第十一話 魔神ラスカルト
『よく来たな。歓迎するぞ客人よ』
草花生い茂る清廉なる空気が漂う聖域にある台座に刺さった金色に輝き、緑色に光るラインが走った何処か機械的な鍵のような印象を受ける剣。それと目が合ったと感じた途端、頭の中にビロードのように透き通った綺麗な女性の声が響いた。
「まさか……お前は……!?」
ファウストはその声に聞き覚えがあったのか驚愕の表情を浮かべる。
『ほう、私のことを知るか。そう、私こそーー』
「隣に住んでたタナカさん!?」
『誰だそれは!!』
「えっ、知らない」
聞き覚えなど一切なくただ揶揄っていただけだったようだ。
『お、お主……私をおちょくってるのかそうだな?ぶっ殺すぞ?』
鍵剣はイライラしているのか、カタカタと音を鳴らしている。
「どうした。そうカッカするなよ。何にイラついてるのか知らないけど俺でよければ相談に乗るぞ」
『お前にイラついてるんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
ファウストの悪ふざけに我慢の限界を迎えた鍵剣は遂には台座からすっぽ抜けてファウストへと回転しながら飛んでいって頭にサクッといった。
「うぎゃあああああああああああああッッッ!」
◇
『改めて自己紹介といこうか。私は天上の領域への鍵の欠片にして世界を支える支柱の一つ。“統制”を司る【王鍵】だ』
王鍵は額に光属性の治癒魔法を掛けて傷を癒してるファウストの横で剣先に血を付着させながら何事も無かったかのように厳かに自己紹介した。
「あぁ、そう。王鍵ね。俺はファウスト・オルズ・レガリアだ。よろしく」
『なんだ、面白くないな。もっと驚かないか。というか名前被ってるじゃないかふざけんなよクソが』
至極興味なさげに呟いたリアクションに不服だったのか、不満を顕に更なるリアクションを催促してくる。
「えー何この理不尽極まりない罵倒……つーかお前に受けた傷が結構深くてそれ所じゃないんだよ。これギャグパートじゃなかったら即死だったからね?」
その言葉にやり過ぎた自覚があった王鍵は「うぐっ」と呻き声を上げて申し訳ないとばかりに「すまん」と謝った。
『しかし、元はと言えばおぬしが巫山戯るのが悪い。あそこはどう考えても真面目な雰囲気だっただろうが』
口があれば口を尖らせながらと表現できそうな声色でそう反論する王鍵にファウストは悪びれる素振りもなかった。
「そういう雰囲気を望まれてる気がしてあえて逆を突いてみた。後悔も反省もしていないどころか愉悦に浸っている」
『このクソ下郎めッッッッ!!』
「と、まぁ冗談はこれくらいにして」
ファウストは横でハァハァと息を荒らげてる王鍵の剣先に付着した自分の血を拭きながらどうどうっと笑いを堪えながら宥める。
(いやぁ、揶揄いがいがあって面白いなぁ)
(嗚呼、天にまします天上の意思様よ。この不届き者めにえげつない天罰を与えて下され)
それに反すように王鍵は内心で創造主でもある天上の意思へと天罰を願っていた。
◇
「で、どうしてアンタはこんな所に安置されていたんだ?」
漸く額の治療も終わり王鍵を手に持ち真面目に話しかけるファウスト。
『そんなものは決まっているだろう。天上の意思様が元々ここにあった密教系宗派の礼拝堂を改造して安置したからだ』
それにそんな当たり前のことも分からないのか?と暗に匂わせる物言いで返す。
(なるほど、入口の認識阻害の仕掛けはその時の名残りか)
だが、言いたいのはそんなことではない。
「……言い方が悪かったな。どうしてこんな杜撰な警備なんだ?
