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プロローグ
私は自分が正義だと信じていた。人の世に善を為していると信じていた。天恵の化身、天から零れた滴を掌に溜めて、斜陽の時代に朝の光をもたらせると思っていた。平行線さえ無限遠方で交差するのなら、人々の無知と無理解もいつか調和の道を見出し、同じ信仰を共有できるようになると思っていた。夢見る世界は琥珀の輝き、手にする杖には金細工。鈍色の川には甘い林檎が流れ、大地の“あばた”は薔薇を抱く。
そんな新世界を思い描いた。赤い頬をした乙女のような純真さで。
今となれば、滑稽だったけれど。