第十章【後】
普通の高校では、学園祭の後は校庭でキャンプファイヤーなどするらしい。
……しかし、良家の子女の通う清琳学園では。
講堂で、ドレスアップしての立食パーティーと言う、知愛からすればとっても大がかりなイベントだった。
「レンタルがあって、助かりました」
「同感。ま、大抵は自前でドレスアップするんだけどね」
以上、祖父に言えばはりきったかもしれないが、一晩の為に用意する気になれなかった知愛と。特待生であり、ドレスなんて用意出来ない潤の会話である。
ちなみに今、二人がいるのはステージ隅だ。これからミスコン・ミスターコンの受賞者が発表されるので待機中である。
『チア……似合う』
同様の理由で待機しているルーは、知愛のドレス姿に対して嬉しそうに微笑んだ。
知愛がレンタルしたドレスは、正面は膝上丈だが後ろにオーガンジーがあり、ふんわりと足元まで隠すタイプのドレスだった。肩の出たシンプルなドレスだが、淡いピンクが肩や腕の白さをより映えさせる。
『ありがとう。ルーも素敵ですよ』
急遽参加した為、青年の着ているスーツもレンタルだ。しかし元々が美形な為、オーダーメイドのように着こなしている――吸血鬼や悪魔のような少々、ダークなイメージはあるけれど。
「さて、先に行くわね。私が呼んだら二人共、来てちょうだい」
そんな二人に、司会者兼プレゼンターの潤が声をかけ、壇上へと上がっていく。
彼女のドレスはネイビーブルーの、スレンダーラインのドレスだ。知愛同様にシンプルなデザインだが、アメリカンネックにつけられたラインストーンが、ネックレスのように輝いている。
「……それでは、今年のミス清琳とミスター清琳に盛大な拍手を!」
そして潤の声を受け、知愛とルーが壇上へと上がろうとした時――先に、異変に気づいたのはルーだった。
『チア……っ!』
大分、改善したとは言え、やはり全ての生徒が知愛を支持している訳ではない。
そんなアンチの指示で、彼女にペンキの入ったバケツを落とそうとした生徒がいたが――ここで、思わぬアクシデントが起こった。バケツを落とす筈の紐が引っ掛かり、代わりに照明が落ちてしまったのである。
……プレゼンターである、潤の頭上へと。
声を上げたルーの視線の先で、知愛が動く。
助走をつけ、ほっそりとした脚を振り上げたかと思うと――落ちてきた照明を、ステージ奥へと蹴り飛ばした。
それから突然のアクシデントに呆然とし、その場に座り込んでしまった潤へと手を差し伸べる。
「……大丈夫ですか?」
そんな知愛に対して、会場中がしん、と静まり返った。
しかし彼女が顔を上げ、微笑んで見せると――先程のコンテストの時同様に、一同から歓声が上がった。
「これで、残ってたアンチもいなくなるでしょうね」
「えっ?」
「誰だって、勝てない喧嘩はしないでしょう?」
そう言って、潤は知愛の手を取った。そしてその手が想像したような柔らかいものではなく、小さくてもしっかり鍛えられたものであることに気づきながらも、ただ微笑んで立ち上がった。
※
『相変わらず、チアには誰も敵わないだよなぁ』
知愛の元へ、彼女を慕う少年達が慌てて駆け寄る。そんな彼女を壁に凭れて眺めていたマークは、しみじみと感心したように言った。
『日本人関係の仕事はほとんどしたことないから、大丈夫って思ったけど……バレるのも、そう先じゃないかもな?』
先程は、学生達から『天使』と呼ばれていたが、知愛には別の異名がある。戦場で『女神』と呼ばれ、その『チア』と言う名前から彼女がその声で導けば、必ず勝利するとまで言われている。
その傭兵としての力量は勿論、あの容姿と性格故に手に入れたいと思う者は多い。下衆な下心を持つ者はファーザー達が撃退しているが、上流階級や富裕層には彼女を崇拝する者も多いのだ。
『だから日本に来させましたし、追いかけて来たんですよ……信者が来ても、チェックしやすいですからね』
『……相変わらず、安定の溺愛ぶりだな』
そう言って肩を竦めるマークに、ファーザーは黙って微笑んだ。