天上の領域へ至る鍵の欠片にして世界を支える支柱の一つなんだろ?アンタの言う事が真実だとしたらアンタはこの世界で最も重要な位置にいる。それを護るシステムがこんな若造に軽々と突破されてるんだぞ?これを杜撰と言わずなんというんだよ」
そう、天上の領域へ至るための鍵の欠片にして世界を支える支柱の一つでもある王鍵を安置するというにはあまりにも警備システムが笊なのだ。現に未だガチムチアイランドから出ることすらできないファウストの侵入を許してるのだから決定的だ。
ここに至るまでにも罠と言える物はあったがそれも一つだけで、それなりの実力があれば易々と突破できる程度のもの。本当にそんな重要な物を護るなら王級のモンスターを多数配備した上でそもそも許可なきものには決して侵入できないように入口を作らなければいい話だ。
だから、疑問に思ったのだ。
どうしてこんなに杜撰な警備システムなんだと。
その疑問に対し、彼女はこともなげにこう答えた。
『外敵を退ける必要など欠片も存在しないからだ』
と。
『そもそも私達王鍵は適合者意外触れることはできない。不正をして触れようものなら存在ごと塵芥となる天上の御業を施されているのだ。だから守る必要もないということだ。
こんな辺鄙な所にある理由としては弱き者の手に渡って誤った使い方をされるのを防ぐためだ』
「なるほど。ということは俺はその適合者って訳か」
『そういうことになるな。しかし適合者だからと言ってそう簡単に我が身を渡す訳にはいかん』
王鍵は厳しい声色でそう宣い、問う。
『問おう。お主が描く夢とは……、理想とはなんだ?』
まるで神のお告げかのような厳粛な雰囲気に、静寂に包まれた聖域を噴水の音が奏でる水音だけ響いていた。
(俺が描く……理想……)
「俺の理想はーー」
「やっと侵入できた」
ファウストが問いかけに応える声を遮るように、感情を宿さない一人の男の声が静寂に包まれていた聖域に響いた。
「天上の意思め、厄介な代物を配置してくれたものだ。天上の御業による適合者のみを通すゲートを魔導学の理論に適用させて改変するのには少々骨が折れたぞ」
『誰だ、姿を現せ!』
王鍵が聖域への侵入者に詰問する。
その声に応えるように、一匹の白蛇が姿を現した。
「やあ、見つけたぞ。忌わしき天上の造物よ」
どうやらこの白蛇が声の正体にして侵入者のようだ。
白蛇はファウストの手に収まる王鍵を声に嫌悪を滲ませ、睥睨する。蛇にはこんな流暢な言葉を発声できる発声器官は存在しないのでおそらく魔導かなにかの力で空気を振動させて伝えているのだろう。
「白蛇?」
その意外な侵入者の姿にファウストは驚いた。白蛇が喋り、彼?の言う事が本当ならば天上の御業によって構築されたゲートを魔導学の理論が適用するように変換した上で改変したというのだから当然とも言える。
白蛇は王鍵から視線を上げ、その持ち主を見る。
「……君が今代の適合者という訳か。これは手間が省けたな。早速だが死んでくれ」
その瞬間。唐突に。なんの前触れもなく。ファウストの視界は白に支配された。
◇
王鍵が安置されていた台座に座るファウストの意識が突然失われたことに気づいた王鍵は狼狽した。
『小僧!しっかりしろ!……貴様、此奴に一体何をした!』
王鍵は激怒し、侵入者へ詰問する。
「なに、それには心の隙間というものがなくて身体を乗っ取ることができなかったのでな。少々力づくだが、一度精神を破壊してから乗っ取ることにしたのだよ」
『……小僧の身体を乗っ取って私を手に入れようとしているのなら無駄だぞ。幾ら小僧の身体を乗っ取った所で所詮精神は貴様だ。天上の御業によって貴様が塵芥と成り果てるだけだぞ』
「……そうだな。ここで自己紹介といこうか。
私はラスカルト・アインズヴェルト。痛覚、寿命、肉体、生、死、性別、気配、運命を代償に六つの特性を獲得した魔神だよ 。その中の一つを使えば君の脅しも意味を成さなくなる」
その言葉に王鍵は言葉を失った。
魔神とは魔神になる際に代償を払うことにより特性を獲得することができる。代償を払えば払うほどより多くの、より強大な特性を。
それをこの白蛇は六つも所有しているというのだ。それも代償の大きさからしておそらくとてつもなく強大な特性を。
魔神というだけでも絶望的な存在だというのにこの魔神は魔神の更に上位の神格を持つ現人神に迫る、いや、それすらも凌駕しうる絶対的な力を持っているのだ。
「だが、勿論この肉体は借り物でね。だからと言って本体とも言える肉体があるわけでもないが……。侵入するのに都合が良さそうだと踏んでこの神殿の近くにいた白蛇の肉体を乗っ取ったが、所詮は蛇だな。私の力に耐えるだけの容量はなく、私の力を有限にまで制限した上でほんの人欠片しか出力できない」
それでも脅威に変わりはない。
魔神とはそもそも無限の存在なのだ。それが制限をかけて有限になったとしても、もはや人間が考えた数値では表せない程の総量なのだから。神格持ちとは総じてそういう理不尽な存在なのだ。
「王鍵である君は扱う者がいなければ何もできやしない。彼の膝の上で彼の中身が壊れていく様を存分に楽しむがいい」
(……私は諦めないぞ。小僧を壊させてなるものか!)
王鍵はファウストと魔力による回線を繋ぎ、必死に語りかけた。
遂に3000pv到達!
読んでくださっている読者様、評価、ブクマしてくださった皆様。どうもありがとうございます!




