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「それじゃあ、話を始めようか」


四人で久しぶりの食卓を囲み、片付けが終わった後、俺は本題に入ることにした。俺に聞きたいこともあるだろうし、俺自身も聞きたいことがある。


ちなみになんで奴隷の俺が司会進行の役割をしているかというと、別に進行役がうまいわけでも進んで自ら立候補をしたわけでも当然なく、純粋に俺が朝食の後片付けを終え、席に着くと三姉妹の二人、ティナとシャイロが同時に俺の方を向き何も言わなくなったからである。ある意味で押し付けられたと言ってもいい。


え、後一人はどこに行ったって?


三姉妹の長女なら今は何故か俺の膝の上に座っている。聞いてみれば、じゃんけんに勝ったと答えたシャル。意味がわからないだろ、俺にも分からん。じゃんけんと俺の膝に座ること何か因果関係があるのだろうか、わかる奴がいたら是非とも俺にも教えてほしい。できれば早急に。


昔と違ってシャルは第二次性徴期を終え、体も大人と遜色ないものへとなっている。色々と俺にとっても毒だ。ちなみに、ティナとシャイロはそんな俺とシャルをさも当たり前のように見ていた。こっちもこっちで心配である。血がつながっていないとはいえ姉と兄がこんな感じで妹としてどうも思わないのだろうか。


閑話休題。


とりあえず、これは締まらないためどうにかしてシャルを元のイスに座らせる。その代わり何か一個お願い事を聞くようになってしまったが、どうせ奴隷の身だ。お願いされれば一個でも百個でも聞かなければいけないのでもはや今更だった。


そして三姉妹が無事にイスに座ったことを確認して俺は冒頭のセリフを口にしたのだった。


やはり俺が司会運行することに異議がないのか、向かいに座るティナやシャイロは頷いてる。


そして視線を横にやればイスを真横に持ってきて、俺の腕に抱きついている金髪頭が見える。言っても離れないのでこればっかりはどうしようもない。先ほどの膝の上に座られるよりかは幾分かマシなため、文句は言うまい。


どうやら、シャルも納得しているようで何も言わなかった。


「みんな積もる話もあるだろうけど、まず俺から言わせていただきたい。シャル、ティナ、シャイロ。すまない、そしてありがとう」


そう言って俺は頭を下げる。本当なら土下座でもなんでもしなければならないのだが、シャルが離れないためそれは出来なかった。なんとも締まらない形が俺“らしい”とは言え、この締まらなさは少しばかり違うような気がしてならない。


「まず、いくらお前達を守るためとは言え勝手に家を出たことは本当に悪かったと思っている。お前達との約束を守れずに悪かった」


あの日の夜、俺はシャルと約束したのだ。明日もまた一緒に訓練をすると、守れない約束だと、分かっていて約束した、もう一生会うことがないと思っていたから……。


「謝らないでよ、お兄ちゃん。私たちはお兄ちゃんが私たちのために自分から犠牲になったって分かってるから」


「そうだぜ兄貴! 私たちは兄貴に助けられたんだから! 兄貴がいなければ俺たちは学園の試験すら受けられなかったんだ! むしろ頭を下げるのは俺たちだ! だから、頭を上げてくれ!」


「うん、そうだよ、兄ちゃん。兄ちゃんが出て行ってからは確かに大変だった時があったけど、それでもボク達は兄ちゃんに助けられたんだ! 兄ちゃんに頭を下げられたら、ボク達はどうすればいいのか分からないよ」


「みんな本当にすまなかった」


俺は最後にもう一度小さく謝罪をすると顔を上げる。心優しい三人だ。約束をやぶって出て行った俺を快く許してくれるなんて。


「そして、もう一言言いたいことがある。特にシャル、昨日は俺を買ってくれてありがとう」


昨日のオークションは俺にとって三度目のオークションだ。売れ残れば俺は殺されていた。こんな俺を他の誰かが買う可能性は低かった。シャルは俺にとって文字通り命の恩人だ。


しかも、俺を買った金額はなんと5000万G。日本円にて5億円だ。間違いなくそんな大金を払わなくては良かったが、シャルに俺は助けられた身、金額については何も言わない。いくらこんな馬鹿でかい家に住んでいても5000万Gもの大金を使ったとバレればきっとシャルは怒られるだろうから、バレるまでは何も言わないようにしようと思う。


「ううん、私の方こそゴメンね……。もっと早く見つけていれば……」


そう言ってシャルは俺の腕を抱きしめる力を強くする。声は段々と細くなっていた。


「いや、気にするな。奴隷店なんて腐る程あるんだから、見つけられなくて当然だ。それよりも、またこうして四人で会えたことが俺は嬉しいよ」


本当を言えば、シャル達がいつか有名になって自由に使えるお金ができればこうして奴隷の俺を買いとってくれることを期待していた時があった。


しかし、それは奴隷の数の多さと過酷な労働環境でいつ死ぬかわからないこと、そして奇跡的に俺が生き残り、シャル達が大人になって、いいところに就職してお金が出来たとしても、その時には俺なんて覚えていないだろうと半ば諦めていた。


