません。なぜなら創造免許証を持たない人間は、ごく僅かな夢粉にしか影響を与えらないからです」
「??」
マオは学子の説明を理解していない様子。
「分かりやすく言うと、創造免許証は脳の命令を拡張し拡散する機能を持っています。創造免許証は脳の電気信号を読み取り、その中で夢粉に対する命令のみを識別し拡散します」
「なるほど、拡声器みたいですね」
マオが頷く。
「たしかに、命令をより多くの夢粉に届ける為の拡声器だね!」
学子は首を上下に振って関心する。
「その創造免許証は夢図書館が全て管理している。誰がいつ何をどんな目的をもって創造したかがな」
岸田が話すと学子は座る。
「目的まで?!」
マオが目を見開く。
「そうだ、創造免許証は夢粉に対する命令だけを読み取る。そこには形状と材質、使用目的がある。例えば何も書かないのに鉛筆は創造しないだろ、無自覚だが人間は創造をする時に、それを使用している姿もイメージする」
「たしかに!」
岸田の説明にマオは頷く。
「それを踏まえ、これを見ろ」
岸田は後方に振り返りマオたちに巨大ディスプレイ(メインモニター)を見せる。
「これは?」
マオはメインモニターに写った無数に並ぶ緑色のマス目を見る。
「これは日本で創造免許証を所有している人間の情報だ」
岸田が画面を指差す。
「この数の少ない黄色いマスは何ですか?」
マオは岸田に質問する。
「黄色いマスは悪意を持って創造を行った人間の色だ」
「黄色いの表示の人を逮捕しているんですか?」
マオが画面を凝視する。
「いいや、違う。黄色になった時点でオペレーターやドローンによる監視がスタートする。そして創造した物資で危害を加えた瞬間に表示が赤に変わる。それまでに収集した情報でオペレーターが解決可能な案件が明白の場合はオペレーターが即逮捕するが、大きな事件や組織が裏で控えている可能性が濃厚な場合は、更に3日間のより詳しい調査が行われる。犯人の居場所は創造免許証が随時発信しているから創造免許証を壊すか手放すかしないと追跡を逃れる手段は無い。と言っても監視の目があるから意味は無いがな」
「なるほど、創造免許証を手放せば新たに創造する事ができないから逮捕されるのは時間の問題ですね。ですが夢獣の場合は?」
「夢獣の創造の場合は無条件で司書に任務が下るから安心しろ」
「はい」
マオは納得した様子で返事をする。
「それで今回のターゲットであるvoiceは武器や夢獣などを密輸密売している組織だ」
岸田が真剣な表情になる。
「え? ですが先ほど、創造免許証は何を創造したかが分かると言っていましたよね。創造した時点で夢図書館に居場所を教えているものと」
マオが不思議そうな表情をする。
「それが、どう言うわけだかvoiceが密輸密売している武器や夢獣の創造履歴が無いんだ」
「え?」
マオは眉間にシワを寄せる。
「だからvoiceの事は当初、デマだの都市伝説だの存在事態が怪しいと夢図書館は判断していた。しかし」
「………」
マオは生唾を飲む。
「ある事件の逮捕者から創造履歴が無い武器が押収された」
「!?」
マオは驚きを表情に出す。
「五木と相川が学生寮への到着が遅れた話は聞いたな」
「はい」
マオが頷く。
「テレビでもニュースになったが、旧イラクのダリアス共和国で大規模なテロがあった。200年前に枯渇寸前の物資を奪い合ったユーラシア戦争から世界平和主義条約が成立し世界各国は自衛をする以外の武力は持てなくなった。だから自国の自衛能力を超える規模のテロなどには夢図書館が武力介入する。ダリアス共和国のテロは世界中から鈴木班を含む1000人の司書を投入する事によって、テロは2日間で終息し300人のテロリストが逮捕された」
「……」
マオは岸田の話に聞き入る。
「そのテロリストの武装は全て夢粉で創造されている事は確かだったが夢図書館にその創造履歴が無かった」
岸田が神妙な面持ちで話す。
「その武装の創造した人間を特定する為に、圧縮型を調査しているんだけど中々進まなくてね」
学子が遠い目をした。
「指紋のように一人一人の固有の型がある圧縮型を調べれば組織の人間を割り出せるはずだったが夢粉同士が複雑に集合圧縮しててな、通常よりも時間が掛かっている」
岸田がポケットから取り出したリモコンを操作すると、1人の男性がメインモニターに写し出された。
「やっとの思いで1人の圧縮型を割り出したの」
学子が写真を見て呟いく。
「ロレス・ブレインブル。 ジュリビア帝国国籍の34歳男性だ。この男がvoice組織の一員である可能性が浮上し全世界の監視カメラやドローンの画像データを解析した。そして見つけ出した、横浜でロレスの行動が多数確認された。その後の調査結果は松下から繋げてもらう」
岸田が後ろに下がり学子が立ち上がる。
「まず、ロレスの居場所を特定する為に、日本全国の建築物がいつ、どこで創造されたを調査しました」
「全部ですか!?」
マオが前のめりになる。
「ええ、voiceは何らかの方法を使い夢図書館に創造履歴が残らないように創造しています。ですからアジトや隠れ家も創造履歴が無いと仮説を立てました」
学子は1枚の写真を取り出した。
「この港に面した工業用倉庫街、その中に創造履歴の無い物が見つかりました」
一同は写真を見る。
「この倉庫街をオペレーターが1週間掛け調査した結果、voiceの現在のアジトである事が判明しました」
学子は一礼して座り直す。
「今回の任務だが」
岸田が再び前にくる。
「voiceアジトの殲滅と武器、夢獣の押収だ」
マオたちの顔が引き締まる。
「これは100人の司書を投入する大掛かりな作戦で、俺が指揮を取る事になった。作戦は緊急会議を開いて説明するが、お前らの役目はアジトの正面突破だ」
岸田は低い声で話した。
「……」
マオたちに緊張が走る。
「それと現在多発している、ランクCの大量発生事件。voiceはそれに必ず関与していると俺は思う」
「!?」
岸田の一言にマオ、晋二、ユウキが反応する。
(正輝、遥……)
マオは無言のまま拳を握り締めた。