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戦闘において同じ筋力、同じ魔力、同じスピード、そして同じ才能をもった人物が戦った時に純粋にアドバンテージになるものがある。それは何か……。そう、それは単純にして明快、即ち大きさである。地形を考えなければ戦いにおいて体格が物をいうことが数多くある。
大きい方がリーチは広く、大きい方が一歩はデカく、そして大きい方が重い。
考えなくも分かるくらいに数多くの利点が大きいということにはある。勿論、ただ大きければ良いと言ったことではないが、大きい方が有利といったことは分かって貰えたと思う。
では、その前提を踏まえた上でコイツを見て行こう。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
大きな口を開けなながら流星のように空から特攻してくるソイツは一口で家数件を丸のみ出来そうなほどの大きさ。先ほど我が勇者様に胴体を半分に切られたと言うに今ではその傷跡すら見えない完全な状態でいらっしゃる。
薄々は感じてたがダメージの方も全く入っていないようだ。
魔獣だか魔物だかイマイチよく分からんソイツの特攻をシャルはトンっと軽く後ろに飛んで躱すと、その状態のまま右手に握る剣を振るう。
一閃に振るわれた剣の先から出るは斬撃。
俺が指南していた時から岩を切り裂いていた斬撃は今ではこんなデカブツですらまるで豆腐を切る様に切断するらしく、もう一度空飛ぶクジラの胴体を頭部と尾部で一刀の名の下に両断した。
あぁ、ちなみだが俺は未だにシャルの腕に抱かれている次第だ。
美少女に抱かれる冴えない男……日常でも可笑しな光景だと言うのに、ここはよく分からんデカブツとの戦闘の最中だ。誰がどう見ても異様だろう。
「――ティナ!」
クジラを一刀両断したのは良いがそれでは先ほどまでと一緒、これまで二三度シャルが切ったが、その全てが意味を成さなかったのは見ての通りだ。
「了解、姉貴。悪いが氷漬けになって貰うぜ。『古の氷山』」
シャルの言葉を受け、空中にて魔術を展開していたシャルが魔術の発動をする。
発動キーを唱えた瞬間地面に大きな青い光を放つ魔方陣が現れる。範囲は広い。あのバカデカイクジラの半身がすっぽりと収まるくらいだ。
――ってこれ俺たちも発動圏内に入ってない?
シャルに抱きかかえられながら下を見れば思いっきり魔術の発動範囲内。
――え、これどういうこと?
まさか、あれか、魔物と一緒に俺とシャルを葬ろうって考えか。
俺がそんなことを内心で考えてテンパっている間に魔術は発動する。まばゆい光と共に魔方陣から飛び出すのは氷の鋭利な柱。それが未だに魔術の発動圏内にいる俺とシャルに襲い掛かった。
思わずギュッと目を閉じる。
「――よっと。ん……どうしたのお兄ちゃん? まさか、怪我でもした?」
まぁ、俺の心配何て勿論杞憂に終わるわけであって、目を開ける何処か心配そうなシャルと目が合った。
「いや……何でもない。ところで、どうやってあの剣山から?」
「あぁ、それね。簡単だよ、靴の裏を魔力で強化して氷の剣を踏み抜いてバックステップだよ」
さも当然にシャルはそう言うと目線を氷の山々に戻した。ちなみに言うまでも無いとは思うが普通はそんな風に魔術を回避することは不可能だ。一般人が真似しようとすれば間違いなく穴だらけの不格好な死体が出来る頃合間違いなし。だから、絶対に真似しないように。
「そう怪我がなくてよかった……」
シャルはそう安堵の息をこぼすと、視線を前へと向ける。
「やったのか……?」
俺もそれに習い視線を向ければそこには氷の剣山で串刺しにされたクジラが一匹。まるでオブジェの様にそこに立っていた。
そして残された胴体の半分、尾部の方はと言うと、
「さて、一応念のためにね。『聖なる光線』」
ティナと同じく空中にて浮かんでいたシャイロが放つ魔法で体中を穴あきにされていた。
「多分ね……流石にあそこまで穴あきにされる……と、え?」
シャルがそんなことを口走ってフラグになったのかどうか、それは分からないが、シャイロに穴だらけにされた尾っぽが地面に落ちるまえに再び空中に浮かび始め、それに鼓動するかのように頭部の方もバラバラになりながらもその破片が空中へと浮かび、そしてジグソーパズルのように高速で組み合わさったと思えば、
