第十二章【中】
メールや電話で場所の指定はなかったが、豪の携帯電話からとある倉庫街が特定出来た。
そんな訳でファーザーが用意し、マークが運転するワゴン車で知愛達は向かうことにした。少し後から特殊部隊の車がついて来ているが、仕事なのでそのままにさせている。
「……罠?」
「圭威さんなら、やりかねませんけど……呼び出しておいて、その可能性は低いと思います」
「そうか」
後部座席で首を傾げるルーに隣に腰かけ、彼ら同様の戦闘服に身を包んだ知愛が答えた。そんな少女に、無表情ながらも青年を知っている者なら解るくらいのご機嫌な様子で、ルーが相槌を打つ。
「むしろ安心したけど……お前は拗ねないのか、ルー?」
「……?」
「さっきのガキ共みたいに、知愛が危険を侵してまで坊ちゃんを助けに行くのにさ?」
質問の形は取っているが、マーク自身はその理由を知っている。だからこれは、単なる軽口だ。
「助けに行くのは、知愛なら当たり前だ。それにまた、知愛とこうして一緒に戦える」
「……あー、ゴメンな? 知愛」
そう言って微かに、けれど確かに笑った青年に――ではなく、知愛に対してマークは謝った。
拗ねたり妬いたりしないのは想定内だとしても、亡き義父の願いで傭兵を引退した知愛だったが、どうもルーには通じていないらしい。
そんなマークに少しだけ困ったように、しかし笑って知愛は答えた。
「良いんですよ……むしろ、何も出来ない方が悔しいですから」
……だから普通の女の子ではなく、傭兵だった自分で良かったのだと。
無理にではなく、当たり前のように言う知愛にマークは言った。
「今回だけだから! 知愛のドキドキスクールライフは、俺達が守るからっ」
「……まあ、あまりしつこいようならまた私達のところに戻ってくると良いですよ」
「ファーザー、お前、フォローする気ないだろ!?」
平和な学園生活を過ごさせたいマークに反して、連れ去る気満々なファーザーにツッコミを入れる。
二人のやりとりに知愛は微笑み、そんな少女を見てルーもまた笑みを浮かべた。
※
携帯電話から割り出されたのは、十三倉庫だった。圭威のブラックジョークを感じつつ、近くにワゴン車を停める。
「チア」
それぞれ武器を手に取っていた中、ファーザーが拳銃を差し出してくるのに、知愛は顔を上げた。
……それは、日本に来る時にファーザーに渡していた彼女の銃だ。
「ありがとう」
銃を持っている相手に対して丸腰で立ち向かう程、知愛は超人でも平和主義でもない。
それ故、しばらくぶりの、けれど手に馴染むそれをお礼を言って受け取ると、知愛はナイフと共にピストルベルトに取りつけた。
そして倉庫に目を向け、三人に頷いて見せると――知愛は一人、ワゴン車から降り立った。
「指示は?」
「ありません。多分、私を孤立させようとするでしょうから……各々、好きに動いて下さい」
ファーザーの問いにそう答えると、知愛はいっそ無防備とも取れるくらい平然と目的の倉庫に向かって歩き出した。
そんな彼女を追う為に、次いでワゴン車を降りたのはルーで。
……刹那、黒髪の青年の足元を狙って複数の銃弾が打ち込まれた。




