俺がホストクラブで金ばらまいてる奴です
息抜きに書いたものです。読んでいただけたら幸いです。
夜の街に君臨する、ナンバーワンホストクラブ「クラウン」。
そこにやたらと羽振りのいい客がひょこり現れた。
俺だ。
ことは一週間前に遡る。
誰かと酒が飲みたい、寂しく繁華街を歩いていたら、露骨に女を誘う看板があった。
ホストクラブだ。
そうだ、ホステスに行けば一人酒にはならない、とぼんやり浮かんだところで、目に入った文字。
男性もOK。
値段は少しあがるが、そう表記されていたので。
思考はぐるぐるとまわっていた。
いい加減酒が飲みたい、それにわざわざ歩くこともないと思う、それに同性のほうが楽だ、と結論して。
俺はそのネオンに照らされた門を潜ったのだ。
で、今に至る。
回想が短すぎる?ごめんね。もう少しだけ話します。
来店したとき、既に時間も時間だったので、店内は盛り上がっていた。
「いらっしゃいませ。初めてのご利用ですね?歓迎いたします」
案内したのはすげえ美形だった。
艶々の黒髪、くっきりとした瞳、白い肌に泣き黒子。
特に俺に驚いた様子はないので、看板に偽りはなかったようだ。
そういえば何時だったか、男性も扱うホストクラブでは、収入が安定した男性客は気に入られるという話を聞いた気がする。
甘いマスクに笑みを浮かべたお兄さんは、軽く頭を下げた。
「霧生と申します」
「佐倉です」
「ようこそ佐倉様、どうぞ中へ。お荷物をお持ちします」
貴方は執事ですか?と言いたくなる丁寧な動作で俺のショルダーケースを浚う。
それ、本当に重いよ。と言う前に、霧生さんはぐらついた。
商売だから鞄持つのは慣れてるだろうけど、あんな重いとは思わなかったんだろう。
プロ根性なのか、彼はなんとか落とさずに、両手で抱え直した。
持つの変わろうかと思ったけど、彼の仕事だから、しゃしゃるのはやめといた。
「お見苦しいところをお見せしました。どうぞ」
「すみません、どうも」
「いいえ、でも少しだけ驚きました」
クスクスと笑う霧生さんは、その後は普通に歩を進めた。
廊下の先に、オレンジライトに照らされた、薄暗い空間が広がっていた。
黒と赤の色調で、シックでアンティーク。ちょっと気に入った。
低い仕切りで遮られた幾つもの席で、美形達が客を盛り上げていた。
奥まった隅のソファに案内される。
霧生さんは床に膝をついて、メニュー片手に軽い説明をはじめた。
この店は会員制で、初回のみこうして来店できる。
初回料金ということでさほど高くはない。時間は一時間、ドリンクとビールは飲み放題でついていた。
ホストは好きなのを自由に選べる。
俺はちら、と店内を見て、改めて混雑しているのを確認した。
ホスト表を見せられてもよくわからないので(というか早く飲みたい)、適当に空いてる人を尋ねて選んだ。
「ありがとうございます。すぐに担当のものを連れて参りますので、少々お待ちください」
霧生さんが去るのを見届け、さっそくメニューにかじりつく。
飲むぜ、さあ飲むぜ。ふひひ。
ホストクラブなんて格式が高そうだと思ったけど、案外すんなり入れた。
パーカーにジーンズってラフな格好だし。
「お待たせいたしました。佐倉様、今宵のお相手を努めます、櫻竜夜です」
おっと早い、もう来たかと顔をあげると、これまた偉いイケメンがいた。
「はじめましてっ、竜夜です。よろしくお願いします」
挨拶するテノールボイスは軽い調子なのに、耳に心地よく、落ち着いていた。
会釈するその頭は、銀髪だった。長い睫毛に縁取られた瞳は蒼くて、切れ長。スッと鼻筋が通っていて、艶やかな唇は薄い。
形のいい耳にはピアスが光る。
背も高くて、足が長くスーツの栄える体つき。
しかもすげぇ色気。
おいおい、レベルたけえな、この店。
