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paradox (パラドックス)  作者: ナカヤ ダイト
転入・進級編
1/55

夢粉のある世界。

初めまして!

ナカヤ ダイトです。

今回はparadoxにアクセス頂き本当にありがとうございます。


初心者らしく頑張って更新していきます。


主人公の瑠垣マオが精神的にも戦闘面でも成長していく姿を楽しんで頂ければ幸いです。


説明文が多いですが今後の伏線を必死に張っているので御理解のほどをよろしくお願いお願いします。

 とある地下室で白衣姿の男が1人、寂しそうに立っている。

 薄暗い部屋は汚れており本や書類が散乱し、寿命を間近に迎えた蛍光灯が部屋の中で点滅を繰り返していた。

 白衣姿の男は黒縁メガネの下にクマがあり顔色も良くない。

 白髪混じりのボサボサ頭で黒い髭は5mmほど伸び、実際の年齢よりも老けて見える。


 白衣姿の男は机の上に置かれた丸いカプセル型の揺り籠に向かって、優しい声で話す。

「許してくれ。現在の環境は君が生きていく為には、あまりにも過酷だ。これから君は眠りにつく、長い長い眠りだ。親として君の成長が見られない事は非常に悲しい事だけど、親はいつだって子供の幸せが一番なんだよ。君が笑顔でいてくれる未来は少なくとも、この時代ではない」

 白衣姿の男は溢れ出る感情を抑える為に、2秒ほど間を置き深呼吸を1回してから話を続ける。

「でもね。これから間違いなく世界は救われ、君は目を覚ます。可能性に満ちた世界で君が幸せになる事を祈っているよ……おやすみ」

 白衣姿の男はぐっすりと眠る赤子の額に、そっとキスをしてカプセルの透明な丸い蓋を閉める。

「1人にしてしまって、ごめんね………」

 白衣姿の男は涙声でカプセルに付いたボタンを操作する。



 白衣姿の男は机から逆方向に3歩離れ再び口を開く。

「この研究を完成させ結末を見届けるには、人間の寿命はあまりにも短すぎる。それに、今の私には可能性が残されていない。遠い未来でも構わない、誰でもいいから再び、この世界に辿り着ける者に託そう。これは、この世界の全ての可能性を選択できる。どう選択するかは託され、たどり着いた者に任せよう」



 世界は500年以上前から続く環境問題を先送りにしてきた結果、地球上では化石燃料や鉱物などといった資源が不足していき次第に枯渇寸前にまで深刻化した。

  とある研究者によって発明された微粒子が、その問題を打開させる。

 人間のイメージに干渉し微粒子同士が集合圧縮して思い描いた物質に変化する事から夢粉ゆめと名付けられた。

 夢粉ゆめは様々な資源の代用を可能として世界中に普及し150年が経過した。

 現在では夢粉ゆめその物からエネルギーを取り出して使用するなど、生活に無くてはならない存在となった。



 まだ、寒さが残る4月3日。

 白いYシャツの上に、5つの銀色に輝くボタンがあしらわれた上下共に黒い学生服、左襟にローマ数字Ⅱのバッチが付けられ、今日から高校2年生になる、瑠垣(るがき)マオは学校の敷地内校舎より1.2km南に離れた学生寮の前で友人を待っている。



「お〜す。マオ」

 マオは後方から、あくびを噛み殺したような声で話し掛けられる。

「おはよう正輝(まさき)、眠そうだね」

 その間抜けな声を聞いたマオは笑って返事をし、2人は学校に向けて歩みを進めた。



 ―――工藤くどう正輝まさき 一般入学 身長170cm 体重65kg 日に焼けた肌と人懐っこい笑顔が特徴的で、オレンジ色の短髪。

 喜怒哀楽が激しく仲良くなるタイプとそうでないタイプがはっきり分かれる。

 マオとは1年生からのクラスメイトで仲の良い友達 ―――



「昨日、お前らが俺の部屋から帰って、それから遅くまで漫画の新刊読んでてな。てか、今日から2年なのに全く変わらないな俺たち」

 正輝は眠そうな声で話す。

「昨日は、春休みの宿題を正輝の部屋で片付けて、俺たちが部屋に戻ったのが23時だから、あの後から漫画読んでたの? さすがに昨日の今日じゃ人間変わらないよね。それにしても無事に2年生に進級できて、よかったよ」

 笑顔のマオは安心した様子で胸をなで下ろす。

「お前は特になぁ」

 呆れた様子の正輝。

「本当にそうだね。でっ今日の授業ってなんだっけ?」

 マオは誤魔化すように話題を変えた。

「お前、確認しとけよ〜 午前中の始業式が終わったら基礎測定だから、今日は授業はないぞ」

 ジト目になった正輝は更に呆れた様子で答える。

「ごめんごめん。でも、いきなり基礎測定かぁ〜 初日から難所だな」

 正輝の話にマオのテンションと声のトーンが下がる。

「難所なのは、お前だけだ!! てか去年の成績でよく進級できたよな」

 正輝はこれ以上にない呆れ顔になった。

「まっ色々あってね! あっ俺2Aクラスだから」

 マオは苦笑いをした。

「なんだそりゃ、俺も2Aクラスだから。また1年間よろしくな」

 正輝は深くは追求しない様子で受け流した。



  夢粉ゆめの発明と共に世界中は大きく変わった。

 夢粉ゆめは正確なイメージと、その物質の原料や素材、構造を理解すれば誰にでも扱えることから世界規模の法律が定められ、世界で統一された教育過程をクリアし夢粉ゆめで物質を創造する為に必要な創造免許証を取得しなければならない。

