第四章【前】
「「「キャーッ!!」」」
「……っ」
耳をつんざくような悲鳴に、知愛はたまらず耳を押さえた。
歓声を上げる生徒達の視線は彼女の後ろ、生徒会役員である豪・瑛・克己へと向けられている。
……だが、ここは朝の校門ではない。
昼休み、彼女がオムライスを食べる為にやって来た、学食なのだ。
「俺が行くのに、お前らが行かないなんてありえねぇ」
そんな豪の一言により、瑛と克己もついて来たのだが――そもそも、知愛は一人で食べたかった。けれど、昨日の一件があるので豪が許してくれなかったのだ。
(まあ、心配してくれてますし……爆撃よりは全然、マシですし)
女生徒の黄色い声を物騒なものと比較しつつ、知愛達はテーブルに着いた。そして、それぞれウェイトレスに料理を注文した。
「はぁ……今日も、美味しいです」
当然、オムライスを注文した知愛はとろとろ卵とチキンライスを口に運び、スプーンを握ってしみじみと呟いた。
「そりゃあ、マズくはねぇだろうけど……ンな、感激するようなモンか?」
「はい! オムライスは、日本の誇るべき文化ですっ」
「……本当に知愛さん、好きなんですね」
黒瞳を輝かせ、豪の言葉にキッパリと力説する知愛に、克己が感心したように言う。
と、そこでそれまで黙っていた瑛が口を開いた。
「じゃあさ、知愛ちゃんショートケーキも食べたことない?」
「……ありますよ?」
「あ、アメリカとかのじゃなくて日本の、スポンジケーキに生クリームたーっぷりで、苺乗ってるやつ」
「えっ……」
何を当たり前のことを、と思った二人だったが――知愛は大きく目を見張り、瑛を見つめていた。
そんな彼女にニコニコ笑いながら、瑛が言葉を続ける。
「苺ショートは、日本特有だからね。じゃあさ? 明日の休みにでも、食べに行こうよ」
「てめ、この抜け駆け……」
「行きます!」
「お前も食い物に釣られんなっ」
「フフ……」
豪の気持ちを知っている(昨日、わざわざ二人にも宣言している)くせに、目の前で知愛をデートに誘う瑛と。同じく、豪の気持ちを知っているくせに意気揚々と手を挙げ、答える知愛に。
当然、豪のツッコミは炸裂し、克己はそんな彼らに微笑みながら、鶏肉のソテーを口にした。
※
昼休みが終わる頃、知愛が教室に戻ろうとしたら担任の(とは言え、昨日以来会ってなかったが)唯に声をかけられた。
「ちーちゃーん! この子達、連れて行ってあげてー」
「……子?」
差し出された『子』達とは、抱えるのがやっとなくらい大きな熊のぬいぐるみと、その服のポケットに入った小さな熊のうさぎのぬいぐるみだった。すると、少し先を歩いていた克己が気づいて、戻って来てくれる。
「また、仮眠室への差し入れですか? 僕が運びますよ」
「んー……ま、かー君なら合格か。お願いするねー」
「あ、あの、持てますよ?」
「それじゃあ、ちーちゃんはこの子!」
勝手に話を進める二人に知愛が慌てると、唯が克己の抱えたぬいぐるみのポケットからうさぎを取り出して知愛に持たせた。
「……うん、二人が持つとやっぱり似合う!」
「え、えと?」
「ありがとうございます」
「こちらこそ! じゃあ、頼んだよー」
そして満足げに知愛と克己を見て頷くと、ブレザーの裾を軽やかに翻し、唯は笑顔で立ち去ったのである。
「あ、仮眠室ってうちの教室の隣にあるんですけどね? 一番、利用してるのも私物持ち込んでるのも椎名先生なんですよ」
「……はぁ」
「で、椎名先生ってぬいぐるみが大好きなんですけどね……好きすぎて、ぬいぐみるが似合う生徒にしか触らせないんです」
確かに、いくら美形でも豪や瑛にはぬいぐるみは似合わない。だから、それを解っている二人は先に教室に戻ったのだろう。
すると、優秀な先生なんですけどね、と微苦笑していた克己がふと話題を変えた。
「……知愛さん、瑛さんとつき合うんですか?」