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
そこにはあら不思議数秒前に穴あきになっていた筈のクジラは元通りになっていた。
「くっそ、どうすればいいんだ。燃やしても凍らしても全てダメって」
ティナが空中で荒々しく口にした言葉は下にいる俺たちまでしっかり届いた。あれからひたすら俺たちは攻撃を繰り返した。しかし、結果はティナが呟いたように、
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
空飛ぶクジラは元気そのもののようでシャルと俺をしつこつ追いまわしていた。
あぁ、ちなみに俺は未だにシャルの腕の中だったりする。いい加減下ろしてほしいと何度も先ほどから申告しているのだが、シャルに断固拒否され今に至る。いい加減この状態が普通になってきた。
「ちょっと、姉ちゃんどうするの? このままじゃ……」
シャルは一つ覚えの様に突進を繰り替えすクジラを軽いステップで躱すとすれ違いざまに剣を三度ほど振るう。あっけなく輪切りにされる巨体だが、これも先ほどまで見慣れた光景で、輪切りされたクジラは磁石の様にその胴体をすぐに引っ付ける。
「うん、分かってる。こうなったら剣技を使ってみる。ティナちゃん、シャイロちゃん、少しの間だけ時間を稼いでくれる?」
さきほどからこちらの攻撃はまるで通っていない。いや、通っていないと書くと少しばかり御幣を受けそうだ。なので訂正させて貰うと、攻撃は確かに通ってはいるんだが、全て回復されていた。穴あきにしても、燃やしても、凍らしても、みじん切りにしてもダメ。直ぐに元通りになってしまう。
ちなみに向こうも向こうでひたすらにシャルしか習わないのと、攻撃が直線でかつ単調なため、こっちもこっちで誰も怪我をしていない。要は完全に千日手だ。
辺りはクジラがやんちゃしたのと、シャルとの斬撃とティナとシャイロの魔法でえらいことになっており、木々は薙ぎ払われ、地面はえぐられたり、所々で燃えたり、凍ったりの地獄絵図。
「次の相手の特攻に合わせて切り刻むからシャイロちゃんとティナちゃんは相手の再生を邪魔して時間を作って欲しいの」
「任せて姉ちゃん」
「Ok任せとけ姉貴。一分でも十分でも時間を稼いでやるよ」
シャルはそう叫ぶと反転しクジラと向き合う。クジラは大きく吠えるとシャルに向かって大きな口を開け突き進む。
「はぁああああああああ!」
シャルはそれをかわすとまたもやすれ違いざまに剣を振るう。しかし、今度は一撃ではない。
目にも見えない速さで振られたそれはものすごい数の斬撃を生み、そしてクジラへと襲い掛かる。とても片手とは見えない剣速に剣さばき、勇者の名は立てではない。
そして、その斬撃を一度受けるたびに切り刻まれている巨体。
先ほどからこの魔獣を相手していて気づいた点がある。それが奴の復活方法だ。
どうにもパターンがあるらしく、奴の体を大まかに二等分なり、三等分するなりしても直ぐにあのように引っ付いてしまう。が、粉々、もしくは燃やしたり凍らしたりした場合、奴は体中のパーツを一度空中に全て集めジグソーパズルのように回復する。
つまり、今回シャルがみじん切りにした結果。奴らは地面で再生することはなく、全てのパーツが空中で集まると言うことになる。
「お兄ちゃん、悪いけど、私の後ろに立ってて……これで終らすから」
シャルは要約俺を下すと、俺の前に立ち詠唱を始める。
「――――――」
聞いたことのない詠唱だ。少なくとも俺の知っている魔法でも法術でもないらしい。
「おら、魔力の大放出だぜ!『大爆発』」
再生しようと空へと昇って来たクジラのパーツに対してシャルの魔法が炸裂する。レベル4の魔術であり、俺でも知っているくらい威力がある魔法。名の通りただ対象を爆発させるだけの魔法なのだが、これの威力が半端ではない。一撃城を落とすとまで言われる魔法で、飛んでも威力の魔術がおおいレベル4の中でもさらに上位の威力を誇る。
その威力はもの凄いもので爆発したと感じた瞬間には爆風と光で目も開けられないほどだ。
暫くは熱と光を瞼の裏が感じた後、目を開けてみればそこには爆発で粉々になった肉片と焦げ臭い匂い。
