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女神の声  作者: 渡里あずま


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第五章【中】

 ……まあ、そんな訳で。

 トップを殴られ、突進してくるチームの面々に知愛は容赦なくメリケンサック付きの拳を奮った。そして、呆然と自分を見つめる瑛に対して口を開いた。


「嫌なんです」

「……知愛ちゃん?」

「瑛君は、殴られて終わらせようとしてましたけど……瑛君が良くても、私は嫌です。もっと、自分を大切にして下さい」

「……っ!」


『お願い』をされたことは、今までたくさんある。

 けれどそれは大小の差こそあれ、相手にメリットがあるものばかりだ。そう、太一が瑛に声をかけたのでさえ、彼に興味を持ったからこそ――その興味を満たすと言う、メリットが存在する。知愛のそれは、綺麗事を通りすぎて、アガペー(無償の愛)だ。


「知愛ちゃんに、何の得もないでしょう? 俺が、自分を大切にしても」

「ありますよ……私は、瑛君を守りたいんですから。大切な人が傷つくのは、嫌ですよ」


「……守りたい?」

「ええ、女だからって皆が守られたい訳じゃないんです」


 あっさりとんでもないことを言うと、知愛はポニーテールにした黒髪を揺らしながらまた襲いかかる少年の拳を避け、一撃で殴り倒した。

 確かにこれだけ強ければ、守られる必要はないだろう。瑛の言っていたことは相当、的外れだったと言う訳だ。

(うっわ……俺ってば、恥ずかしい奴!)

 もっとも、瑛の胸が高鳴っていたのは別の理由だった。

 ……もしかしたら、知愛は自分の求めていたものを与えてくれるかもしれない。

 そう思ったからこそ、周りに太一達チームの面々がいるのにも構わず、瑛は声を張り上げた。


「俺が、何も出来なくても……何もあげられなくても! それでも、本当に君は俺を守るのっ!?」


 警視総監の息子であり、普段、飄々とした彼らしくない台詞に、知愛以外がどよめいた。

 一方、知愛はと言うと――軽く見張った目を、ふ、と細めて頷いたのだった。


「守ります。私も同じですから」

「……えっ?」

「両親を失って、独りになった私を義父さんが助けてくれました……誰か、いるんです。見返りを求めず、愛して守ってくれる人は必ずいるんですよ」

「っ!」


 静かな、静かな声――だがそれは、向けられた微笑みと共に瑛の心を鷲掴みにした。



 瑛は、父の――警視総監の、本当の息子ではない。

 豪も愛人の子であるが、瑛はそもそも血の繋がり自体がないのだ。総監になる前、父が担当した事件の、犯人の息子が瑛なのである。


「血が繋がってなくても、お前は私の息子だ」


 父は、そう言ってくれる。子供を生めなかった母も、瑛を可愛がってくれる。

 だが、瑛は両親に素直に甘えることが出来なかった。

(本当にそう思ってるのなら、どうして俺が養子だって言わないの?)

 それは、瑛が強盗犯の息子だと知られたくないからではないか。

 言いふらすことではないし、瑛の為かもしれないが――そんなささいなことが、どうしても引っかかって。両親の愛情を、無条件に信じることが出来なかった。

 だから瑛は、ずっと求めていた。学園だけではなく、夜の街にくり出してずっとずっと探していた。

 両親の代わりに、自分に無償の愛情を与えてくれる存在を――本当は野良犬である瑛を、受け入れてくれる存在を。


「……惚れた」


 ぽつり、と呟いたのは、瑛――ではなかった。

 初っ端に知愛に殴り飛ばされ、チームの面々を騒然とさせた赤髪の少年。

 殴られた頬を押さえ、その傷よりも髪よりも顔を赤くして――太一は、きょとんとする知愛の前で膝を折り、その頭を下げた。


「その強さ、美しさ……惚れました、姉御! 俺を弟子にして下さいっ」

「なっ……太一っ?」

「「「総長っ!?」」」


 いきなり、とんでもないことを言い出した太一に瑛だけではなく、チーム一同がギョッとする。

 そんな太一の前にしゃがみ込み、小首を傾げて知愛は尋ねた。


「もし、あなたを弟子にしたら……瑛君と喧嘩しないでくれますか?」

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