第十三章【後】
(やられた……!)
自惚れるなと、一蹴することは出来ない。彼女に価値があることを、圭威はすでに示してしまっている。しかも、腕や足ではなく目、しかも両眼と言うのが知愛の本気を感じさせた。
「……それは困る。俺は、お前の見た目『も』気に入っているからな」
仕方ない。犬達傭兵仲間ですら叶わなかった、傭兵復帰を約束させただけで良しとしよう。
(あのガキの為と思うと、癪だがな)
まあ、誘拐したのは圭威なので、自業自得か――そこまで考えたところで、聞き慣れた声が割り込んできた。
『マスター!』
駆け付けたマックスの声と共に、何かが投げつけられる。
咄嗟に、圭威と知愛がそれぞれ後方へと飛び退いたところで、その何か――閃光弾は、強烈な光を放った。
『チア! ……クソッ!!』
らしくない悪態をつきながら、知愛へと駆け寄った犬――ルーが銃を発砲したが、圭威はすでにその姿を消していた。
『ルー……落ち着いて、私は大丈夫です』
弾切れになった銃を床に叩き付けようとしたルーを、その胸元へ抱き寄せられた知愛が制する。
大きな声ではない。けれど、男には効果覿面で――ピタリ、と動きを止め、ギュウッと音がするくらい強く抱き締めてくるルーの背中を、知愛は優しくポンポンと叩いた。
「ち……」
「豪君」
そんな少女に声をかけようとした豪を、当の知愛が制する。
それだけ、と思われるかもしれないが、豪は言葉に詰まって立ち尽くした。
(……巻き込むなってお前は言ったけど、むしろ俺がお前を巻き込んだじゃねぇか)
確かに男との戦いぶりを見る限り、豪が彼女の心配するなんて本当におこがましい。しかも(まだ状況が解らない部分もあるが)自分のせいで、先程の男と再戦するような話になってしまった。
情けなさと悔しさに、爪が食い込むくらい拳を握っていると――ルーに抱き着かれたままの知愛が、言葉を続けた。
「聞いて頂いた通り、たまに『パート』が入りそうなんですが……生徒会って、やっぱり辞めないと駄目でしょうか?」
「……は?」
「前に聞いた話だと三年になると引退ですから、もう少しではあるんですが……生徒の皆さんへの示しとしては、やはり」
「って、真面目かっ!」
つい突っ込んでしまってから、自分の間抜けさに口を塞ぐ。
……そんな豪に、真顔の知愛が口を開いた。
「だって生徒会をやめたら、豪君とこういうやり取りも出来ないじゃないですか?」
「えっ……」
「豪君だけじゃないです。瑛君と美味しいものも食べられないですし、克己君の淹れてくれるお茶も飲めないですし」
「…………」
自分の名前が出たのに一瞬、ドキッとしたがその後、他の二人の名前も出てきたのに力が抜ける。
(……それでも、助けに来てくれたんだよな)
恋愛感情はないとしても、そして、自分だけではないとしても――知愛なりに、特別に思ってくれていることは解った。だとしたら、豪にも出来ることはある。
「やめさせねぇよ……俺らと一緒にいられるのは、お前だけだからな」
「……豪君」
「だから三年になっても、卒業しても離さねぇよ」
これだけハッキリと言えば、ときめくはないにしろ笑ってくれるんじゃないかと思った。
……けれど、豪の思惑に反して知愛は逆に睨んできて。
「それじゃあ、公私混同じゃないですか」
「だから、真面目かっ!?」
可愛くないことを言う相手に、思わず言い返すと――ルーに抱き締められたままではあったが、ようやく知愛は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。




