鈴木班 1
夢図書館高等専門学校から車で7分の場所に岸田の住んでいるマンションがある。
「……」
2日ぶりにマンションに帰った岸田は疲労困憊だった。
男一人暮らしの2LDKの部屋は意外にも片付けられている。
「んぐ、はーぁ」
冷蔵庫から缶ビールを取り出して立ったまま一口飲みソファーに座った。
(どうも気になる。あの事件現場、工藤がなぜ鍵を持っていたか? 第3実験準備室の管理をしていた教員のあの反応、たしかに夢獣を所持しても何の疑いも持たれない研究者だが、あの数をどうやって?
夢獣が1体でも確保できていれば誰が創造したかを特定できたが……唯一の手掛かりの鍵も、工藤と第3実験準備室を管理していた教員以外に触った形跡は無しときた)
「ふぅーーー」
岸田はソファーにもたれ掛かりため息をついた。
(まさかこんなに早く夢図書館に瑠垣の存在がバレるとは思わなかった。だが監視カメラの映像を見て改めて思ったが、瑠垣の実力は現段階で班長クラスもしくはそれ以上。俺も本部に移動になるから丁度いいといえばいいが、今回の事件で瑠垣の心が折れていないかが心配だ)
岸田は胸ポケットから創造免許を取り出し操作をして右耳に当てた。
22時に保健室を後にしたマオは自室に帰ってきた。
「ただいま」
マオは2日ぶりに部屋の明かりをつけベットに座った。
「お腹空いたな」
あの事件から何も食べていないマオは非常時用のカップラーメンにお湯を入れすする。
(久々に食べるとカップラーメンってうまいな)
空腹のマオはあっという間に完食をした。
「はーーぁ、ごちそうさま」
満足したマオはテーブルの上を片付けてクッションの上に座り考え事をした。
(俺は司書になる。もう二度と大切な人を失わない為に)
♬〜♬〜
「うわぁ!!」
マオはいきなり鳴った携帯電話に驚く。
「岸田先生?」
着信は岸田からでマオはすぐに通話をタップした。
「よぉ、こんな時間に悪いな」
「いえ、大丈夫ですよ」
マオは座っていたクッションから立ち上がる。
「今日は悪かった。夢図書館の都合で、迷惑を掛けたな」
岸田は申し訳なさそうに話す。
「いえいえ、考える時間も頂いたので」
マオは落ち着いた様子で返す。
「答えは決まったみたいだな、声に迷いがない」
「はい、明日直接話します」
「わかった。それと竹宮副総館長だが急用で本部に戻った。明日は10時に俺の部屋に来い、五木たちにも声を掛けておく」
「はい」
マオは力強く返事をした。
マオとの通話を終えた岸田は創造免許を耳元から離した。
(少し心配し過ぎだったか? あいつは俺たちが思っている以上に強かった。だがその強さが必ずしも良い方向に作用するとは限らない、しっかり見てやらねぇとな……)
岸田はソファーに座ったまま眠りについた。
5月9日(土) 9時55分
岸田専用トレーニングルームに到着した学生用の任務服姿のマオ。
「おはよ」
「……おはよう」
司書の制服姿の晋二とユウキがマオに声を掛ける。
「おはようユウキ、もう体は大丈夫?」
マオは昨日まで寝込んでいたユウキを心配する。
「……大丈夫…ありがとう」
「よかった」
少し嬉しいそうに答えるユウキにマオは笑みを浮かべる。
「それにしても、この部屋どうしたんだ? 物がかなり減ったけど」
マオはソファーと机以外なにも無くなってしまった部屋を見回しながら呟く。
「たしかに、入ってすぐに思ったよ」
晋二は頷く。
「おお、待たせたな」
10時丁度、岸田は黒いつなぎ姿で入ってきた。
「先生、その格好は? この部屋の状況と関係があるんですか?」
マオが岸田に質問する。
「ああ、俺は5月末で教師をクビになって本部へ移動
する事が決まった。そんで今朝は5時ぐらいから、この部屋の片付けをしていたわけだ」
「ええ?!」
笑って話す岸田にマオと晋二の声がシンクロする。
「まぁ、俺の事は気にするな、それで瑠垣。答えを聞かせてもらおう」
岸田が真面目な表情でマオに問い掛ける。
「…………」
「…………」
岸田の質問の意図を理解した晋二とユウキに緊張が走る。
「俺は司書になります」
マオは岸田の目を力強く見てはっきりと意思を伝えた。
「分かった」
岸田はなにかを覚悟するように頷いた。
「お前がそう答える思ってな、今後の予定を予め聞いておいた。俺とお前らの4人は5月31日に本部へ向かう」
「え!?」
「……任務ですか?」
岸田の言葉に驚く晋二とユウキ。