 夢図書館という世界的な組織が夢粉ゆめの全てを管理している。

 なお、夢粉(ゆめ)の法律は、たった2つ

 ①夢粉(ゆめ)で創造した物質で生物や物に危害を加えてはならない。

 ②夢粉(ゆめ)で生物を創造してはならない。



 夢図書館高等専門学校ゆめとしょかんこうとうせんもんがっこう

 夢図書館が優秀な構成員育成を目的とした全寮制高等専門学校、高校3年間分の一般授業と夢粉ゆめにまつわる学科、夢粉ゆめを使用した戦闘訓練や研究を行う施設。

  1年生は高校3年間分の一般授業と夢粉ゆめに関する基本的な学科、実技授業。

 2年生からは各専門分野に分かれての授業となる。

 1年生〜2年生までに創造免許を取得した生徒のみが3年生へ進級し、夢図書館の構成員採用試験を1年間掛けて行う、採用試験に合格すれば4年生へ進級し夢図書館へ配属され、適正を見定める期間として2年間を研修生として過ごす。

 なお、1年生を終了した時点で通常の高校卒業資格を取得したものと見なされる。

 2年生から別れる専門クラスは実戦専門の司書志望がAクラス。

 司書のサポートや任務における潜入調査を行うオペレーター志望がBクラス。

 夢粉ゆめ研究者志望のCクラスに分けられる。

 入学試験は毎年4000人以上の受験者の中から、一般入試195人、推薦入学候補者の実技試験から5人の200人定員と決まっている超難関校。

 留年制度は存在せず、進級不可と判断された時点で退学となる。

 1年生は1クラス50人の4クラスで1年間を過ごし、2年へと進級するが毎年、進級資格を満たす生徒が100人ほど、3年進級時には30人程度、構成員採用試験を合格する者は0〜10人と言われている。

 教鞭(きょうべん)を取るのは夢図書館現役の司書・オペレーター・研究者で、即戦力と判断された生徒については、飛び級で進級したり夢図書館の構成員となる場合がある。



 夢図書館高等専門学校 2年Aクラス 瑠垣(るがき)マオは、夢図書館の司書を目指している。



 ―――瑠垣マオ (男) 一般入学 身長173cm 体重56kg 白い肌と色の濃い黒髪のショートカット、長くすらっと伸びる細い手足と左目下のホクロが特徴的。

 物静で他人の話をしっかり聞くタイプだが、どこか抜けてしまう―――



 夢図書館高等専門学校の敷地は広い。

 校門を抜けると陸上400mトラックが4面取れるグランドを正面に、生徒や職員の研究施設がある南館、1年生から3年生の全クラスのある本館、そして各部活の部室がある北館の並びでに1階から行き来のできる3つの校舎が立っている。

 校舎の後方には、サッカースタジアムほどの面積を持つ5階建ての多目的な体育館があり、校舎より南に1.2km離れた場所に学生寮が建っている。




 マオと正輝の2人は学校に到着するとスニーカーから白い上履きに履き替えて6階建の校舎本館3階、2年Aクラスへ向かう。


 マオは教室に入り、前方の黒板に貼り付けてある座席表の通りに真ん中、最前列の席に向かい、自分の席に荷物を置いてから左から3列目の前から4番目にある正輝の席へと移動した。


 マオと正輝の前方から元気な女子生徒が近付いてくる。

 白い一本のラインが入った黒いセーラー服、膝が見えるくらいの高さの黒いスカートからは、健康的な足と白い靴下。


「おはよう! 正輝、マオくん」

 女子生徒は朝だというのに弾むような口調で2人に話し掛ける。

「おはよう、今日も元気だね! (はるか)

 自分の席に座わっている正輝は笑顔を浮かべて女子生徒の弾むような口調を真似した。

「おはよう、遥」

 正輝の左横に立っているマオは平然と返事する。

「正輝も元気だね!! マオくんはテンション低いよ!! 朝ごはん、しっかり食べた?」

 遥と呼ばれた女子生生徒は正輝の机右横に立ち、右手でグーサインを出した。

「食べてない」

 またしてもマオは平然と答えた。



 ―――浦和遥(うらわ はるか) 一般入学 身長152cm 体重41kg 学年を代表する元気印で、誰とでもすぐに話せるタイプ。

 茶色がかった長い髪をポニーテールにまとめていて身長の割に胸が大きい。

 マオと正輝とは1年生からクラスメイトで友達―――



「ねぇねぇ聞いた? 担任の先生、また岸ちゃんらしいよ」

 遥は正輝の机に身を乗り出した。

「今年も岸田先生か〜 また、1年間厳しそうだね」

 遥の話を聞いたマオは遠い目をする。


 ―――岸田きしだつよし身長175cm体重74kg 38歳の教師で[通称]岸ちゃん。(遥しか呼ばない)

