第五章【後】
「えっと……知愛ちゃん? 太一を弟子とか、良かったの?」
「はい、初めてじゃないですし」
太一達のチームの車で、瑛の家まで送って貰った。知愛の家までではないのは、一応、用心の為である(知愛は気にしていないが、瑛が気にするので)。
車を降り、天気が良いのといきなり押しかけては迷惑だと思ったので、知愛の家からの迎えは瑛の家の前で待つことにした。そんな中、瑛から尋ねられたのに知愛は笑って答えた。
そう、傭兵として義父達と共に作戦に参加した時も、あんな風に言われたことが何度かあるのだ。
(私のような小娘にまで、あんな風に頭を下げるなんて……皆さん、とても向上心があるんですね)
少々、ズレた感想を抱く知愛に、瑛が軽く目を見張る。
それからしばし、何かを考えるかのように視線を落とすと――不意に、知愛は瑛に抱きしめられた。
「……俺も、弟子なの?」
「えっ?」
「連絡先交換してたよね? 今度、マスターの店にも遊びに行くって……俺、太一と同じ(おんなじ)なの?」
そして、拗ねたように尋ねられたのに今度は知愛が目を見張った。
「瑛君は瑛君で、太一君は太一君ですよ?」
「……名前呼び。俺らは言わないとしてくれなかったのに」
「えっ……それは、太一君の苗字を知りませんから」
「……クスッ」
正直に(そもそも嘘をつく必要はないが)答えると、耳元でクスクス、と笑い声がした。
そしてギュッ、と抱きしめる腕に力を入れた後、少し離れて瑛は知愛と顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、俺らの……俺の方が、上だね?」
こんなに至近距離なのに、知愛はただ驚く『だけ』だった。
(嫌われてもいないけど、意識されてもないってことだよねー)
こっそりため息をつくが、諦めるつもりなどない。ずっとずっと探していて、やっと見つけた存在だから。
「守られるのも嬉しいけど、やっぱり好きな子のことは守りたいから……俺、頑張るねー」
軽い口調で、けれど本気で宣言する瑛に――笑って「はい」と頷いてくれた知愛のことを、やっぱり好きだと瑛は思った。
※
「「「キャーッ!!」」」
休みが明けての月曜日。
本日も、知愛達は学食に来ていた。そして先週同様に、女生徒達の黄色い歓声に出迎えられた。
前回と違うのは、ウェイトレスによって奥の席に促されたことだ。生徒会の学食通いが定着するのなら、と専用席を用意されたのである。
(はぁ……仕方ないですね)
他の生徒達から離れるのは少し寂しいが、ゆっくり昼食を楽しみたいのもまた事実で――こっそりため息をつきながら、知愛は案内されるままに奥の席へと移動した。
「あ、知愛ちゃん。今日はデザートに、パフェ食べれば?」
「パフェ? 美味しいんですか?」
「それもあるけど、日本のパフェって外国のパルフェと違うからさ。背の高いグラスに、アイスクリームとか生クリーム、チョコレートがたーっぷり♪なんだよ?」
「っ!?」
パルフェとは、皿に乗せたアイスクリーム状の冷菓に、ソースや冷やした果物をかけた物である。
瑛から聞いた未知のデザートに、知愛は大きな目をキラキラと輝かせ――そんな彼女を、生徒会三人は(豪は呆れてもいたが)微笑ましく見つめたのだった。
「もう、何なのあの娘!? 日下君達に囲まれてっ」
「小田グループ総裁の、孫娘らしいけど……それにしても、特別扱い過ぎない?」
「……まぁ、可愛いしね」
一方、女生徒達は知愛に嫉妬の眼差しを向けていたが――眼鏡をかけた一人の少女の言葉に、虚を突かれた。
……改めて、視線を向けた先にいる少女は、確かに人形のように可愛くて。
「お似合いじゃない?」
とどめを刺すような問いかけに、反論はなく――以来、少しずつ風向きが変わり始めたのだった。




