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快楽と幸福への魔導論  作者: アルケニア
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外的快楽の終点

ジークムント、テレサと戦った後、フィッシュは路地に身を潜めていた。何の外傷も無く、何の感慨もない。フィッシュは淡々と思考を始めた。どうして、彼らを倒すべきかを考えた。

「フィッシュさん」

 フィッシュは突然に声をかけられて、そちらを見た。そこにはもう一人のヤクの売人が居た。ジークムントに捕獲された男以外にもフィッシュには売人をさせていた男が居たのだ。

「お前かあ。驚かせるな」

「さっき、凄い音がしましたけど」

「気にすんなあ。俺は無傷だ」

 そう言ってフィッシュは自分の体を指し示した。

「それでヤクの方は」

「今、手持ちはねえなあ。後で来い」

「は、はい」

 売人の男はそう言って路地を出ようとして足を止めた。

「んん、何だ。早く行け」

「・・・すいません。一つ聞いてもいいですか」

「はあ」

「・・・・すいません。なんで、俺みたいな奴に大量のヤクを持たせてくれるか、その理由を聞いてもいいですか」

「ああ」

 そう言いながら、フィッシュは考えた。恐らく、この男は怖いのだ。こんなバカげた量のヤクをくれるなんてことをすれば命を狙われる可能性は上がる。警察に捕まる確率も上がる。そんな状況でフィッシュが男を守る確率は低い。それくらいは男でも分かっている。しかし、こんなイカレタことをやるフィッシュが男の命を奪う可能性が無いかを知っておきたいとそうすれば毛ほども無いだろう男の生き残る確率が上がるだろうと男はそう言う希望を見たいのだ。フィッシュはそこまで思考してにやにやと男を見て言った。

「いいだろう。話そうかあ。理由を」

 そう言って、フィッシュは売人についてくるように指示した。売人もそれに従う。



 しばらく、歩いた先に一軒の家がある。なんの変哲のないような家。そこに二人は入っていく。部屋は小さいが多くのもので溢れていたが、そこにはヤクの姿は無い。あるのは大量の本の山だった。文学と言葉を変えてもいいほどの本から、漫画や果てはライトノベルまでがそこには置かれている。

「以外かあ」

 売人は確信をつかれたように反応したが、それを顔に張り付けた笑顔でごまかした。

「心配するな。キャラでないことの自覚はある」

 そういうと男は台所から包丁を取り出した。

「あひゃあ」

 売人が腰を抜かし、腰を地面にすらしながら後ずさりすると、フィッシュは真顔で包丁を振り下ろした。


 自分の腕に。


 しかし、傷はない。フィッシュに伝わるような痛みは無い。

「快楽って物はその多くが外部から与えられるう。今のこれも極端だがその一つだあ。だが俺のような魔導師はその快楽にすら抵抗がある。だから、極端な方法では快楽なんぞ望めない。酒やたばこ、だけではなくヤクですらなあ」

「へえ」

「痛みは感じる。だが一定を超えるとそれも無くなるう。だから、感じられる快楽はせいぜいがセックスだ。一時期はそればかりだったあ。だが足りない。足りない。そんなものでは満たされない」

「はあ」

「次は人を弄った。最初は犯した女の悲鳴を聞いた時だったか。あれは気持ちいいものだあ。それからは何十人と弄った。人以外も含めてな」

「えっ」

売人が辺りをよく見ると本が置かれた床には何箇所か血糊が着いているようにも見える。売人は怯えたようにフィッシュを見た。

「心配すんなあ。それは飽きたんだあ。悲鳴や人の死は劇的だ。強烈で強くいいもんだあ。だが、飽きた。そのために本を読み漁ったあ。なぜか、感情から来る快楽は有効だっただろう。人の悲鳴や死が快楽と成りえるならあ、頭を動かし、想像と言う快楽の海に入り込むのもありだと考えた。だが、足りない。だから、本物を使う事を思いついた。太く短いような人生。まるで東洋の桜のような人生。そういう強烈な人生は人に強烈な感情を与える。それが失敗であってもだあ。俺はそれが見たい」

 フィッシュはそう言い放った。

 快楽、外部から与えられる刺激としての快楽は魔導師には効果が薄い。原因は分かってはいないが、精神面でも魔導師には耐性があるらしく。洗脳を含める精神攻撃すら魔導師には効果が無い。同様に薬や酒などだけでなく、細菌、ウイルス、病も魔導師は通じない。そちらの方は魔導師には一定のエネルギー以下の攻撃が通じないためらしい。

 だからこそ、フィッシュは追い求めた、快楽を。

「これで分かったかあ。快楽だあ。それ以外に目的は無い」

「は、はい」

 売人はイカれていると思った。何がではない、物の考え方だけでもない、言うなれば生き方がイカれていると。売人は売人でそれなりに修羅場をくぐってきた。くぐらなければ生きていけないような世界で生きてきた。そう言った世界は余裕のある世界とは違い、人の人となりが隠されることなく姿を見せている。しかし、ここまでは無かった。

 改めて、売人はフィッシュを見る。フィッシュはなんだと言う顔で売人を見た。売人は悟った。フィッシュは自分が異常であると知っているが知っているだけなのだ。

「さあて、話は終わりだあ。俺はテレサを殺さないとなあ」

「テレサって魔導師のテレサですか。この街に来てんですか」

「ああ、最初はジークムントを殺すつもりだったが、テレサの方が先にしないとな」

「なんで、先にテレサなんです」

「俺の目的の真逆をいくからだテレサが。テレサは人に劇的な生ではなく、平穏な生を望んでいるう。俺の目的からすると何としても殺したい相手なんだよお」

「なるほど」

「テレサの顔写真だ。今から探せ」

 フィッシュはそう言うと売人にテレサの写った写真を渡した。

「それとこいつがジークムントだあ。いいかあ。こいつらがバラバラになったら連絡しろ。片方いる状態なら相手が誰でも構わない、サツでもだ」

 フィッシュはジークムントの写真を渡した。

「は、はい」

「行けえ」

 売人は走って家を出た。




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