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幼馴染の2人の行方

初めての短編投稿です。

感想などがあったら教えて貰えると嬉しいです。

 彼女はずっと恋をしていました。

 向の家に住む幼馴染みの彼に。


 何度も告白しようと心に決めて思いを告げようとしました。

 でも、いざその時になると告白出来ませんでした。


 断られてギクシャクするのが。

 疎遠になるのが怖かったのです。


 何年も何年も思い続けて。

 何度も何度も告白しようとして。

 ずっとずっと繰り返してました。


 そんな彼女が14歳になった時。


「・・・もう諦めよう」


 彼女は逆の方向に決意しました。


 その頃、2人の関係は兄妹の様になっていて。

 彼も彼女以外の人に目が行ってる気がしました。


 彼女は考えました。


『彼の恋の邪魔だけはしたくない・・・私はどうすれば良い?』


 2人の関係は幼馴染み、だけど端から見ると彼氏彼女の恋人同士の様にしか見えません。

 そう、彼女が存在するだけで恋の邪魔をしているようなものだったのです。


『なら・・・私が居なくなれば・・・死ねば良い?』


 手っ取り早く居なくなるには死ぬのが一番早い。

 でも彼の事を誰よりも知っている彼女は、その方法を取りません。


『私が死んだら、きっと悲しんでくれる。でも、悲しむ以上に自分の事を責めちゃいそう。だから死ぬのは無し』


 2人は悩み事や問題事を持ち込み打ち明け2人で相談して解決して来ていたのです。

 そんな間柄で何の相談も無く彼女が自ら命を絶ってしまったら。

 彼は自分の頼りなさ、不甲斐なさを責める事が彼女には簡単に想像できました。


『態度を冷たくする?・・・無理・・・かな』


 彼女は彼に話し掛けられると嬉しくてしょうがなかったんです。

 尻尾が有ったら切れ飛ぶ勢いで振っていた事でしょう。


『私から離れるのが無理なら、彼に愛想をつかせる方法か・・・』


 彼女は彼の性格も考慮してあれこれ検討します。


『ヤンキーとかギャルデビューしちゃう?・・・余計に気を引いちゃいそうね・・・私と関わりたくなくなる方法か・・・呆れさせるとか?』


 彼女は決して頭が悪い訳じゃありません。 先にも述べた通り2人で相談して答えを出して解決してきたのです。

 ちゃんと実績があります。

 でも、今回は1人で考えて答えを出さなければならない。

 彼女にとっては初めてに等しい事なので時間が掛かってます。


『そうだ!メチャクチャな事をやり続ければ、そのうち呆れるんじゃないかな?』


 彼女の考えはこうだった。

 何でもかんでも全力で行動、見て見ぬ振りはしない極力首を突っ込む。

 そんな事をしていれば最初は心配してくれるだろうけど、その内に『またか』ってなる事に期待をしている。


 彼女は早速行動を開始した。

 勉強も部活も遊びも全力でこなした、見るからに疲労憔悴した。

 街中で困ってる人の手助けをした。迷子の世話に年寄りの荷物持ちに木に引っ掛かった風船を取ったり自分に出来る事は何でもやってみた。

 思った通り彼は気に掛けてくれた。

 暫くすれば気にも留めなく・・・ならなかった。

 彼は彼女が無茶を始めてからずっと気に掛けてくれている。

 そう、始めてから1年近くも経つのに。

 ずっと・・・ずっと。




 事故は、もう直ぐ梅雨入りって時に起きた。

 彼女は、何で私の事なんかずっと気にしてくれるのかが分からなかった。

 その事をボンヤリ考えながら帰宅していた。


 途中にある公園横を歩いていると車道を挟んで反対側に親子連れが楽しそうに歩いていた。


『何か買ってもらったのかな?凄いハシャギっぷりね。・・・あれくらいの年齢に戻りたいな』


 余程に嬉しいのか時折車道ギリギリまで行ったりしてハシャいでいる。

 母親はそれを注意するが効果が薄いみたいだ。

 注意をした後でスマホを取り出し通話し始める。

 通話中も子供から目を離さないかと思いきや、すでに話の夢中で子供の事は失念していた。


 彼女が親子と擦れ違う辺りまで来ると、子供が路肩の段差を踏み外して派手に車道へと転んだ。

 何をどうすればそうなるのか分からないが、車線の中程まで来てしまっている。

 そして申し合わせたかのように迫り来るトラック。

 なのに会話に夢中な母親。


『えっ?なに?気付いてないの?』


 そう思って直ぐに彼女はその子を救うために動いた。

 危険なんて考えてない。

 意識すらしてなかっただろう。

 考えるよりも早く身体が助けるために動いた。


 結果、子供は彼女に歩道に投げ込まれて擦り傷と打撲は出来たが命は無事だった。

 彼女は。

 トラックと接触。

 子供に気が付きブレーキを踏んで減速していたとはいえ接触の衝撃で吹っ飛ばされていた。

 接触時なのか吹っ飛ばされてなのかは分からないが頭部から血溜まりが出来る程の出血をしている。

 意識はすでに無い。


 トラックの運転手は自分のしでかした事の重大さは承知している。

 だが、大泣きしている子供を余所に事態の把握ができず呆けている母親とは違った。

 然るべき所には電話済みだった。

 遠くで鳴っているサイレンが聞こえ始めた。




 事故から3日。

 彼女はまだ目を覚まさない。

 病院に運び込まれて頭部の怪我を止血して全身隈なく検査された。

 左上半身のほぼ全域に打撲。

 左側頭部に円形の裂傷。

 右側頭部に擦傷。

 内臓には損傷無し。

 脳内に血栓や損傷は見られない。

 脳波にも異常は今のところ見られない。

 医師の判断は死亡する事は無いだろうとの事。

 だけど、彼女は未だに目を覚まさない。

 

