交錯と思念と音のない悲劇
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雨の日の小道はしんとしている。シーン、ではない。しんとしている。
足元が悪くなるからだろう、雨の日にここを通る人は少ない。
人がいない、ただそれだけで、見慣れた景色がどこか変わって見える。
時折、傘を差した人間が通っていく。
早足に歩く彼は、毎朝同じ時間にこの道を通る。今日は少しだけ遅かった。
そのまま立っていると、水溜りで何か動いているのを見つけた。
「君は誰だい?」
その見慣れない生き物は少し濁った瞳に僕を映した。
「こりゃ驚いた。あんたは喋れるんだな」
彼が吃驚したのも無理はない。普段僕が彼らと話をすることはないから。
「僕が喋ったらおかしいかい?」
「いや、そんなことは――――――やっぱり、おかしいかな」
「正直だね」
僕はこの得体のしれない生き物をなんだか気に入ったらしい。
「君はなぜここに居るんだい?」
「いちゃあいけない理由でもあるのかい?」
「いいや。ただ、いつもは見かけないから気になったんだ」
どこかで見たような、気はするんだが。
「いつもはあそこにいるのさ。あんまり雨が降るから、落っこちてしまったんだ」
そういって、不思議な生き物は空を示した。つられて見上げた灰色は重すぎて、息が詰まるようだと思った。
「ふ、それは素敵だ」
皮肉ではない、むしろ羨望だ。
「だけどみたところ君には翼がないね。どうやって住んでいるんだい?」
「泳ぐのさ」
パシャ。それっきりそいつは返事なんかしなかったけど、何故だか満足そうな顔をしていた。
雨は上がった。さっきまでの静けさが嘘のように、賑やかに少女たちが歩いてくる。
「やだ、なにこれ」
彼女達はさっきまで生き物だったあいつと、ついでに僕を大げさに避けて去っていった。
灰色だった空も少しずつ青さを取り戻していくようだった。アスファルトの窪みの水溜りは彼女たちの笑い声に共鳴したようにさざめき、しかしすぐに何事もなかったかのように凪いだ。
白く濁った瞳はもう何も映さないけれど、何かを問いかけるように僕を見ていた。




