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女神の声  作者: 渡里あずま


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第七章【後】

「豪君のファンクラブの皆さんと、お話したいと思います」


 そう言い出した知愛を止められず、だが、一人で行かせることも出来なくて――結果、豪もついて行ったのである。


「皆さんは、豪君のどんなところが好きですか?」


 にこにこ、にこにこ。

 笑顔で直球の質問をした知愛に、一同はギョッとしたそうだ。

 けれど、本人がいることで逆に腹が据わったのか、ファンクラブの面々は己の気持ちをそれぞれ口にしたと言う。

 確かに、きっかけは豪の見た目や家柄への憧れだった。

 しかし彼を知りたい、近づきたいと思ったからこそのファンクラブであり、恋なのだと――考えてみれば、当然だ。女性が、軽い気持ちで自らの体を差し出せる訳がない。


「……サンキュ」


 そのことに気づいたからこそ、豪はファンクラブ一同に短く、だが、確かに礼の言葉を口にした。

 豪もまた、知愛に想いを寄せている。

 それ故、屋上へ連れ込むことはやめたが――今後、定期的にファンクラブと交流を持つことにしたそうだ。


(瑛さんもだ)


 軽い口調は相変わらずだが、彼もまた女性との無節操な交際を改めることにしたらしい。


「知愛ちゃんに、嫌われ……はしないかな? でも、キチンとケジメつけたいから」


 とは言え、豪同様に誠実に対応したのでひっ叩かれるくらいはあったが、こちらもほぼ円満解決したらしい。

 以前、克己が思った通り知愛は二人を変えたのだ――良い方向に。

 おかげで知愛に対する風当たりも、転校当初に比べれば大分、マシになっている。

(女々しいけど……僕も、変わりたい。変えて、貰いたい)

 缶コーヒーを飲みながら、克己は心の中でそう呟いた。

 ……直接、顔を見る勇気は出なかったけれど。

 目を伏せながら、それでも克己は本題を口にした。


「実は僕、知愛さんに進路の件で……隠していたことがあって」

「進路、ですか? 隠すも何も、私からお聞きしたことがないですし……克己君は、何になりたいんですか?」


 不思議そうな質問に、逆に克己の方が驚いた。知愛にとっては、どうやら克己の将来と医者はイコールではないらしい。

(全く、この人は)

 海外育ちなせいもあるだろうが、少しだけ気持ちが楽になった。

 けれど、続ける言葉に対しての反応がやはり怖くて――縋るように缶を握り、克己は口を開いた。


「医者には、なりたいんですけど……家の病院を継ぐ気はないんです。医者がいないような、島や村に行きたいんです」


 ……シン、と落ちた沈黙。

 やはり、世間知らずのたわ言と呆れられたか――そう思った克己の耳に、知愛の声が届く。


「どうしてそんな、世界の終わりみたいな顔をしているんですか?」


 ハッとして、顔を上げた克己の視線の先で――知愛は、笑っていた。

 そして、その眩しい笑顔のまま言葉を続けた。


「素晴らしいじゃないですか! ドクターがいるのといないとじゃ、雲泥の差ですもの」

「……知愛、さん」

「大変でしょうけど、頑張って下さいね」


 ……それは、かつて彩乃から聞けると思っていた言葉だった。

 三つ年上の、姉の友人。一年前、克己の家庭教師をしてくれた――彼の、初恋の女性。


「みたいじゃなく、本当に終わると思ったんです」

「えっ?」

「前に、同じ話をした時に……ただの医者の僕には、価値がないって。病院を継がないと意味がないって、言われて」


 語ると言うより溢れるままに、克己は言葉を紡いだ。

 そんな彼の顔を覗き込み、真っ直に見上げてきて――怒ったような表情で、知愛は口を開いた。


「確かに価値は人が決めたり、人に求めたりする場合が多いですけど……一人だけが、決めるものでもありません」

「知愛さん……」

「私は、克己君をすごいと思います」


 キッパリと言い切られたのに、不覚にも泣きそうになった。

 そんな克己に、笑ってくれた知愛は――彼に、新しい世界をくれたのだ。

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