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女神の声  作者: 渡里あずま


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第二章【前】

 知愛の朝は、目覚まし時計との勝負で始まる。

 幸い、彼女は寝付きも寝起きも良いのでほぼ勝利していた。だが、他の二人はと言うと――。


「うぅ……あと五分、いや、あと十分、寝かせてくれ」


 茶髪碧眼の精悍な容姿。本当のファミリーネームは『マクドナルド』だが「俺はバーガーショップじゃねぇ」と言って戦車と同じ『マーク』を愛称にしている男。


「…………」


 黒髪と灰色の瞳。美形だが無口で寝起きが悪く、知愛や義父など限られた者にしか心を許していないルー。


「この者達の罪深き眠りを許したまえ。父と子の御名において……アーメン!!」


 金髪緑瞳。それこそ大天使みたいに綺麗なのに、拳で仲間達を叩き起こすような怖い一面があるファーザー(牧師)。

 部屋が取れれば別だが、大抵は皆、一緒に寝起きをしていた。

 騒がしいくらい賑やかだったが、知愛はそんな朝が大好きだった……。


「……あ」


 広い部屋、広いベッドで一人、静かに目覚めた知愛はそこで、思い出したように声を上げた。

 そう、ここは日本で――彼らはもう、傍にいないのだ。



 今日から通う清琳せいりん学園は、良家の子息・令嬢が通う名門校だと聞いている。


(お祖父さんの孫だと、そういう学校になるんですね)


 大げさだと思ったが、そもそも知愛は学校に通ったことがない。だから特に反対することなく、祖父の申し出を受け入れた。ちなみに制服は、紺色の清楚なワンピースだった。白い大きな襟は、少し修道服を連想させる。


「……さて」


 着替えた後、梳かした髪をポニーテールにした知愛は、ベッド横のサイドテーブルから一本のボールペンを手に取った。

 スカートには淑女のたしなみ、ハンカチとティッシュを入れる為のポケットがついている。

 そのポケットにボールペンを入れて、知愛は朝食の為にダイニングルームへと向かった。



「お城……?」


 車で送迎、と言うだけでも驚いたが――開かれた金色の門。その向こうにそびえ立つ白亜の建物を見て、知愛は思わず呟いた。

 だが、彼女と同じワンピースを着た少女達、そして詰襟を着た少年達が、平然と麗しい建物に向かって歩いていく。


「……学校なんですね」


 気を取り直すように呟くと、知愛は登校しようとした。そんな彼女の耳を、超音波のような悲鳴が直撃したのはその刹那のことだった。

 耳を押さえ、振り向いた知愛が見たのは――左右に道を開けた生徒達の歓声の中、悠然と歩く豪達三人の姿だった。


(すごい人気ですね)


 知愛の感想はそれだけだった。祖父には前向きなことを言ったが、昨日のやり取りで相手から断られると思っていたからだ。

 そして職員室に行こうと、彼女が踵を返そうとした時である。


「知愛さん、おはようございます」


 知愛に気づいた克己から、笑顔で声をかけられた。


「よぉ、知愛」

「知愛ちゃん、おっはよー」

「……おはようございます」


 他の二人からも挨拶されたのに、知愛は戸惑った。

 昨日の今日での三人の笑顔もだが、途端に突き刺さるように周りの視線が集中したからである。


「誰、あの子?」

「天海君達から話しかけられるなんて!」

「ね……妬ましいっ」


 聞こえてきたどよめきに、知愛はこっそりため息をついた。

 幸か不幸か、同性に嫌われるのには慣れている。ファーザーやルーなど、美形の傍にいる者の宿命だと思っている。

(まあ、私みたいなちんくしゃでは仕方ないですね)

 ……知愛も十分、美少女なのだが本人全く気づいてはいなかった。


「職員室に行くのなら、案内しますよ」


 そんな知愛を我に返したのは、克己からの申し出だった。この申し出を受けたら、ますます注目を浴びるだろう。

 ……だが、右も左も解らないので正直、ありがたい。


 そんな訳で、克己に職員室まで案内して貰うことを決めた知愛だったが――予想以上の視線の集中砲火に、少々、後悔していた。

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