 無精髭が中途半端に伸び、くせ毛の黒い髪がいつも跳ねている。

  現役の司書で過去に新人司書の教育も担当していた。

 マオたちが、1年生の頃からの担任で『人間そう簡単に死なない』の精神の下にスパルタ教育で有名―――



「てか、遥もよくそんな情報を仕入れてくるよな〜」

 遥の話を聞いて感心した様子の正輝。

「ふふふ、私に調べられない事はなぁーい!!」

 遥は腰に両手を当てドヤ顔で話した。

「さすが新聞部のエース! いっその事、オペレーター志望のBクラスにでも行けば良かったじゃないか?」

 左手で頰杖をつきながら正輝は茶化した。

「もーぉ からかわないでよ。マオくんからも何か言って」

 遥はリスのように頬を膨らませた。


挿絵(By みてみん)


「あはは。遥、大丈夫だよ。俺よりは絶対に才能あるから。あははは」

 マオは下を向き悲しそうに話す。

「マオくん……どんまい!」

 マオの乾いた笑いに遥は右手でグーサインを作ると、マオも左手で弱々しいグーサインを作る。


  マオたちが、そんなやり取りをしていると1人の男子生徒が会話に入り込んでくる。

「そうだよな!! お前ぐらいには、誰でも勝てるよなぁ瑠垣先生。てか、なんで2年になってんだ?しかも、この俺と同じクラス? 俺まで落ちこぼれと思われるから正直言って迷惑なんだけど」

「吉村くん言い過ぎだよ。マオくんだって頑張ってるんだよ!」

 馬鹿にした口調でマオに話し掛ける男子生徒に遥は少し不機嫌になる。

(遥さん、それってフォローになってないような気が……)

 マオは心の中でツッコミを入れた。


 ―――吉村よしむらたける 推薦入学 身長187cm体重77kg 赤髪のツーブロックに鋭い目つき、1年からマオとはクラスメイト、昨年の1年主席で学年の中心人物で実力主義者、自分よりも劣っていると判断した者には容赦がない、昨年からマオに対して何かと突っかかる―――


 

「吉村、お前も相変わらずだな」

 突然、話しに入りマオを馬鹿にされた正輝の表情は不機嫌その物だった。

「ちっ! うるせぇ、雑魚が」

 正輝の口調が気に入らない様子の猛は舌打ちをした。

「やるのか?」

 罵倒された正輝は椅子から少し腰を浮かせマオの後方で立っている猛を睨む。

「正輝やめろ。吉村が突っかかるのは、いつもの事じゃないか」

 椅子から立ち上がろうとした正輝をマオは止める。


 猛を睨んだままの正輝は腑に落ちない様子で止まっていると教室に低い男の声が響く。

「お前ら何やってる? 予鈴は、とっくに鳴ってるぞ。さっさと席に付け。早くしないと退学にするぞ」

 マオたちが前方の教卓を見るとそこには、シワの目立つ白いYシャツに藍色のスラックス、サンダル姿で無精髭を生やし寝癖なのかクセ毛なのか所々はねている黒髪の頭を右手で掻きながら1人の男が立っていた。


「うわっ岸田」

 突然の男の出現に正輝は驚いた。

「先生を付けろ工藤、退学にすっぞ」

 呼び捨てにされた事で少し不機嫌になった岸田は目を狭める。

「すみません」

 正樹は先ほどの威勢など微塵(みにじん)も感じさせないほど小さい声で話す。

「たく。お前ら、もう2年なんだから少しは落ち着け。特に工藤と吉村」

 その様子に岸田は、ため息混じりに話す。

「………」

「………」

 正輝と猛はバツの悪そうな顔をした。


 猛を含め席に座っていない生徒たちは自分たちの席へと戻り、全員が着席した事を確認した岸田は手帳を開く。

「欠席はゼロ。今日から、お前らの担任になった岸田だ。今から日程を話すから、よく聞いとけ。午前中に始業式やって、午後は1年3学期最期のホームルームで渡されたプリント通り基礎測定を行う。今日の測定結果は1学期の成績に響くから気合入れろよ。それでいきなりだが転入生を紹介する」


「ええーー」

 岸田の一言に教室内はざわめく、夢図書館高等専門学校は学科や実技授業について行けず辞めていく生徒や進級ができず退学になる生徒は多い上に構成員育成を目的としているので通常の教育機関よりも数段高度な授業を取り扱っている。

 転入生は以前に通っていた学校の学年や年齢に関係なく1年生からのスタートとなり、転入生に対し飛び級制度が適用されるは1年3学期終了時との校則がある為、原則として2年生以上の学年での転入生はありえない。

 そのありえない事が岸田の口から話された事で教室は一種の混乱状態になっていた。


「うるさい。お前らの言いたい事は分かるが、今回は例外中の例外だ」

 教室内が騒々しくなると岸田は面倒くさそうに話す。

「………………」

 岸田の声に教室は沈黙する。


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