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最後の1体

 個は息絶えようとしていました。

 人気のない平原を流れる小川の近くの小屋でです。

 長らく手入れをしていないのか、荒れ放題の畑もあります。

 個を看取る者は居ないのでしょうか?

 居るはずもありません。

 彼はこの星で最後の人型生物なのです。

 個の同種は愚かしい事で同種同士の殺し合いを絶え間なく行ってしまったのです。



 その愚かしい事は最初から有りました。

 種が言葉を得て直ぐから有りました。

 それは。

 騙すと言う事。

 裏切ると言う事。

 言葉を得て覚えてしまった覚えなくても良い事です。


 彼がずっと若い頃に騙す・裏切ると言う行為は末期になりました。

 個体が発する言葉は大方がおとしいれる為の言葉になったのです。

 大方が陥れる言葉と皆が理解するようになると、他を見る目は猜疑心に満ち溢れました。

 自らが発する言葉が陥れるための言葉なのですから。

 自分に掛けられる言葉も陥れるための言葉と思ってしまうのは仕方のない事なのかもしれません。

 その結果、個は誰も信じる事が出来なく・・・

 いや、信じると言う事を止めてしましました。


 そうなると自分以外は全て敵です。

 その敵への対応は様々でした。


 誰かに言われた事は無視する者。

 騙されるより先に騙そうとする者。

 嫌気がさし人気の無い所に退避する者。

 嫌気がさした者同士でコミュニティーを形成する者

 これ等はほんの一例です。

 把握しきれない程の対処法を個々に持っていました。


 この程度の事なら破滅へと向かわないのではないか?

 そう思うかも知れません。

 しかし・・・

 権力を有する者達は皆同様の対処法を取ったのです。

 周りの意見を無視すると言う方法を。


 権力を有する者が周りの意見を無視する様になるとどうなるでしょう?

 答えは1つです。

 独断・独裁となります。

 会社など民間での独断・独裁はまだいい方です。

 国家で独断・独裁となると最悪でした。


 国家における権力者は他国との会合なども行います。

 その会合も騙しあい出し抜こうとする場です。

 猜疑心に満ちた遣り取りをするのですから。

 行き着く所へ行ってしまう場合もあります。

 そう・・・戦争です。


 しかし、殆ど場合は戦争まで至りませんでした。

 なぜなら、その権力者が周りに居る者によって殺害されるからです。


『こいつは自分だけ安全な所でヌクヌクして俺を危険地帯に送り込むに違いない』


 そうした思考が連鎖的に生まれ、取って代わった者も次々と殺害されていきました。


 国の上層が混乱状態に陥ると民間も混乱状態になりました。

 上層の混乱内容が戦争に関する事です。

 市民にとっても命の関わる事です。

 日毎にトップが代わる様な状態では何が何だか訳が判らない状態です。

 訳の判らない市民は詰め寄りました。

 一番身近な出先機関の役所に。

 地方・中央などは関係ありません。

 税金を給料としていれば役人なのです。

 もちろん対応に間違えた者もいます。


『こんな地方機関で聞かれても判る訳が無いだろう』


 と。

 そう言った者は後悔する間も無く押し寄せた者達によって撲殺されました。


『役人だから戦地に行かなくて済むと思って言わないつもりか?』


 命が関わり猜疑心に満ちると攻撃的になるのでしょうか?

 対応に間違わなかった役人も知らない事柄を話せる訳も無く同様の結末でした。

 各地でこのよな事が起こると治安維持組織が止めに入ります。

 しかし治安維持組織も結局は国家側の組織です。

 間に入った所で標的にされるのが当然の結果です。


 その様に元々辛うじてあった秩序が崩壊すると隣人同士でも自分を殺害しようとしてるのではないか?

 と言う目で見始めてしまいました。

 それは、殺らねば殺られる地獄絵図でした。


 この様な事が起こっていたのは当事国のみではありませんでした。

 隣国でも起こっていたのです。


『隣は今、混乱の最中さなかにある。手に入れるなら今だ』


 上層がそう判断すると当事国と同じ事が隣国でも起こったのでした。

 それはやがて星中に広まっていきました。


 星中で信じる事を止めているのですから。

 広まる事も有るのかも知れません。

 現にこの星ではそう至りました。


 総人口が1割を下回った辺りです。


『このまま疑って殺し合いを続けていたら僕らは滅んでしまう』


 至極真っ当な事を高らかに言い放つ者が現れました。

 しかし・・・

 遅過ぎです。

 信じる事を止めて。

 信じる意味を忘れて。

 既に長い時が過ぎていました。

 そんな戯れ言に耳を傾ける者など居ません。

 言い放った者は次の日の朝を迎える事なく骸へとなりました。

 新手の虚言としかとらえてはもらえなかったのです。


 星の人口が数万まで減ると、それぞれの付近には誰一人居ない状態になりました。

 この状態になるのを、それぞれが望んでいたのかは分かりません。

 だけども,

 騙し合う事はもうありません。

 殺られる前に殺る必要もありません。

 やっと平穏がそれぞれに訪れたのです。

 しかし・・・

 そんな平穏を良しとしない者も少なからず居ました。

 孤独に耐えられなくなった者達です。

 独りが寂しくなった者。

 騙し殺る事に愉悦を覚えた者。

 どちらにしても、誰かと出会えば殺伐とした事が再度始まるだけでしょう。


 そうやって削りあったり、寿命を迎えたりして個を減らし続けました。


 そして今、種の最後の個体が終焉を迎えようとしています。

 個の生は。

 何を思い。

 何を行い。

 何を感じ。

 何を懐かしんで終焉を迎えるのでしょうか?

 それとも、懐かしむ事など無く後悔と懺悔ばかりでしょうか?

 

 個には、それを語るべき相手はもう居ません。

 最後の個なのです。

 孤独に寂しく逝くしかありません。

極端な話になっちゃいました

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