第二章【後】
「えっ? 克己さんは、一年生なんですか?」
「はい。知愛さんは二年生……豪さん達と同じですね」
そんな中、無言も何なので世間話を試みた知愛だったが、今更ながらに三人の年齢を知った。そして、自分の年を知られていたことに驚くのではなく、仮にも婚約者達のことを何も知らなかったことに反省した。
(断られるにしても、これではいけませんね)
玉砕すると解っていても、正々堂々と立ち向かわなければ――決意し、拳を握る知愛だったが。
「『本当に』興味なかったんですね」
「えっと……はい、ごめんなさい」
己の呟きを聞いて、知愛は素直に謝った。
嫌味のような台詞だが、これだけ注目されていたらむしろ当然の感想だろう。
「……フフッ」
しかし、そこで笑われたのは予想外だった。
周りがざわめく中、知愛は「何か面白いことを言っただろうか?」と首を傾げた。そんな彼女に微笑んだまま、克己は足を止めて近くのドアをノックした。
「失礼します。転校生を連れて来ました」
「あー、かー君、お疲れさまー」
中に入る克己の後をついて行くと、綺麗なボーイソプラノが聞こえてきた。ひょい、と後ろから顔を覗かせた知愛は、そこで大きく目を見張った。
ふわふわの薄茶の髪と、こぼれ落ちそうな大きな薄茶の瞳。こくり、と傾げられた細い首。
ドアに、職員室というプレートがあるし、制服を着ていないので(スーツがブレザーにしか見えないが)教師――なのだろうか?
(この可愛らしい人が?)
身長も、知愛とあまり変わらない。どう見ても、彼女より年下にしか見えないのだが。
「僕は、担任の椎名唯だよ。よろしくね、ちーちゃん……ちょうど良かった、かー君。ちーちゃんを、かー君達のクラスに連れてってあげて?」
「はい」
「えっ?」
そんな知愛の疑問を余所に、唯と克己の間で話が進む。
いきなりの『ちーちゃん』呼びなど、ツッコミどころ満載だが――何故、自分と年下の克己が同じクラスなのだろうか?
(帰国子女だから?)
戸惑う知愛に気づいたのか、唯が澄んだ声で説明してくれる。
「うちの学校にはね? AからEクラスまでの他に、Sクラスってあるんだよ」
「S?」
「そう、ちなみにSクラスの『S』は生徒会のSだから」
「えっ、ローマ字ですか?」
「うん。だから、かー君とごー君達が同じクラスなの。三人とも、生徒会役員だから」
「そうなんですね……って」
いきなりクラス名が飛んだ理由は解ったが、そこで知愛は引っかかった。
(同じクラスってことは?)
「一緒に生徒会、頑張りましょうね」
「……えぇっ!?」
そんな彼女にとどめを刺すように、克己が爽やかな笑顔でとんでもないことを言った。
※
「改めて、生徒会長様だ!」
「副会長でーす」
「書記です」
「……転校生の私には、荷が重いと思うんですが」
赤絨毯。
シャンデリア。
しかも空調は勿論、冷蔵庫や簡易キッチンまである。
教室にも生徒会室にも見えない豪華(強いて言えばホテルの一室)なSクラスに呆然としながらも、知愛は正直に申し出た。学校に通うの自体初めてなので、何をやれば良いのか本気で解らないのだ。
(そんな私が、生徒会に入るなんて)
そう思った彼女に、もう何度目かになる驚きの視線が向けられる。
「真面目かっ!」
「えぇっ!?」
「嬉しくない? 俺らと一緒にいられて」
「そりゃあ、知らない人よりは」
豪にツッコミを入れられ、瑛に尋ねられるのに今度は知愛の方が驚く番だった。それでも律儀に答えていると、またしてもクスクスと克己が笑い出す。
(笑い上戸なんでしょうか?)
首を傾げていると、乱暴に上座の席に腰かけた豪がズイッとカップを突き出してきた。
「じゃあ、茶淹れろ。これなら、お前でも出来るだろ?」
「あ、はい」
それに頷き、カップを手に取るとまた驚かれた。今度は何だ、と目線で問うと感心したように瑛が言う。
「知愛ちゃん、しょみ……家庭的なんだねぇ。うちの学校の生徒だと、お茶は執事やメイドが淹れるものだよ?」
「だって、ここには私達しかいませんし……皆さんも、自分で淹れてますよね?」
「皆さんって言うか、僕が淹れますね。でも、知愛さんのお茶、楽しみです」
充実した(コーヒーや紅茶がインスタントではない)お茶セットを見て知愛が言うと、克己がそう答えた。確かに、他の二人は淹れそうにない。
(と言うかさっき、庶民って言いかけましたよね?)
瑛の言葉にツッコミを入れつつも、知愛はお茶の準備を始めた。
今はともかく、自分は庶民生まれの庶民育ちなので間違えてはいない。けれど、そこでハタ、とあることに気がついた。
コーヒーか紅茶か、ではなくて。
「……授業は?」
「だから、真面目かっ!」




