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女神の声  作者: 渡里あずま


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第五章【前】

 瑛には、どうしても欲しいものがある。

 それは家や、学校にいるだけでは見つからないものだったので、中学に入った頃から彼は夜の街へとやって来ていた。


「なぁ、お前、一人か?」


 そんな瑛に声をかけてきた、赤毛の少年。

 ナンパかよ、と思ったが妙に真っ直な目で見られて、咄嗟に口ごもった。そんな彼に一転、屈託のない笑顔を向けて少年は続けた。


「一人なら、俺達と遊ぼうぜ」


 ……それが、太一たいちとの出会いだった。

 仲間と『BabyFace』というチームを作っていた太一と、警視総監の息子である瑛。環境だけではなく、見た目も性格も正反対だったが、とにかく一緒にいると楽だった。豪や克己とは違う意味で。

(俺の欲しいものじゃないけど)

 これはこれでありかな、と思っていた――出会ってから三年、つい一ヶ月前に太一との日々は終わりを告げたけれど。

 ……いや、瑛が終わらせたのだ。



 瑛と知愛が太一達の車で連れて来られたのは、チームがたまり場として使っているバーだった。


「おい、イチ……何だ、そのは? 話が違うだろうが」

「マスターは、黙っててくれ……何もしねーよ、こっちにはな」

「って、お前……あー、ったく。睨むな睨むな。店のモン壊しやがったら、承知しねーからな」


 だるそうにそう言って、三十前後の男――このバーの店長・唐澤からさわが、カウンターから姿を消す。元々、昼間は営業時間外だが太一に店を貸すように言われたのだろう。

(マスターは、太一のおねだりに弱いからな……まあ、変なところに連れてかれるよりいいか)

 ちなみに彼だけではなく、チームの皆も総長である太一(イチは愛称)に甘い。だからこそ、太一を『裏切った』瑛を血眼で探していて――こうして、思いつきで出かけた瑛を発見したという訳だ。


「言いたいことはあるか?」


 そんなことを考えていた瑛に、太一が尋ねてくる。ちなみにその手は、知愛の肩に置かれたままだ。

 今の瑛は、チームの面々に囲まれている。彼らをかい潜ること自体は可能だが、その間に知愛の身に何かあっては――そう思うと、行動することは出来なかった。

(まあ、悪いのは俺だしね)

 ユカリとは太一の幼なじみの少女だ。彼らの間にあるのは恋愛感情ではなく、ほぼ家族愛だが――それが解っていて、自分は彼女とつき合って、別れたのだから。


「いいや? それより、早く終わらせてよ」


 だから、瑛はそれだけ言うと床に膝をついて俯いた。

 一瞬、太一が傷ついた表情かおをしたのが解ったけれど。その表情を見たくなかったから、今日まで逃げ回っていたけれど。

 捕まった今となっては言葉通り、早く終わらせなければと思った。


「申し訳ありません」


 そんな瑛の耳に、知愛の声が届いたのはその時だった。


「ぐっ……!」

「「「イチ!?」」」

「皆さんには、何か事情があるんでしょうが……やはり、多勢に無勢と言うのは、見逃せません」


 顔を上げた瑛が見たのは、小柄な知愛によって太一が殴られ、呻き声を上げて床に転がったところだった。

 そしてファイティングポーズを取り、チームの面々に向き合う少女の右手には――いつの間にか、メリケンサックが装着されていた。



 重なった三つの輪を広げると、メリケンサックになる指輪――これは傭兵仲間だったルーが、知愛の誕生日プレゼントにくれた物だ。


「チアを守ってくれるように」

「ありがとうございます、ルー! 大切にしますねっ」


 物騒な物を真顔で渡す青年と喜ぶ知愛を見て、マークとファーザーはため息をついたり苦笑したりしていた。もっとも、ボールペンで敵を倒すすべを教えたファーザーには苦笑する資格はないと思う。

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