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ふと、昨日PVを覗いたら一万を超えていました。
初めの頃は1日に100のいかない日々だったのですごく嬉しく感じました。
飽きやすい作者がここまで頑張れるのは一重にこれを読んでくれている方、評価を下さった方、ブックマークをして下さった方のおけげでもあります。
誰かに見られていると思うと完結しなくちゃいけないと頑張れます。
これから先も精一杯とりあえずはキリのいい一章を完結させるまでは頑張らせていただきますので、皆様もたまにでいいのでこの物語を覗いてくださればと思います。
前書きが長くなりまして申し訳ございません。それでは、
「ふぁあ……なんだかお腹一杯になっちゃったら眠くなってきちゃったよ……」
一つ可愛らしいあくびをしてシャルはその碧眼の目じりに溜まった涙をぬぐう。
あれから無事にティナとシャイロの機嫌も直り、こうして森の奥にある今日の目的地の湖に辿りつくことが出来た。王都から歩いて約四十分くらいといったところだろうか? ピクニックにはちょうどいいくらいの距離を歩くと急に開けた場所にでた。
辺り一面が背の低い芝生のような草に覆われた丘のような場所。
その丘を下ったところには小さな湖の水面が日光を反射してキラキラと静かに漂っていた。近づいて見れば透明度はとても高いようで、はっきりと水底まで覗き見ることが出来、ところどころで魚が群れを成して泳いでいた。
前世でもなかなかお目にかかれないような光景。周囲は木々に囲まれ遠くにはこの大陸一の高さを誇る山脈が見える。まるで外界から閉ざされたようなこの場所には小鳥のさえずりや、草木が風でなびく音以外になにも聞こえず、時が止まっているかのようにも感じられた。
今の季節が夏であったのなら湖で泳いでみたかったものだが、今の季節ではちとばかり寒すぎる。昨日に比べて今日はまた少しだけだが気温が下がったように感じられる。このまま冬を迎えるのだろう。
王都では冬に雪が降るときく。俺たちの孤児院があった場所は王都からみて南の外れの街だったし、俺が奴隷生活をしていたのもたいてい南のその街周辺だ。ついでに言えば俺が貴族の娘さんの家庭教師をしていた通称、帝国って呼ばれる国もこの国から見ると南にある。
もちろん、そこにも冬というものは存在するが雪が降るまでにはいたらず、日本で言えば少し肌寒い秋と言った感じの気温が続くだけだった。だからこそ、もし俺が王都で冬を越すことになれば必然的に十四、五年ぶりに雪を見ることになる。雪が別に見たいわけではないが、なんとなく前の世界を思い出せそうで個人的には楽しみでもある。
「そうだね、ボクもご飯を食べたら少しばかり眠たくなっちゃった……」
シャルの言葉にシャイロも頷くと同じように小さくあくびをもらした。
穴場スポットと言うのと近年の治安の悪さと言うかきな臭さも相まって森の中で誰とも出会わなかったようにここにも誰もおらず、俺たち四人の貸し切りとなっていた。
とりあえず、到着してしばらくは湖に近づいてみたり、辺りをプラプラと歩き回ったあと、昼食をとり今に至るという訳だ。ちなみにシャルが放り投げたランチボックスだが、幸運にも中身はそれほどぐちゃぐちゃになっておらず、問題なかったことだけ記しておく。まぁ、すこしばかりこぼれたり形が崩れたりしたとしても味に何も変わりないし、多少見てくれが歪になるだけで何の問題もないのだが、シャルはそのことを結構気にしていたらしく、中身を確認して安堵のため息をこぼしていた。
そして昼食を片づけ、四人にてレジャーシートの上で雑談していたというのが今ままでのあらすじとなる。
