出っ歯のデパ男
人っていうのは偏見を持ってるもので、持っていないという人はこの世界にはいないんじゃないかな。
偏見を無くす、というのは、平和的な考え方だけど無理だと思う。
僕は偏見を持っている。
たぶん世界の人々と同じような。
僕が通ってる中学校は全校生徒98人で1学年に1クラスしかない小さな学校だ。
僕はその少ない生徒の中の1人で3年生の優秀な保健委員長。
3年生は全員で27人。
グループが5組あって1組5人。
27−(5×5)=2、ということは2人グループ外れのやつがいるということで。
2人の内の1人が、僕。
そう、優秀な保健委員長の僕。
そしてもう1人がデパ男こと出っ歯の田口。
彼の出っ歯は見事に反っていて笑うと上唇がめくれあがり、その見事な出っ歯が歯茎とともに現れる。
坊ちゃん刈りのデパ男は無口でクラスの全グループのパシリだった。僕は中立な立場だけど。
デパ男はグループの男子に購買部へパンを買いに行かされていた。
かわいそうだと思う。
たぶんデパ男は出っ歯とか坊ちゃん刈りだとか内面が暗く内気ということでパシられているんだろう。
これが偏見ってやつだと思う。出っ歯で坊ちゃん刈りで内気で暗い。
「ごめん、パンを階段で落として、それでちょっと遅くなったんだ」
デパ男が教室のドアを開けて入りながら言った。腕には5種類のパンを抱いている。
「おせぇよ、デパ男。もう昼休みが10分も過ぎたぞ。」
グループの中でも一番アホそうで天然パーマのようにワックスで髪をねじ込ませた男子生徒がデパ男に言った。
そしてデパ男が抱えている中からチョコロールパンをとった。
他の男子4人も、愚痴を言いながらそれぞれパンをとっていった。
そのアホそうなやつはすでにチョコロールパンを食べ始めていた。
「ごめん、あの、パンの代金は?」
デパ男はアホそうなやつに言った。
「遅れてきたのに金とんのか。」
「ごめん、じゃあいいよ」
デパ男は下を向いて、腕の糸を切られた操り人形のようにダラダラさせて自分の席に戻った。
あのグループの嘲笑が聞こえる。後ろの僕の席まで聞こえる。
デパ男の席は僕の席の右上斜めにある。
デパ男の肩幅が狭い背中が虚しく見える。
弁当を食べているデパ男の背中は情けなく猫背になり、口に箸を運ぶたびに嗚咽をするように揺れる。
放課後、僕は登校坂を降っているデパ男を見つけた。虚しい背中はそこにあった。
「田口、駅まで行こうよ」
田口に追いつき肩を叩きながら言った。
「あ、中野君。部活は?」
「サボったよ。どうせもうすぐ引退だし、県予選では負けてもう大会はないし」
「そうなんだ。じゃあ駅まで」
僕達はよく話す。
それは仲間外れ同士だからというわけじゃなくて普通に。
友達っぽく。
僕も偏見を持っている。
デパ男の出っ歯が気に入らない。
それは誰をも引きつけるもので、見たものは気分を害すと思う。
僕もそうだし、クラス中のやつらはそれでデパ男というアダナを付けたからだ。
駅に着き、電車に乗って家にかえった。
これは省略しているけどこの中ではデパ男とかなりの間話している。
昼休みの事件の事、クラスの事、など電車が駅に着くまではずっと話していた。
デパ男は自分に向けられた偏見を理解していた。
出っ歯、暗い、内気。
特にアダナの由来になっている出っ歯のことを気にしていた。
歯の矯正を考えたがとても自分の出っ歯のためにその矯正代金を払ってくれる親ではないと、デパ男は言っていた。
偏見からは逃れることは出来ないのだろうか。
そんなことを、僕は湯上がりの火照った頭で考えていた。
しょうがないんじゃないのか。
だって、偏見、っていうのは世界中の人々が平均して持っているものだし、それを無くすためには世界中の人々が平和的な人でなおかつ心が透き通っていないといけないんじゃないか。
そんなことを考えていた。
あの偏見の象徴であるデパ男の出っ歯は世界中の偏見の源であるように思えた。
いきなり暗幕が降りる。気づくと今日は明日になり、明日は今日になっていた。
学校、僕がいつも通っている全校生徒98人の小さな中学校。
3年生の教室に入る。
もうすでに殆どの生徒が教室にいて談話している。
その話のなかには偏見の言葉が沢山混じっている。
やっぱり、世界は偏見に満ちているということを知る。
デパ男が見えた。
あのアホそうなやつのグループに机を囲まれて肩幅の狭い背中をさらに縮こませている。 僕はデパ男の机にできている人の壁を壊した。
「なんなんだよ。中野」
アホそうなやつが言う。僕は無視し、デパ男の真正面に行く。
「中野君、何?」
僕は無視し、デパ男を見る。
半開きの口からあの出っ歯がこちらを見ている。
諸悪の根源。偏見の象徴。色んな言い方ができる。
僕はそれを鞄から出した工具ペンチではさむ。
そして一気に捻る。
それは一瞬にして歯茎から抜けペンチと一緒にデパ男の口から出てきた。
デパ男は歯茎から血を激しく滴らせ机を汚す。
痛い、が砕けたような言葉を発しながら口を押さえて呻く。
周りのやつらは黙って驚きの目を向けたまま固まっているものや、悲鳴をあげているやつもいる。
偏見は無くなったんだ。
小説を書いたのはこれで3回目です。小説ではないかもしれません。まだ全然未熟で文章がひ弱という感じがします。よければ感想や改善点などを教えて下されば嬉しいです。