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5

そして、翌日の夜。俺はボロボロの布切れを身に纏い首輪に手錠、足枷というどこの誰がどう見ても奴隷と分かるような奴隷スタイルで舞台の裏で出番を待っていた。


周りを見れば、泣いている犬の耳をもった少女や悔しそうに顔をしかめる青年、何もかも悟ったような老人など、老若男女、種族も問わずに多数の人がいた。誰の顔にも希望なんてない。まぁ、そりゃそうだ。俺たちもこいつらも奴隷だ。望んで自らを奴隷にしたやつもそうじゃない奴も奴隷になった時点でどうしようもない。いい主人に買われればいいが買われなければその先は地獄だ。


一つ良かったのは国の法律によって十五歳以下の奴隷は売買出来なくなったことだ。今でも裏ではきっと取引されているとは思うのだが、それでも表に出て来なくなったのは大きい。実際に多くの十五歳以下の奴隷が解放されたらしいしな。こんな場所で子供達の顔を見なくなったのは俺の精神衛生上非常に良かった。


「なぁ、あんた何で平気そうなんだ?」


同じく順番待ちしていた青年が小さな声で話しかけてきた。顔には狼のような耳にお尻には尻尾がついていた。人間と動物を混ぜ合わせたような容姿で非常に高い身体能力をもつ、彼らは総じて獣人と呼ばれる種族だった。


「さぁ、なんでだろうな。奴隷生活になれているからかもしれないな」


「お前、聞いた話によると今回で三回目のオークションなんだろ?」


「あぁ、そうだな」


「その……お前は怖くないのか?」


「別に怖くはないよ。人生なるようになるからね」


逆に言えばなるようにしかならない。でも、俺はその人生の不条理が大好きだ。俺は主人公(ヒーロー)でもなんでもない。だから、御都合主義に助けられることも主人公補正で助かるなんてこともないだろう。だが、それでいい。このクソみたいな現実で生きていき、死んでいくんだ。


「なんか、お前すごいやつだな。もしも、奴隷じゃなかったら友達になりたかったよ」


そう言って笑顔を見せる獣人の青年は俺から見てもかっこよかった。


「俺も出会いさえ違えばお前と友人になれたと思うぜ」


「おい、次14番だ!」


そう黒い服を着たおじさんに呼ばれる。14番とは俺のことだ。


「じゃあ、行ってくる。お互いいい主人に買われるといいな」


「あぁ……」


獣人の青年は小さくそう応えた。


「おい! さっさとしろ!」


おいおい、そう焦るなよ。こっちは足枷で歩きづらいんだからさ……。


俺の運命はもうすぐ決まる。


売られたら無事奴隷継続で売れのこれば死ぬ。なぁに単純明快な話だろ。











「さて先ほどは美しいエルフの少女に2500万Gと今週一番の高値がつきました! さて、続いて次です! 次の商品は14番! こちらです!」


そんな声とともに俺には眩いばかりの明かりが当てられる。目が悪くなったらどうしてくれるんだよ。この世界では目が良いまま成長してるというのに。


そして、細めた目の前には仮面とローブを身につけた多くの人。誰がどの奴隷を買ったのか分からないようにするためのカモフラージュをした人々が見える。ぱっと見、席に空きは見当たらない、どうやら今日は満員御礼らしい。何か掘り出し物でも最後にあるのだろうか。まぁ、俺にはどうでもいいことだが。


「エントリーナンバー14番。人間族、男性の商品です。右腕は怪我をして放置した影響か使えずに戦闘や肉体労働は出来ませんが、読み書き計算は出来る様子、それに魔術も、魔法、法術ともにレベル2までは唱えられるそうです。さて、そんな奴隷ですが2500Gからどうでしょう?」


2500G……。その言葉を聞いて思わず笑いがこみ上げる。俺と同じ考えの奴が買い手側にもいたのか所々で笑い声が上がっていた。


この世界にももちろん通貨というものが存在する。その通貨はRPGよろしく名前はG(ゴールド)


この第7世界の物価を考えると日本円に直すにはGを10倍すればいい。俺のまえに買われたらしいエルフの少女なら2500万Gを十倍して、日本円で表すなら約2億5000万円くらいになる。もちろん、2500万Gなんて持ち運べはしないから、大きな金額はだいたい金貨での支払いになる。どうでも良い話かもしれないが、金貨一枚で100万G相当の価値があるらしい。日本円にして1000万円、すごい金額だ。


ちなみに俺が昔、自分を売ったときは500万Gで買ってもらった。普通の人間奴隷が300万Gなことを考えると破格と言ってもいい値段だ。我ながら自分をよく自分の価値を高めたと褒めてやりたい。


それに比べて今回はどうだ、前売られた少女に対して俺は2500G。日本円にして2万5000円程度。


笑える、一ヶ月のバイト代でも、もう少しあるってもんだ。全くひどい値段をおっさんもつけてくれたもんだ。


しかし、俺はそれがあの奴隷商の優しさだと知っている。こんな使えない奴隷でも値段が端金程度なら誰かが買ってくれるだろうというあの奴隷商の優しさなんだろう。誰かが俺を買うために手をあげればその時点で俺の命はとりあえず救われる。


そのために彼はこんなバカみたいな低い値段に設定したのだ。


全くそんなじゃ商売人失格だ。どう考えても赤字だろうに。もし、売れても奴隷商に入るお金は落札値の半額。どう考えても俺の維持費にもならない。そこまで人がいい奴隷商もあの人くらいじゃなかろうか。


最後の最後で俺は当たりの奴隷商に買われたみたいだ。


しかし、誰も手を上げなければ意味がない。買ってもらわなければ、俺はあの奴隷商の好意も虚しく殺される。俺にはこの壇上で喋ることも許されないため、ただ黙ってことの結末を見届けるしか出来ない。人生いつだって大事なことというのは他人頼み、神頼みだ。


「さて、それでは14番の奴隷。2500Gから始めさせていただきます! それではスタート!」


そんな杞憂な俺をよそに競りが始まってすぐ、中央の祭壇付近に座る一人の人が手を挙げた。仮面にローブ

で座っているため、男か女かすら分からない。


その光景に少し安堵する。誰だって少しは長生きしたい。運が強い俺だ、ほんの少しだけまだ生きていけるようだ。


ふぅ、と誰にも気づかれないように俺は胸を撫で下ろした。そんな俺をよそにその人は魔術加工されて男か女か分からない声で値段を言うのだった。


「5000万G」


刹那、会場が一斉にざわめき出す。


5000万G。日本円にして5億。えらいこっちゃな金額だ。この奴隷売買においてローンというものは認められない。だから、この買い主は5000万Gを一括で払うと言っているのだ。


怪我をして価値のない奴隷に5000万G。いったいどうなってるんだ。よっぽどの物好きでもこんな金額は出さないだろう。


混乱する俺をよそにその人の他に手を上げる人なんている訳もなく、俺の競りは終わった。

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