プロローグ 夜の失落
夜の街、それは怪しい店などが大量に出る。夜はやんちゃな若者ほど外に出たがる。変な徒党などを組んで日夜喧嘩に明け暮れる人も珍しくはない。
この日の夜も、そんな輩たちがいた。
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「おい!そっちにいたか!?」
「居ねぇ……やっと根絶出来るってのに…クソッ」
「諦めんな!まだ近くにいるはずだ……探し出せ!」
「他の組の奴らにも、声かけてるんっすけど……情報なしっすよ」
「下手に違う街に出られても困るっての……」
若者たちの怒号などが聞こえる。
そんな中、ある中年男性は家の塀の近くに隠れていた。その中年男性は、この地域の事はよく知っており、逃げるルートは沢山知っていた。
しかし、そのルート全部を知っているかのように若者たちは先回りをしていた。
中年男性は、奥の手とでもいうように携帯で警察に電話をした。
「夜分遅くすみません……実はごろつきたちに追われていて……助けてください…」
その中年男性は、いかにも自分は弱いというアピールを加えながら、鬼気迫るように助けを求めた。
その数分後、若者たちは警察に補導されていった。
その様子を家の塀の近くで待機していた、中年男性はほっと安心したようにため息をつき、声が聞こえなくなったのを確認すると、家の塀から出て行った。
その中年男性の背中に、若い男の声がかけられた。
「おじさん、何してるの?こんな夜遅くに」
その若い男は、こんな夜に出歩くような風貌をしておらず、目元が少し髪で隠れており、やんちゃな学校にいるとしたらパシリにされてそうな男だった。
中年男性は、明らかに喧嘩とは無縁に思える男の姿を見て安心した。
「実はね……オヤジ狩りって奴にあってね…命からがら逃げ伸びてきたんだよ…」
「え!?おじさん、大丈夫だったんですか!?」
その男は、中年男性を気遣うような口調で少し大げさともいえるような、心配をした。
その男の様子を見た、中年男性は不思議に思っていたことを口に出した。
「大丈夫だよ…お巡りさんが助けてくれたからね……そういえば君はどうして?」
「あはは……少し色々ありまして……」
少しぎこちなく笑ったのを見て、自分を追いかけてきた輩と同じ様な輩に何かされたのであろうと思い、中年男性はあるものを取り出しながら言った。
「……こんなのやってみないかい?」
「……それは……?」
中年男性が取り出したのは、乾燥した葉っぱのようなものだった。
中年男性は優しそうな笑みを浮かべながら言った。
「これはね……吸えば気分が和らぐハーブなんだ……どうだい?使ってみたくはないかい?」
「そうですね…」
少し気落ちしたような男に気にすることなく、中年男性はハーブのすばらしさのようなものを語り始めた。
まるでそれはセールスマンが、商品を紹介するように。
男は軽く頭を振り、隠れていた目を曝け出すように髪を払った。
その様子に少し疑問を浮かべる中年男性だったが、まだ説明する。
その時に、男は言った。
「はぁ……オッサンがあいつらの言ってた、やつなのかわからないが…少し伸びとけ」
口調が変わり、人が変わった男に驚愕する中年男性。
その中年男性に向かって、強烈なアッパーを繰り出す男。
男の宣言通り、中年男性は気絶した。
意識が完全に落ちる前に、中年男性が最後に聞いたのは、何処かに電話する男の姿だった。
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警察署の前に若者たちと、男が立っていた。
「一応迷惑掛けたみたいだから、謝罪しとかないとね」
「「「すんませんでした」」」
そういって、警察署の方に挨拶をする若者たち。された側としては、少し複雑な気分である。
弱弱しい人をいじめてる不良たちだと思ったが、まさか麻薬の売人を捕らえようとしている集団だなんて普通は想像もつかないであろう。
そして、警察の人はある程度の厳重注意を行い、悪い事にはツッコまないことを強要されたが、若者たちも男もいう事は聞かなかった。
正直厄介な奴らとしか警察としては思えないだろうが、実績のようなものを今回手に入れたためある程度強くは言えない。
その為、厳重注意を行いもしも何かあれば、一言連絡を入れることとなった。
