第七章【前】
清琳学園では明日、学園祭が開催される。
一日だけなのは、セキュリティの為。そして七月の期末試験の後、夏休みの前に行われるのは、受験を控えた三年生の為らしい。
(名門校ですものね……それにしても)
そこまで考えて、知愛は各クラスから提出された企画書へと目をやった。
他の学校は解らないが、清琳では生徒会であるSクラスが学校行事を仕切っている。当然、今回の学園祭も同様であるが。
「喫茶店の裏方さんがお抱えパティシエさんだったり、クラスの劇に有名女優さんが友情出演される予定だったり……チラホラと豪勢ですね?」
「…………」
そう呟いた知愛だったが、返事がないのにあれ?と首を傾げて顔を上げた。
豪と瑛は、進行状況を確認する為の校内巡回へ出ている。
つまり、克己とSクラスで留守番していたのだが――視線の先の少年を見て、知愛は大きな目を更に見張った。
机に、突っ伏している克己。
念の為、その顔を覗き込んだ後、うん、と知愛は頷いた。
「寝てますね」
今回、初めて生徒会の仕事に参加して――知愛は、特権の一つである『授業免除』のありがたさを思い知った。無ければ、とても間に合わなかっただろう。
(克己君も、頑張ってましたものね)
安らかな寝息を立てる少年を、微笑ましく見つめていた知愛だったが――そこでつ、と眉を寄せた。
同様に、いや、更に辛そうに克己の眉が寄せられたからである。
(嫌な夢でも、見ているんでしょうか?)
そう思ったのは、傭兵仲間のルーも時々、同じように悪夢にうなされたからだ。
彼が限られた人間以外に無関心なのは、大切な存在を増やしたくないから――増やして、失ってしまうのを怖れているから。
「チアの歌は、キラキラしてる……歌って、チア? チアの歌が、俺の嫌な夢を吹き飛ばしてくれるんだ」
そう言って彼女の歌をねだったルーのように、克己の悪夢も解消出来るだろうか?
(いきなり起こしたら、ビックリするでしょうし……幸い、誰もいませんし)
そして駄目元で、と拳を握ると、知愛は克己にだけ聞こえるような声で歌い出した。
「What a friend we have in Jesus……」
※
『勉強だけ出来ても、やっぱり子供ね?』
……彩乃、さん?
『いい? あなた自身には、何の価値もないの。空閑病院の跡継ぎにならない、ただのあなたになんて』
それは……ですが、僕は!
『そんなあなたなんて、誰もいらないわよ』
……僕、は……。
口ごもり、俯く自分を眺めながら、いつもの夢だと克己は思った。
一年前のあの日。初めて好きになった女から、己の存在を否定された自分。
だが、いつもと違っていたのは――。
「……Jesus knows our every weakness」
克己の耳に届き、夢の中の自分の顔をも上げさせたのは。
闇を照らす光のような、優しく美しい歌声だった。