しかし、そこまでしても
「やっぱ無理だったか」
荒々しく言い放つと、再び魔力を練るティナ。
その言葉通り、ゆっくりとではあるがバラバラに焦げ臭った肉片はゆっくり再生を始める。
そして、俺の手前に立つシャルは、そんな周りの状況を気にも留めずただ集中して何かを唱えれいる。
「―――――」
何を言っているのか俺には分からない。ただし、その言葉に同調するようにシャルから溢れて出たマナや気が手に持つ剣に集中していっていることは分かった。
さて、久しぶりに地面の感触を足の裏で感じることが出来た俺なのだが、一体俺は何をすればいいのだろうか。俺はシャルのように斬撃を飛ばすことは無理だし、ティナやシャイロの様にバカデカイ範囲の魔法を唱えるのも無理だ。おとりくらいなら何とか出来そうだが、それでもシャルの動きを見た後だと目おとりするものがある。
はっきり言って足手まといの何ものでもない。
シャルに言われた通りこのまま妹の後ろでこの大取り物を見守っていた方がいいのは間違いない。誰の目から見ても明らかだ。俺は戦闘において足を引っ張っているだけだと……。
――悔しい。
自然と握る拳が固くなる。爪が皮膚に食い込み血が出る。
あぁ、何で俺はこんな所にいるのだろうか……。こんな時に力があれば……戦いに参加できるだけの才能があれば……もっと、魔術が使えれば、もっと法術が使えれば、もっと剣術が使えたら……。
凡人がどれだけ努力しても絶対に追いつけない、辿り着けない境地に立つ人間のことを人は天才と呼ぶ。天から与えられし才能。そう、シャル達は天才だ。だから、だから、俺に出来る事なんて……。
『うん? 何やら表が騒がしいと思ったら……ふむふむ、これはボク抜きに楽しいことをしているようだね』
ふと、声が聞こえた。聞きなれた声だ。その声を一言で表すのなら白だった。まるで穢れの知らない声は何の色にも染められず、何の罪も知らない。そんな純粋で無垢な声色だ。
――いけない。こういうときほど冷静にならないと……。
いくら恨んところで急に大魔術が唱えられるわけでも身体能力が急に上昇する訳でもない。落ち着け。精神のブレは使い魔にまで届く。
そうだ、俺にも出来ることがあったじゃないか。
俺の相棒は非常に物知りで博学だ。それこそ、このクジラについて何か知ってるやも知れん。
「あぁ、ようやく気付いたか」
『まぁね、あれだけ外が騒がしければ嫌でも起きるよ。使い魔の枷が外れていると言うことは、それなりのことなんだろうね』
「そのことなんだけど、急いで状況を説明するから聞いてほしい。イフの力が必要かも知れないんだ」
『いや、説明の必要は及ばない。状況を見れば大体のことは把握できるさ。伊達に無駄に年を取っていない物でね』
徐々にであるが再生が終わり始めた肉片が再び結合しようと空中に集まりだす。そしてゆっくりとクジラの形を作り出す。その姿は何度も燃やしたり、凍らせたりしたはずだが、未だに白いままだった。
『ふむふむ、これはなるほどなるほど……あれがキミの妹君かい?』
「あぁ」
『凄い逸材だね。この歳にしてあの剣技を使うか……』
「知っているのか?」
シャルの剣にはマナと気が高濃度に集まり、目で見えるほどの実体化をして来た。剣が光の粒子を浴びて照り輝く。
『まぁ、一応ね。過去に英雄と呼ばれた奴が使っていた技だよ。まさか、人の身でありながら模倣とはいえ、ここまで真似が出来るとはいやはや天晴だ』
イフは愉快愉快と笑うと、
『それに上にいる二人も相当のやり手だね』
イフの言葉に上を向けばそこには未だに空に浮かぶ二人の妹。
「あれだけの攻撃を貰っておいてもう既に全快しつつあるなんて本当に規格外だね。悪いけど姉ちゃんの準備が終わるまでもう少しだけバラバラになって貰うよ――『天使の監視網、砲撃準備』」
まるでイフの言葉が切っ掛けだったかのようなタイミングでシャイロの法術が発動する。
頭上に浮かぶ複数の魔法陣。
『開始』
そして発動のキーと共にその魔方陣から飛び出すのは光の雨。一撃一撃がそれなりの攻撃力を持ったその光が空飛ぶクジラに降り注ぐ。その威力は凄まじく、再生し始めたばかりの胴体を次々にまた肉片へと戻していく。