しかし、警察は若者たちを束ねる様な様子の男に驚きを隠せなかった。
若者たちは、この町でも一際目立った不良たちだったからだ。
この町は1年前は深夜になると、警察沙汰が絶えずこの町の配属を止めたいという様な人が出るほどの多さだった。
1日に8件以上あるのは当たり前、隣町から不良の軍団がやってくるのは当たり前、連合のようなものが出来ているのも当たり前の様な町だった。
しかし、半年前突然ガックと件数が減った。
何かの前触れか…?と疑っていた警官たちだったが、そのころから少しずつ麻薬の売人が警察署に連行されてきた。
警察側からすると『何が起きてるんだ…?この町で…』という様な事態だろう。
その矢先に久々の不良たちの暴行事件…かと思いきや麻薬の売人を追ってる不良たち。
正直もう何が何だかわからない!と警察署内から聞こえてきた。
若者たちと男が撤収した後に、雑談する警官たち。
この街の警官たち恒例の意見交換である。
そのうちの一人が言った。
「あの噂…本当だったんですね」
「あの噂……?」
聞いてる警官が少し先促すような視線を送る。
「知り合いのちょっとやんちゃ坊が……?あれ?皆さんどうしたんですか?」
「……お前不良とつながってたのか…」
「……あ……ま、まぁそのことは棚に上げて置いてください」
「……善処はしようで、続きは?」
「えーと、やんちゃ坊がですね…なんか、グループ自体をまとめるグループ?ってのが出来たって言ってました」
「グループを纏めるグループ?なんだ、そのヤクザがかかわってそうな案件は」
「と言ってもそのグループの所属人数は10人程だとか」
「……」
聞いてる警官は『何言ってんだこいつ』という様な視線を、話している警官に送る。
その視線に気が付いた話を始めた警官は、慌てて話す。
「いやいや、本当なんですって!」
「あのな……組織を纏める組織がある自体可笑しいってのに、その構成員が10に程度って……夢過ぎるだろそれ……そういや、まとめられてる組織数は?」
「それが……わからないです」
話してた警官は、若干気まずそうに顔を逸らした。
そして、物凄く気まずそうに口を開く。
「そ、それが……隣町のやんちゃグループ全部だそうで……」
「………」
そんな馬鹿なという様な顔をする警官、しかしそれが証明されるような物がその警官の耳に届いてきた。
「それにしても、今回の騒動?で隣町の連中が来てたそうですよ」
「げ、マジか……数的にはいくつだったんだ?」
「大きいグループ4つほどですって」
「4つ!?それって殆ど出張ってきてんじゃないのか……いったい何が起こったんだ…」
「さぁ?グループ抗争じゃないですかね?久々の」
「平和だった町が、またなんか起こるのか……部署変えてくれる様に上に申請頼むか」
「実際、部署変わりたいのは上だったりしますけどね。署長室にだいぶ前行ったときに、胃薬が大量に置いてあったのまだ覚えてますよ」
「棚一段埋まるほどあったな…そういや」
そんな雑談が聞こえた。
話を聞いていた警官は頭を軽く抱えながら、事実の可能性があることを知る。
「もういいや……なんか如何でもよくなってきた……取りあえず、そのグループを纏めるグループのリーダってあの優しそうな奴か?」
警官は、麻薬の売人を連れてきた男の事を考える。
男と言っても、高校生くらいの若者だったが。
「いや……知らないです。いや、何ですかその役立たずめって言ってるような目線は!」
「役立たずめ」
「いいましたね!?口でも、発言しちゃいましたね?!あなた!仕方ないじゃないですか!!知り合いのやんちゃ坊全員『知らない』って言ってんですから!」
「は?それは可笑しいだろ……お前の知り合いが何人いるが知らないが、全員知らないって答えるのは」
「嘘ついてる様子無かったんで……あ、そういえば今回補導してきた奴らの少しが履歴書持ってきたんで、先輩に任せます」
「は?おい、待てよ……手伝ってくれんだろ?」
「あはは、夜のパトロールの交代ですよ……では、頑張ってください」
そういって、話をしていた警官は大急ぎでパトロールの準備をして履歴書を置いて、逃げ出した。
話を聞いていた警官は少し溜息を吐きながら履歴書の前に座る。
(グループを纏めるグループ……何もなければいいな……っていうか履歴書多いな!?)
そうして、一人の警官の夜は過ぎていく。
一抹の不安を残して。