そしていつしか俺は今日を生きることに必死になり、そんな夢や希望を何処かに忘れていた。


昔は神なんていうものはまったくもって信用も信仰もしていなかったのだが、今であれば少しくらいはお供え物をしてもいいのかなぁと思う。俺も歳をとったもんだ。


「ううん、私たちがもっと早く見つけておけば良かったの……。私もティナもシャイロも一生懸命探したんだけどね、お兄ちゃん中々見つからなくて……」


「あぁ、そうだぜ。俺たち休みの日はほとんど兄貴を探し回っていたんだぜ」


ティナがうんうんとシャルの言葉に頷く。どうやら、俺のことを相当心配して探し回ってくれたようだった。兄としては嬉しくて涙が出そうなまでもある。


俺は返事の代わりにシャルの背中を黙って優しく撫でることにする。似合わないのは自覚している。だけど、兄として今のシャルにしてやるのはこれくらいしかない。こんなとき主人公(ヒーロー)ならきっと気の利いた言葉の一つや二つ言えるんだろうけど、ただの小市民である俺には無理そうだ。


「それと、ゴメンね……。お兄ちゃんをもっと高額な値段で買ってあげられずに……」


思わず背中をさすっていた手が止まった。今、なんて言った……。


「本当にごめんね、あの時シャルね、みんなで貯めたお金忘れて、シャルが貯めた分しかなかったの。だからあれが精一杯だったの」


「本当にシャルの姉貴は少し抜けているよな」


「本当だよ、姉ちゃん。もし、兄ちゃんを買いたい人がいて競り負けたらどうしてたの?」


フリーズしている俺をよそに彼女達は話を進める。いかん、何を言っているのか本格的に理解出来なってきた。


「ちょっと待て! お前らが俺がいくらで買われたのか知っているのか?」


そんな俺の言葉にシャル、ティナ、シャイロの三姉妹は顔をきょとんとさせ、なに当たり前のことを言っているの? みたいな視線を送る。


「当たり前だろ、5000万Gだろ? ったく、姉貴の運は確かにいいけどさぁ、もう少しちゃんとしないと」


「そうだよ、それに5000万Gで買ったら兄ちゃんの価値が5000万Gしかないみたいじゃんか!」


色々とおかしい。5000万Gだよ、5000万G。数字に治すと50000000G。某RPGの銀行には入りきれない金額だよ。日本円にして五億円。そんな大金をなにあたかも端金のように言っているの、この子たち。色々と怖い。


そして、シャイロ。俺の今回のオークションの初めの価格知ってる? 2500G。それが俺の価値なわけだよ。ここは俺が知っている世界と違って命はお金で買えないとかいう世界ではない、人の命はお金で買えるのだ。で、その金額が2500Gな訳だ。


それが俺の価格であり、俺もそれでいいと思った。でも5000万Gでも安すぎるみたいな言い方じゃん、お前。5000万Gなんてエルフの奴隷にもつかない値段だって。


きっと昨日の頭痛がひどくなってぶり返してきたのは気のせいではないだろう。


「うぅー、ごめんねー。ティナちゃん、シャイロちゃん、そしてお兄ちゃんー!」


泣きそうになりながら謝るシャル。あぁほら鼻水垂れてきた。可愛い顔が台無しじゃないか……。ほら、ティッシュもってきたらから鼻かみなさい。


「うーん、シャルの姉貴に泣かれるとバツが悪いから、ここらへんで追及はよしておこうぜ、シャイロ」


「うーん、私はすこしまだ納得がいってないけど兄ちゃんの前で口論して、シャイロは優しくない子に育ったって思われるのは嫌だからこのあたりでやめておくよ」


しょうがないといった表情のティナにしぶしぶといった表情のシャイロ。


それと、シャイロ、兄ちゃんは別にシャイロのことを優しくない子とは思わないよ。シャイロは優しい子に育っている、ただこのままいくと兄ちゃんはすこし庶民感覚がずれたおかしい子と思ってしまいそうなんだ、キミのこと。


「うぅ、ありがとう! ティナちゃん、シャイロちゃん!」


さきほどの泣き顔が一変してひまわりのような笑顔になるシャル。どうやら、この場で俺を買った値段が高すぎると思っているのはどうやら俺自身だけのようだ。


疲れた頭を癒すために目の前に置かれている黒いマグカップに入ったコーヒーを一口。


五年ぶりに飲んだその味は苦くて少しだけ顔をしかめた。


こんな感じで始まった数年振りの家族会議はまだまだ続く。

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