「そうだ五木と相川は任務、瑠垣は夢図書館の入館手続き、6月末までには学校に戻れる予定だ」
岸田が両腕を組んで話すと3人は頷いた。
「それと瑠垣の配属先はもう決まっている。というか俺が司書長権限で勝手に決めた。俺直属の鈴木班だ」
「よっしゃ!」
「………」
岸田の言葉にガッツポーズをする晋二と嬉しそうな表情のユウキ。
「俺たちと同じ班だよ、マオこれからもよろしくな!」
晋二はマオの背中をバチンと叩く。
「……マオがいてくれれば戦力大幅アップ」
ユウキも目を輝かせて話す。
「ありがとう、俺も知らない人しかいない部署だと思っていたから嬉しいよ」
嬉しいそうにマオは返す。
「以上だ。俺は仕事の引き継ぎやらで忙しいから、早く帰れ」
いたずらな笑顔を浮かべた岸田が話すと3人は部屋を後にした。
翌日5月10日(日)
正輝と遥の告別式が体育館1階で行われた。
「はるかーーーぁあああああああああああ、なんでぇぇぇぇぇぇぇ」
昨年、病気で息子を亡くし娘の遥まで事故で亡くしてしまった遥の母親が祭壇の前で泣き崩れ、遥の父親は肩を抱いて支えていた。
(正輝って孤児だったんだな、俺は1年間ずっと一緒にいて、何も正輝の事を知らなかったのか)
祭壇前で両手を合わせる牧師と10人ほどの幼い孤児をマオは呆然と見ていた。
告別式が終わり寮へ向かう道中。
「猛の姿見たか?」
左隣を歩く晋二がマオに話し掛ける。
「いなかった……」
マオが心配そうに答える。
「かなり落ち込んでいたし、今は少し1人にした方がいいかもしれない」
「そうだね……また学校もあるし」
泣き崩れる猛の姿を思い出したマオは晋二の意見に合わせるようにした。
5月22日(金)
マオは晋二とユウキと一緒に登校をして教室に入ると、教室内は会話が全く無く暗い雰囲気に包まれていた。
(いないか…)
マオはすぐに猛の姿を探すが猛は登校してこなかった。
「おおす」
シワだらけのYシャツと黒いスラックス、サンダル姿の岸田が教室に入り教卓の前へ立った。
「先日の事件で、このクラスから2人も犠牲者が出てしまった」
岸田の一言で生徒たちは俯いてしまう。
「お前らがこれから司書を目指すなら、夢獣との戦闘は避けて通れない事であり、辛い事も数多く待っている。それだけは覚悟しておけ、それと急ではあるが、このクラスの担任が6月から変わる」
「えっ!?」
下を向いていた生徒たちが一斉に岸田を見る。
「ああ、次の担任も夢図書館から派遣される教員免許を持った司書だから安心しろ、詳細は来週月曜日にプリントを配る。それと欠席の吉村だが体調不良の為、実家に帰り療養しているからしばらくは学校に来ない」
(!?)
マオと晋二は岸田の言葉にショックを受ける。
「最後に、このクラスの瑠垣マオだが6月から司書に飛び級する事が決まった。今後は五木、相川と同様に夢図書館からの派遣扱いとなる。朝の連絡事項は以上だ。解散」
岸田は頭を掻きながら教室を後にした。
「先生!」
「岸田司書長!」
マオと晋二は岸田の後を追い掛け廊下に出た。
「なんだ?」
岸田は面倒くさそうに振り向く。
「猛は大丈夫なんですか?」
マオは深刻そうな顔で岸田に質問をする。
「ああ、事件のショックでな、精神状態が不安定で1人にしておくのは医師が危険と判断した。俺は昨日も吉村の家で話しをしてきたが少しずつ元気になってきている」
「よかった」
「ふぅーーー」
岸田から猛の様子を聞いてマオと晋二は安心した。
「予鈴が鳴ったぞ早く教室もどれ、それから五木、学校では先生だ」
「はい」
「はい、すみませんでした!」
2人は教室に戻って行った。
それから猛は登校する事なく、マオたちが夢図書館本部へ向かう5月31日を迎えた。
学校正門前で迎えの車を待つ司書長の制服姿の岸田、司書の制服姿の五木、相川と学生専用の任務服姿のマオ。
「結局、猛には挨拶できなかったな」
晋二はマオに話し掛ける。
「そうだね。猛、俺たちが急にいなくなって心配しないかな?」
「そうだな、あいつ意外と心配性だからな。戻ってきたら元気な姿を見せないと!」
心配するマオに晋二は笑顔で話す。
「そうだね」
マオは頷いた。
「そろそろ時間だ」
岸田が口を開く。
「……きた」
正門前に黒いSUVが近付いてくるが、ユウキは車の方を向いなかった。
車が正門前に止まりマオたちが荷物を荷台に置いて乗り込もうとした瞬間。
「待ってくれーーぇ」
誰かが大声で車に向かって叫ぶ。
(一応時間は言っておいたが、間に合ったな)