「俺は今日は結構寝たから眠くないけど……姉貴もシャイロも眠ければ寝ればいいよ。兄貴の護衛と見張りはやっとくからさ」
ティナは眠くないのか犬歯を見せるようにして笑うとシャルとシャイロにそう提案した。
しかし、なんとも護衛と見張りとはね……。VIP扱いされていると前向きに肯定的にとらえればいいのか、それとも何とも信用されていないと事実を嘆けばいいのか。俺が悪いとはいえどうにかならないものだろうか。もう勝手にどこに行くことも出来ないというのに。
「お兄ちゃんは眠くないの……? 今日も朝早かったけど……」
シャルは眠たげな雰囲気を隠すことはせず、俺に聞く。そうか、やったらと眠そうにしていた理由は俺が起きるときに一緒に起きていたからか。
確かに昔を思い出してみればシャルの睡眠時間は長かったように感じる。
その逆に俺はというとこの世界に来てから睡眠時間は基本的に元の世界よりも減っていた。
子供の時は読み書きの練習や、魔術法術の訓練、そして基礎体力トレーニングに名ばかりの剣術訓練をやっていたし、奴隷時代に関していえば語るまでもなく、おちおち眠れない日々なので必然的に一回の睡眠時間は少なくなっていた。
なのでシャルと暮らすようになってからも長年の癖かついつい早朝に起きてしまう。そんでもって何故か俺の部屋にはたいていシャルがいるため俺が起きるとシャルも一緒に起きるというスタイルの生活が続いていた。確かに睡眠時間が長めのシャルにとって俺と一緒に起きる生活は睡眠が足りないと感じても仕方がない。
「あぁ、俺は別に大丈夫だ。まぁ、俺も眠くなったら寝るから、シャルは寝ろよ」
睡眠時間が短い人は早死にするというが、こんな魔法あり、剣あり、魔物ありの世界で、俺みたいな脇役が天寿を全うできる可能性なんて、宝くじがあたる可能性よりも低いと割り切っているため気にしない方針だ。
「うん……そっか……。昔からお兄ちゃん朝起きるの早かったもんね……。じゃあお言葉に甘えて私寝るね」
そういってシャルはそのまま、こてんとシートの上に横になると寝息を立てて直ぐに寝てしまった。
どうやら相当睡魔の方が襲ってきていたらしい。ここ数日もお昼あたりうつらうつらと船を漕ぐことも多かったしな。……これは俺の方も生活習慣を考えないといけないかもしれない。
基本的にシャルは俺から一時も離れないようにしているからな、シャルが倒れる事態は避けなければ……。
「シャイロは寝ないのか?」
「うん、ボクも寝るね……。最近、法術の研究で徹夜してるから……」
ティナの言葉にシャイロはそう返すとシャルと同じように体を倒した。
「なぁ、ティナ。別に俺は気にしないから大丈夫だぞ。そんな思いつめなくて……」
そう、シャイロが言った法術の研究とは俺のための研究だ。
――俺を囚える奴隷の枷の解放。
シャイロがあの日、俺の奴隷の枷が普通じゃないことを知ってからというのも、シャイロは時間が空けば法術の勉強をし、俺の奴隷の枷を解こうと必死だった。
そのことが嬉しくないわけではないが、俺としては俺の奴隷の枷なんかより自分の私生活を優先してほしい。
ただでさえ俺は彼女たちに買われることにより、あの時本当なら終わっていたかもしれない命が未だに続いているんだ。これ以上の恩はないし、それにシャイロには諦めていた腕も治してもらっている。
まだまだ筋力が回復せず、リハビリがてらの筋トレは続けているが、動きや神経になんら問題もない。そんな恩人であるシャイロにこれ以上迷惑をかけることなんてできまい。
「いや、でも……」
「シャイロ……。俺は君に十分に色々と助けてもらった。この右腕だってそうだ。本当言うと切り落とすしかないと思ってたんだ。だけど、実際にはこんな風に動かせるくらいに回復した。だから、もう何も気しないでいい。シャイロは何も責任を感じなくていいんだ。だからね、別に調べ物をするなとは言わないけど私生活に無理のない範囲で体を壊さないようにやってほしい。それにシャイロが倒れたら俺は非常に悲しい」
