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女神の声  作者: 渡里あずま


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第三章【中】

 結局、昼休みになり、放課後になっても豪は戻って来なかった。

 車が迎えに来ているので知愛は二人に一礼し、学校を後にした。校門には、同様の送迎車が並んでいて何とも壮観である。

 ドアを開けてくれた運転手に一礼し、知愛は車に乗り込んだ。

 そんな彼女に複数の、突き刺さるような視線が向けられていた。


 次の日の昼、知愛は意気揚々と食堂へ向かった。

 何となく予想はしていたが、やはり食堂もきらびやかだった。そもそも食券を買って並ぶのではなく、各席にウェイトレスが注文を取りに来て運んでくる辺り、本当に改名した方が良いと思う。


「オムライスをお願いします」


 そんな中、知愛は憧れの料理であるオムライスを注文した。ちなみに何故、憧れかと言うと義父に散々、美味しいと聞かされたからである。

(オムレットはありますけど……これは、日本にしかありませんからね)

 義父は料理音痴だったので、一度、食べてみたかったのだ。とは言え、祖父の家は源蔵の好みに合わせて和食中心である。作れないことはないだろうが、あえて作らせるのも悪いと思っていたのだ。

(そうだ、忘れちゃいけません)

 そこで知愛はある物を取り出して、ウェイトレスに渡した。

 清琳学園では、学生証が食堂や購買部で使えるICカードを兼ねている。そして生徒会役員の特権(食堂無料)も、このカードをウェイトレスの持つ機械に認識させることで使えるのだ。


「かしこまりました」


 カードから、知愛が新しい生徒会役員だと解っただろうが、流石にウェイトレスはプロだった。動じず一礼し、やがて注文したオムライスとスープを運んできた。

(美味しい! 本当にフワッフワのトロットロです!)

 一人なので感嘆の声を上げこそしなかったが、見事な卵の焼き加減やチキンライスとの相性に、知愛は思わずスプーンを握り締めた。

 そして、また明日も来ようと決意しながらオムライスを食べていると――華やかな分、きつい雰囲気の女生徒達が知愛のテーブルへとやって来たのである。


「神崎知愛、ちょっと来てちょうだい」

「……待って下さい、もうじき食べ終わりますから」

「馬鹿にしてるの!?」


 途端に相手が怒り出すが、名前を呼ばれたということは自分が知らなくても、相手は知愛に用がある訳だ。姿は見ていないので断言出来ないが、昨日の帰りに知愛を見ていた――と言うか、睨んでいたのと同一人物か関係者だろう。


(話をつけるには好都合ですけど……食べ物を残したら、もったいないお化けさんに叱られますからね)


 義父の口癖を思い出しつつ、知愛はスープまでしっかり飲み干し、ウェイトレスに促されるままに皿を置いて三人に付いて行った。



 一方、その頃の豪はと言うと――屋上で、昨日とは別の少女と一緒にいた。

 Sクラスに行きたくない、と言うか知愛に会いたくなかったので好都合ではあったが、コトが終わって立ち上がった時、ふと引っかかった。


「天海君……もう、行っちゃうの?」

「あぁ?」

「お、お腹空いたでしょ? あたし、お弁当用意したのっ」

「…………」


 豪は、誰彼構わず手を出している訳ではない。後腐れのない、と言うと身も蓋も無いがとにかくそういう相手にのみ手を出している。


(こいつらも、俺の家とか顔目当てだから、お互い様だよな?)


 そんな醒めた思考を隠さないので、少女達は豪の機嫌を損ねないようにしている。だから、こんな風に彼を引き止めるなんて、今まで一度もなかったのだ。

 ……つまりは、何としても豪をこの場に足止めしておきたい訳だ。


「どこだ?」

「えっ……?」

「あいつをどこに呼び出した?」


 嫌いな奴、な筈なのに。

 尋ねる声は、自分でも驚く程に低かった。



 その頃、話題に上がった知愛はと言うと女子トイレに連れて来られていた。

 彼女を呼び出した少女達は、外で見張りに立っている。そして待ち構えていた少女達によって、知愛はグルリと取り囲まれた。

(流石、日本です)

 浮かんだのは、マークに見せて貰ったDVDや漫画だった。ズレたことを真面目に考えていると、一人の少女が知愛の前に立つ。

 毛先が綺麗に巻かれた長い髪と、アーモンド型の瞳。ふっくらとした唇に均整の取れた肢体――容姿も気の強そうな感じもずば抜けた少女は、この場のリーダー格だろうか。そう思っていると、目の前の朱唇が動いた。


「どうやって、天海君に近づいたの? お祖父様におねだり? それとも、その貧相な体を使ったのかしら?」

「……は?」


 思わず間の抜けた声を上げたのは、随分と失礼なことを言われたから――ではない。

 そんな知愛には構わず、少女は芝居がかった口調で言う。


「けれど、彼は独占してはいけないの。どうしても近づきたいのなら、私達みたいにファンクラブに入って、彼が手を差し伸べてくれるのを待つ……それが、正しい形なの」

「どうしてですか?」

「……聞いてなかったの? だから、あなたのようにでしゃばるなんて言語道断なの!」

「どうして、好きな人のことをそんな風に言うんですか?」


 聞き返した知愛に、不快げに眉を寄せた少女だったが――続けた問いに、その長いまつ毛ごと目を見張った。

 それは、知愛を取り囲む少女達も同様で。

 そんな周りの驚きを余所に、知愛は更に言葉を続ける。


「あなた達が好きな豪君は、地位とか色仕掛けに、あっさり尻尾を振る方なんですか?」

「そ、れは」

「好きだから、こその不安なんでしょうけど……好きなら尚更、相手のことを信じなくては」


 大きく声を張り上げている訳ではない。

 むしろ静かに語る声は、けれど不思議とよく通った。現に周りも、圧倒されたように黙ってしまっている。

 だが、しかし。


「……って、さっきから馴れ馴れしい!」


 知愛の言葉を遮ったのは、リーダー格の少女ではなかった。

 いきなりの乱入、しかもその手にカッターを持っている相手に、知愛は軽く目を見張った。


「おやめなさいっ」

「だって、会長……この子、天海君を名前で呼んで! しかも、わたし達に説教するなんてっ」


 リーダー格の少女の制止に、ツインテールの少女が反論する。

 そして、憎々しげに知愛を睨むと――カッターを持っている手を振り上げ、突進しながら切りかかった!

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