なんて思った俺は、のちに、ふらりと立ち寄ったここが、ナンバーワンホストクラブだと知るのである。
トリップしていた俺に、霧生さんが話しかける。
「他に二、三人いれ代わりでヘルプがまわってきますが、よろしいですか?」
「え、あ、はい」
「ありがとうございます。では、私は一旦失礼いたします。ごゆっくりお過ごし下さいませ」
霧生さんが消え、竜夜さんと二人になる。
「失礼します」
彼は少しの間を開けて隣に座った。
不快感を与えない、スマートな仕事だ。思わず口笛したくなったね。
「ご指名いただき、ありがとうございまス」
ニコリと笑う彼に、一瞬戸惑った。
そういえば適当に選んだんだったわ。
濁して、煙草は吸わないので、灰皿を下げてもらう。
「ホストクラブは初めてっスか?」
「うん」
「じゃあ俺が佐倉さんの初めてですね!」
ウケ狙いか。
誤解を招く言い方はお止めください。
軽く笑って再びメニューに視線を戻す。
ビールなんて水だ。飲み放題は置いといて、好きに飲もう。パタンと閉じる。
「お、さっそくお決まりっスか?」
「手始めとにシャンパンとブランデーとドンペリブラックベルで」
「かしこま…はあっ!?」
イケメンは驚いてもイケメン。
平々凡々な俺には羨ましい限りだ。
「なっ…ええ?」
「もしかして、もっとお勧めある?」
なら是非飲まないとな。ワクの名が廃る。自慢してないけど。
「いや、マジですか!?1000万は超えますよっ?」
「お金は心配してない」
たっぷりあるからね。
竜夜さんは興味津々と聞いてきた。
「佐倉さん一体お仕事何されてるんですか?」
「あ、アーティスト関連と株を少々…」
あと諸々…。すげえ!かっこいいとはしゃぐ竜夜さんは、なんかちょっと可愛かった。いくつなんだろう。
「竜夜さんていくつ?」
「呼び捨てでいいっすよ。20です」
「じゃあ竜夜くんで…ハタチ…って…」
やべえ、今時の子怖い。
弟と同い年なので親近感が沸いた。
聞けば、竜夜くんはホスト初めてまだ1ヶ月らしい。
売り上げはまあまあ、新人の中ではトップだという。
トップでまあまあって、この店のナンバーワンはいくら稼いでんだ。
「えっと…佐倉さんさっきの注文…」
「ん?ああうん、よろしく」
おずおずと尋ねる彼にそう言えば、眩しい笑顔で破顔した。
竜夜くんが立ち上がる。
「シャンパンタワー、ルイ13世とドンペリ入ります!」
一瞬静まり帰ったフロアは、一気に沸騰した。
それからドラマでしか知らなかった生のコールを見て、楽しかったので全員にチップをあげる。
飲み足らない俺はメニューを片っ端から頼んで、酒を仰ぐ。
美味しかった。
一人酒もいいけど、俺は大勢で飲むのが好きなタイプだから、凄く楽しかった。
時間が立つに連れて忙しくなってきてからは、俺は後回しでいいよ、ってホストたち送り出したけど。
男(俺)がホスト独り占めしちゃあかんからね。
せっかく女の子達は高い金を払って来ているのだから。
条件は俺も同じだけど、別に一人話せる人がいて酒が飲めれば満足。
一時間はあっという間だ。
竜夜くんは名残惜し気に、アドレスと電話番号を書いた名刺を渡してきた。
もう一人弟ができたみたいで、楽しい時間を過ごせたことに感謝して更にチップをあげた。
何故か泣きそうな顔で受け取っていた。
会計の際に、霧生さんに次回は永久指名も考えておいてほしい旨を言われた。
永久指名かあ。
でもまた来るかわかんないしなあ。
結局、ヘルプ来る前にお祭り騒ぎになったから、まともに話したのは竜夜くんくらいだし。
考えときます、とだけ言って、ショルダーケースから現金を取り出した。
こんなもん持ってよく外歩いてたな、俺。
危ないから今度からカードにしよ。