何ともキザったらしいセリフだと俺も思う。だけど、今のこの子たちには俺のセリフが一番効くのは間違いない。
「兄ちゃん……」
「なんだ?」
穏やかな風が吹き抜けシャイロの綺麗に輝く銀色の髪を揺らす。
シャイロは寝転がったまま右腕で日光を隠すように目線を覆うと、小さくポツリともらすように話し始める。
「本当言うとね。色々と調べてみればみるだけ、兄ちゃんの奴隷の枷がどれだけ異常で、解くのがどれだけ不可能かということが分かってきて、もう八方ふさがりに近い状態だったんだ……」
そりゃそうだ。俺の枷はあの変態貴族お手製の枷だ。呪術にそこまで明るくない俺でもあの変態がどれだけ呪術に才能があり、どれだけこの奴隷の枷の解放がやっかいなのかは分かっている。
呪術に関してだけ言えばあの変態貴族の才能はシャルやティナ、そしてシャイロにも勝るとも劣らないだろう。
認めるのは癪だが、あいつは間違いなく天才だ。
「俺の奴隷の枷については俺自身が一番よく分かっている。だからシャイロは気にすんな。だから今はゆっくり休め」
少しだけ体勢を崩してシャイロの頭に手を伸ばすと優しくなでる。サラサラときめ細かい髪が俺の指の間をなぞる。
「うん、兄ちゃん……。でも、ボク諦めないから。いつかきっと兄ちゃんの奴隷の枷を取り除いてみせるから……」
「あぁ、分かった。でも、無理はするなよ」
「うん、分かった。お休み、兄ちゃん、ティナちゃん」
「あぁ、お休み」
「お休み、シャイロ」
シャイロはそれっきり何も話さなくなり、代わりに穏やかな寝息が聞こえてくるようになった。
「なぁ、兄貴」
シャイロの頭から手をどけ、改めて未だに起きている二番目の妹の横に腰を掛ける。
出会った時のように魔女っ娘スタイルではないのだが、中身は普段着とはいえ妖精ローブを羽織っている彼女はどことなく魔女を思い浮かばせる。これであのとんがり帽子でも被っていれば、RPGにでてくる魔女そのものだ。
「なんだ?」
「何だかこうして二人きりで話すのも久しぶりなように感じるな」
「あぁそうだな。何だかここ数日はドタバタしていたし、シャルがずっと俺についていたしな」
「こっちの暮らしにはもう慣れた?」
「そうだな、一応慣れたと言えば慣れたんだけど……」
「うん、どうかしたのか?」
不思議そうに俺の顔を下から覗き込むように見上げてくるティナ。髪と同じ紅い目と目があう。
こうしてみると本当に美人になったなぁ、と思う。シャルの奴は外見はともかく言動とか中身が幼いので、いまいちまだ子供という印象を拭えないが、ティナに至っては昔から大人っぽくそれでいて五年たった今ではすっかり外見も大人そのものになった。あまりの綺麗さに思わず見とれてしまいそうだ。シャルには違った綺麗さ。
この場合で言えばなんといえばいいのか……。シャルの場合は儚さがあり、ティナには力強さがあると言えばいいのか…。
うーん、今更になって俺の語彙不足が悔やまれる。
古今東西、小説は昔から主人公やヒロインの容姿は事細かに描写すると相場が決まっているらしい。その形容詞の量は大蔵経と肩を並べるかもしれないとかなんとか。
俺が小説というものをもっと注意して読んでいれば、そんな莫大にある形容詞の中から俺の顔を覗き込んで首を傾げている彼女の美貌を上手く伝えることが出来たのかもしれないが、生憎今の俺には彼女の綺麗さを伝える語彙を用意できそうにない。
どうやら、俺に小説家という大役は無理なようだ。この世界でも小説家というか作家は儲かると小耳にはさんだことはあるが、俺には縁のない話らしい。
