第十二章【前】
勇治の話によると知愛達が病院に来る前、豪の乗った車の運転手が気絶しているのが見つかったと言う。
その知らせが瑛の父親から届いた頃、勇治の携帯電話に圭威から着信があったと言う。そして圭威は、あっさりととんでもないことを言ってきた。
「実はさ? 今回の依頼って、あんたと某国とのダブルブッキングだったんだよね?」
テロリストである圭威は、狙撃手としても有名だ。大抵は断られるが、それでもその腕を欲しがる者は後を絶たない。
圭威によると今回、自作自演をした勇治が『たまたま』先だったので狙撃を行ったが、某国の顔も立てなければいけない。それ故、制裁を勇治に取り消させる為に、息子である豪を誘拐したと言う。
「息子を助けたければ『勝利の女神』に依頼しなよ。あ、特殊部隊はやめておくんだな。無駄な犠牲を出したくはないだろう?」
言いたいことを言って、圭威は電話を切った。慌ててかけ直したが、すでに電源を切られて繋がらなかったそうだ。
「君達のチームについて、名前くらいは知っていたが……ことは、一刻を争う。だから、私としては特殊部隊を手配するつもりだったが」
そこで、瑛の父親は言葉を切った。今までの圭威と対峙して、無事だったのは知愛達のチームだけなのだ。それが解っていて、部下を送り込みたい上司はいないだろう。
「では、私達を雇って頂ければ解決ですね。流石に無料には出来ませんが、チアの『同級生』なので安くはしましょう。ああ、ご不安でしたら特殊部隊を待機させて頂いても構いませんよ」
上から目線、更にわざわざ豪のことを『同級生』と強調するファーザーに、知愛はやれやれと思った。とは言え、依頼主との交渉は彼に任せるのが一番なので、口は出さないことにする。
……だが、しかし。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! それって、銃持ってるような相手に知愛ちゃんを会わせるってことだよね!?」
「危険すぎます!」
「……瑛君、克己君」
当然のように話を進めていたが、瑛と克己に反対されたのに普通の、そして普通の女の子に対しての反応なのだと気づく。
交渉に割り込まれて苛立ったのか、ファーザーの笑顔に凄みが増したが、それを目線で制して知愛は口を開いた。
「隠していてすみません……私は傭兵で、圭威さんとは何度かやり合ったことがあります。だから、安心して」
「そりゃあ、知愛ちゃんが強いのは知ってるけど! だからって、心配しないのは違うでしょう!?」
「そうですよ! むしろ好きな女の子なんですから、心配しない訳がないです!」
宥めるように言ったが、遮られて反論されてしまった。二人の気持ちは理解出来たが、知愛にも言い分がある。
「今、私が心配なのは豪君です……会いに行くのが遅れたら、圭威さんは豪君に何をするか解りません」
そう言うと、瑛と克己はグッと言葉に詰まった。
確かに、知愛をおびき出す為に総理大臣を狙撃したり、その息子を誘拐するような相手だ。豪もまた、危険だと言うのは解るのだが。
((だからって……こんな危険な真似をするのは、もしかして豪が好きだから?))
二人同時に浮かんだ疑問を、けれど流石にこの場で言うべきではないと飲み込んだ。
そんな瑛と克己の不安を打ち消したのは、知愛の言葉だった。
「豪君を連れて、二人のところに戻ってきますから……安心して、待っていて下さいね」
……そう言って、微笑む知愛を見て。
ファーザーが口にした『女神』と呼ばれる理由を、瑛と克己は実感した。