岸田は声の聞こえた方向を見る。
「猛!!」
マオが正門前の駅から走ってくる猛の名前を呼ぶ。
「おおい!」
晋二は猛に両手を大きく振る。
「はぁはぁはぁ、すまん。心配掛けた」
息を切らせながら猛は2人に頭を下げる。
「そんな事いいよ。猛こそ大丈夫か?」
晋二が笑顔で話す。
「ああ、もうバッチリだ!」
猛も笑顔で返す。
「マオ、司書になるんだってな! 岸田先生から聞いたよ」
「うん」
猛は真剣な表情でマオに話し掛けるとマオは冷静に返した。
「俺は弱い、あの時に見ている事しかできなかった。俺はお前らに守られてばかりだ。だから決めたんだ、俺も司書になるって! 今度は俺が誰かを守る。だから!! もう二度と……大切な人を失いたくない……」
最後声を震わせながら猛は話す。
「猛……」
マオの表情が引き締まる。
「だからマオ、晋二、ユウキちゃん! 絶対に死なないでくれ!!」
左目から一筋の涙を流しながら猛は叫んだ。
「ありがとう猛! 行ってくる!」
マオは潤んだ瞳で笑う。
「ああ! 最初会った時は嫌いだったけど、お前はマオが言った通り友達想いの良いヤツだ!」
晋二が猛の右胸に左手で軽くパンチする。
「……猛…私の事はユウキでいい……友達だよ」
猛を友達と認めたユウキも笑顔で話す。
「ああ…ほんとにありがとう……」
猛は涙で濡れた顔で満面の笑みを浮かべ3人を送り出す。
(成長したな、もう瑠垣に突っかかっていた頃の吉村ではない)
岸田は4人の姿を感慨深く見ていた。
4人を乗せた車が走り出し、猛は車が見えなくなるまで正門前に立っていた。
(頑張れよ、マオ)
砂漠の中を走る黒いSUV。
「本当に砂漠の中にあるんだね」
2列シート後方の真ん中に座るマオが思わず口を開く。
「驚いた? この車じゃないとこの砂漠は超えられないからね」
マオの右隣に座る晋二は自慢気に答える。
「……敵が攻めてきても砂漠なら、すぐに発見できる」
マオの左隣に座るユウキも無表情のまま口を開く。
車は高速道路を2時間走った後、山道を30分走って砂漠に突入した。
「ここはヒョー越し砂漠です。旧静岡県と旧長野県の県境に位置していまして400年前は森林でしたが、資源枯渇に伴い木材の需要が高まって乱獲され200年前のユーラシア戦争で砂漠化が進み、現在のような直径60kmに及ぶ円型の砂漠になりました。そのヒョー越し砂漠の丁度中心に夢図書館本部があります」
運転をしている男性構成員が説明をする。
「先生は、あの事件の時にどうやって学校まで来たんですか? 学校からこんなに遠いのに40分ぐらいで到着してますよね」
マオは助手席に座る岸田に質問した。
「ヘリコプターだ。学生寮の屋上にヘリポートがあるらかな。あくまで緊急用だ」
岸田は平然と答える。
「そうなんですね」
マオは納得した様子で返事をする。
「見えてきましたよ」
運転手が話す。
「大きい」
驚いたマオが前方に見える黒い建物を見て口を開く。
車は建物の周囲100mの舗装された道を走り自動で開いたゲートから中に入る。
夢図書館本部
高さ200m、直径が2km、3階建の円柱状の黒い建物。
1階はヘリコプターやステルス機、車の格納庫・研究施設・格技場・メインモニター室兼司令室・休憩所が7箇所・作戦班の会議室が4部屋。
2階は構成員の寮・総館長室・副総館長室
3階は各種ジャンルが揃う店舗になっている。
車はゲートから格納庫に入ると停車した。
「待ってましたよ」
黒のレディーススーツ姿で白いファイルを持った女性構成員が車から降りたマオたちに話し掛けた。
「出迎えご苦労だ、松下」
岸田は女性構成員を松下と呼んだ。
―――松下学子 オペレーター兼研究者 26歳 162cm 51kg 栗色のロングでCカップ 物腰が柔らかく、年上の優しいお姉さんという雰囲気を醸し出している ―――
「学子さん! ただいま!」
「お帰り、晋二君!」
顔を赤くした晋二が挨拶すると学子は優しい笑顔で返す。
「ユウちゃんも、お帰り」
「……ただいま」
笑顔の学子にユウキは無表情で答える。
「あっ! この子が瑠垣君?」
「そうだ」
岸田が答えると学子はマオの近くまでやってきた。
「へ〜、すごく強い学生って聞いてたから、もっと筋肉隆々だと思ったけどイケメン君だね!」
学子はマオの顔をまじまじと見つめる。
「はじめまして」
(顔が近い)
整った顔立ちの学子にマオは緊張する。
(マオのやつ、学子さんに〜 けしからん!)