 彼は事故当日から毎日お見舞いに来ていた。

 彼女の行為を褒めつつも身代わりになったらダメだろう。

 と、責めたりもしていた。

 彼は3日経った今でも軽く混乱の最中さなかにいた。

 

 朝、いつもの時間に笑顔で『おはよう』って言う彼女の姿が無い。

 昼休み、また何処かで無茶な事をしようとしている彼女の姿が無い。

 放課後、全力で部活に挑む彼女の姿が無い。 

 帰宅途中、ヘロヘロに疲れてるけど『大丈夫、大丈夫』と笑顔で強がる彼女の姿が無い。

 日常が突然変化した事に付いて行けてない。

 彼は初めて気が付いた。

 自分の中に占める彼女の存在の大きさに、彼女の笑顔がもたらす安らぎに。

 でも、それが幼馴染としてなのか、1人の女性としてなのかは、まだ気付いていない。




 事故から10日後


 一昨日梅雨入り宣言されていた。

 今日は雨が降っている。

 そんな雨の中、彼は事故現場に立っていた。

 彼は彼女への思いの正体に気が付いていた。

 正しくは気付かされていた。


「お前さーやっぱり好きなんじゃねーの?」


「俺には可愛い幼馴染みなんて居ねーからわからねーけどさ、気がなけりゃそこまで心配しねーんじゃねーの?しかも、去年からずっとだろ?俺にはそーとしか思えねーんだけどなー」


 気が付くと彼女の居場所を探していた。

 気が付くと彼女の事を眺めていた。

 気が付くと彼女の好みで物を選んでいた。

 彼女はいつも見ていてくれた。

 彼女はいつも微笑みを向けてくれた。

 彼女はいつも一番近くに居てくれた。

 ・・・もしかすると両親よりも。

 当たり前すぎて気が付かなかった。

 近すぎて家族の様に思っていたけど、それは違った。

 考えもして事がなかったけど。

 彼女が他の男と一緒に居る所なんて想像もできなかった・・・

 いや!したくなかった。


 彼はやっと彼女への気持ちに気が付いた。

 だけど、その気持ちを伝えるべき彼女は未だに目を覚まさない。

 医師も稀に有るケースとして捉えている。

 バイタルは安定しているし。

 再検査して内臓に損傷の見落としも無かった。

 脳波にも異常は見られない。

 近いうちに目を覚ますだろうと楽観視している。

 彼と彼女の家族はそれを信じるしかない。

 信じるしかなくても彼はジッと待って居れなかった。


 だからやって来た。

 雨の降るなか事故現場へ。


 10日も経った上に雨が降ってるからか事故の痕跡なんかは何もない。

 事故なんてここで有ったの?

 と言わんばかりだ。

 彼は聞き及んだ事故現場に立って見ていた。

 彼は何を考えているのだろう?

 事故の事?

 彼女の事?

 もしかしたら・・・何も考えていないかも知れない。

 呆然と事故現場を眺めているのかも知れない。

 彼は呆けが過ぎて気付いてなかったが。

 下校している3人組みの小学生が近くまで来ていた。

 彼の近くの壁に蝸牛が這っているのを1人が見つけた。

 蝸牛を捕まえて2人に見せる。

 2人の内の1人は嫌いだったのか後退りした。

 後退りをしたのは車道側を歩いていた子だった。

 案の定、路肩の段差を踏み外してバランスを崩していた。

 その子が幸運だったのは彼の直ぐ横でバランスを崩したという事だった。

 彼はバランスを崩して倒れそうな子に咄嗟に手を伸ばし歩道へ戻してた。


 彼は不幸だった。

 小学生を引き戻したまでは良かったが。

 自分がバランスを崩して車道に転倒してしまった。

 転倒から立ち上がった彼を待っていたのは。

 迫り来るワゴン車だった。


『ははっ・・・忘れてたよ。車が来てたから引っ張ったんだった。これじゃ、あいつの事をとやかく言えないな』




 それから1年が経った。


 彼女と彼は2人並んで寝ていました。

 

 彼は事故で何箇所か骨折はしたものの命に係わる怪我は無かった。

 しかし彼も待てど暮らせど怪我が完治しても目覚める事がなかった。

 2人は未だに目覚めていません。


 目覚めない2人だったが少々奇妙な事があった。

 それは、彼が彼女の隣に移されてから起きるようになった。

 彼女はそれまで無表情のまま眠っていたのだが。

 彼が隣に来てから、彼女は時折嬉しそうに微笑むのでした。

 彼もほんの少し遅れて彼女と同様に微笑むのでした。

 それはまるで2人は同じ夢の中にいる様な感じです。

 いや、恐らくきっと同じ夢の中に居るのでしょう。

 そう言われれば納得がいくのです。

 

 同じ夢の中に居るのなら。

 目覚める時もきっと同時に近い事になるはずです。

 ・・・いや。

 そもそも目覚めるのでしょうか?

 夢の中の幸せを1時的に放棄して目覚める決断を出来るのでしょうか?

 彼女は念願が叶った。

 彼は気付いた思いを成就できた。

 そんな甘い夢を放棄出来るのでしょうか?

 ・・・

 ・・

 ・

 願わくば。

 彼女と。

 彼に。

 幸が多からん事を。


後5本、短編のネタがあります。

内4本はこの短編同様バッドエンドです。

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