何かを成す人間は本当に人生の成功者足りえるか
話はガウスとダビデの方に戻す。
「何かを成す人間は本当に人生の成功者足りえるか」
ガウスはその言葉をダビデに投げかけながらダビデの表情をしっかりと観察した。ダビデは一瞬、ひるんだようにそれを受け取るとしっかりとガウスを見る。ダビデの様子を確認しガウスはにっこりとほほ笑んだ。
「いい覚悟をしている。何かをしようとする者、そう言う者なら、まあ、最低限の賢さを条件とするが考える疑問、頭に浮かんでしまう恐怖だ」
「はい、幾度も幾度も頭に浮かびました」
「まず、君の見解を聞きたいな」
「本音を言えば目を瞑りたくなる現実ですが『何かを成す人間が人生の成功者足りえるか』答えは否。厳密に言えば、何かを成す者が幸せになるとは限らない」
「良く見えているというのは侮辱だな。誰でも心のどこかで気づいている現実だ。だが、だが君ならその先を言えるはずだ」
「はい。ならば私は考える。何かを成して幸せになる方法はあるのか」
「はっはあああああ。いいものだ。実に、実に、それこそが賢さだ。私が神より敬愛するものだ。では前置きはこれくらいにしようか。まず、先の議論で私たちが幸せを定義した。ではこれを手にするのに必要となるものとは何かを議論しよう」
「精神的に、肉体的に健康であるために必要な物ですか」
「ああ、思い浮かぶ物を上げて言ってくれ」
「はい。・・目標、食事、運動、友、恋人、お金・・・くらいですか」
「いくつか上がったが、食事、運動は明確に簡単にできることだから除く。友は後で、目標は後で、恋人も同様。お金が非常に考えやすいから考えていくとしようか」
「はい」
「こういうのは極論で考えるとやりやすい。君はお金が幸せを作る一つの要素と考えた。では宝くじで一等が当たり大金を手にしたと考えると、君は必ず幸せになれるかを考えてくれ」
「・・いえ。幸せとは思えません」
「なぜ、そう思う」
「勝手なイメージなんですが宝くじで当っても大変なことになりそうだなと思いまして」
「ほう、なるほど。ではそれを具体化しようか。その不安の原因を考えよう。君が宝くじの一等を手に入れて何が怖いと思った」
「ええと・・。まず、お金を奪い取られるのではないかと思います」
「他にはあるか」
「・・・・・・・・・・・・・」
「思いつかないか。他には『金を手に入れることで生活水準が上がり、お金を使い切り破産するのではないか』と考える人もいるだろうな」
「あ、なるほど」
「ではここまでの議論をした後で、次の例について考えようか。それはお金持ちが宝くじで一等を当てた場合だ。この場合、お金持ちが金を手に入れたことで不幸になるだろうか」
「いえ。そうは思いません」
「つまり、君は普通の人が宝くじで当っても不幸になりやすいがお金持ちがそうなっても不幸にはならないだろうと」
「はい」
「では二人の差は何処から生まれてくる」
「お金を元々持っているか否かですか」
「それは正しいが本質ではない。ここでさっきの不安の要素を思い出してみよう」
「!そうか。金持ちはお金を奪われることがない。そして生活水準もお金が増えても大きくは変わらないと考えられる」
「もっと分かりやすくすると金持ちはお金を管理する術を知っていると言う事だ」
「・・・。あれでも、お金持ちでもお金で不幸になる話を聞きますよ。お金持ちの人が破産するとか」
「そうだ。その通りだ。それがお金を管理する話と重なってくる」
「・・・・・!お金を管理する能力が足りなかったんですね」
「そうだ。破産した金持ちはお金を管理する能力が足りなかったんだ」
「・・・・・・」
「どうした」
「いえ、失礼かもしれませんがここまでの議論て、当たり前の事なんじゃ。お金持ちが金を管理する能力が高いって」
「そうだ、当たり前だ。その当たり前の汎用性が何処まで広げられるかが重要なんだ」
「?」
「次は先ほど後に飛ばした『友』について考えていこうか」
「は、はい」
「では歌にもある通り、友達百人出来たとしよう」
「ひゃ、百人ですか」
「大げさだが前述したように極論から入るのが分かりやすくなるからな。では友達百人出来たら幸せか」
「・・・・・し、・・・いや、幸せとは思えません」
「ふ、分かってるな」
「え」
「いや、ではなぜそう思った」
「とてもじゃないですが百人と仲良くやっていく自信はありません。・・あくまで私の場合ですが」
「いや、君は正しいよ。誰だってそうだ。百人もの人間と仲良くやっていくのは不可能だ」
「ん、あれ、もしかして、これって前の話と関係してます」
「!ああ、関わっているよ」
「つまり、友を手に入れて幸せであるには友人関係を管理する能力が必要と言う事ですか」
「そうだ。この能力が無ければ友を手にしても不幸になることが分かるだろう。人間関係の話はお金よりも少ない数でもそれなりの能力を必要とするから具体的にはしない。ではここまでを君なりにまとめてくれ」
「ええと、幸せの要素を幸せの要素にするためにはそれを管理する能力が必要と言う事でしょうか」
「そうだ。ここで本題に戻ろうか。幸せを幸せとするためにそれを管理する能力が必要だと分かった。しかし、その能力は手に入れるのにそれなりの時間を必要とするだろう。それだけの時間を費やして『何かを成すことは出来るのか』」
「出来ると思います。何かを成せば、金も人も集まってくる。そこで学べばいい」
「その通りだ。何かを成せば、自然とそこには多くの幸せの要素が集まってくる。そこで学べばいい。それは正しい。しかし、簡単ではない。なぜなら、それは例えるなら小学生がプロの野球選手に混じってプレイするに等しいからだ」
「難易度が高すぎるってことですか」
「そう言う事だ。ものには順序がある」
「それはつまり、成功を掴むまでに学んでおけって事ですか」
「そう言う事だ。まあ、完ぺきを目指す必要はない。状況によっては『あの人は天才だから』で片付けられるだろうし。大切なのは妥協するものを選び、妥協こそすれ捨ててはいけないと言う事だ。捨てれば不幸にしかならない」
「はあ、そう言う事ですか。以前言っていた事は」
「まあ、そう言う事だ」
そう言うとガウスは時計を見た。時間を確認したガウスは少し考えた後で思いついた。
「まだ、時間もあるな。君は実にいい生徒だ。会話と言うのは自分の考えが相手に伝わる感覚を楽しむ娯楽だと私は思っている。その意味で君は私の要求に答えてくれた。ではより君の求めているであろう議題を考えよう。『成功を成すために必要な事とは何か』を考えていこう」
「はい」