晋二は羨ましそうにマオを見る。
「松下、ここで立ち話もなんだ、早く行くぞ」
岸田が学子に話し掛ける。
「そうですね。では2階の副総館長室に向かいましょう」
学子を先頭に一同はエレベーターで2階に上がり、青白い近未来的な造りの内部を歩き進め副総館長室前に到着する。
「鈴木班の松下です。岸田司書長をお連れしました」
スライドドアに設置されたインタフォンに向かい学子が話すと自動でスライドドアが開いた。
「失礼します」
学子が一礼して中に入る。
「…………」
次に無言の岸田が入る。
「失礼します」
「失礼します」
「……失礼します」
マオと晋二、ユウキが後に続いて一礼をして中に入る。
「来たか」
木造の室内に赤い絨毯と社長机、茶色い革の椅子に座った竹宮が迎える。
マオたちは横一列で竹宮の前に並ぶ。
「久しぶりだね瑠垣君、待っていたよ。これからの活躍に期待している」
「はい」
笑顔の竹宮にマオは冷静に答える。
「それと岸田司書長、事前に話した通り本部に残ってもらい鈴木班の顧問と司書の育成をお願いする」
「了解です〜」
冷たい視線の竹宮に岸田は適当に返す。
「それとこの前の会議で話した作戦、頼んだよ岸田せんせい」
「了〜解で〜す」
バカにした口調で竹宮が話すと岸田は更に適当に返す。
「ちっ、では話は以上だ」
岸田の態度に竹宮は舌打ちをして、マオたちを外に出した。
「それで次に班の会議室に向かいます」
学子は笑顔で先導をする。
「その、前から気になっていたんですが、班ってなんですか?」
エレベーターに乗ってからマオが疑問を口にする。
「そうだったな瑠垣には説明していなかったな。班というのは夢図書館に4つある作戦部隊の事だ、司書とオペレーターと研究者の複数人で構成されている。まぁ後で詳しく話すがな」
岸田は掻い摘んだ説明をするとエレベーターは1階に着いた。
「なんだとぉーーーーーぉ! もういっぺん言ってみろぉーーー」
「だ・か・ら!! お前の作戦がいつも無茶苦茶だから優秀な人材が他の班に逃げるんだぁ!!」
廊下にいてもはっきり聞こえる声が目の前の扉から聞こえて来た。
「おお、やってるな」
岸田がニヤリと笑う。
「まったく、仕方がないんだから」
右手を頭に当てて呆れた様子の学子。
「……いつもの事」
無表情のユウキが扉を開ける。
「うるせーーーーぇ! じゃあ、お前が作戦考えてみろ!!」
小学生ぐらいの身長ツンツン頭の男が叫ぶ。
「お前が俺の作戦を全部却下するからだ! このバカ!」
メガネをかけた長身の男も叫んでいる。
「新人くんを連れて帰ってきたよ!」
笑顔の学子が2人に話しかける。
「お前の作戦が地味過ぎんだよ!! てか今バカって言ったか?」
小さい男が身長差30cm以上はある長身の男を睨みつける。
「地味な作戦の何が悪い! 確実に標的を倒すた為の作戦だ。このバカ!」
長身の男も睨みつける。
「!?」
「ふぅーーー」
右手の関節を鳴らしながら学子は深呼吸をすると喧嘩をしていた2人は怯えた様子で学子の方を見た。
「よ〜 さとこ、かえったのか」
カタコトになった小さい男。
「おっおかえり」
同じくカタコトになったメガネをかけた長身の男。
「うん、ただいま! 太郎くんも司くんも新人君がいるんだから、あまり見っともない姿はミセナイヨウニネ」
(この人、怖い?)
