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女神の声  作者: 渡里あずま


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第三章【後】

「「「キャー!!」」」

「……知愛っ!」


 周囲からの悲鳴と、駆けつけた豪の声が聞こえた。

 そんな中、知愛もまた前へと出て――少女の攻撃を流しつつ腕をねじ上げ、取り出したボールペンを喉元へと突きつけた。


「これくらいのことで、刃物なんて持ち出しちゃ駄目ですよ」

「は、はいっ」

「私なんかに構ってないで、ご……天海君にアタックして下さい。そしたらちゃんと、応えてくれますよ」


 相手がカッターを離したところで、知愛はボールペンを引いた。

 そして、思いがけない展開に立ち尽くす豪に向かって「ね?」と笑顔を向けたのだった。



 知愛の持っていたのは、普通のボールペンだった。猫のキャラクターがついたファンシーな物で、本来なら凶器になどならない。

 しかし、頸動脈や目を狙えば十分、相手を倒せる。

 手荷物検査もOKだと、ファーザーから渡されていたが――まさか転入早々、使うことになるとは思わなかった。


「お前、さっきの……」

「……えっ?」


 日本の学校も油断ならない、とズレた感想を抱いていた知愛に、豪が声をかけてくる。

(お祖父さん、教えてないんでしょうか?)

 だとしたら、自分が元傭兵だと言うことは黙っていよう。そう思った知愛は、にっこり笑って口を開いた。


「何ですか?」

「お前、俺の何を知ってるんだよ……あんな安請け合い、しやがって」


 けれど、続けられた言葉は予想とは異なっていた。

 おかげで最初、意味が解らなかったが少し考えて先程、ツインテールの少女に知愛が言ったことだと気づく。


「何勘違いしてるのか知らねぇけど、俺は」

「ご……天海君は良い人です」

「あぁ?」

「だって、私を助けに来てくれたじゃないですか」


 そう言うと知愛は、ごまかす為ではなく感謝を込めて笑った。

 そんな彼女に目を見張り、顔をしかめると――豪は知愛の髪の毛を、グシャグシャと乱暴に撫でた。


「天海君!?」

「聞こえねぇな。豪って呼べって言っただろ?」

「だ、だって、ファンクラブの皆さんが気にしますっ」


 ……撫でてみると、知愛の頭は見た目同様に小さかった。

 だが、ツヤツヤした黒髪は手触りが良く、しばらく触り心地を堪能した後、豪は言った。


「豪って呼べよ……俺が、そう呼んで欲しいんだ」


 彼の言葉に、知愛が普段以上に目を真ん丸くした。確かに我ながら、らしくない台詞である。

 ……だが、認めよう。

 腹が立ったのは、気になったから。そして気になったのは、好きになったから。


 この真っ直な眼差しや、媚びない態度に惹かれていたが――とどめは、先程の知愛の言葉だった。


「好きだから、こその不安なんでしょうけど……好きなら尚更、相手のことを信じなくては」


 それは、豪の母親がよく口にしていた言葉と同じだったのだ。


「好きな人のことを、信じなくてどうするの?」

「信じられる人だから、好きになったのよ」


 父の愛人だった母。

 いつもそう言って笑っていた母は、本妻に息子がいない父に豪を預けて姿を消した。

 ……けれど、父は母がどこに行ったのかを教えてくれない。

 だから、豪は約束したのだ――政治家となり、父の跡を継いだら母の行方を教えて貰うと。

 その第一歩としてこの学校の生徒会長になり、学年首席をキープした。おかげで女には不自由しなかったが、母のように豪自身を見てくれる者はいなかった。


 そんな中、豪は父から今回の許婚の話を聞かされた。

 約束を果たすまでは父に逆らえないし、どうせ女なんて誰でも同じだと思ったから引き受けた――けれど。


「今は、信じただけで許してやる……いつか絶対、惚れさせてやるよ」

「……豪、君?」


 許婚だからではなく、知愛だから――そう宣言した豪は、呼び方を戻した少女にニッと唇の端を上げた。

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