それでもやっぱり自慢の妹の美貌をうまく伝えられないのは惜しいので、小説を読む機会が今後もしも訪れるなら、しっかりと語彙能力を身に着けたところだ。
「ん? 俺の顔についているか?」
俺が何も話さないことに疑問を感じたのかティナは小さく傾げた首をさらにもう少し傾げた。
「い、いや、なんでもない。ただ、あの家は広すぎてまだ慣れないと思ってさ……それにあんなフカフカのベッドで寝るなんて久しぶり過ぎてね……」
まさか、妹の顔に見とれてましたなんていうことは兄として絶対に言えない。
「そっか兄貴は……」
彼女は首の位置を戻すと、何かを悟ったように前方の湖に視線を移した。
「別に気にするな。お前たちは何も悪くない」
きっとティナのことだ。俺が奴隷になったことに要らない責任でも感じているのだろう。
「で、でもさ……」
「だから気にするなって、あれは誰が悪いという訳ではないんだから……」
――いつだって俺の選べる選べる道は少なかった。
それは前の世界でも、この世界でもそうだ。
人生に道は沢山ある? 道は自分で作りだせる?
そんなものは力のある奴らや才能がある奴らだけが言えるセリフだ。
俺のような主人公でもなく、才能も、力もない凡人には選べる道というのは数少なかった。下手をすれば一本道のときすらあった。
――いや、一本道の方が多かったのかもしれない。
あの時俺が選べた選択肢なんてきっとあってなかったものだ。シスターが身売りをするか、俺が身売りをするか、それともあのまま皆で仲良く共倒れするか……。
ほら、選べる道なんて一本しかないだろう?
「なぁ、兄貴……。奴隷って…」
ティナはここまで次に吐き出そうとした言葉を飲み込む。察しのいい彼女のことだ、俺がこの家にやってきてから今までの会話や俺の性格を読み取って、これ以上俺がこの話を続けるつもりはないと悟ったらしい。
代わりに彼女の口から出たのは
「なぁ、兄貴。何か話をしてくれよ、面白いやつ」
というものだった。
なるほど、確かに話が逸れて俺としては嬉しいが、まさかこう切り返されるとは……。
「面白い話ねぇ……」
そうは言われても俺は自分で話が上手くないのは分かっているし、この世界での話なんて孤児院の話か奴隷時代の話しかできない。孤児院時代の話なんてティナにすれば聞くまでもない話だし、奴隷時代の話なんて面白さのかけらもない血みどろの真っ赤なお話がほとんどだ。
唯一話せるとすれば、帝国にいた時の話だがそれでも奴隷時代の話を嫌って話を逸らしてもらったのだから奴隷の話をすれば本末転倒もいいところだ。
この世界の有名な童話やお伽噺なんてティナなら知ってそうだし、それにこの年になって童話に面白さなんて感じないだろう。
うーん、となると俺が話せることってなくないか?
そんな風に俺が自身が半ばあきらめていた時だった、助け舟が飛んできた。
「そうそう、昔孤児院の時に俺たちに寝る前に話してくれたやつ。この世界じゃない世界を旅した旅人の話。あれ結構好きだったんだよなぁ!」
そうか、そのセリフで思い出した。前の世界、俺が銃で撃たれて死んだ世界での俺は根無し草というか放浪癖があったため、日本各地、そしてたまに世界各地をフラフラとしていた。その時のネタに少し誇張を加えれば結構な冒険記になる。
俺にとってこの世界は異世界であるように、この世界の住民にとって俺の世界は異世界なのだ。
物珍しい話ならいくら話下手の俺の語りでも少しはマシになる。
「そうだね。じゃあ少し話をしようかな。これはとある旅人に聞いた話なんだけど――」
こうして俺は俺が死ぬまでに旅をしていく中で経験した話を時に誇張して、時に尾ひれをつけて面白おかしく語っていくことにした。




