序章
空港から、車に揺られてきた知愛を出迎えたのは母方の祖父ではなく、彼女と同じ年くらいの少年達だった。
……まあ、正確に言えば『出迎えられた』と言うより『取り囲まれた』のだけれど。
「へぇ、コレが俺の許婚ねぇ?」
知愛を覗き込んできた少年が、目尻の吊り上った目を輝かせる。
暗褐色の外はねヘアー。笑った口元から覗く八重歯のせいもあってか、何だか肉食獣のようだ。もっともその場合、餌は知愛である。
「『俺の』って、まだ決まってないだろ? 俺のかもしれないんだから」
その隣にいた少年がそう言って、グイッと押し退けるようにして前に出る。
首の後ろで束ねられた、サラサラの黒髪。切れ長の目を細め、笑いかけられたが――笑顔で応えられなかったのは、相手が胡散臭いからではなく言っている内容のせいだ。
一応、日本語は理解しているつもりだったが、やはり長い外国暮らしでヒアリングが出来なくなったのだろうか?
「そうですよ。彼女は『僕達』の許婚なんですから」
「……あの」
三人目、二人の後ろにいた少年がやれやれと言うようにため息をつく。
短い髪は、茶色い猫っ毛。大きな目や向けられた笑顔は口調同様に優しそうだが、その口から出たのはやはり意味不明の言葉だった。
それ故、知愛は観念して手を挙げると、少年達を見上げながら尋ねた。
「許婚って、何の話でしょう……どなたかと、勘違いされてませんか?」
途端に、三人が目を見張る。質問にと言うより、知愛が喋ったこと自体に驚いたように。
(……ファーザー、マーク、ルー。早々に、そちらに戻ることになるかもしれません)
家族同様の面々に心の中で話しかけていると、少年達の後ろにあるドアが開き、一人の老人が入ってきた。