威圧感のある笑顔で優しく話す学子にマオは恐怖を感じる。
「おお! 飛び級の新人か!」
小さい男はマオの前に走ってきた。
「俺は鈴木太郎だ、よろしくな!」
太郎は右手をマオに差し出す。
「はい、お世話になります」
マオは太郎と握手をする。
―――鈴木太郎 司書 26歳 身長150cm 体重58kg 夢図書館の鈴木班の班長で水色のツンツン頭で身長がコンプレック ―――
(名前はかなり普通なんだな、キャラ濃いのに)
握手をしながらマオはそんな事を考えていた。
「お前今、俺の事チビだと思ったろ」
太郎がマオを睨む。
「いえ、何も」
マオは一瞬ドキッとしたが冷静に取り繕う。
「ならよし!!」
太郎はマオの手を離した。
「俺は立花司、よろしく瑠垣」
司はメガネの位置を右手で直しながら自己紹介した。
「よろしくお願いします」
マオは会釈をする。
―――立花司 司書 26歳 身長183cm 体重75kg 副班長、黒の短髪に赤いナイロールのメガネをかけた普段は冷静沈着な性格 ―――
「ああ! 岸田さん!! お久しぶりです!」
太郎が目を輝かせて岸田の側まで走る。
「まずは座らせろ」
岸田が低い声で返す。
「了解っす! どうぞ!」
軽いノリでマオたちを入り口正面の木製の机を挟み向かい合った5人掛け黒革のソファーに座らせた。
マオ、晋二、ユウキ、学子が並んで座り、岸田、太郎、司が向かい合って座った。
「他の班員の方は?」
マオが太郎に質問した。
「これで全員だ!」
「えっ?」
平然と答えた太郎にマオは驚きを隠せない。
「こんなに広いのに……」
50個のオフィス机が並ぶ広い会議室を見ながらマオが話す。
「こいつが、無茶苦茶な作戦ばかり立てるから、せっかく入った班員が逃げてくんだ」
司が頭を抱えて答える。
「なんだと〜! 俺の作戦で1回も任務を失敗した事ないだろ!」
「お前の作戦は正面突破、奇襲突撃、脳筋にも程がある! 結晶タイプの相川がいなければ俺たちはとっくに死んでるんだぞ!」
「なんだとぉ! 俺は班員の特性を生かして作戦を立てる策士だぞ!」
再び喧嘩を始める太郎と司。
「ふ〜た〜り〜とも?」
学子が笑顔で口を開く。
「ごめん」
「すまない」
2人は大人しくなる。
「それで学子、瑠垣の資料はあるか?」
「はい、2年生の4月に行った基礎測定の結果だよ」
学子はファイルから1枚の書類を太郎に渡す。
「どれどれ……おお創造スピード3秒台じゃん! すげ〜」
太郎は目を見開く。
「…うん?……」
太郎のテンションが急に下がる。
「瑠垣、お前どうやって司書になった?」
真顔になった太郎がマオに問い掛ける。
「飛び級ですが」
マオが平然と答える。
「ふぅ〜ん。お前、今すぐ他の班に行け」
「え?」
太郎が真剣な様子で話すが、いきなりの事でマオは理解できていない様子。
「創造スピードはたしかに速いけど、この圧縮率じゃ。戦場で司書が武器を失う意味は分かるな? 足手まといはいらない」
太郎の表情は崩れない。
「うちの班はこう見えて夢図書館の中でトップの実戦成績を誇る少数精鋭部隊だ。人数的にも余裕のある他の班なら、その創造スピードは確かに戦力になるが、必ず武器が壊れる司書を守りながら戦う余裕は、うちの班にはない」
司は腕を組んで話す。
「太郎さん! 司さん! マオはっ」
「待て五木。なら、お前が瑠垣と戦って実力を見るのはどうだ?」
晋二が反論しようとするが岸田がニヤリと笑ってそれを止める。
(なるほど、確かにマオの力は直接見た方が理解しやすい)
晋二は岸田の意図を察した。
「いいんですか? 今後、俺たちが任務で生き残る為に、瑠垣をボコボコにしますよ」
真剣な表情の太郎が岸田に返す。
「ふん、お前が班長だ、瑠垣をお前の班に入れるかどうかはお前の判断に任せる。覚悟はできているな瑠垣?」
岸田がマオに問い掛ける。
「構いません」
マオは平然と返す。
(せっかく強い班に入れるんだ。このチャンスは絶対に逃がさない)