『いやはや、法術もレベル4と来れば壮観だね。それに周りの状況を見るに……ふむふむ、レベル4相当の魔術と法術が6発ね……。本当に人間かい? キミの妹君は。普通の人間なら魔力が枯渇してとっくの昔に倒れているよ』
「残念ながら人間だ。自慢の妹なんでね。それよりも、だ。ここまで何度も擦り切れにしたり、燃やしたりしているんだが、アイツを倒せない。何かあのデカブツについて何か知らないか?」
『あぁ、それか。ボクもイマイチ確信が持てないんだが、あの特徴でこの匂いと来ている。贋作なのは間違いないとはいえ、厄介な物を作ってくれたもんだね』
「と、言うことは何か知っているんだな。教えてくれ。核か何かが体の中に埋め込まれているかと思ったがそれも違うらしい」
それなら木っ端微塵にした時点でとっくの昔に奴の再生能力は失われているはずだ。
『核……? あはははははは、そんな物じゃないよヤツの回復能力と言うものは……。核程度なら第三世界の英雄どもがとっくの昔にそのオリジナルを滅ぼしているだろうね』
頭上の魔方陣が消えた時、その下のクジラの化け物はその原型を殆ど残していなかった。普段なら確実にオーバーキルな状態なのだが、今回は相手が相手だ。間違いなく復活してくる。このデカブツに再生上限と言うものがあるのかないのか分からないが、少なくとも言えることは10回程度粉々にした程度じゃ直ぐに復活してくるいうことだ。
「っく、やっぱり復活してきたね。でも……」
「次はそうは行かないぜ。姉貴、準備はOKか?」
燃やさないと回復のスピードが速くなるのはどうやら間違いないようで、さきほどに比べデカブツは明らかに早いスピードで再生していく。
しかし、それよりもシャルの準備が終わる方が早かった。
先ほどからマナと気を凝縮したそれは眩しく粒子を放ち、直視できないほどにまでなっていた。そして、シャルを中心に巻き起こる疾風。
「――――うん、準備万端だよ」
その中心に立つシャルは体中から溢れ出す光を一心に浴び、その姿はまるで物語に出てくる伝説の勇者のようだった。
「グラァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!!」
再生が完全に終わると、奴は勢いよく急降下を始める。
「これで終わりだよ」
その剣術に発動のキーたる言葉はない。この第七世界の剣技において人類史上未だかつて並び立つ物がないと呼ばれる技であり、全ての物体を断ち切る技。
完全に再現されれば、現存する物だけではなく、魂や、時、そして概念すらも断ち切ってしまうと呼ばれるそれは間違いなくこの第七世界ではシャルにしか使えず、そして今俺たちが誇る中で最強で最高の技だった。
「切り裂け」
そう呟いたシャルは剣を一閃。
刹那、剣に込められた圧倒的な魔力と気が聖なる光と共に対象を飲み込んだ。
光が晴れるとそこには地を割くように一直線に伸びる跡と、青く晴れ渡る青空、そして魔物の後は見えない。
『お見事、人の身でありながらその威力、天晴だ。聖剣でその力を百パーセント引き出せば、そこいらの魔王ですら一撃で滅ぼしかねない威力だ』
「今度こそやったか!」
「やったよ、姉ちゃん!」
その様子を見て、ティナとシャイロが空から降りてくる。その顔を強敵を打倒したことによる笑みが浮かんでいた。
「うん、やった!やったんだよ!」
シャルも二人に駆け寄ると笑顔で抱き合った。俺も今すぐに三人の下に駆け寄りたいのだが、そうは問屋が卸さなかった。
『しかし、今回ばかりは使う相手が悪かった。並みの相手ならともかく、奴の強さはその巨体とそして何と言っても恐るべき再生能力にある。贋作とは言え、ここまで見事に再現されいるんだ。見た目もさることながら能力もね。そのデカブツのオリジナル、その名は――』
「おい、後ろ見て見ろ」
「ん? 何言ってるのお兄ちゃん? 魔物の討伐なら終わったよ」
「どうしたんだ兄貴?再生しようにも何もないじゃん」
「流石にシャルちゃんのあの一撃で姿も形もないんだよ」
喜ぶのもつかの間、
「いいから早く」
『――――――鯨王 ベルメオ。間違いない胴体はかなり縮小されいるとはいえ、かの第三世界の魔王さ。滅ぼしたいのならその肉体を原子にいたるまでこの世から抹殺しないといけないよ』
俺が指さす東の空にはゆっくりではあるが、小さな肉片が膨張している姿があった。




