第四章【中】
その質問に、きょとんと目を丸くし――次いで、にっこりと笑う。
「はい、つき合いますよ? 苺ショートのお店に」
「……えっと、そうじゃなくて」
知愛の答えに、克己が困ったように口ごもる。
それに、いつもの克巳のようにフフッと笑うと――知愛は、小首を傾げて克己を見上げた。
「克巳君の言う意味でつき合ったら、すぐに終わっちゃいます」
「……えっ?」
「男女の友情、私はあると思いますけど……つき合った後に友達になるのは、難しいと思うんです。だから私、まずは瑛君と……皆さんと、仲良くなりたいんです」
「っ!」
「……って、前半は周りからの受け売りですけど。簡単に終わりたくないのは、本当ですよ? 日本に来て、初めて会った人達ですもの」
そう言って悪戯っぽく笑う知愛は、ウサギのぬいぐるみを持っているせいもあり、年よりも幼く見える。
だが、その口から語られた内容は――我が儘ではあるが、何も知らない子供の言い分ではなかった。
「克巳君、この教室ってどう開けるんですか?」
「……えっ? あぁ、そこに学生証をかざすんです。生徒会役員と椎名先生だけが開けられるんですよ」
「ありがとうございます……って、うわ、すごい……っ」
そんな克巳を余所にドアを開け、仮眠室(別名・ぬいぐるみ部屋)を見た知愛が驚きの声を上げる。
くるくると表情を変える、掴み所のない少女――そんな知愛に、克己はフッと双眸を細めて呟いた。
「あなたは、僕達と一緒にいても変わらないって思ったけど……僕達の方が、変えられちゃうのかな?」
※
瑛の言った、次の日――つまりは本日、朝十時に瑛が車で迎えに来る事になっている。
(大げさな気がしますけど)
何しろ、お茶を淹れただけで庶民扱いする相手だ。ここは突っ込んだら負ける、と知愛は妙な結論を導き出し、一人頷いた。
祖父に出かける事を言うと、随分、喜んでくれた。口数が増える訳ではないが、時折、笑みがこぼれていたので間違いないだろう。
(デート……に、なるんですかね?)
そんな訳で、帰国した彼女の為に源蔵が用意していたワンピースを着て出かける事になったのだが、ここで困った事になった。
いや、一般的には困らないのだが――このワンピースには、ポケットが無かったのだ。
(ボールペンは、バックに入れるしかないですね)
普通、デートに武器はいらない。
しかし、戦場が長い知愛としては丸腰はどうも落ち着かなかった。その為、別な方法である物を装着すると――一安心とばかりに微笑み、バッグを手に階下へと降りていった。
「……ここ、ですか?」
「うん、ここの苺ショートは絶品なんだ♪」
ケーキを食べると言うので、カフェに行くのだと思っていた。だが瑛の車に乗り、連れて来られたのは高級ホテルだった。
ケーキ一つ食べるのに、また随分とおおげさな――考えたことが、顔に出たのだろう。一緒に車を降り、隣を歩いていた瑛がニッと笑う。
「本当に美味しいんだって! 変に遠慮して、食べに来ないなんてもったいないよっ」
……その言葉は、知愛の予想とは少し違った。
店の格重視かと思ったが、美味しさ故なら話は別だ。幸い、祖父や瑛達とは比べ物にならないが、彼女にも傭兵の時の報酬がある。
「そうですか!」
だから、知愛は遠慮無く初めてのケーキを楽しむことにした。
オムライスの時同様の、全開な笑顔を向けられて――瑛が思わず見惚れたことに、苺ショートで頭をいっぱいにした知愛は気づかなかった。




