旅人
あまり想像したくない描写があります。
雨季が過ぎ日差しの強い時期がやって来ました。
朝から強い日差しのなか街道脇で野宿の後始末をしている男がいます。
男は暑い時期になったのにも関わらず肌の露出が少ないのです。
虫除け蛭除け蛇除けなどの理由も考えられますが。
男は別の理由で肌の露出が少なかったのです。
男の身体は至る所に火傷の痕があったのです。
痕を極力隠すために露出が少なかったのです。
男は肌の露出も少ないが荷物も少ない様です。
行商人では無いようです。
着ている物も衣類のみなので傭兵の類でもなさそうです。
どこかへ向かう途中なのでしょうか。
分かれ道に来てどちらに行くか考えてる様子を見ると目的地が有る様ではないようです。
男の旅の目的は当ての無い人探しの旅でした。
己の身体に消えぬ傷跡を付けた相手を捜し出すための旅。
捜し出したら殺すための旅。
不毛な復讐の旅でした。
今から3年前。
山裾に広がる森の中で炭焼きの老夫婦に森を流れる川で助けられました。
当時の男は火傷など出来たばかりで、治療などはされておらず、ただれて血の滲む状態でした。
特に酷かったのが・・・
目の怪我でした。
右目は失明しています。
何でも拷問者は鼻から鉄串を差し込んで目を串刺しにしたと男は言っていました。
老夫婦はその話を聞いて驚きを隠せませんでした。
思い付きもしない事象でした。
男はそんな状態からどうやって逃げれたのかを全く覚えていません。
それところか、何で拷問を受ける事になったのかも覚えていません。
そして・・・男は最も大事な事を忘れていました。
それは。
逃亡のさいに拷問の実行者と命令者の両方を殺して逃亡したと言う事を。
忘れてしまったのは恐怖からでしょうか?
それとも、度を超した怒りのせいでしょうか?
今となっては誰にも知る由の無い事になってしまってます。
しかしこれだけは言えます。
男は忘れてしまった事で。
復讐に捕らわれてしまい。
自らの自由を復讐に縛り付け。
幸せになれたかも知れない道を拒んだのです。
男の旅は2つの意味で不毛でした。
復讐と言う生産性のない目的。
対象を既に自らが殺していると言う事実の喪失。
男はいつの日か思い出すのでしょうか?
それとも記憶を忘れているのではなく失ってしまっているのでしょうか?
失っているのなら思い出すのは難しいかも知れません。
男の旅は続きます。
既に達せられた目的を目的として。
男の旅の果てに復讐対象が見付けられぬ事を願います。
そして。
男に復讐以上にやらねばならぬ事が見付かる事を切に願います。